2回
2022/01 訪問
ポタージュ、グラッセ、ババロア
魚崎の住宅街のマンションの地下にモーヴというレストランがあって、そこのシェフをしていた方が独立して開かれたお店。
ぼくは子供の頃そのマンションに住んでいて、何かあればご馳走のお食事はこの店で。
マンション内であれば出前なんかもしてくれて。風邪をひけばここのポタージュを親が頼んでくれたりして。
40年前の話!
スパイシーで独特なポタージュがだからぼくのソウルフード。
大震災のあと水もガスも来てない中、七輪で営業してたシェフ。レストランの裏口に七輪を出して、丁寧に人参をグラッセするシェフ。
優雅にフレンチを食べている場合ではなかったかもしれないけど、それでも前と変わらない料理を出すシェフ。
震災の少しあと、独立したシェフはこの店を出されて。すぐぼくも神戸を離れて。
だから25年くらいは営業してることになるこの店に。
今日初めて。
この店を出したことは聞いていて、王子動物園の帰り、遅い午後、何を食べようかなんてなって、それを急に思い出して、スマホで調べたらラストオーダーまであと15分。
こんな時節だからネットの通りかどうかわからないけど、とにかく行ってみよう。足を急がせて。
開いていた。
間に合った。
平日の遅い午後だし先客は一組。
メニューにモーヴの面影が。
子供の頃大好きだったチキンバスケットがあったり、スパゲッティもカレーもよく食べた。
全部また食べたい。思い出がどんどん蘇ってくる。でも……中でも特に好きだったカニピラフ。これがつくセットにしよう。
「サービス定食A」
カニピラフにメインはハンバーグ。付け合わせにあの人参のグラッセ!そしてポタージュ!
……変わらない…思い出の中のあの味。
ピラフも。
ピラフ風でない本物のピラフ。
ぼくはこのシェフにレストランを、フレンチを、洋食を教わった。
そして目の前では奥さんが好物のビフカツを。
底にデミグラスを敷いた神戸スタイル。
亡くなった婆さんの大好物だったビフカツ。
生野菜の嫌いだった婆さんはサラダをぼくにおしつけてきたけど奥さんはもちろんそんなことはしてこない。
でもすごく美味しいね、と食べる笑顔が。
すごくすごく重なって。
デザートにはもちろんババロア。
大ぶりでフワッフワででもどっしりもしていて生クリーム感の強い。
子供の頃の大好物で、いちばん好きなスイーツはババロアだな、って思っていたけどそのあとどんなババロアを食べてもこのシェフのようなババロアじゃなかった!
そのババロアをまたぼくは食べている。
40年前から食べていたあのババロア。
泣かなかったけどね。
寒い冬の日だったけど、その分午後の日差しがとっても柔らかくて。
お会計して。
店を出て。
その日のランチ最後の客だったから多分このあとすぐ店は閉まってディナーの準備へ。
ありがとうシェフ。
やっぱりここがぼくの原点でした。
大人になったぼくは東京でミシュランだなんだと食べたけど。
味の軸はシェフの料理。
シェフがいたから今のぼくがいます。
2022/04/04 更新
神戸は王子公園にて自分の舌を作ってくれたシェフの店へ。
ビーフソテーの上のパセリバター。
独特な焦げ感のあるカレーライス。
スパイシーなポタージュ。
濃厚でふわふわにすぎるババロア。
すべてが自分の味の基本。
今日もしっかりと足元を確認する。
この日王子動物園で見た「灘の貴婦人」シロクマのミユキさんは数日後に亡くなり最期の姿となった。
山盛りの人工雪をうろうろしたり少し登ってみたり。
こんなにアクティブなミユキさん、初めてだね、なんて言ってたんだけど。
でも素晴らしい長生きだった。
ありがとう!