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銀座でフランス料理と言えばこの店と言うくらいの老舗だが、今回が初めての訪問。
6代目シェフ高良康之氏(2018年10月にご自身の店をオープン)から渡邉幸司氏が 引き継いだ形で2017年6月1日リニューアルオープン時から 7代目シェフに、そして2020年7月にコロナ休業再開のタイミングで栗田雄平が8代目シェフに。9月末までお披露目の特別メニューと言うことに気が付いて会食を企画した訳である。
銀座中央通りのビル1F入口でコロナチェック、スタッフにエレベーターで地下に案内される所から、もう「レカン」ムードが盛り上がる。
メインダイニングを抜けて個室に入ると、落ち着いたインテリアで、ホッとする空間。リニューアル前のインテリアは重厚だったとメンバーから聞かされたが、時代の進化に即した上品なインテリアで、目にしたメインダイニングルームの壁際のコーナー席が、豪華で気になる。
テーブルにはメニューが準備されており、眺めているうちに気持ちが高揚してくる。食前酒の案内に対して、皆私に気を使いノンアルコールとなり、柑橘系の口当たりの良いカクテルで乾杯。
今回のメニューで肉料理がチョイスとなっており、事前に牛ヒレ肉か仔鳩かを予約時に伝えてある。
・アミューズプーシュ
・鴨フォアグラ とうもろこし 南半球の黒トリュフ パルフェに仕立てて
・一品
・すいかのガスパチョ 山羊乳のチーズとピゴール豚の生ハム
・活〆真ハタのプレゼ 雲丹とフヌイユのソース 檸檬のサバイヨン
・ブレス産仔鳩のロティ ターメリックの香る青りんごサリエット風味のジュ
又は
・群馬産上州牛のフィレ肉 夏野菜 ベアルネーズ
・フロマージュ 又は 小さなデザート(チーズ)
・季節のデザート
・食後の飲みもの ミニャルディーズ
全ての料理に共通しているのが、シンプルでありながらキラッと光る盛り付け。大袈裟ではないが高級な皿にシンプルではあるが味を構成する要素(素材)を配置、デザイン、配色を絞り込んで料理として完成させている。
料理の美味しさは見た目も重要であるが、その「美しさ」と言う点でも鮮烈で、無駄を省いた「引き算の『美』」。
そして味であるが、クラシカルなフランス料理とは全く異質。アッサリした料理と言うとイタリアンをイメージするが、それとは異なる。うまく説明できなくて申し訳ないが、フレンチとして違和感のないアッサリさ、敢えて言うなら、ソースと素材が対等な立場で渡り合うのではなく、ソースは素材の引き立て役に徹しながら、存在感は決して失う事はない、といった感じなのである。
記憶に残った料理が「すいかのガスパチョ 山羊乳のチーズとピゴール豚の生ハム」。爽やかな、正にスイカのスープ。コースで供されるフルーツ系スープは桃のポタージュ等を経験しているが、このスープはすいかのイメージ通りのサッパリ爽やかなもの。スイカの青臭さを消し去り、スイカの香りを引き立てた上で、「料理」に仕上げた素晴らしい一品。
もう一つが「活〆真ハタのプレゼ 雲丹とフヌイユのソース 檸檬のサバイヨン」。この料理はメインの「魚」の位置付けになる訳だが、チョット驚いたのが、フレンチ正統派としての盛り付けではなく、前菜料理的盛り付けである事、そして「活〆真ハタ」を中心に「添え物」盛り付けと言う構成ではなく、皿全体のハーモニー(調和された全体)としてメインの料理としているシェフの意図を感じる。こう言う料理はフルコースメニューでお目にかかった事がない。もちろん結果としてソースと組み合わせる、添え物の食感と味で気持ちをリセットする事と同じ食べ方にはなるが、みためのインパクトに乗せられているので、サラダ感覚で食べ始めて、オっ、これは凄い!とか、味の存在感が強過ぎる雲丹が口直しになるのか、主役に躍り出てしまうのか?等、最初にイメージして、食べながら確認して行くプロセスに心が踊るのだ。結論を述べると、とにかく複雑、ゴチャゴチャしていると誤解されないように捕捉すると、組み合わせによるバリエーションが多彩で、食べ始めから食べ終わるまで1つとして同じ味が無い。
メインの肉料理の小鳩料理はグループの2名が選択したが、部屋の中での演出付き。一方でソースを温めながら、皆の目の前でローストされた小鳩を切り分ける。私も小鳩にすれば良かったと言う思いが頭をよぎる。しかし私のメインの肉は「群馬産上州牛のフィレ肉 夏野菜 ベアルネーズ」。この盛り付けは肉と添え物がオーソドックスに分かれているのだが、レイアウトが一風変わっている。簡単に言えば盛り付けに動きがあるのだ。左一段上に置かれたフィレ肉を起点に手前のソース、右横にグリーンペーストソースの上に枝豆の豆、そのまま右側に沿って上からフレッシュベジタブルが盛り上がる。その陰にもう一切れフィレ肉が隠れている。更に左に回り込んでソテーされたシシトウ、左側に沿って下り最初の薄い黄色のソースが何かの上に円形に盛られ、フィレ肉に戻る。内側が白いビーツだろうか?表面の鮮やかな赤紫色がグレーの皿、濃い緑の野菜、枝豆の黄緑、フィレ肉の焦げ茶色に対比され輪切りに薄くスライスされているにもかかわらず、その上品で鮮やかな色が目に映えるのだ。
装飾過剰感は全く無し。機能美に近い絞り込んだ盛り付けに引き込まれて言葉う失う。崩すのが惜しまれるが、ナイフとフォークで肉を切り、野菜を切り分け、ソースでアクセントをつけながら食べ進む快感。もちろん肉の焼き加減は最高だし、味も申し分ない。
最近のパンは旨さの進化が凄いが、ここのパンは力強く料理を支える。
デザート1品目に私はチーズを選択。ワインも飲まないで偉そうにデザートチーズもないものだが、本当に久しぶりのデザートチーズ。チーズに関しては経験の浅い私がどうこう言う事はできないが、フルーティーチーズの様なあからさまなデザートチーズではなく、オーソドックスなチーズで意外な思い。しかし香りの良さが印象的。どちらかと言えば少しクリーミーでサッパリした味(濃厚でネットリしていない)。付け合わせの薄くスライスされたレーズン入りの黒パンに乗せて食べると一段と味が良くなる。
「季節のデザート」は2種類のソルベが中心の盛り合わせ。飲み物はコーヒーにしたが、香り高い良質なもの。カップが2段重ねのソーサー素晴らしい。
滅多に食べないフレンチだが、本当に料理の世界は奥深い。8代目シェフの新メニューの冒頭記述したシンプルを基軸にした味の構成と「引き算の『美』」の素晴らしい料理。行きたいフレンチレストランの上位にノミネートすることをお勧めする。