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夜の点数:5.0
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¥20,000~¥29,999 / 1人
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料理・味 5.0
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|サービス 5.0
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|雰囲気 5.0
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|酒・ドリンク 5.0
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[ 料理・味5.0
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備忘録:そこには美味しい料理と比類なき別世界があった
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地下玄関の車着け
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ナポレオン・パイ
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2022/03/15 更新
若い頃の私はグルメ環境に恵まれていた。
学生時代は、バイト先のオーナーの関係で銀座のステーキ店や「レカン」「久兵衛」などに出入りしていた。
社会人になってからは、自称グルメの方々のグループが顧客になり、主にフレンチを中心に都内の高級レストランを引き回された。
ここ「マキシム」も、取引先だった親会社の重鎮の方の好意で当時の社長を紹介してもらい、いわゆる「定食」と呼ばれていた親会社専用の接待用のリーズナブルなコースを食べさせてもらったことから付き合いが始まった(いいのかなあ?こんなこと書いて…)。
後日こんなこともあった。
とある休日、私の顧客をご紹介して面倒見ていただいたお礼を社長に言うために、銀座デートの途中にお店にうかがったら、バールームでの茶飲み話が盛り上がって「夕飯食べていきなよ。お客さんを紹介してくれたお礼だよ」と逆に社長からご馳走すると言われてしまった。
私はジャケットは着ていたものの、カジュアルな靴とノータイだったことを理由に丁重にお断りしたのだが、受付の女性がデスクの引き出しからヒモ式のタイを取り出し身に着けてくれながら靴のサイズを訊かれたので観念して結局ご馳走になる事にした。(ネクタイは理解できるが、サイズ別の靴まで用意してあるのにはビックリした。)
そんなこんなで、彼女の誕生日、結婚記念日、友人夫婦のエスコート等々「マキシム」との付き合いは深まり、ある一時期のグランドメニューの料理やデザートは、あの「ポム・マキシム」以外すべてを制覇する程だった。
元々数あるフレンチの中でも、ここ「マキシム」と六本木の「オーシュバルブラン」(閉店)、三田の「コートドール」の三店の料理は私の大のお気に入りで、特に「マキシム」には料理の旨さに加えて、導入部や車廻りの面白さや、客層と客の服装、セロ弾きの方の生演奏の演出など、他のレストランでは決して体験できない別次元の面白さがあった。
後にパリの「マキシム本店」にも訪れる機会が有ったが、やはり本店も、常連客と着飾った観光客が程よく交わっていて、そのいずれの年齢層も高いせいか、客層や客の立ち振る舞いが他のレストランとは全く違っていた。
とにかく優雅な世界だったのだ。
またこんなこともあった。
結婚直前、私が両家の兄弟・姉妹も交えて初めての顔合わせのランチをここ「マキシム」の個室で行った時、時はバブルの最盛期で、「マキシム」の親会社がアメリカで外交問題になるほどの爆買いを行ったため、親会社のトップと駐日アメリカ大使による会合がこの個室で行なわれていたらしい。
何があったのかは知る由もないが、それが大幅に延びて我々のランチのスタートも遅れてしまった。
社長はバールームを開放して対応してくれたが、元来呑兵衛の両方の父親と、この食事会が決まった時から「キャ~、マキシムで食事~?何着てゆけばいいの~?」とはしゃぎまくっていた妻の妹が、ほぼ完全に出来上がってしまった。
おかげで緊張するはずの顔合わせ会がとても和やかになったのは嬉しい(?)誤算だった。
そして、要人会合の直後に一般人の婚約の食事会とは、「マキシム」はいろいろな人々に様々なステージを提供しているレストランなのだと改めて思った。
とかく料理だけで評価されがちなフレンチの世界だが、料理・サービス・客層・雰囲気・演出・・・そのトータルで、当時の日本には「マキシム」を上回る店は無かったと思う。
そんな「マキシム」とも、私の転勤、社長の退任、仲の良かった支配人や受付女性の退職、運営会社の交代などで次第に足が遠のくようになった。
でも、当時一緒に訪れた事のある友人夫婦から「マキシムが閉店するらしい」という連絡があって、なんとかその最期の姿を見ることはできた。
最後の晩餐を何にするか?
私たちはここで大きな問題にぶつかった。
食べたいものがあまりにも多すぎる。
最初に足を踏み入れた時以外、私はいつもその日に食べたいものをアラカルトをオーダーしていた。
だが今回は結婚前のあの食事会以来久しぶりにコースを組んでもらうことにした。
「アミューズ」(おまかせ)
「ホタテとオマールのテリーヌ(完全版)」
「ビーフコンソメスープ」
「舌平目のソースアルベール」
「ロゼダニョーのマデラソース」
「シャラン鴨のオレンジソース」
「クレープシュゼット」
「ナポレオンパイ」
というとんでもないメニューになった。
(でもポーション調整で全て美味しくいただけました。)
その日、もう知っている人は誰も居ないマキシムだったが、中に入るだけでやはりワクワクする。
クロークで荷物を預け、バールームでいつものようにカシス少なめのキールをいただきながら友人夫婦を待つ。
過去のいろいろな思い出がよみがえってくる。
階段を下りてダイニングに向う時には完全にマキシムワールドに取り込まれている。
席に着くと、「支配人からです」と「ブーブクリコ」が差し入れられた。
「えっ、なぜ?」
「メニュー作るときに昔の顧客リストでも見たんじゃない?」
「最後だから皆にサービスしてるんじゃない?」
まあ理由は定かではないがありがたく頂戴した。
ただ、これで終わらなかった。
全ての食事が終わった後に、今度は「店からです」と言って「スフレグラッセ」が出てきたのだ。
さすがに「どなたかからの差し入れですか?」とメートルに尋ねたが、
「いえ、これまでの特別なご愛顧に対する店からのお礼の気持ちです」と。
でも「スフレグラッセ」は例の結婚前の食事会の時のデザートで、メニューにも載っていないはず。
当時の事を知る人の入れ知恵以外には考えられない。
特別メニューを依頼したことが引き金になったのだろうが、改めて「マキシム」に携わった人々の風通しの良さと、客を迎えるにあたっての真摯な姿勢に心から感服するばかりだった。
食事を終え、寂しさと共に改めて感じた「マキシム」の奥深さと心地よさを胸に、大好きなあの車着けのエントランスに向った時、支配人が見送りに来てくれて「長い間ご利用いただいて本当にありがとうございました」と深々と頭を下げられた。
私はおそらくこの支配人とは面識はないが、不覚にも涙を止めることができなかった。
ひとつの時代の終焉。
私は「グランメゾン」などという有りもしない曖昧な言葉は好きではない。
でも、そういった概念があるとすれば「マキシム・ド・パリ東京」が日本で初めての存在だったことは言うまでもない。
そして、人気の定番メニューを提供し続けながらも新たな料理も発信する。
一人の料理人やカリスマギャルソンに依存する事なく店の伝統を継承してゆく。
そこに集う客層とその華やぎによって店の雰囲気が作り上げられてゆく。
食べ歩きを志向していてもいつでも安心して帰って来られる店である・・・等々。
とかく「おまかせメニュー」の店がもてはやされる今の料理界へのアンチテーゼのような店が無くなる事への抵抗感が私の涙腺を緩ませたのかもしれない。
※このログは、まとめ「グールマンの名店備忘録」にも収めてあります。
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※先日、銀座シックスで復活したマキシムの「ナポレオンパイ(苺のミルフィーユ)」に出会った事をきっかけに、遅ればせながらマキシムでの思い出を書き残させていただきました。