3回
2023/08 訪問
夏の再訪
昨年春に訪れて「このお店は良い!」と思い、違う季節に又訪れたいと思っていた。
盆休みの墓参の機会を利用して妻と再訪。
今回は¥15000/人でお願いし、ソフトドリンク込みで2人で税込み計¥33000+α。
水菓子のマンゴープリン(これも美味かった)以外に締めのお食事含め計11品。
夏らしい、高レベルな京料理。仕事と出汁の塩梅の確かな実力。加えて肩肘の張らない一品等も
あり、緩急が付いたそのコースは、質、量ともに満足。CPの素晴らしさも改めて感じた。
(あのグレードとボリュームならば、市内中心部、祇園周辺なら間違いなく+¥1万/人には
なると思う)
幾つかのお料理をご参考まで。
・朧昆布と冬瓜の松前煮
最初の一品。冷製で供されるこちらのお料理、かつての乃り泉の大将の頃からのメニューとの
事だったが、出汁、旨味の塩梅共に素晴らしく、この後の期待がいやが上にも高まる。
正直朧昆布は、その塩気と独特の昆布臭さが苦手だったのだが、これは美味いとしか言い様が
ない。
・鮑入り冷製茶わん蒸し
これも夏らしい一品だが、滋味深く口内を冷やし、満たしてくれるそのお味。
「ああ、美味い。。」としか言いようがない。
確かな京料理としての仕事が、夏の美味を更に高めてくれる。
・鱧の造り(焼き霜風)
鱧の皮目を炭火で焙ってある。梅肉タレと二杯酢が供されたが、その香ばしさと半レアの身の
旨味が、二杯酢で頂く事により更に独特の美味さに昇華される。新たな鱧の旨味を知る事が
出来たお料理。美味い。
・鱧子と鱧出汁の羹仕立て、鱧肝羹
いずれも出汁とタレの旨味のパンチ力がすごい。「ああ、夏らしいな」だけで済ませない、
確かな旨味を感じる。鱧の肝の味の強さとはここまでのものかと思う。
・刺身はこれも夏らしい剣先烏賊とアマテガレイ(マコガレイ)だったが、付け合わせのポン酢で
カレイを頂くと、その清冽な旨味が倍増する。久しぶりに「良い」カレイの刺身を口にした。
・宮津の方の良い鳥貝が入ったとの事で、熱した石でレア焼で頂く。調味は塩とレモン絞りのみ。
食材の力が物を言うシンプルなものだが、いや~、半端なく美味い。鳥貝も大振りの良い物。
・締めのご飯は、乃り英風「鰻のひつまぶし」
最初に小皿で出てきた薬味を見た時、まさか、と思ったが、やはり当たっていた。
岐阜の人間である自分は、鰻には些かうるさい。兎にも角にも口にしてみる。
・・・いや、美味い。凄く美味い。
鰻屋ではない「京料理屋のひつまぶし」としか言いようがないこのお食事。
久しぶりに鰻料理で感動した。
最後少しだけ残して、供されたお出汁と残りの山葵を加えて飲み干す。ああ、幸せ。。
その他、箸休めの「芝漬けの飯蒸し」のさり気ない完成度も素晴らしかった。
かつての祇園の名店「乃り泉」の系譜を繋ぐお店だが、気さくな女将さんから色々なお話も
聴かせていただいた。今回は座敷部屋だったが、カウンターでは賑やかに酒を酌み交わし談笑して
いる他のお客さん達。お店の造りはしっかりとしているが、その雰囲気的は、懐石料理屋という
よりは(良い意味で)カウンター割烹に近いものもある。
間違いなく高レベルな京料理のお店なのですが、「美味しい物を出してくれるお店」という
言い方の方が何故かよりしっくりくる感じがするこちらのお店。
正直あまり混んでほしくはないので今回のレビューも若干躊躇ったのですが、備忘録がてら
やはりちょっと書き留めておきたい、と思い再レビューとなりました。
2023/08/15 更新
2022/04 訪問
一乗寺に美味い物あり
徐々に暖かくなり、そろそろ外出してちゃんとした和食のコースを口にしたいと思い始めていた。
びっくりする程高価な店は除外。しかしオーソドックスかつ真っ当で、それなりに美味なお料理を
提供してくれる新しいお店を見つけたい、とあれこれ考え、花見がてら京都に向かいこちらの
お店をチョイス。
結論から言えば「大正解」だった。
突き出しのミル貝の石焼から計8品、筍御飯と水菓子2品。締めの筍御飯が美味しくて4杯も
お代わり。腹もいっぱい。それでもってあの美味な自家製水菓子。
〆て¥12000/人+消費税也。あの内容とボリュームならCPも言う事なし。
幾つか印象に残った物を。
ミル貝の石焼は、タレに付けられた貝を焼いて頂く。香ばしさと旨味が増して良いスターター
となる。そのままでも食べられる物だが、ちゃんと焼いて美味くなるようなタレになっている。
椀物は蛤真丈、蕗、そしてアカモクが入った春を感じさせる物。節系が勝ち気味だが淡い吸い地と
椀ダネのバランスも良く美味。自分でも能登でアカモクを購入し食した事もあるが、こちらの椀物
では一段調子の高い清冽な旨味。
八寸は筍と烏賊の木の芽和え、イイダコの炊き物、鯛子、そして赤貝の味噌漬け等が入る。
こちらも春らしい食材満載でどれも美味。パンチのある味わい、奥深い旨味、上品な味わい等の
緩急が素晴らしい。特にあの赤貝の味噌漬けは特筆ものだった。
この時期だけの変わり寿司となる、筍で巻いた巻寿司。更に玉子や穴子で巻き、具には海苔や
百合根が入る。ガブっと口にして味わった時の爽やかかつ後に残る旨味が秀逸で、満足感も高い。
専門店でもあのレベルの巻き寿司には中々お目に掛かれない。
若竹煮は、丁寧に薄く削られた鰹節が乗せられ、絶妙な加減の出汁つゆとともに供される。
添えられた山椒の葉の香りと共に、一滴残さず飲み干した。
タラの芽とバチコの天婦羅。いや、これは初めて食した。バチコ(コノコ)をあの塊で天婦羅に
して食すこと自体贅沢だが、まあその美味い事。タラの芽の爽やかな苦みと共に至福の味わい。
締めの前に出された梅貝の炊き物も美味だった。あんなに柔らかく処理された梅貝を口にする
機会も中々ないが、貝の旨味も更に引き出されている。添えられた白味噌の酢味噌も、コクと
酸味が非常に良い塩梅。
最後の水菓子がまた良かった。三宝柑のゼリー、パイナップルジュース、そして自家製蕨餅。
いずれも過去に名店と言われる懐石、日本料理の店で口にした物と比べて勝るとも劣らない。
柑橘系のゼリーを出す和食店は割と多いが、今回の物は甘みはそれ程ないにも関わらず、香り、
爽やかさ、品の良さ共にちょっと飛び抜けていた。
お料理の見た目はそれ程華美な装いも衒いも無い物。濃い物は濃く、しっかり目に味を付けて
ある物もあるのだが、そこは絶妙なセンスをお持ちなのだろう。重さは感じさせず、全てを
食べ終わった時の満足感が非常に高い。
切れ味鋭い京料理、というのともまた少し違うタイプだと思うが、いずれにせよ良いお料理である
事に変わりはない。
寡黙だが柔和なご主人と、肩肘の張らない女将さんの接客も好印象。
こういうお店は、食べログの総合☆点数だけを気にしていては絶対に出会えない。
「自分なりの情報判断力と勘で良いお店を探し出す」という達成感も久々に味わう事が出来た。
また違う時期に是非訪れたいものだ。
2022/04/03 更新
京都に在学中の知り合いのお子さんの就職祝いを兼ね、1年半ぶりに訪問させて頂いた。
時期的に正月の名残を感じさせつつ、相変わらずの美味なお料理の数々。
先付の赤貝と空豆の白味噌ぬた和え。ちゃんと本物の赤貝であり、処理も見事。空豆にもしっかり
と出汁で仕事がされており美味。
このわた入りの茶わん蒸し。軽く混ぜて頂く。このわたは勿論、茶わん蒸しの味付けがそれに
合うようちゃんと塩梅されているのが素晴らしい。素晴らしく美味であり、かつ必然性を感じ
させてくれるお料理。
八寸代わりの自家製からすみ・菜花とカズノコのごまダレ和え・魚の昆布締め。
どれも美味い。和え物のごまダレの塩梅が素晴らしい。少々の辛子と出汁が繊細ながら心憎い
効き方。昆布締めをした魚の身と数種の野菜が朧昆布で巻かれている。魚の種類まで判別は
出来ないが、美味い物は美味いのである。
焼き物は一見シンプルな見た目でぱっと見魚の種類も判り難いが、マナガツオの塩焼きだった。
京料理の定番であったこの魚も、昨今良い物は入手しづらくなっている。通常は西京味噌などでの
漬け焼きが一般的だが、これは薄っすらと塩で調味されただけの物。
いやぁ・・美味い。上品で繊細な旨味。塩の塩梅も絶妙。酢橘が添えてあったが、絞る必要が無い
ほど。釣りが趣味でその魚で料理もする自分だが、これには脱帽。
御造りは伊勢海老とクエ。大将のご実家の関係で入手しやすいのだろうか。
黄身醤油で伊勢海老を頂くとこれがまた非常に良く合う。
なまこ酢。ナマコは何であんなに柔らかいんだろう。舌触り、ポン酢の塩梅共にさり気ないが
上質な一品。
箸休めに出された海老芋の揚げ物。要は出汁でしっかりと調味された海老芋のフライだが、
語弊を恐れず言えば「最上質の京風フライドポテト」。はい、美味いです。
炊き合わせは聖護院蕪と甘鯛。上品な甘鯛の旨味が上手く引き出されている。若干濃い目の
おつゆと刻まれた柚子皮がこれまた良く合う。よって、飲み干した。
締めのご飯は河豚の炊き込みご飯。もう笑うしかない。二杯目はお出汁と付け合わせのポン酢を
ちょいと足してお茶漬け風に。美味くない訳がない。
水菓子はフルーツソースの掛かった苺と黒豆のババロア。一見してよくある黒ゴマのババロアかと
思ったが、おせちに作られる黒豆の形の崩れた物を裏漉しして使用したとの事。
和菓子スイーツの有名店が裸足で逃げ出すレベルである。美味甘味。
華美な装飾や奇をてらった物でもないオーソドックスなお料理だが、京料理としての確かな仕事が
十二分に感じられるお料理の数々。
相変らずの気さくな女将さんのおもてなしも心地よい。肩肘張らずに上質なお食事が楽しめる。
昨今、京都に限らずどこのお店も諸々の影響で設定価格が上がっているのは周知の通り。
改めて言う事でもないだろうけれど、この日の食材の数々とお料理の質を考えると、祇園周辺、
市内中心部なら普通に倍の価格設定になるだろう。CPと言う意味でも大変に優れたお店かと思う。
車で移動が基本の自分にとっては、たかだか15分~20分ばかり余分にドライブするだけ。
そりゃあここに行きますよ。
春・夏・冬のお食事はこれで踏破した。残すは秋か。