1回
2015/10 訪問
ヴェネツィアングラスの美しいリストランテ
下田方面まで足を延ばし、魚三昧の和食に食傷してしまいました。
そんな翌日、肉も食べたいのだけれど、自然とイタリアンを求める気分になりました。
そこで帰路の近辺のイタリアンを検索したもののどちらも食指が動かず…
特に調べもせずイタリアンというだけで安易にこちらを予約してしまいました。
のちにその安易な決定に「こんなつもりじゃなかったのに」と思ったものの、食後は「値は張るけど高くはないよね」という結論に至りました。
高い技術の調理・接客・アコモデーション、文句のつけようなど無く優れていました。
たしかにスマートカジュアルな上品な女性が多かったですね。我々はこの店ではちょっと異端だったかもしれません。
いえ、テーブルマナーがきちんとしていればひるむことはありません。でも財力を持っていればいいんだろ、という人には来て欲しくないですね。
アラカルトでいろいろ頼むこともできたのですが、飲酒はできなかったのでランチのプリフィックスコースを選択しました。
テーブルには薔薇が一輪と、ローズマリーとタイムの生葉が活けられていました。
そんな設えに感心していたらお給仕さん、
「お好みでこちらのハーブを使ってください」と案内していきました。見て幸せなだけではなく、食べても幸せになれるハーブなのですね。
感銘いたしました。
・ズッパ かぼちゃのスープ
南瓜の甘味には欠けましたが、果肉由来の繊維やでんぷんによってもったりとしていました。ほぼ南瓜でした。ほんのりとバターの香りがしたものの、仕上げに振られたオリーヴオイルの香りが勝ってしまい、クリーミーな風体を邪魔していました。南瓜は念入りに濾されてとても口当たりが良かったです。やけどするほどではないのに熱を感じるのは不思議な体験でした。載せられた茸は小さく少ない量ながら、軽く炒められて香りと食感を添えていました。長野県産と聞きました。
・アンティパストその1 野菜のフリット生ハム添え
北イタリア産の生ハムの下に野菜のフリットが3種、カリフラワー・蕪・さつまいも。フリットとは天婦羅と似て非なるものですね。空気を入れて膨らませて、ざっくりとしていながら衣は剥がれないのです。蕪が特に美味しかったです。辛味だけ抜けた独特の風味、さくっとした歯触りが楽しかったです。また、フリットが素の味わいなので生ハムを添えて食べるとちょうど良い塩梅でした。蛇足ですが…自分はさつまいもの天婦羅が大嫌いなのにこちらのフリットは美味しくいただけました。フリットに対する認識が変わりそうな体験でした。
パンはテーブルクロス直に置いていきます。京都のぶぶづけかと一瞬ひるみましたが、他所の席でもそうしていたので安心してください。
クロスの清潔さに自信がおありなんでしょうね。
・アンティパストその2 シャモのロースト落花生ソース添え
凝ってます。技に感嘆します。里芋を中心に、胸肉、外側をもも肉で包んでローストしたものです。カトラリを付けると簡単に崩れてしまうものを、どのようにしてまとめて、焼いて、カットしたのか、探究心がくすぐられてしまいました。やはりシャモ、どんなブランド鶏とも一線を画すものでした。においはほとんど無く、脂が無いわけではないのだけれどアスリートな筋肉の食感です。それでいてけっして硬くなく、なのに噛み応えはある不思議な一品でした。里芋も必要なアクセントでした。ソースは落花生のピュレを主にしたもの、いたずらに加味してないのが洗練されていますね。肉に薄く塩が入っているので風味を足すだけで味わいが豊かになるのです。また、バルサミコソースの酸味が抑えられて名脇役を演じてました。そえられた生野菜はなかなか挑戦的でした。ルッコラは定番として、春菊を用いてるのが日本のイタリアンといったスタイルで好感を持ちました。
・プリモ つぶ貝とブロッコリのスパゲッティーニ
お給仕さん曰く「スパゲッティーニはスパゲッティより細いものです」と二度も言って行きました。いえそんなこともう知っていますから、とは言わず聞き流しましたが、肝心なところで早口あるいは小声過ぎてどんな食材か把握できなくてサービスを減点しました。
この品は定石のイタリアンらしく若干塩気が強めでした。ブロッコリはパスタと一緒に茹でているのでしょうか、だとしたらパスタの茹で湯の塩加減は案外強いのですね。くったりとしているのでまるでソースのようにスパゲッティーニに絡んで面白かったです。つぶ貝は控えめな風味でした。これ以上主張したら品が無くなってしまうかもしれません。小さくカットされているのでフォークにはかかりませんでした。この品も歯応えを残していながら熱を保っていて面白かったです。
・セコンド ブランド豚のロースト
塊肉をランダムにカットしたかのような形で見た目にも量感が増します。この豚はももロース部位でしょうか。肉のためのカトラリが用意されたものの若干の筋が切りにくかったです。とはいえ牛より加熱の難しい豚さん、絶妙なローストでまるで赤身のような美しいローズ色でした。血が踊るような深い味わいがありました。個人的には豚には白ワインが合うと認識していたのですが、このような豚さんなら赤も合いそうです。ゼラチン質の部位はけっして脂っぽくなく、ホルモンに少し似た、柔らかな歯応えが面白かったです。ソースは定石のグレイビーベース、美味しいです。野菜は蓮根・茄子・甘唐辛子・小さな大根、でした。種の見えない太い茄子がとろけました。白い蓮根は簡単にナイフが入り、茹でただけではない仕事を感じられます。
・ドルチェ 林檎パイとジェラート
パイとは言ってませんでしたがよく聞き取れませんでした。でもほぼパイです。しかしながらバターと小麦の層が細かく織られて、驚くようなさくさくとした焼き上がりに層が一枚ずつ剥がせるほどふんわりとしていました。林檎のフィリングの水分が染みてしまうなどということはまったくありませんでした。秀逸です。甘さも控えめで日本人のドルチェといった風合いでした。赤いソースは林檎の皮を用いたとのこと、変色しないものなんですね。林檎を丸かじりすると皮に渋味を感じるものですが、このソースはとても口当たりが良かったです。不思議ですね。緑のソースはミントとのことでした。これは主張が乏しかったものの、意識できませんでしたが併せて効果はあったのだと思います。ジェラートはミントの風味でした。口に運びやすい盛り付けが嬉しかったです。
・飲み物と茶菓子
エスプレッソが摺り硝子の器でとても素敵でした。でもここで茶菓子が供されるなら紅茶にしておけばよかったと後悔しました。茶菓子といえども手抜かりはありません。5種どれも美味しかったです。シトラスピールが織り交ぜられたマシュマロはおもたせ希望します。
こちらはイタリアンなのに、お給仕さんたちはイタリア語由来の言葉を使ってらっしゃいませんでした。何かこだわりがおありなんでしょうね。
自分のレストラン評価のひとつの指針となる水については頻繁に注いでもらえたので不満はありません。
また、ユーロで修行したシェフたちの一部に「日本の野菜には地力が乏しい」と国産の野菜を避ける風潮もあると聞きましたが、こちら様は国産の自己主張の少ないものをお使いのようで、日本人の国民性に合った提供のようでとても好感を持ちました。
とても美味しゅうございました。再訪を許してやってください。
総合☆3.1
プリフィックスながらとても水準の高い料理で驚きました。また食器が美しく、特にこの店の内装やテーブルセッティングにも用いられている手作りのヴェネツィアングラスは必見です。
2018/12/14 更新
何を取っても美術なのです。
2017/11/13 更新