2回
2021/05 訪問
少食の人でも昼はフルコース必須、前菜のサラダから別次元、メインの魚と肉料理もシンプルだが素晴らしい!
2011年、パリに「レストラン ケイ」をオープン、12年には、ミシュラン一ツ星を獲得、2020年のフランス版ミシュラン・ガイド赤本で3つ星を勝ち取ったと言うオーナーシェフ小林圭氏の店を予約したのが昨年。コロナのおかげで行く事が出来なくなり悔しい思いをしていたところに、虎屋とコラボして姉妹店を2012年1月に御殿場に出した。
こんなニュースを聞いて出かけない訳にはいかない。
東京から車でおよそ1時間半。カーナビだと「とらやカフェ」でセットするとたどり着く。
店手前の広い駐車場にビックリ。
駐車場奥から店に繋がる広々としたアプローチも都心ではあり得ない空間。そしてある意味、これがレストラン?と言う佇まいの平家の建物が、虎屋グループの店舗づくりを手がけている、建築家の内藤廣氏によるもの。建物入り口にも目立つ案内が無いので、地方の美術館に入る様な気持ちになる。
中に入ると、思いのほか広いロビー。受付には女性2人が出迎えてくれる。受付の反対側の白い壁には、シェフのレシピスケッチかと思われる絵が3枚。完成度が一味違うので確認すると、アーティストによる作品との事。
さらに奥に入ると、そこはダイニングフロア。
正面の広い窓から明るい光が注ぐが北側窓なので暴力的な光ではなく柔らかな優しい光。そして思わず声をあげてしまうのが窓一杯に広がる雄大な富士山。設計者の意図としか思えないが、駐車場で車を降りて、ダイニングフロアに入るまで、富士山を隠しているのだ。天気に恵まれたとは言え、この演出には心を打たれる。。個室もある様だが、全ての席から富士山を眺めながら食事を楽しむ事ができる仕掛けなのだ。
メニューは2種類。
・Découverte(出会い) 3,850円
・Voyage(旅) 7,480円
簡単に言えばハーフコースとフルコース。
折角、御殿場まで来てフルコースを食べない手は無い。+αで肉の鶏をLYB豚、和牛に変更可能。一瞬迷ったが、初めてなのでオリジナルで行くこととする。
と言うわけでVoyage(旅)の始まり。
前菜は木の枝に盛られたチーズのシューパイ。いきなりのカウンターパンチである。木の枝(に見えるもの)も食べる事ができるのかと思ったりしたが、流石にそれは無し。このパイはカマンベールっぽい後味を残すが、マアこんな物かと言う感じ。
次がマッシュルームのスープ。縦長の小ぶりな陶器のカップで供される。これは美味しい。心の中でケチケチせず大き目のカップかスープ皿で出せば良いのに(つまり、もっと飲みたい)と思いつつ、ベーコンの燻製の香りとマッシュルームの旨さの混ざり合った余韻を楽しむ。
隣のテーブルに出されて見えてはいたが、ビックリのサラダ。40種類の野菜が入っているそうで、真ん中の白い泡のボールが強烈なインパクト。そしてぜんたいの造形が美しく、色合いもパプリカの赤と黄色でド〜ンではなく、儚く散る落ち葉の如く雪だるま(レモンの泡のボール)に色合いが寄り添う。
ここにテーブルで食感を増すためのナッツ(だと思う)が泡を崩さぬ様周辺にまぶされると言う演出がニクイ。
レモンの泡を崩して野菜と混ぜて食べると言う説明。美しく整っているものを壊すと言うのは、どうしても抵抗があり、恐る恐る崩して食べ始める。魔法にかかっているので非常に野菜が新鮮、食感が気持ちよく感じ、泡に含まれたレモンの味が心地良い。
次はアスパラガスの皿。
1本のアスパラガスが白い皿に絵の様に盛られている。皿の右寄りにスッと縦に置かれた緑色のアスパラガスに赤ワインのソースが皿の中央上から中央まで一筋引かれている。アスパラガスの周りには同色の黄緑色のソース。根元には浅漬けの様な青菜(野沢菜の様に感じた)が添えられている。
皿の左側上にはアンチョビのソース(焦げ茶色)、下には白いヨーグルトのソース、仕上げに黄色い食用花の花びらがヨーグルトソースに2枚、アスパラガスに1枚ハラリと散らしてある。
美しい。
相方の皿は黒色。こちらは赤ワインのソースとアンチョビのソースの色が死んでしまっている。
箸も準備されているが、ナイフとフォークでアスパラガスを切り分け、自分の感性で4種類のソースを個別に、又は組み合わせて食べ進む。茹でたアスパラガスを塩で食べればそれなりに美味しい訳だが、ソースを組み合わせて食べる楽しみ方は、シェフと会話している様で楽しい。想像される通り、アンチョビソースは強烈だし、ヨーグルトソースも結構パンチの効いた味になる。アスパラガスの根元に添えられた青菜が口直しになり、存在感を高めている。
魚料理は金目鯛のソテー。
甘鯛の様に鱗を取らず、炙って皮と鱗まで食べ尽くすと言う、私にとっては初めてのスタイル。黒の皿にレタスか柔らかいキャベツ1枚、オレンジ色のソース2種に金目鯛の身がセットされている。皮と鱗は焦げ目無しにパリパリに炙られているが白身の部分は瑞々しくシットリ。ソースと併せると旨味が増す。
メインの最後は鶏の低温ロースト。この料理はソースが1種類。シンプル極まりない。しかし、数年前からよく見かける様になった低温ローストと言う調理法は、素材の食感を変えてしまうと感じる。この鶏の肉質はイメージする鶏の繊維質と全く異なるのだ。具体的に言うと、噛み締めると肉質の組織全体が心地良く綻びていくと言う感覚。良く言われるように、「低温ローストはジューシーさが違う」はその通り。だが、この鶏の美味しさは私にとっては未知の味なのだ。
デザートは2種+コーヒーに付くミニ菓子(クッキー)。但し、コーヒーは別料金で長野県軽井沢の丸山珈琲の豆を使用。
食事を楽しんだ後、慌てて帰ってはいけない。お願いすると順番にはなるがキッチンツアーがあり、見学できるようになっている。シェフも挨拶して頂けるので、良い思い出になると共に、このお店のファンになってしまう筈。
私が出かけたのは平日昼だったが満席。1週間程前に平日、席が空いている日と言うことで、おそらく最後の1テーブルだったはず。土日となると『毎月最初の営業日に、2ヶ月後末までの予約を受付。
予約受付時間:10時〜11時30分、15時〜17時30分』に努力して電話をかけ続けなければならない筈だが、その価値は十分にある。
2021/06/05 更新
前回訪問が2021年5月だったので約1年8ヶ月ぶりの訪問。
とらやの敷地の一角、広大な駐車場、広大なエントランス、平屋建てのシンプルながら瀟洒な建物、ダイニングルームの大きな前面ガラス越しに自分のハーブ畑、そして雄大な富士山が裾野まで見渡すことが出来る(この日は生憎、昼から雲が出て5号目から山頂は雲の中)。
昼食の予約は12::30迄に入店との事で、12:15頃、チョット早めの入店。
今回も前回と同じ
・Voyage(旅) 9,000円
肉料理で追加料金設定の選択肢にフランス産の鳩が加わっていた。
前回は7,480円とバーゲンプライスだったが、レベルが高いので問題無し。
最初に述べておくが、
・前菜は木の枝に盛られたチーズのシューパイ。
・白い泡が印象的なサラダ
・魚料理の金目鯛
・メインの最後は鶏の低温ロースト
・デザート
は付け合わせ、ソース等は厳密には分からないが、同じだった。
スープとサラダと魚料理の間の一皿は変わっていた。
記憶とは悲しい事に時と共に薄れる。正直なところサラダの泡は気が付いたが、デザートが同じと気付くまで、何か見たことがあると言う印象のまま、とても美味しく頂いた。
特に金目鯛の料理は出色。
ソースも凝っていて、アマダイの調理法にも似た鱗を炙って身と共に食べる、ソースを絡めて口に入れる時の食感と味は、煮付け、鍋で食べる金目鯛とは全く別物。本当に感動もので、個人的には、泡のサラダと金目鯛の2つを食べただけで、この店の素晴らしさが分かると思っている。
考えてみれば、この店を訪れてこの2つはまた食べたい、肉料理は追加費用は発生するが鳩、豚、牛とチョイス出来るので何の問題も無いと言う訳だ。
それとも1ランク上のPRESTIGE12,000円にしてみると言う手もある。別テーブルの人達がこのコースだった様で、偶然耳にした一皿の説明に「蝦夷アワビ」「トリュフ」と言う言葉が入っていた様な気がする。
私としては、次回訪問する時も、泡のサラダと金目鯛は外したく無いと考えている。