2回
2018/09 訪問
人々の情熱が蘇らせた 情熱の国の様式の邸宅
家族の記念日に訪問しました。
何年も前から是非いつか伺いたいと思い、祝事に合わせて空きを確認していましたが、婚礼人気の為か週末は叶わず、諦めかけていました。今回は幸運にも記念日近くの祝日に予約ができ、早速ランチに伺いました。
若松河田駅の出口を出て振り返ると、すぐエントランスがあり、その近さに驚きました。
建物は昭和初期に流行したスパニッシュ様式で、所々にイスラム風や日本らしさを取り入れており、当時の文化や当主の小笠原長幹伯爵の趣味が窺える貴重で興味深い邸宅です。邸内や庭園の案内を事前にお願いしており、食後に見学させて頂けることになりました。
お料理はランチコース税サ別7,000円です。
○ハモンイベリコのエスプーマ 黒オリーブのマダレナ
一見デザート風ですが、塩味のタパスの前菜です。グリーンアスパラが具として入った冷製スープにイベリコ豚生ハムから作られた白い泡を乗せたもの。揚げたキヌアが上に散らしてあります。もうひとつは黒オリーブ風味の甘くない焼き菓子。タパスのイメージより上品なビジュアルです。
○帆立貝のアサード クリアなトマトコンソメ いんげんのタリアテッレ
いんげんが練りこまれたタリアテッレかと勘違い。二皿目にしてもうパスタ料理かと思いましたが、主役は見たこともないような大きな帆立貝の貝柱。いんげんはタリアテッレの形状に薄くスライスされ、お皿に華を添える役割です。感動的に美味しいトマトの透明なコンソメスープ。全てのお皿の中でこれが最も気に入りました。
○穴子のアロスカルドソ ピメントンチョリセロとセルバチコ添え
メインの前の炭水化物、お米料理の登場です。穴子のフリットの下に風味豊かなスープリゾット。食べ易く、これ一品のランチでも成立しそうです。
○ハタと白イカのプランチャ 根セロリの塩生地包み フォアグラのビネグレット
日本人にとって焼いた魚介が美味しくない訳がない。そこに素晴らしく美味なフォアグラのソース。総じてとにかくソースやスープが美味しいです。根セロリは葉を食用にするセロリとは別種です。食感が蕪で風味がセロリという不思議な野菜です。
○イベリコプルマの備長炭焼き プルーンとポワローのコンフィ
少し噛み応えのある焼いたイベリコ豚に、酸味と旨みが丁度良いバランスのプルーンのソース。良い食材だけでなくソース類が口に合うというのは嬉しい発見でした。再訪したくなる大きな理由のひとつになります。
○柚子のソルベ レモングラスのジュレとパッション
○黒イチジクのテクスチャー コーヒーとキャラメルのクリーム
ビジュアルも味も、色々な要素がお皿の上に混在。私は新鮮な組み合わせで美味しいと思いましたが、日本人的には、統一感がもう少しほしいと思うかも。
○コーヒー、小菓子
その他、シャンパーニュも頂きました。
食後は邸内を案内して頂きました。
私たちが利用したダイニングはベッドルームでした。現在は洋間に改装されている部屋のいくつかは始めは畳敷きの和室であった場所もあり、その為天井や窓が低めの位置に設計されているのも、日本人の手による洋館らしさがあり、趣があります。
歴史的価値のある邸宅ではありますが、一時期取り壊しも検討されるほど廃墟の期間が長く、外壁や調度品の多くが破損や盗難により失われ、元の食堂にある大きなダイニングテーブル以外は殆ど、当時の資料を基に再現、調達したものです。テーブルもソファもシャンデリアも鏡も古いガラスや外壁の特徴的なタイルまでも。失われた古い調度品への残念な気持ちよりよくぞここまで再現したという情熱に感心します。
当主の小笠原長幹氏が酉年であったことに因み、内外にいくつもの鳥のモチーフが施されています。隠れミッキーを探すように鳥達を探して歩くのもまた一興です。
庭園のオリーブの樹は本国から移植したとのこと。たくさんの青い実をつけていました。数週間後に収穫し、調理にも使われるそうです。オリーブの大木に触れると幸福になれるという言い伝えを教わり、触らせて頂きました。
華やかさと奥ゆかしさを併せ持つ洋館。この美しい邸宅を蘇らせた方達の物語を知ると、古きも新しきも一層貴重なものに感じられます。サービスにも多くの気遣いが感じられ、気持ち良く過ごすことができました。
メニュー
ハモンイベリコのエスプーマ 黒オリーブのマダレナ
帆立貝のアサード クリアなトマトコンソメ いんげんのタリアテッレ
穴子のアロスカルドソ ピメントンチョリセロとセルバチコ添え
根セロリの塩生地包みの状態
ハタと白イカのプランチャ 根セロリの塩生地包み フォアグラのビネグレット
イベリコプルマの備長炭焼き プルーンとポワローのコンフィ
黒イチジクのテクスチャー コーヒーとキャラメルのクリーム
ダイニング
シガールーム
シガールーム
当主 小笠原長幹氏作 パティオの彫刻
庭園内に新しく造られた鶏の焼き窯
ガーデンチャペル
庭園のオリーブの樹
シガールームの外壁
1926年の定礎銘板
2022/09/23 更新
平日のランチに訪問しました。
地下鉄駅前に堂々たる庭園と邸宅を構える『小笠原伯爵邸』。この邸宅レストランがスパニッシュという点が、希少だと思います。
建物への愛は、前回訪問時のレビューで語らせて頂きました。廃墟から蘇った優雅な邸宅の今昔比較図は、映画『タイタニック』のプロローグを思い起こさせます。気候の良い季節に再訪し、あらためて荘厳な空間に見入りました。
庭園と邸宅は、食後に自由に観て回ることができます。その体験も込みと考えれば、お料理の価格設定はリーズナブルと言えると思います。以前はそこまでと思いませんでしたが、近年の他店の大幅な値上げを見るにつけ、相対的に良心的だと感じます。
お料理は、イベリコ豚がメインで全4品のランチコース「Princesa」。乾杯スパークリングを付けて税サ込11,495円です。
○前菜プレート スペイン料理の楽しさがわかる特別な4種
アーティチョークのソパ 海老と真鯛のセビーチェ イベリコサラミとモルタデラのミルフィーユ コカ・デ・レカプテ
○米料理 筍のソテー 黒米のアロスメロッソ
○厳選肉料理 イベリコベジョータ・プルマの備長炭焼き 紫白菜のワインビネガー・グラッセ
○デザート メロンと昆布 アロスコンレチェとポルト
○カフェ、小菓子
特選牛がメインの「Principe」(プリンス)、イベリコ豚がメインの「Princesa」(プリンセス)と名付けられたショートコースが、ガーデン席専用メニューです。これらショートコースはスペイン料理のカジュアルな導入と言えますが、私にとって量的に不足はありませんでした。心地良い風が通るガーデン席に、時々香るモッコウバラ。緑の庭園を楽しみながらスペイン料理のエッセンスを頂く体験は、屋内のダイニングでフルコースを頂く時とは一味違う、今の季節だけの特別感がありました。
お料理が運ばれてくる度に漂うオリーブオイルの香りが、食欲を刺激しました。荘厳な邸宅の下でも気負わずに楽しめるのは、オリーブにお米料理や魚介など、私達の日常にも浸透しているスパニッシュの味覚ならでは。一方でガーデン席ならではの、丁寧ながら付かず離れずのサービスを受け、快適なランチタイムでした。
週末や休日は相変わらず、イベントなどで押さえられているのか空きがありませんが、平日の空きは勿体ないと思えるほど、リーズナブルながら特別な食体験を提供してくれる邸宅レストランだと思います。
ごちそうさまでした。