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タイ料理が好きな彼女とインドカレーが好きな彼。
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看板
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テイクアウトセット
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グリーンカレー
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ジャスミンライス
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入口
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2026/01/30 更新
彼女には悩みがあった。
小さな、でも切実な悩みが。
恋人と食をめぐる切実な悩みが。
彼女のダーリンはインドのカレーが好きだったから。
しかし、彼女はタイの料理が好きだったから。
そんな二人が吉祥寺でデートをした。
おひるどき。
仲良く繋いだおてて。彼女は一度行きたいと思っていたアムリタ食堂に彼を誘った。
しぶしぶ頷く彼。二人は手を繋ぐこともなく、微妙な距離感を保ったまま伊勢丹横の路地を進みお店の前へ向かった。
そこで、二人の目に飛び込んできた大行列。
すると、彼は行列を指さしめんどくせぇと絶叫。
それは、確かに彼女も戸惑うような長蛇の列だった。
露骨に不機嫌になった彼を見た彼女は仕方なくアムリタ食堂を諦め、ダーリンの行きたがっていたインド料理店に行った。
いつの間にか離れた左手にさようならを覚えた。
「オレはマトンのビリヤニにするから、オマエはサグチキンとバトゥーラにしろよ!」
また始まった・・
彼女は思った。
インド料理店に行くと自分の好きなものを勝手に頼む彼。
いつも通りワガママなダーリンを眺めながら彼女は思った。
だが、その日。
彼女はせめてタイ料理のようにマイルドなバターチキンとカプリナンが食べたいと思っていた。
しかし、彼の機嫌がふたたび悪化するのを恐れた彼女はグッと彼な理不尽オーダーを受け入れた。
夜のはじまり。
買物をして、映画観て、再びお腹が減ってきた二人。
「ぐぅぅ」
彼のお腹が鳴った。
それを聞いた彼女が言った。
「ねぇ、もう一回アムリタ食堂行かない?」
だが、現実は厳しかった・・
「ふざけんな、あの行列に並ばせる気かよ!今晩は荻窪で吉田さんのカレー食うって決めてたんだよ!ディスられるとマジでシャッター半分しか開けない吉田さんなめんなよ!!」
彼の言葉を聞いた彼女の目から涙が溢れた。
思えばいつも食事を巡ってケンカばかりだった。
付き合い始めてもうすぐ二年が経つのにこの有様。
ちっとも自分を気遣ってくれなくなった男の子の言葉。
彼女は終わってしまった世界に一人取り残されたような気分になった。
「わたしとインドカレー。どっちが大切なのよ!」
叫ぶと同時に彼女は泣き叫びながら吉祥寺の路地を駆け出した。
彼はそんな彼女の後ろ姿を、ただただ見つめる事しかできなかった・・
一時間後。
彼女は駆け込んだ駅前の喫茶店で一人、気持ちを鎮めていた。
彼からの電話はなかった。
「もう、限界だわ・・」
夜の8時。吉祥寺の駅前は夜のはじまりに胸焦がす若者達と恋人達で賑わっていた。
喧騒の中、独りぼっちの彼女。
彼との別れを決意して席を立った。
その時だった。
彼女の電話が鳴った。
「もしもし?」
電話の相手は彼だった。
「い、今、井の頭公園にいる、さっきは悪かったよ。いま、ぼくはきみと話がしたいんだ。」
彼女はしばらく悩んでから、ウンと小さく頷いた。
蒸し暑い夜の井の頭公園。
ひょうたん形した大池の前。
彼女の姿を見つけると彼が大きく手を振った。
そして、彼は緊張した面持ちでゆっくり彼女に近づいた。
「さっきはゴメン。君の気持ちなんか全然考えてなかった。」
彼はそう言うと、大きなビニール袋を差し出した。
受け取った彼女が怪訝な顔で中を覗くと、プラパックに入ったジャスミンライスと、業務用のペーストなんかが入ってそうなプラスチック容器が2セット入っていた。
「これ、なんなの?」
が聞くと彼は恥ずかしそうにこう答えた。
「さっきアムリタ食堂でテイクアウトしたんだ。並んでいたからね。中はグリーンカレーだよ。タイ料理でもカレーを選んじゃったけど、そこは大目にみてほしい・・」
彼の言葉を聞いた彼女の目から、涙が溢れた。
思えば彼がそんな優しさを見せたのは初めてだった。
付き合い始めてもうすぐ二年。二人はもうオトナ。
そろそろ将来の事も考えはじめるタイミングだった。
夜の井の頭公園。ライク・ア・軽井沢。
爆竹ならしてごめんよご近所さん。
なんて素敵なノスタルジー。
二人はエンパイアの屋上のようにムーディーなレイクサイドのベンチで肩を並べ、グリーンカレーの蓋を開いた。
「あーんして」
彼女は彼に言った。
彼は恥ずかしそうに小さく口を開いた。
彼女は彼の口へグリーンカレーを掬ったスプーンをゆっくり流し込んだ・・
その瞬間だった。
彼の中で音楽が鳴り響いた。
交響曲だ。第五だ、第五、ベートーベンだ。
鳴り響くピッコロ、トロンボーン・・じゃなくてピッキーヌ、ココナッツ。
ナンプラーは控えめ。
たっぷりオイルのコクとココナッツのあまさが口いっぱいに広がった。
それは、どこまでも深く濃い海に沈んでいくような感覚だった。
彼は目を見開き、彼女からスプーンを奪い取ると、狂ったように貪った。
彼はカレーを貪りながら思った。
タイカレー、グリーンカレーとの出会いは運命だ。
この悦びを教えてくれた彼女との出会いも運命だ。
ボクと彼女は愛し合い、結ばれる運命なんだ・・
夜が更け、街の音楽は止んだ。
静かにエアコンの音が響く古民宿の一室。
深く、深く結ばれた後、抱き合って眠る二人の姿があった。
その日以降、二人の関係は変わった。インド料理の次はタイ料理。好きな料理を順番に食べるのが暗黙のルールになった。そうやって自分達だけのルールを築き上げていった二人は、やがて結ばれ、幸せに暮らしたとさ。
めでたし、めでたし。