5回
2019/07 訪問
様々な言葉を使い、様々なカレーやカレー的なものをレビューしている僕ですが、時々言葉を失うことがあります。
そういう時はいつだってヴィトゲンシュタイン先生の有名な“Wovon man nicht sprechen kann, darüber muss man schweigen. ”つまり、「語りえぬものについては沈黙しなければならない」という言葉が頭に浮かぶのです。
今回もまさにそれ。
といってそれで終わるわけにもいきません。
どうやって書こうかな…
とにかく今回は夜のおまかせコースをいただきました。
コースはリクエストに応えてくれるのですが、あえてのおまかせで。
予算は諸々込みの2万円以内でお願いしました。
値段を言うなら17500円でした。
金額だけで言うなら日本のインド料理系のお店としては最も高いのかもしれません。
しかし、金額だけで何がわかるのでしょう。
KALAのコースはひとつひとつの食材のレベルが驚く程高いのです。
例えば本マグロと島らっきょのタルタル。
上質なマグロ、キャビア、マイクロハーブの九条ネギなどを使っており、それだけ聞いても高級食材ばかりであることがわかるかと思います。
つまり、材料の原価からして高いわけです。
よく良い魚を刺身以外の食べ方で食べると「もったいない」なんていう人がいますが、僕の考え方からすれば、そのまま食べるのも良いけど、確かな腕とセンスによってそれ以上に美味しくなるのであれば当然手をかけた方が良いということになります。
そしてKALAのボスにはそのセンスと技術があるのです。
僕が今まで食べたマグロ料理の中で一番美味しかったのがこれですから。
お前カレーしか食べてないだろと思われるかもしれませんが、僕の実家は築地の近く。
魚市場で働く人も多く、そんな人達が集まる家で育ち、プロが集まって刺身を用意するような家でした。
つまり子供の頃から毎日のようにレベルの高い刺身をいただいていたわけです。
そのせいで学生時代に友達と初めてごく一般的な回転寿司を食べに行った時、なんだこれ不味くて食べられない!と思ったりしたくらい。
そんな贅沢舌になってしまった僕にとっても一番だったわけです。
素材の良さと技術だけではありません。
KALAが凄いのは「これ美味しいですね! 何を使っているんですか?」と聞くと、いとも簡単に種明かしをしてくれるところ。
材料のみならず、簡単に作り方まで教えてくれる。
そこがまた楽しいのです。
そしてやはり最後に感じるのは優しさ。
KALAのボス、口が悪いです。
毒舌家です。
でもね、その奥底には愛があるんですよ。
僕は江戸っ子なのですが、地元の爺さん方はみんな口が悪いです。でも、みんな優しいんです。
ボスもそんな感じ。
憎まれ口の中に愛があることに気づかない人には、ただただ怖い人でしょう。
そして素材の良さ、技術、センスに気づかない人には、ただただ高い料理でしょう。
ボスは優しいので、そういう人たちに向かないお店ですからねと教えてくれています。
「不慣れな人にはまずい店」というキャッチコピーにはまさにその優しさが含まれていますよね。
多くの人に向ける商売もあるでしょうが、少数の人にしか向けていない商売と言いますか、お客さんを選ぶ商売というのもあって当然なのです。
KALAは確かに客を選ぶ店かもしれません。
しかし、選ばれた客は皆、最高に幸せな気持ちになれる料理とお酒を出してくれますし、おもてなしをうけることができるのです。
僕のような庶民には17500円の晩御飯というのは贅沢すぎてそうそう滅多に食べられるものではありませんが、食べることができて良かったと思える体験でした。
またいつかおまかせディナーを堪能できる日が来ますように。
本マグロと島らっきょのタルタル
シャンピニオン・ド・パリの自家製マヨネーズ和え
焼きナスのポタージュ
ジーラ・コッタマリ
のどぐろのポリチャトゥ ニルギリソース
蝦夷鹿のソテー イチジクの二度使い
カチュンバル
クルフィーとエスプレッソ
2019/07/29 更新
2018/12 訪問
KALAに行くのもこれで3回目。
そろそろ夜に行きたいと思っていたのですがスケジュール的に昼しか空いておらず。
ボスからリクエストを聞かれたので、以前出していたのをSNSで見て、食べたいと思っていた麻婆カレーをリクエストしました。
するとボス、通常は夜しかやらないスペシャルコースを、昼でも特別にやってくれました。
嬉しい\(^o^)/
まずはチコリのアニスバターから。
この先を期待させるシンプルで上品な美味しさ。バターの風味と最低限のスパイスで食欲を刺激させます。
そしていきなり出ました!
トラフグのマラバール!!
これぞKALA節全開の絶品!
トラフグのあらでフュメをとり、それをマラバール仕立てに仕上げた逸品。
ふぐの身は極厚カットで半生!
そして骨付きの身はしっかり火を通してあって、実に考えられています。
今までふぐは薄い刺身かフライでしか食べたことがありませんでしたが、こんなにも美味しいものなんですね。
極力おさえた塩気。
そしてマラバールとしては意外なほど立った辛さ。
この振り幅も予想外すぎて笑っちゃいました。でもそれが合うんだから凄い。
ピータンのピックルは揚げの上に乗っていて低糖質。
僕の体のことも考えてくれるなんて。。
金針菜のチェティナードも面白いですね。金針菜は通常チェティナードには使わないのですが、これも中華に寄せてくれたからこそ。
ヘルシーで美味しい。
そしてメインの四川麻婆カレー。
凄まじいマーとラー!
四川唐辛子を使用するこだわりよう。そして石焼スタイルというのがまた面白い。
KALAの魅力は繊細さと振り幅の広さだと思っていたのですが、これは繊細とは真逆。
攻め攻めです。
でもやっぱり美味しい。
いや、美味しいのその上の段階なんですよ。
面白いし、楽しいし、幸せだし。
こういう料理を食べるとレビューする意味について考えさせられます。
だって食べなきゃ絶対伝わらないんだもの。
やっぱり凄いです。本当に。
※うかがったのは昼でしたが夜のメニューを特別に昼に出してくれたということで、夜のレビューとさせていただきました。
2019/01/02 更新
2018/07 訪問
深淵なる宇宙
「不慣れな人には不味い店」という個性的な張り紙。
その下に「食べることがつらくなる店」というものも追加されていました。
出口には「一度食べたくらいで理解できるほどあなたたちはグルメじゃない!」と。
そう。
まさにその通りです。
そしてKALAというお店は特にそうなんです。
とにかく深い。
一度食べただけでもある程度の知識と経験があれば美味しいということは理解できると思います。
ただ、その美味しさの本質を知るには、二度三度と通っていかないといけないお店です。
今回のメニューはサマーミールスでした。
前回とは違うスタイルです。
これにスペシャルのおまかせを2つ程お願いすると、ふるの牛のレアピックルと、佐賀牛トモサンカクのペッパーフライが追加されました。
ハイボールをいただきながらレアピックルを食べてみれば、なんという美味しさ!
いきなりガツンです。
前回食べた料理はどれも上品で優しく、気品のある美味しさだったんです。
食べていくうちにじわじわと美味しさに包まれるような。
しかし今回は最初からガツンときました。
スパイス感ももちろんですが、酸味の使い方が完璧。
これによって肉の旨味が引き立つんです。
カレー作りをしている際、どうにもぼやけた味になってしまう時、塩を強めにするとなんとなく食べられるようになったりすることがあるのですが、塩に頼らないのがKALAの凄さ。
そうじゃなくても美味しく仕上げることができるのは、知識とセンスと技術全てが兼ね備えられているからこそでしょう。
続いて佐賀牛トモサンカクのペッパーフライ。
トモサンカクといえば言わずと知れた牛の希少部位です。
焼肉好きなら誰もが知るところでしょうし、それほど焼肉に詳しくない僕でも知っている部分。
これをペッパーフライに仕上げていると聞くと、普通の焼肉好きなら「もったいない」という人も出てくるかと思います。
しかし違うんです。
シンプルな味つけで素材の旨味をうんぬんかんぬんという気持ちもわかりますよ。
でもね、KALAにかかると違うんですよ。
シンプルな味付け以上に美味しくなっちゃってるペッパーフライ。
トモサンカクの味がスパイスで立っていて。やはり塩気は控えめでありながら、完全にぼやけの無い美味しさ。
どちらもまさにスペシャルだったわけですが、とどめのサマーミールスがまた凄くて!
パイナップルラッサム、ウチワサボテンのアヴィヤルなど、夏が旬の素材を色々と使っているミールス。
全てが美味しく、混ぜていく程に美味しくなるのはKALAの真骨頂ですが、この中にある魚のスパイシーソテーが凄かった!
魚はメヒカリでしょうか。
これがソテーという以上に揚げ焼き的になっているんですが、これとキウイのチャトニーを合わせるという発想がまず凄い。
程よい甘味と酸味により、タルタルソースのようにもなっているチャトニーが実に魚と合っていて美味しいのなんの!
ここまでくると語彙力を失います。
凄いしか出てきません。
食後にコーヒーをいただきながらしばしボーっとしてしまいました。
凄い魔法使いだと思っていたら打撃の攻撃力もとんでもなかった。
最初に戦った時には魔法だけで負けていたから気づかなかった。
そんな感じの。
KALAは深淵なる宇宙です。
ニーチェの言葉に「深淵を覗き込む時、深淵もまたお前を覗き込む。」というものがあるのですが、まさにそんなカレー。
己が問われる美味しさといえましょう。
また行った際にはまた新たな発見があるんだろうな。
そんな風に思わせてくれる、深淵のごとき名店です。
2018/07/16 更新
2018/03 訪問
一言で表現するなら「凄いカレー」
北九州の中間に凄いカレーを出すお店がある。
常々話に聞いておりました。
しかし東京在住の僕にはなかなか行くチャンスがなく。
今回念願かなって初訪問となりました。
行ってみると噂のボス。気さくに歓迎してくれました。
そしてサポートするのは噂のカレー高校生。
この時点で凄いですw
まずはベジタリアンミールスを注文。
追加でマトンコランブとチキンチェティナードを頼むと、ボス曰く「それはたいして美味しくないよw 肉好きなら肉をひとつ頼むのは良いと思うけど、もうひとつは魚が良いんじゃないかなぁ。アマダイとか。これは美味しいから。」と。
ぶっちゃけすぎですw
とはいえ、肉好きであることと、美味しくないわけはないんだろうと、マトンコランブは死守。
おすすめのアマダイのプットゥも合わせていただきました。
まずはべジミールス。
何とも華やか!
ひとつひとついただいてみると予想以上に薄味です。
しかし、これは狙って薄くしているわけで。
ミールスは混ぜていただくものなので、最終的に混ぜて味が完成する料理です。
混ぜてみればやはりそのとおり。
程よい味に仕上がりました。
これを計算しているんですから素晴らしいですね。
店頭に「不慣れな人には不味い店」とい書いてあるんですが、ミールスをわかっていない人にはそう感じる場合もあるかもしれません。
決して不味いわけではないんですよ。ただ、ガツンとくる味ではなく、じんわりと美味しさが体の隅々にいきわたるタイプなので、色々なお店で色々なカレーを食べたことがある人じゃないと、この凄さは確かにわかりにくいかもしれないです。
続いてマトンコランブとアマダイのプットゥ。
こちらを食べてみれば最高じゃないですかこれ!
マトンもアマダイもミールスも、すべてについていえることなのですが、まず素材が良いんです。
だからこその必要最低限のスパイス使いであり、味付けなんです。
そうすることによって素材の美味しさが一番最初に来る。
スパイス感を最初に立たせてインパクトある味にするカレーもあります。
しかしこのように素材の味を一番前に立たせるのは、かなりの腕と知識がないとできないこと。
お値段もそれなりにするんですが、それも十分納得の美味しさでした。
カレー好きなら一度は食べておきたい名店です。
2018/03/30 更新
この日は特別に前半はモダンインディアンのプチコース、後半は7周年ミールスの品数少し減らしてもらった形というスペシャルな内容となりました。
コースの中で特に素晴らしかったのが白甘鯛のポワレ。
鱗もついてサクっ、パリっとした皮にフワっとした身。
火入れ加減が本当に絶妙でほのかなピンク色混じりの白。
魚自体の美味しさもありますがソースがまた素晴らしい。
フレンチ的ソースにインド的アチャール液が混ざり、これぞモダンインディアン。
とにかく美味しいです。
そして7周年ミールス。
通常はこれより品数が多いというのですからとんでもないですね!
これだけでも十分の内容。
基本ベジミールスでオプションつける形ですがベジだけでも満足度高すぎます。
シンプルに王道の南インド料理と思いきや、韓国料理のナムルを忍ばせたりする面白さ。
驚いたのがキャベツのトーレン。
生のようにしゃきしゃきなんです。しかし生ではない。聞いてみると低温調理で仕上げたんだそうで。
凄い!
本来KALAの持つ両輪であるモダンインディアンと南インド。
堪能させていただきました!