3回
2022/02 訪問
その行き先はべんてん
また脇を成増町行きのバスが通り抜けていく。土地勘の無いものにとっては、なぜこんなにも成増町行きのバスがひっきり無しに通っているのかはわからない。もっとわからないことは自分が今立っているこの場所。今、やっと電柱前までやってきた。
お店の前には6人程がフラフラと並んでいる。そこに何やらキョロキョロと辺りを見渡し、初めて役所に来て戸惑ったかのような若者が、その6人の列の後で立ち止まり、また辺りをキョロキョロと見渡す。うーん、そこはダメなんだよ・・と電柱越しに眺めながらことの動向を見守った。
すると店前に待機している1番後の男が何やらその若者に話しかける。若者はイヤホンをしていたのか怪訝そうにイヤホンを外し何やら困惑した様子が覗える。後を振り返り、ちょうど電柱越しの私と目が合うような態勢になり、見るからに驚きそして項垂れてその場所を離れていった。私の後にも20人程の頭が見えたからであろう。
ここは2016年に開店した中華そば屋。以前は高田馬場に店を構え、2014年の閉店時には見たこともないような行列ができたという。当時で5時間、いや俺は6時間並んだ等の武勇伝をよく聞く。そして今地下鉄成増駅近くの練馬区旭町、決して便利な土地ではないはずだが人は集まる。店からのSNS発信等無いのに人は集まる。
しばらくぶりに来たのだが、店員が増えたのか店の外に出てはこの連なる行列を整理し、誘導してくれる。前は勝手がわからず、常連の様をじっくり観察し、それに従うかたちであったが、今は店主導による幾分かのガバナンスが取れている。
この場所に着いてから1時間が経過し、ようやく店の入口前に辿り着き、先に食券の購入を促される。店の趣きからいって意外と言えばそうだが食券制だ。こちらのメニューは大きく2つ。ラーメンかつけ麺だ。
こちらの店は東池袋大勝軒の故・山岸マスターに傾倒を受けた店のであり、その系譜は主人の出で立ちからでもよくわかる。頭と首に白いタオルを巻き、黒いTシャツ。東池袋大勝軒系と呼ばれる店でしばしこういう山岸マスターが憑依したような店主を見かけるが、どれもそれは名店の風格を持ち合わせ期待に沿った一杯を提供してくれる。
そういった事でラーメンもつけ麺も東池袋大勝軒の面影をなぞったものである。前回はつけ麺を食べたので、今回はラーメンにしようと決めていた。そして評判が高い塩ラーメン【950円】を。生玉子をトッピングするという選択肢もあるのだが、些か収まりが悪い気がして味玉【100円】を選択。食券を買い元の入口の列に戻った。
ようやく店内に着席し、食券を渡す。麺量が並盛か中盛かを選べて並盛にした。並盛でも麺量は250gもあり充分だった。他の東池袋大勝軒のラーメンで麺量を中盛にしてしまい、その思いもよらぬ圧倒的質量に面食らった経験からだ。
店主の息子とされる店員が大きな釜で麺茹でをし、店主が盛りつけをしているのがカウンター越しからよく見てとれる。釜には次々と麺が投入され人数分の麺が見事なまでに取り分けられる。このカウンター越しの光景はさながら特等席からの眺めであり、ラーメンが提供されるまでビールを頼み、この光景を肴にグラスを傾ける客が多いのもわかる。
ビールは頼まなかったがその麺上げの平ザル使いにうっとりしながら待ち遂に目の前に来たラーメン。塩ラーメンと呼ぶにはいささか違和感があるような色合い、しかしながら中華そばをいかんなく連想させるチャーシュー、メンマ、海苔が浮かび東池袋大勝軒の切なる面影が蘇る。しかし、何故ここは「中華そば」ではなく「ラーメン」のメニュー表記なのであろうか?
スープを一口、ぐいっとれんげで掬い飲んでみれば覚えはあるものの、その旨味溢れる熱量に心奪われる。そこからは一心不乱に麺を啜り上げる。チャーシューもメンマもそして海苔すらもいい仕事をしており、この塩ラーメンを盛り上げる。ネギに隠れて生姜も混ざり時折背筋を伸ばしてくれるような感覚になる。
余計な事を考えずに一気に麺を啜りあげ、スープを最後の一滴まで掻き出そうとれんげで繰り返し丼の底を舐め返す。ようやくわかった。何故この場所に2時間近く前に立っていた事を。
よくラーメンを食べに来ている者たちはラーメンを食べてるのではなく、情報を食べに来ているのだと言われる。特にこういった行列店に至っては。ただSNSでの発信もなく、メディア露出も少ないのに、どういう情報を皆が食べたいのか?それが1番の謎であった。
しかしそれは簡単な答えであり、美味いかどうかの情報を得たかったにすぎないというものだ。答えは美味い。それを確認した常連はいつものように晴れやかな顔で店を出ていき、初めての若者コンビ、カップルはスマホでパシャパシャと写真を取りつつも、箸を割ったらそこからは無心にラーメンを啜っている。
現代におけるラーメンには様々な要素が付き纏う。行列、技法、ボリューム、接客、そして美味さ。あらゆる事象についてくる枕詞はべんてん。愛されるには理由がある。
2022/02/13 更新
2017/11 訪問
愛され続ける名店
成増の中華そば べんてんです。
高田馬場にあった時代から、これは行列店だあ~と何気無しに敬遠してました。そして、高田馬場では惜しまれつつ閉店し、その後練馬区の旭町にて復活という流れを経て、やはり行列店に~。でも、やはり食べてみたいです。こんだけ愛されるラーメン屋さんとは。
お昼の12時前。出遅れたなあと薄々は感じてましたが、やはりすごい行列。隣の民家前を避ける為に、一旦列が離れてる状態でした。もう腹くくって並びます、腹は減りますが。
約1時間くらいで入店。待ってる間にラーメンかつけ麺かで迷いましたが、秋なのに微妙に暑い気候でつけ麺になびきました。つけ麺の中盛り【850円】に生卵【50円】にしました。並(250g)、中(350g)で値段は一緒です。
麺は大きな釜でラーメンの麺もつけ麺の麺を一気に茹でられていました。ラーメンのほうが若干早く引き上げられ、その後つけ麺のは水でしめられます。だいたい待つこと15分くらい。麺の上に生卵を落としてもらい着丼です。
見た目から東池袋系大勝軒のもりそばのルックス。ツルツルとした麺の歯応えといい、つけ汁のちょっと酸味がかった魚介風味といいまさにそれです。シンプルに大変美味しいです。自分的にはこのタイプのつけ麺が大好きで、普通だったら凄く多めに感じる麺の量もズルズルと入っていきます。
確かに凄く美味しいです、ていうか好きです。ただしこのタイプのつけ麺だと、所沢大勝軒のもりそばのほうがいいかな、近いですし。おそらくこれは私が高田馬場時代に行ったことがなくて、懐古的な感情がないからだと思います。このお店の大将と息子さん?のラーメンとお客さんに対する真摯な姿勢も心打たれるものもありますし、愛される理由もよくわかります。ちょっとラーメンのほうも食べてみたいのですが、遠い、待つ、というハードルがやはり高いのです。そういう事です。
2017/11/04 更新
塩油そば【1150円】
のり【150円】
生玉子【50円】
盆期間に開いてますので、この期間に行かざるを得ない至高のお店。同じ事考えてるのか開店前に並んでいるのは高めの年齢層の人達。離れた位置に並んだりしないといけないですが、お店の人が都度案内してくれるので安心です。
新宿区弁天町にある自家製中華そばとしおかでたべた油そばが美味しく、いつか本家で食べたいと思ってましたので塩油そばにしました。暑かったのでもちろん冷やし。麺量ももちろん並で。中はおそらく食べれない麺量かなあと。
べんてんの油そばの特徴は具材とタレが底に沈んでおり麺で見えない事。初見だとあれ?って思うトリッキーな油そばです。なのでしっかりと混ぜます。混ぜると下からタレに浸った細切れのチャーシューとメンマがかなりの量で出てきました。
べんてんのメニューで全てに使われているこの麺がべんてんの全てを表現していると思います。絶妙な太さとツルッとした感じ。同じ釜で茹でられ、麺上げにも技術が要りそうです。塩ラーメンもつけそばも油そばも麺が主役であり、その中でも1番油そばが麺をダイレクトに楽しめるのは言うまでもありません。
麺が少し残った状態でスープ割りをお願いすれば、そのまま塩ラーメンとなります。これもべんてんの油そばの醍醐味で得したような気分になります。
時間帯や日にち的にはどえらく並ぶことも覚悟しないといけないですが、それでも食べたくなるのは率直に感動できるラーメン、つけ麺、油そばだからです。