2回
2024/01 訪問
京フレンチの実力とコスパの良さを思い知った11品目のフルコースは感動的な美味しさ!
正月の京都を楽しんでみたいと以前から思っていた事を遂に実現。雑誌、ネット情報を調べて、宿泊ホテル近辺での夕食の店を予約したのだが1食、気分を変えてフレンチにしようと考えて選んだのがこの店。
辿り着くとビル1Fの奥まった場所。扉を開けると店内はシンプルインテリアのモダンな造り。我々は夜の1組目。
メニューは予約時点でお勧めコースのみと聞いていたので気楽なものである。テーブルの上にオシャレなスタンドが置かれていて、そこに“today’s special menu”が掲げられている。残念ながら高齢者には小さ過ぎる文字なのが残念。
・卵黄 猪 白葱
・帆立貝 カリフラワー
・蟹 根セロリ
・牛頬肉 人参 小玉葱
・hidamarinoバケット
・雲子 ジャガイモ トリュフ
・薩摩芋 フォアグラ 林檎
・ヒラスズキ 法蓮草 牡蠣
・蝦夷鹿 ビーツ アンティーブ
・イチゴ ビスタチオ
・コーヒー カヌレ
と言う11品のラインアップで11,000円と言う信じられないプライス。但し、この店のルールは飲み物1品は必須、残念ながらアルーコールが全くダメと言う残念な我々はいつも通りガス入りのミネラルウォーターをルールに従って1本づつ注文。
驚いた事にこの店はご主人が全てお一人で回している。心の中で大丈夫かなと思ったがコースが始まるとそんな事は杞憂、最初の一品から料理の素晴らしさに打ちのめされると共に、サービスもしっかりしていて(途中で2組になったがスムーズ)料理の世界に没頭出来た。
結論から述べると、全ての料理、パンに至るまで隙がなく、ひと工夫されたものでメイン3品と言う構成も素材と味の変化で飽きさせず、ただただ素晴らしいの一言に尽きる。決して盛り付けに過剰な事はせず、しかしシンプルな中に見た目の華やかさは失わないためシンプルで美しい皿、食べると美味しくて、しかし決してバター、クリームで構成されたソースの様なものではなく、野菜など素材を活かしたソースが見事な火入れで調理され素材自体で十分美味しい料理がソースで一段上の美味しさに昇華されると言う事が繰り返されるのだ。
また、メイン3品となると一皿のボリュームも工夫が必要となるが、素材が「小さめ」と「小さい」は全く意味が異なる。例えば素材が薄くなると微妙な火の通し方が分かりにくくなる。魚にしろ肉にしろポアレによる絶妙の火加減、分厚い断面にナイフを入れた時の中心部のレア又はミディアムレアの状態を味わう醍醐味は快感以外の何者でも無い。
いくつか料理を紹介すると、1品目の「卵黄 猪 白葱」上部をカットされた卵の殻の中に料理が入っていて、殻を破らない様にかき混ぜて食べる料理。
卵の黄身を温めれば美味しくなる事は知っているが、猪肉がシチューの様に煮込まれており仄かな甘みも感じる肉自体の味と温められて活性化した卵黄の旨み、アクセントの白葱でコースを考えたら適量とは言えこんな少ないボリュームでは物足りないと思わせる。
2 、3品目の「帆立貝 カリフラワー」「蟹 根セロリ」は今にして思うとサッパリした口直し的な位置付けになるのだが素材を活かした味付けと食感の組み合わせが絶妙。
4品目の「牛頬肉 人参 小玉葱」は定番料理とは言えいきなりフルコースで味付けがしっかりしたシチュー?と思って頂いたが、とにかく美味しいので文句なし。
ここで「hidamarinoバケット」が出てくるのだが、一般的なパンの出し方(パンとバター、オリーブオイルの様な出し方)とは異なり、ソフトタイプバケットとヘタ付きのミニトマト、ニンニク、塩、オリーブオイルがセットされたトレイと言うか皿が出される。説明があり、パンにニンニクをこすりつけた後更にトマトの肉質をこすりつけ、好みで塩(岩塩)、オリーブオイルを足して食べると言う趣向。何ととまとの先端がカットされていると共に温められている。まず1つパンを取って指示通りニンニクとトマトをこすりつけて食べると美味くてびっくり。2つ目は更に塩とオリーブオイルを加えると一層美味しくなる。こうなるとパンも一つの料理で5品目。
6品目の「雲子 ジャガイモ トリュフ」と共にパンを食べていたのだが、残ったトマトは食べる様にと言われて認識した事はトマトが温かいうちに食べないと、と言う事。かろうじてセーフ。
雲子(くもこ)とはマダラの白子。これに黒トリュフが組み合わされているのだが、あくまで私個人の意見ではあるが黒トリュフの香りが立っていないので別の工夫を期待。
7品目の「薩摩芋 フォアグラ 林檎」。フォアグラに林檎と言う組み合わせが新鮮。味の組み合わせが良い。ここに薩摩芋が加わってスープ仕立ての様になった非常に凝った料理。これは抜群に美味しい。
8品目の「五島列島のヒラスズキ 法蓮草 牡蠣」。ヒラスズキは、『200万年以上も前にスズキと共通の祖先から枝分かれして、高塩分域に棲めるように進化した魚で、スズキには川魚のような匂いがあるが、ヒラスズキには皆無。身質も異なり、とくに刺身は抜群においしい。』と言う初めて食べる魚。
ポワレされた肉厚の切り身、牡蠣と法蓮草、そして野菜ベースのオレンジ色に近いソース。白い皿に三角に盛られただけなのだが見た目もシンプルで美しい。ヒラスズキにナイフを入れまずソースを付けずに口に入れてビックリ。まず味が素晴らしい上に肉厚の中心部付近の食感と感じられる更なる旨みに圧倒されるのだ。大袈裟では無く「何だこれは」と叫びたくなる。2切れ目以降はソースを付けて頂いたがソースは独りよがりの主張はせず、ヒラスズキの味を一段上に引き上げる様に考えられている。「美味しい」はナイフを入れる時の感覚から始まり、しっとりとした身を噛み締める時、絶妙の火加減の為せる技の素晴らしさなのだと感じて倍増する。
9品目の「蝦夷鹿 ビーツ アンティーブ」。前の皿と同じ白い皿なのだが今度は私には襖絵を彷彿させる盛り付けの妙。ローストされた鹿肉の断面は上にされ熱を加えたアンティーブ(チコリー)の上に乗せられている。濃い焦げ茶色のデミグラスソース、対角に流れる様にビーツのソース、赤茶色の落ち着いた色が美しい。鹿肉は何回か食べた事があるが、正直なところ大好きな肉質ではなかったが、今回の肉で考え方を改めた。
ナイフを入れて一口食べた時の驚き、牛肉とも豚肉とも全く異なる旨さが口の中に広がるのだ。羊肉とも異なる。鶏とも全く異なる肉質。柔らかすぎないしっかりとした肉質で、厚みのある肉にナイフを入れる時は快感すら覚える。この快感はヒラスズキの時と通じるものがある。
肉には噛み心地があると思う。うまく説明出来ないのだが、この鹿肉は牛肉のレア部分の様なネットリした感覚は無い。しかし決してウェルダンの肉質を噛む感覚では無い。これも火の入れ加減の技かとも思ったが、たまりかねて、ご主人にたまらなく美味しいことを伝え、どの様な調理をしているのか質問。「低温調理」の様な答えが返ってくると思っていたら、「強いて言えば熟成」と言う回答。私はそれでも調理法であると信じているのだが、美味しい料理の奥底の深さの興味が尽きない。
デザートはカヌレが印象的。そしてコーヒーがフレンチにありがちな深煎りに依存したタイプでなく、上質な豆でドリップしていると感じる私好みであることも嬉しい。
最後に普通パンは品数に入れないが、今回はパンも立派な一品。11品でスパーリングウォーター含めて11,800円と言う信じられないプライス。既に食べログで高得点を獲得しているが、私はこの様な「低い」点では無いと主張したい。
2024/01/16 更新
1年4ヶ月ぶりの再訪。
今回の旅は混雑していそうな京都を避けて、大津近辺を回った後、大阪に入る予定だったのだが、この店に寄るために京都で下車。
前回訪問で大ファンになり、私の最もお気に入りのフレンチレストラン2軒の内の1軒がこの店なのだ。
日曜の18:30と言うゴールデンタイムなのだがしっかり事前予約をして訪問。
この日のコースは以下の通り。
【today's special menu】
・卵黄 パプリカ
・ホワイトアスパラガス 雲丹
・カツオ ビーツ
・仔羊 小蕪 クスクス
・hidamarinoバゲット
・菊芋 海老 蓮根
菊芋のスープ シイタケに海老と蓮根を乗せて
・ホロホロ鶏 フランス産キノコ
ホロホロ鳥 アスパラソファージュ(※1:春時期だけのフランスの山菜)3種類のフランスのキノコ マデラ酒のソース 粒マスタード
・本日の鮮魚 豆
フワフワのマス 白ワインのソース(アオサノリが入っている) 45度で1時間火入れした料理
・椎名牛 キャベツ
千葉の椎名牛のミスジ肉 赤ワインのソース
・イチゴ 蕗の薹
蕗の薹のアイスクリームと酒粕のアイスクリーム イチゴ
・コーヒー カヌレ
素敵な縦長のカップに素晴らしいコーヒー カヌレ
1品目の「卵黄 パプリカ」。昨年は「卵黄 猪 白葱」。どうやら、卵黄を中核につけあわせを変えていっている様だ。絶妙の火加減の卵黄は相変わらず。
2品目は「ホワイトアスパラガス 雲丹」。クリーム色のアスパラ、茶色がかったオレンジ色のウニ、その上にあしらいのナスタチウム(英名: Nasturtium)の葉の濃い緑と彩りが美しい一皿。ウニ食べるとどうしてもウニの味が勝ってしまうのだが、全体としては優しい味。ナスタチウムの少しピリッとした辛みが生きる。
3品目は「カツオ ビーツ」。
この皿はパープルバジル(紫バジル、ダークオパールバジル)の紫緑とビーツの紫に埋め尽くされカツオが見えないと言う面白い皿。カツオの切り身の断面も似た様な色なので「紫色」づくし。カルパッチョ風のカツオとビーツの組み合わせはイヤでもサッパリ系。
4品目は「仔羊 小蕪 クスクス」。ご承知の通り、クスクスとはデュラム小麦の粗挽粉から作る粒、またその食材を利用して作る料理(発祥地はモロッコでフランス、イタリア、ギリシャなどで食べられている)。パスタは好きなのだが、パサつくのでどうも好きになれずにいた。この皿は仔羊の煮込み料理にクスクスをソースと絡めて肉にかけて小蕪と菜の花が盛られている。仔羊肉をナイフで切り分け、クスクスの混ざったソースを絡めて口に入れて味が口の中で広がった時の感動。噛み締めると肉の旨みが広がる事はもちろんなのだが、ソースが味付けの為だけで無く、存在感を現す食物がクスクスなのだ。私としては、是非とも気にして欲しい、気付いて味わって欲しいと思うポイントで、パスタ類の大きさでは無く、クスクスの粒サイズでなければならない必然のサイズによる食感、おそらく味が染み込んでいるが故の2段ロケットの様な味の変化。正にこう言う料理の為にクスクスが存在するのだと勝手に決めつけたい気持ちになるのだ(対極に感じるのがサラダに添えられたクスクスのパサつき感)。
5品目の前に「hidamarinoバゲット」登場。
前回も同じだったのだが、私はこのバケットがこの後に続く料理の為の「パン」とは思えないのだ。結論を先に述べると、美味しいのでひたすら食べ続けて、あっという間に無くなってしまうのだ。
改めて説明すると、生ニンニクと軽く加熱され先端をカットされたミニトマトを炙られたカットバケットの表面にすり込んで食べると言うもの。よく見かけるオリーブオイルをつける、バターをつけて食べる(発酵バターはチョット別)のとは全く別の美味しさ。
そして5品目は「菊芋 海老 蓮根」。
この料理はテーブルでサプライズがある。真っ白なスープ皿にシイタケが盛られて、更にその上に海老と真っ白なスライスした蓮根。テーブルに出されるた後、器に入れられた菊芋のスープをそっと注ぎ入れて完成。皿の流れからする時強弱の「弱」の位置付けと思われるが、味の良い肉厚のシイタケと未体験の菊芋のスープだけでも十分美味しいのだが、海老と蓮根が加わることで味に厚みが出て、蓮根スライスのシャキシャキ感が優しい味に適度な刺激を与えてくれる。
6品目は「ホロホロ鶏 フランス産キノコ」。
この料理はなかなか複雑に感じる一品。実は私の感覚ではホロホロ鳥の美味さ(旨さ)と言うより、初めて味わうアスパラソファージュ(※1)と3種類のフランスのキノコ、そしてマデラ酒のソースと粒マスタードと言う奇跡的な組み合わせにより成立している味に反応してしまったと言う訳。キノコはご承知の通り直接食べるより、煮込むと旨みが湧き出る不思議な食材。これが3種類。どの様なキノコが使われているか聞いていないのだが、ポルチーニ茸の味が含まれている様な気がした。マデラ酒(マデイラワイン:ポルトガルのマデイラ島で造られる酒精強化ワインで独特の香ばしい風味と長熟性がある)もどの様な酒か全く分からないが割と癖のある粒マスタードと併せて不思議な香りがして心地よい。割と淡白なホロホロ鳥の肉が旨味のある華やかな味に昇華させている。
アスパラソバージュ(※1)は2本使われてている様だが、口の中をサッパリさせる効果があり、茎まで美味しく感じる。
7品目は「本日の鮮魚 豆」。魚は鱒。サーモンピンクの切り身が豆の葉と茎で覆われて、サヤエンドウの鞘と豆がめにつく訳だが、隙間から覗くピンクが印象的な皿。そしておもむろにナイフを入れてマスを一口たべたときの驚きはおそらく一生忘れないと思う。「フワフワ・トロリ」の食感、本当に「何だ、これは?!」と心の中で叫んでしまった。
少し説明すると、サーモンの寿司、スモークサーモンの食感をイメジすると分かりやすいと思うが、この食感をフワフワにした感覚なのだ。
たまらず食べ終えた後、テーブルに来て頂けたシェフに質問して判明したのだが『45度で1時間火入れした料理』との事。もうマジックとしか言いようがない。
ソースはアオサノリが入っている白ワインのによるもの。シェフのソースマジックと言う事になるが、何故アオサノリなのかは置いておいて、ただ「素晴らしい」と言う言葉しか出てこない。
低温調理法と言うものは確かに素材の旨みを引き出す様だし、最近肉の調理には普通に使われている様子。私自身、10年近く前に某フレンチレストランで食べた低温調理で数時間かけたというえ分厚いポークのソテーの味が忘れられないのだが、この店のマスの食感は全く未知のもの。そこに味と香りの卓越した「マジックとしか言えない」アオサノリ白ワインソースの組み合わせも素晴らしくて夢心地になってしまう。
8品目は「椎名牛 キャベツ」。千葉の椎名牛のミスジ肉と赤ワインのソースでキャベツを添えると言う皿。
フレンチに行くと〆の肉料理たいてい牛肉のローストと決まっていて変わり映えはしないのだが、流石と言うか肉の火入れが素晴らしく、おそらくこの料理も低温調理法でギリギリの見切りをして出して貰えていると推察する。しかしよく耳にする赤ワインソースが流石と言うかオッと思うもの。絶妙の肉感のロースト肉を切り分けてソースを絡めて食べると、決して贔屓目では無く一味違うのだから、流石としか言いようが無い。赤ワインソースのどこが違うのか?私には到底分かるはずもないが、私レベルの舌で分かる事は「味の深み」が全く違う事。何か引き摺り込まれる様な感覚を覚える味わいなのである。
デザートは「イチゴ 蕗の薹」。具体的に説明すると
「蕗の薹のアイスクリーム」と「酒粕のアイスクリーム」、そして「イチゴ」と言う内容。個人的には蕗の薹のアイスクリームはこんなものかなと言う感じに対して、酒粕のアイスクリーム方は強烈でインパクト大。言葉通りの甘い甘酒を食べている感じ。これだけでは食べ飽きてしまう所の救いが蕗の薹のアイスクリームとなってしまい、素朴な野趣溢れる味がこれだけ一種類を食べたいかと言われるとどうかと思うが、2つ合わせると不思議と良い感じで成立するのだ。
飲み物のコーヒーはフレンチレストランでありがちのただ濃くて苦めと言うものでは無く、深煎りローストの美味しいコーヒーでホッとする。
2回目訪問の今回、デザートを含めて9品、私は「hidamarinoバゲット」も立派な一品と思うので10品と言う堂々たるラインアップ。それらが一部の隙無く綿密に組み立てられた料理には大満足すると共に、改めてシェフの実力を思い知らされた。
マイベストのフレンチが東京では無く京都にある事が残念な気持ちになるのが正直な気持ちだが、京都それも四条という激戦区で生き残る工夫をし続けるからこその結果なのだとすれば、私は関西を訪問する際、夕食時に京都を訪問するしか無いが、それもお楽しみと思えば、近いうちに必ず再訪するので東京と京都の距離は苦にならないのだ。
※1)アスパラソバージュ
アスパラの名が付いているがアスパラガスとは別分類。同じユリ科だがアスパラガス属ではなく、オオアマナ属に分類されている山菜。
シャキシャキッとした食感とヌメリのある舌触りが特徴。3週間から1ヶ月程しか出回らない