4月某日 曇天
会社の上司に随行中。
昼メシはラーメンに、と言うことになり、その時いたエリアの人気店の前まで行くと、ちょっとした外待ちが発生している。
時間の関係でその店は諦め、近くの中華屋にシフト。初めての訪問。
地元の人気店らしく、先客後客とも多数。
店内に貼られた短冊メニューを拝見。中華屋には中華屋のアドバンテージ、中華鍋を駆使するであろうハイカロリーな炒め物系など、ラーメン屋にはとうてい真似のできないラーメンも多々。
だがこの時上司のオーダーはラーメン&ヤキメシのセット、なので自分もそれに倣う。
待つこと数分。
配膳されたラーメンは見るからに街の中華屋的一杯。
スープの出汁は鶏ガラにクズ野菜、カエシには角の立たない丸みを帯びた醤油味。麺からのカンスイ臭も伝播しているが、それも含めて実に「らしい」味。
麺は中細のストレート、茹で湯の加減で多少のヌメリがあり、食感は柔らか。
風味に乏しく、先に述べたカンスイ臭も感じられるが全体をブチ壊すほどの主張ではなく、許容範囲内にとどまっている。
具材は厚切りカットの肩ロースチャーシューが1枚、あとメンマにモヤシと無難な構成。
チャーシューはやや甘めのカエシに漬け込まれており、ホロリと崩れる食感。
メンマ数本は細くコリコリとした繊維質な歯応え、モヤシは細くてわずかにクセがある。
ここまではフツーであるが、まあ良かった。
固形物を八割がたやっつけて、ラーメンとヤキメシどっちを先に食べ終えようかな、と思った刹那。
丼の端にプカリと浮かぶ小さな物体…
うわあ、ヤツだ。間違いない。
怒りよりも、またですかという哀しい気持ちが先に立つ。
これ以上食べ進める鋼鉄のハートを、残念ながら持ち合わせていなかった。
ちょっと冷静になって考えてみる。
ヤツがどこに混入していたのかは不明だが、おそらく寸胴のスープであろう。
隣りでは上司がウマウマと麺を啜っている。
真実を伝えることはマイナスの方向にしか働かない。
かと言って、(恐らく)上司が奢ってくれる一杯。残す理由をどう説明したら良いだろうか。
残っていたヤキメシをレンゲでかきこむと、上司にスイマセンと告げ、鳴ってもいない携帯電話を手にもしもしと店の外に飛び出す。
上司が会計を終えて出てくるまでの数分間、得意先と電話し続けているフリをした。
誰も幸せにならない事態は回避。
ただ一人自分だけが幸せでなかった。