15回
2020/11 訪問
盛らない美学...「蛎殻町 すぎた」、だからすぎたは美しい
雲丹の握り
赤身漬けの握り
寒ヒラメの昆布締め
大トロの握り
ねぎま
墨烏賊のゲソの粕漬
数の子の味噌漬け
穴子の白焼き
蛎殻町 すぎた
銀杏
長崎県産かわはぎ
北海道、仙鳳趾の牡蠣
穴子の白焼き
鱈白子
甘く煮付けた鮟肝とうにの佃煮、味噌漬けのすじこに新政の陽乃鳥
甘く煮付けた鮟肝とうにの佃煮、味噌漬けのすじこに新政の陽乃鳥
ねぎま
北寄貝に生姜醤油焼き
北海道小樽の子持ち蝦蛄
墨烏賊のゲソの粕漬
数の子の味噌漬け
ホタテの磯辺焼き
タコの柔らか煮
平貝の西京焼き
佐賀のなかずみの片身漬け
鯛
寒ヒラメの昆布締め
寒鰆
かすご鯛の昆布締め
大間の中トロ(血合いぎし)の握り
赤身漬けの握り
大トロの握り
鰯の握り
巻きえびの握り
金目鯛の握り
雲丹の握り
墨烏賊の握り
赤身漬けの握り(お代わり)
穴子の握り(塩)
穴子の握り(ツメ)
2020/12/28 更新
2020/06 訪問
"禍"のむこう側で...「蛎殻町 すぎた」、そこには、極上の魚の香りが煌(キラ)めいていた
"禍"の向こう側で「すぎた」は見事に香っていた。...その香りに触れたら、ひとはひたすら感動するほかない。その香りは、最高の技術による丁寧な手当てがなければ絶対に引き出せない。鼻腔に行き交う香りに触れ、その水面下の手当てに深く心動かされる。
...ひさびさの外食。それにしても昼下がりのひさびさの外食ランチが「蛎殻町 すぎた」とはなんと豪華な経験であろう。2020年6月21日(日)、優雅な昼下がりのひとときについて以下できるだけ詳細に書き綴っていきたい。
1.【つまみ】そら豆
「すぎた」に来た、という感動を噛み締めながら味わう極上のそら豆。...青く柔らかい香りを存分に愉しむ。
2.【つまみ】京都舞鶴の鳥貝、神奈川のアオリイカ
アオリイカは生姜醤油で、鳥貝はわさび醤油でいただく。イカの王様。ねっとりとした佇まいにうっとりとする。このアオリイカのねっとり感から立ち上る香りは、素材に対する「すぎた」の仕事で引き出されていることを確信する。他でこんなに香り立つアオリイカに巡り合うことはない。
3.【つまみ】イワシ巻き
この海苔巻きは、「すぎた」の夏の定番である(冬は脂の乗り切った〆鯖になる)。浅葱とガリを合わせて海苔巻きにしてある。たっぷりのわさびとちょっぴりの醤油でいただく。...この青身魚の芳醇が「すぎた」の真骨頂である。芳醇なイワシの脂、鼻から抜けるイワシの香りにうっとりしてしまう。
4.【つまみ】小樽の蝦蛄
優しく優しく漬け込みにしてあって、ほんのり味がついている。横に添えられたわさびだけでいただく。しとしとと降り募る雨滴のような蝦蛄のしめやかな香りを堪能する。
5.【つまみ】甘く煮付けた鮟肝と蝦夷ばふんうに、新政の陽乃鳥
鮟肝の濃厚な甘さと、陽乃鳥のまろやかさが素敵なマリアージュを演じる。そこに甘くジューシーなばふんうにが悩ましく舌に媚びてくる。
6.【つまみ】太刀魚の焼き物
毎回、この太刀魚の素晴らしさに打ちのめされる。良質な太刀魚の脂が身肉に閉じ込められていて、それが口中で身とともにホロホロとほどけるのだ。
7.【つまみ】ばふんうにの塩漬けと数の子の味噌漬け
ばふんうにの塩漬けと西京味噌ベースの数の子の味噌漬けはいつも頼んでしまう。これは酒のアテには最強である!
8.【つまみ】北寄貝の生姜醤油漬け
これまでの摘まみのラインナップもそうだけれど、「すぎた」の漬けの技術はホントに素晴らしい。この塩加減、漬け加減は、まさにここしかないといった味覚の一点を打ち抜いていて、ひとつひとついただく度にため息が漏れてしまう。
9.【つまみ】たいらぎの西京焼き
シャキシャキとした味調の向こうに、甘味が広がるのが嬉しい一品である。
10.【つまみ】佐島の煮だこ
良質なたこである。柔らか煮だけれど、しっかりとたこの筋肉質を感じる。これも「すぎた」に来たら外せない逸品である。
11.【つまみ】ほたての磯辺焼き
なんといってもこの佐賀海苔が秀逸なのだ。香も高き佐賀海苔から、こぼれ落ちるホタテの焼き身の香ばしさを存分に堪能する。
12.【にぎり】こはだ
九州産の片身二枚漬けのこはだの握りである。九州のものには皮に固さがあるので、大きな切込みを入れてある。...しかし、この蟲惑魔的な香りはどうだろう。「蛎殻町 すぎた」のこはだの右に出るこはだをわたしは知らない。これも「すぎた」の仕事のなせる業である。
13.【にぎり】ヒラメの昆布締め
昆布を使ってヒラメの旨さを頂点まで引き立たせている。脂ののった寒平目とは違い、朝まだきの湖水を思わせるような涼やかにして清澄な夏のヒラメの味わいにうっとりする。
14.【にぎり】鯛
これも仕事が光る逸品である。締めて寝かせて、湯引きして寝かせて丁寧に仕上げた逸品である。鯛本来の王侯貴族のような優雅さを感じさせる逸品である。
15.【にぎり】赤身の漬け
天身の赤身。漬けが浸透するように薄く切りつけて漬けにするという「すぎた」の手法は名高い。それを折り畳んで一貫にまとめ上げて握る。これは、「すぎた」の独創だとのこと。
ちなみに今日の赤身は、沖縄の延縄。中トロは、噴火湾と島根の定置網。鳥取、境港の巻き網は使わない(笑)とのこと。ほぼ投稿しない大将がSNSで珍しく吠えていた(笑)
16.【にぎり】かすご鯛
これも軽く昆布締めにしてある。鯛の王者の風格とは違って、ふわりとどこまでも柔らかい優しい味わいである。
17.【にぎり】中トロ
背かみの中トロ。"小刃返し"の切りつけが小粋に美しい...決してどぎつくない、さわやかな酸味と仄かな旨味にうっとりとしてしまう。
18.【にぎり】鯵
これは島根の浜田のものだけれど、"どんちっち"の規定を満たしていないそうだ。しかし充分に旨い。肉厚で、オリーブオイルを思わせる滑らかで芳醇な鯵の脂に、瞳を閉じて感動を噛み締める。
19.【にぎり】煮蛤
「すぎた」の煮蛤は、美しい。そもそも付台に立ったその姿が美しいのだ。歌舞伎役者が見栄を切ったように堂々としている。一貫の味はまた格別である。ここにも煮汁に漬けた丁寧な仕事が際立つ。
20.【にぎり】巻きえび
温もりのあるふくよかな身の甘みに、「すぎた」に戻ってきたことを確信する。
21.【にぎり】千葉の金目鯛
わたしは、これに目がない。芳醇でキレイな金目の脂に、思わずありがとうと独り言ちる。
22.【にぎり】雲丹
見た目ざらっとした雲丹は舌の上で甘く香る。優しいシャリとの相性が素晴らしい。
23.【にぎり】赤身の漬け
おかわり。
24.【にぎり】鯵
おかわり
25.【にぎり】穴子
ツメ。この繊細な甘みとコク!
玉で一通りとなる。素晴らしかった。
...この"禍"で、少し自分の考えが変わったことを実感している。色々なお店を貪婪に開拓するより、自分が本当に宝物にしたいお店を慈しむように繰り返し擁護すること。これである。わたしにとって「蛎殻町 すぎた」は、間違いなくその数少ないお店の頂点に君臨する鮨店である。
赤身の漬け
鯛
煮蛤
片身二枚漬けのこはだ
雲丹
背かみの中トロ
穴子
島根の浜田の鯵
そら豆
京都舞鶴の鳥貝、神奈川のアオリイカ
イワシ巻き
小樽の蝦蛄
甘く煮付けた鮟肝と蝦夷ばふんうに、新政の陽乃鳥
太刀魚の焼き物
ばふんうにの塩漬けと数の子の味噌漬け
北寄貝の生姜醤油漬け
たいらぎの西京焼き
佐島の煮だこ
ほたての磯辺焼き
あさり椀
九州産の片身二枚漬けのこはだ
ヒラメの昆布締め
鯛
天身の赤身
かすご鯛
背かみの中トロ
島根の浜田の鯵
煮蛤
巻きえび
千葉の金目鯛
雲丹
天身の赤身
島根の浜田の鯵
穴子
玉
あさり椀
2020/07/02 更新
2019/12 訪問
付台に残る一滴の煮切りの艶っぽさ...「日本橋蛎殻町 すぎた」、ここには本当の鮨屋の美しさが息づいている
「日本橋蛎殻町 すぎた」の所作は美しい。...鮨種にシャリをつけてそそくさと鮨の形を仕立てるのではなく、片手に握った適量のシャリと鮨種を軽く合わせてから胸元深く呼び込み、両の掌(たなごころ)でゆるやかに一貫をまとめ上げてから、そっと付け台に送り出すその所作は、なんとも官能的だ。そしてまた一貫が饗された後に、黒々とした付け台の上に、指先から零れた煮切りが、ポタリと一滴光るのがなんとも艶っぽい。
2019年12月1日(日)、「日本橋蛎殻町 すぎた」のカウンター席に居住まいを正して座る。今日もまた、大将の所作が仕立てる握りがいただけると思うと胸が締め付けられる思いだ。もう、何度もお伺いしているけれど、この鮨店との出会いはわたしの人生の中で最も幸福な出会いのひとつとして刻まれている。
1.きぬかつぎ
皮を剥いて食べてもよいし、また、皮はしっかりアク抜きをしているので、そのまま皮ごと食べてもよい。小芋は小ぶりの球形で美しい白い肌をしている。ねっとりした食感とコクのある味わいがよい。上に乗せられた胡麻塩と炒り雲丹塩も、小芋の質朴な味わいに小気味よいアクセントを添えている。
2.迷い鰹と平目
日本海側の鰹はそのままでいただく。平目の方はお醤油とわさびでいただく。迷い鰹は鰹とまぐろのあいの子のような鰹。気風の良い鰹の身肉にねっとりとした色気がまとわりついている感じである。平目はさすがの寒平目。冬の透き通った青空のようなすっきりとした味調だ。
3.しめ鯖巻き
これは、すぎたのスペシャリテのひとつ。がり、アサツキを合わせてある。わさびいっぱいでお醤油につけていただくのが醍醐味だ!鯖の素晴らしい脂乗りに心が豊かになる。
4.あなごの白焼き
大変きれいな味わいである。火入れで皮目が香ばしく、身肉全体に伝わったぬくもりが素晴らしい。これをわさびでシンプルにいただくのが、白焼きの醍醐味である。
5.鱈しらこ
時節のものである。仄かな魚の香りがする生っぽい温かみが鱈しらこの醍醐味である。
6.鮟肝、味噌漬けのすじこを新政の貴醸酒(陽乃鳥)で
これは、複数の角度から甘味というものを味わわせる逸品である。鮟肝、すじこの出す甘みに、少しずつ日本酒の甘みを合わせて愉しむ。少しずつ甘みのマリアージュを堪能する逸品である。
7.鰤の焼き物
寒鰤である。字のごとく師走に一番脂がのって味がよくなる。これも香りのものだ。皮面だけ焼いて身の面はレア。わらさにはない枯淡に達した存在感がこの逸品の主張である。
8.蝦蛄
蝦蛄のつまみもすぎたでの定番である。甘みがあって旨い。蝦蛄は独特の存在感がある。海老や蟹には感じることがない、妖しい香りの強さ、甘味の強さを感じるのはわたしだけであろうか...
9.北寄貝
肉厚で、シャリシャリとしたほっき貝の味調が何とも愉しい。貝は味わうほどに旨みを主張する。
10.ホタテの磯辺焼き
たいらぎの磯辺焼きはよく色々なお店でお見掛けして、それはそれで大変美味なものがあるけれど、ホタテの磯辺焼きもまた素晴らしい。たいらぎみたいに貝柱がしっかりとしたシャキシャキの食感の代わりに、ホタテのおおらかで優しい個体が焼きのりの香ばしさと相まって旨い。
11.鮪を使ったネギ間
焼き鳥屋さんのネギ間よりも断然わたしはこっちが好きだ。網焼きにして鮪の脂が落ちていて、鮪の旨みとネギの香ばしさのみで味わう逸品である。
12.こはだ
九州産のこはだ。鹿の子に包丁が入っている。すぎたのシャリが一貫の旨みを豊かにしてくれる。おそらくこのこはだを握りでなく単品でいただいたら、こんな豊饒感は感じないのではないかと思う。
13.鯛
冬場の深場の鯛。鯛というと春先のイメージがあるけれど、鯛はやはり春先の産卵期のものより、産卵を控え、冬場の深場で餌を食んでいるこの時期のヤツが調子が高いと思う。素晴らしく力強い逸品である。
14.鯵
毎回鯵には、打ちのめされる。この鯵自体の持つオイリーな香りと味わいを堪能する。
15.さわら
こちらもすぎたの定番。藁で薫じて香りをつけている。すぎたのシャリの優しい味わいとの相性も文句がない。
16.かすご
鯛の赤ちゃんであるが、鯛の王者の風格とはまた一転、大変優しく繊細な味わいの魚である。こちらもすぎたの定番である。
17.背かみ中トロ
ただ脂ぎっているのではなく、鮪の身の旨さを伝える身の引き締まり具合がなんとも素晴らしい。わたしにとって鮪は断然すぎたのものが一番である。
18.さんま
同じ青物でも鯵とはまた全く違う。鯵は、一口でいただくとしめやかに湧き上がる旨みの増幅に思わず立ち止まって、それが鳴りやむのを受け止めるような感覚があるけれど、秋刀魚の方は、光芒一閃。まるで日本刀の透徹とした冴え返りをほうふつとさせる潔さを感じるのだ。
19.海老
茹でたての車エビを温かいシャリで、いただくのがうれしい。この温度帯が一番海老の旨みを感じれるように思う。
20.金目鯛
少し炙りを入れて魚の香りを引き出している。脂の存在感がしっかりあるにもかかわらず、嫌みが一抹もない。すぎたの鮨の中でも大好きな逸品である。
21.ばふん雲丹
今日のばふんは間違いない。大将がとりだした折箱の上に震える雲丹の輝きを見た時点でそれは確信に至る。舌触りはきめ細やかだけれど、雲丹の甘み、旨みの存在感が凄い。
22.お代わりコハダ
ここで、コハダをもう一度。
23.赤身
そして、お願いして赤身の漬けを出していただく。すぎたでは、これをいただかないと来た気がしない。絶対的な赤身の漬けである!ここ以上の赤身の漬けの握りを食べたことがないとここに断言したい!
24.鰹の大トロ
迷い鰹大トロ。これも何とも素晴らしかった。鮪の大トロとは違ったしっとりとしたしめやかな味わいの主張があって、シルクのような口どけにしばし言葉を失う。
25.お代わり金目
ここで、金目をもう一度。
26.穴子の握り(塩)
対馬の穴子。穴子本来の旨みを聞き耳を澄ますようにいただく。
27.穴子の握り(ツメ)
こんどはツメ。塩とは表情が異なる甘くふっくらとした穴子を堪能する。
あさり椀、玉で一通りとなる。
...やはりすぎたは素晴らしい。
わたしが鮨店に足を運ぶのは、途方もない高級食材や稀少食材と出会うためではない。...あくまで、鮨屋の仕事を堪能するために足を運ぶのだ。
鮨種とシャリに対する仕事と、自分自身との調和ある関係を愉しみ、かつそれをカウンターに座ったお客にも愉しませようとしながら、しかも押しつけがましさは微塵も感じられないすぎたの仕事。
わたしは、「日本橋蛎殻町 すぎた」を見て、生まれて初めて本当の鮨屋の美しさを初めて知ったのだと思う。
鯵
赤身
金目鯛
ばふんうに
鰹の大トロ
日本橋蛎殻町 すぎた
きぬかつぎ
迷い鰹
平目
しめ鯖巻き
あなごの白焼き
鱈しらこ
鮟肝
味噌漬けのすじこ
鰤の焼き物
蝦蛄
北寄貝
ホタテの磯辺焼き
鮪を使ったネギ間
こはだ
鯛
鯵
さわら
かすご
背かみ中トロ
さんま
海老
金目鯛
ばふん雲丹
赤身
鰹の大トロ
金目鯛
穴子の握り(塩)
穴子の握り(ツメ)
あさり椀
玉
2020/01/05 更新
2019/08 訪問
若い甥っ子を日本最高峰のお鮨屋さんに連れていく...「日本橋蛎殻町 すぎた」、かれの将来に幸あらんことを!
わたしには、今年からお酒が飲めるようになった甥っ子がいる。かれの成人のお祝いに、「日本橋蛎殻町 すぎた」のプラチナシートに招待することにした。...甥っ子はお酒が飲めるようになったとはいえ、そもそも、鮨屋のカウンター席というものからして人生初体験である。まぁこのくらいの年齢だと当然だと思う。そんな彼の人生初の鮨屋のカウンター席が「日本橋蛎殻町 すぎた」とは、なんと豪華な経験だろう。しかも大将正面の席である。
...勿論、世間一般的に、若い子に贅沢な経験をさせることに、眉を顰める傾向があることは知っている。けれど、わたしは逆に若いころにこそ、本当のものを味わっておくことが大切であると思う。味覚的にも、その後の人生の考え方にも大きなプラスの影響を及ぼすに違いないと思うからだ。だから、本日は甥っ子に、若い感性フル動員で本物のお鮨を存分に味わってもらう会にしてみたのだ...
当日、甥っ子とはお昼に人形町で落ち合う。とりあえず「今半」か「玉ひで」かで迷ったけれど、「玉ひで」の親子丼御膳いただく。炎天下、店前にうねる行列を涼しく通り抜け、われわれは即座にクーラーの効いた2階座敷に案内され、東京軍鶏の力強い親子丼を堪能する。...ここも情緒があるけれど、この近くの「今半」さんで、仲居さんが全部面倒見てくれるすき焼きも今度食べてみよう、それも下町情緒があって面白いよ♪などと語り合いながら...
昼食後は、場所を移して、新海誠監督の「天気の子」を鑑賞する。...「天気の子」はなんとも美しい「水」の映画であった。その「水」は、霞か烟を思わせる柔らかさで視界を覆うかと思えば、風に煽られる湿った大粒の雨だれとなって新宿の街並みに襲いかかる。その湿り気を帯びた新海作品の詩情にみちた映像をシャワーのように全身で受け止めながら、120分間を、ポップコーン(塩)を摘まみつつ2人で愉しむ。
それから、自由が丘に移動して、「パティスリー・パリセヴェイユ」で甘味をとりつつお茶をしてから、銀座に移動して、並木通り沿いの老舗バー、「スタア・バー・ギンザ 」さんでアイリッシュモルトとビターチョコレートを愉しむ。スモーキーでピーティーなモルトの一滴を舌で受け止めつつ、ビターチョコの余韻を味わう。
そうこうするうちに、そろそろ「日本橋蛎殻町 すぎた」の予約時間が近づく。銀座から人形町まではひとっ飛びである。
2019年8月25日(日)。水天宮の夜半にたゆたう8月のすぎたの暖簾は、涼し気に透き通った夏仕様である。
1回転のお客さんとの兼ね合いで、20:30を少し回ったけれど2人してカウンター席に通される。2席用意していただいたうち、甥っ子には、大将正面の席に座ってもらう。
まず、わたしが座席に座った途端、甥っ子に注意を促したのは、優れたお鮨屋さんのカウンターに座ったときの香りのことである。...いいお鮨屋さんでは、カウンターに座ったとき魚の嫌な匂いなど絶対にしない。...「日本橋蛎殻町 すぎた」は、嫌な匂いどころか人を武装解除させるようなふくよかな香りで満ち満ちている。これが最高峰のお鮨屋さんのひとつのバロメーターなんだと話すと、かれはビー玉のように澄んだ瞳でその言葉を一言一言受け止めている。
1.青森のひらめと千葉大原の雌貝の蒸し鮑
蒸し鮑はなにも付けずにいただき、ひらめは、わさびとお醤油でいただく。すぎたさんの始まりのこの白身の摘まみ2品をいただくと、座り心地のよい椅子に座ったような安堵感に見舞われる。ああ、すぎたに来た、という安堵感だ。甥っ子ものっけから目を丸くしている。
2.かつおの漬けの切り身
浅葱と生姜の刻んだものをちょんと乗せている。魚自体から溢れるオイリーな香りと味わいが醍醐味だ。
3.酢で締めたイワシと、大葉、浅葱、ガリを巻いた巻物
これは、すぎたさんのスペシャリテのひとつといってもよい。わさびたっぷりで、お醤油をちょっと添えていただくと、イワシというのはこんなに美味しい魚だったのかと目から鱗のふくよかな味わいが口中に広がる。
...あらかじめ、甥っ子には、今日のお料理の中で、何が自分で一番美味しいと思うか意識しながら食べてごらんなさい、といってある。...と、このイワシを食べた途端、「ボク、これがスゴいと思います」と即座に耳打ちしてくる(笑)
こちらとしては、「よしよしよし」と心の中でほくそ笑む。
4.げその粕漬
すぎたさんらしい、渋い漬けの仕事が際立つ逸品である。旨い。げそは見た目がかわいくて、どこまでも柔らかい。そこに味噌漬けの仕事がきりっと味の輪郭を際立たせる。大人好みの渋い逸品だ。
5.すじこと鮑の肝
これも味噌漬けで化粧が施されている。酒好きにはたまらない逸品である。
6.竹岡の太刀魚の焼き物
これはどのお店でいただく太刀魚より、絶品である。甥っ子も、これを食べた瞬間、心に刺ささりまくって言葉を失っているのが横にいて手に取るようにわかる(笑)
7.佐島の煮だこ
これがわたし的には旨かった。塩ゆでしただけ。最高のたこの旨みをダイレクトに味わう感動に胸が詰まる。
8.数の子の味噌漬け
これもアテのものである。日本酒が進む。
9.たいらぎの西京焼き
シャキシャキとした味調が素敵だ。甘味が遠くに感じ取れるのが嬉しい一品である。
10.ホタテの磯辺巻き
焼き上げたホタテの焔立つような旨みを海苔と一緒にいただく。迫力のある逸品である。
11.しんこの握り
さぁ、ここからが握りである!時期的に、本日は、しんことこはだ2つの握りが饗される。甥っ子には両方の魚の関係を教え、2つ食べてみて、どちらが美味しいか感想を教えてと宿題を出しておく。
12.こはだの握り
冬場にかかるともっと小悪魔的なこはだ独特のスメルが愉しめるのだけれど、やはりこはだは存在感があって旨い。...と、甥っ子が即座に耳打ちしてくる。「叔父さん、ボク、しんこよりこはだの方が好きです♪」
これを聞いた途端、こころの奥底で、さらに「よしよしよし」と独り言ちる。(笑)
13.しんいかの握り
これが柔らかく優しく香りのものであった。白身の優しい旨みを、すぎたのカドのないシャリがふわりと包み込む快感...素晴らしい。
14.鯛の握り
すぎたの真骨頂の白身の握りの連綿をシャワーのように浴び続ける贅沢な時間帯で、ひときわ輝く白身魚の王様の出番である。一口でいただくが、その噛みごたえ、香り、どれをとっても白身魚の王様というほかない。鯛独特の王者の風格がいつまでも鼻腔のあたりに漂う。
15.さごち(さわらの幼魚)の藁焼きの握り
藁焼きも、すぎたの仕事の定番である。藁の鄙びた香りがついた白身魚のスモーキーな味わいを愉しむ。
16.かすご鯛(鯛の赤ちゃん)の握り
甥っ子は、これが鯛の赤ちゃんであることを知らない。ずいぶん白身の王者と雰囲気が違って優しく甘い味わいでしょ、というと食べながら、何度も頷きながら腹落ちしたような表情をしていた。
17.中トロ
本日の鮪は塩釜のものだそうだ。すぎたの鮪は、わたしの中で鮨屋の一番である。ギタついてなくて、きちんと個体としての迫力を持っている。シャリとの相性も抜群である。
18.鯵の握り
ここで再び、青い魚に戻るのだけれど、すぎたの鯵ほどうまい鯵を食べたことがないと、ここに断言したい!ここに鯵の最高峰がある!これは思わずお代わりしてしまう。
19.巻きえび
茹でたての上質な巻きえびのぬくもりを、香りとともにいただく。いつものように素晴らしい。
20.雲丹の握り
軍艦でない雲丹のにぎり。これが一番雲丹の旨みを感じ取ることができる饗し方だと思う。
21.赤身の握り
すぎたに来たら、赤身は絶対だ。ただ、今日は残念ながら、薄く切って折りたたんだすぎた独特の赤身はいただけなかったけれど、今日のものも充分水準を越えて素晴らしかった。
22.煮蛤の握り
ミルキーでシルキー。これに感動しない人間とは永遠に縁を切りたい!
23.いさきの握り
さっぱりとした味わいの中に、鯛に肩を並べる豪奢な旨みを感じる。
24.大トロの握り
これは甥っ子たっての追加オーダー(笑)
とろけるような顔をして味わっているのが、なんとも微笑ましかった。
25.鯵の握り(お代わり)
ここで鯵のお代わり。
26.穴子の握り(塩)
穴子は、塩とツメでいく。さっぱりとしていてササクレがない。素晴らしい。
27.穴子の握り(ツメ)
ツメの濃厚さを味わった時点で、甥っ子が「同じ食材でもこんなに味って変わるんですね!」と反応する。
これを聞いた途端、また再び、「よしよしよし」と独り言ちてしまう。(笑)
最後は、玉、潮汁で一通りとなる。
本日は、心の底から愉しい会となった。なにより甥っ子の目から鱗の連続にひたすら癒された会となった。何か、甥っ子の中でこれきっかけでプラスの変化が生まれてくれたなら、これほど嬉しいことはない。そして、本日も渾身の握りを提供してくれた大将に感謝である!次回は12月の訪問である!
しんこの握り
煮蛤の握り
こはだの握り
穴子の握り(ツメ)
しんいかの握り
鯵の握り
中トロ
巻きえび
穴子の握り(塩)
雲丹の握り
さごち(さわらの幼魚)の藁焼きの握り
赤身の握り
涼し気に透き通った夏仕様の暖簾
青森のひらめと千葉大原の雌貝の蒸し鮑
かつおの漬けの切り身
酢で締めたイワシと、大葉、浅葱、ガリを巻いた巻物
げその粕漬
すじこと鮑の肝
竹岡の太刀魚の焼き物
佐島の煮だこ
数の子の味噌漬け
たいらぎの西京焼き
ホタテの磯辺巻き
しんこの握り
こはだの握り
しんいかの握り
鯛の握り
さごち(さわらの幼魚)の藁焼きの握り
かすご鯛(鯛の赤ちゃん)の握り
中トロ
鯵の握り
巻きえび
雲丹の握り
赤身の握り
煮蛤の握り
いさきの握り
大トロの握り
鯵の握り(お代わり)
穴子の握り(塩)
穴子の握り(ツメ)
2019/09/05 更新
2019/04 訪問
すぎたに目がくらんで...「日本橋蛎殻町 すぎた」、ここはわたしにとって絶対擁護の鮨店である
食べ歩くことに目がくらんでいるからには、結論だけは下したくない。だから、毎回胸はずませて新しいレストランに足を運び続けるのだけれど、そうしていると、数はそんなに多くはないけど、新鮮な驚きや再訪を確信するようなお店との出会いに恵まれることもないではない。...無論、それは実に悦ばしい体験で、まさにこの予期せぬ出会いこそが食べ歩きの醍醐味なのだと思ったりもする。
...でも、食べ歩きが何より厄介なのは、一方で、そんなわたしののんびりした結論を木っ端みじんに吹き飛ばすような絶対的なお店が存在してしまうところにある。ひたすら結論を回避していて何になるといった切羽詰まった想いを食べ手に煽り立てずにはおかないお店が現に存在してしまうのだ。
「日本橋蛎殻町 すぎた」。...こちらはわたしにとってその絶対的なお店のひとつである。杉田さんのネタの寝かせ加減、仕事の加減、シャリの酢の効かせ具合、耳を澄ますようにそっと握る握りの大きさ、どれもが傑作と呼ぶのが惜しいくらいに途方もない。半年ぶりの「すぎた」ワールドを以下できるだけ詳細に書き綴っていきたい!
2019年4月13日(土)。この日は東京下町情緒を愉しむ会である。人形町の「玉ひで」から始まって、浅草の「神谷バー」を冷やかして、日本橋三越に遊んでから、「うさぎや」できちんと甘味の買い物をする。最後は、銀座の文豪バー「ルパン」で待機するほどに「日本橋蛎殻町 すぎた」入店の時間が近づく。
水天宮前の「日本橋蛎殻町 すぎた」さんの店前についたのは、予約時間ぴったりの20:30。今日も存分に「日本橋蛎殻町 すぎた」を愉しむ!
1.【ツマミ】そら豆
このそら豆が旨いのだ。見た目も美しく、わたしはいつもこれは皮ごといってしまう。
2.【ツマミ】北海道、野付の天然のホタテと東京湾の勝浦(千葉)のヒラメ
軽く塩で締めて寝かせたもの、わさびと塩とで。ホタテは柔らかで優しい甘みを纏っている。ヒラメは、お醤油でいただく。醤油の下から、切れ味鋭いヒラメの小気味よい味調を心ゆくまで堪能する。
3.【ツマミ】真鯛の白子
これが絶品!トラフグの白子ほどの王者の風格はないものの、柔らかく優しい気品にあふれた白子である。これは間違いなく鱈白子の上をいくと思う。
4.【ツマミ】宍道湖の白魚の酒盗焼き
白魚というのが季節を感じさせる。そしてまた、酒呑みにはたまらない酒盗焼き味付け濃さに酒が進む。
5.【ツマミ】ホタルイカの味噌漬け、鮟肝を甘く煮付けたもの、新政の貴醸酒
これも「日本橋蛎殻町 すぎた」さんのツマミの定番である。鮟肝の甘みと新政貴醸酒のマリアージュを堪能する。
6.【ツマミ】竹岡の太刀魚の焼き物
「すぎた」の太刀魚の焼き物の美しさといったらない。...それはまさに美しいのだ。一口頬張ったときの脂はたわわなのだけれど、それが次の瞬間、太刀魚のほのかな香りを残しつつ、嘘みたいにキレイにスッと口腔から跡形もなく消えるのだ。
7.【ツマミ】ばちこ
珍しくもふっくらと柔らかいばちこである。塩味も優しく、ばちこの旨みを味わわせる一品である。
8.【ツマミ】鰹
時節柄、冬場の鰹のお餅のような存在感とは異なり、水ようかんのような清々とした凛としたさわやかな佇まいである。
9.【握り】鯖の巻物
大葉、浅葱と鯖の巻物である。これも「すぎた」さんの定番である。こちらの巻物は鯖の味が濃い。そして脂が実にキレイなのである。今日ご一緒した友人は、元来鯖が苦手であるのだが、「すぎた」さんの鯖だけは大丈夫なのだ(笑)
10.【握り】コハダ
やはりこちらに来たら、握りの一品目はこれに限る。わたしが今まで食べたコハダの握りの中で最も旨いと断言できる握りである。ネタに対する仕事の施し加減、シャリの酢加減、握りの大きさすべての観点で過つことなく一番である。
11.【握り】ヒラメ
しかしでも、このヒラメの握りの透明感のある美しいフォルムはどうだろう。一口口に含むと、微かな塩の甘みと、昆布の甘味を感じることができる。また脂の品のよい甘味は格別だ。まさに春を感じさせる逸品である。
12.【握り】赤身の漬け
10日ほど寝かせた鮪の赤身の漬け。赤身の方が酸味が出る。深緋色(こきひいろ)した鮪の赤身の美しさに震える...口に含み耳をすませば、遠くに猛々しく脈動する血潮の響きが感じ取れるようだ。
13.【握り】かすご
鯛の稚魚...かすご。その色調から"桜鯛"ともいわれるこの魚の握りを頬張れば、いまだ真鯛ほどの王者の風格はないものの、淡い色調の向こうに、鯛の風味をそこはかとなく感じ取ることができる。
14.【握り】ボタン海老
ねっとりした舌に絡みつく濃厚な身肉の甘味が、ほかの海老にないボタン海老の醍醐味だ。旨い。
15.【握り】中トロ
鮪の脂が、過剰すぎず、ほのかに化粧を施すように赤身をまろやかになだめてかかっている。赤身をいただいたときは赤身こそ一番うまいと確信していたのに、この中トロにメロメロになる。
16.【握り】鯵
まるみのある酢香が、鯵の旨みを引き立てている。清麗で爽やかに締まり、青身特有の澄んだ潤味(うるおみ)をおびている。噛みごたえは鯵の鮮度のよさを証していて、肉厚な食感が、鯵特有の青身の風味を弥増すようでひたすらここちよい。これも「すぎた」さんのスペシャリテのひとつだと思う。
17.【握り】子持ちヤリイカ
これも春先の時期のものである。一口いただくが、優しくキレイな味わいである。甘みがあって口どけがよい。
18.【握り】巻海老
海老は茹であげたあとさっと握って饗される。シャリのぬくもりから口の中に海老の甘みが広がる。
19.【握り】金目鯛
これがいつもながら素晴らしい。脂のりが凄いのだけれど、たとえばノドグロのように太く迫力がある脂ではなく、金目鯛の脂は、たわわであるにもかかわらず、香りと気品を感じるのだ。
20.【握り】雲丹
わたしは雲丹は軍艦ではなく握りで出していただくのが好みだ。...素晴らしい。ひとつひとつの香りの分子が緻密に濃縮された力強い香気にうっとりとする。
21.【握り】煮蛤
こちらも「すぎた」さんに伺った際の愉しみのひとつである。しっかりと仕事をした握りである。穴子の煮汁を使ったツメを塗った煮蛤。一口含むと、とろっとしたミルキーな風味が蜜のように口中に滲み出してくる。
22.【握り】ミル貝
サクサクとした潔い歯ざわりと豊かに広がる潮の甘味がミル貝の身上だ。貝の中でももっとも味調がとれた味感がある。
23.【握り】アオヤギ
アオヤギ。なかなか渋いネタだ。大輪の牡丹を思わせる華やかさはないけれど、シャキシャキとした味調のなかに草いきれのような鄙びた風味を感じる。
24.【握り】〆鯖
きりりと酢締めした鯖の一巻。巻物の芳醇な感じとはまた違い、引き締まった感じがよい。
25.【握り】穴子(塩)
江戸前のものに比べて上品でカドがないのが九州産の穴子の特徴のように思う。
26.【握り】穴子(ツメ)
鳴門金時のような傷のない甘味が素晴らしい。
最後にもう一度金目鯛をお代わりして一通りとなる。...やはり本日も凄かった。何度訪問しても完璧なまでに素晴らしい。こんな鮨店は、わたしのなかで「日本橋蛎殻町 すぎた」をおいてほかにはない。
【握り】子持ちヤリイカ
【握り】煮蛤
【握り】鯵
【握り】金目鯛
日本橋蛎殻町 すぎた
【ツマミ】そら豆
【ツマミ】北海道、野付の天然のホタテと東京湾の勝浦(千葉)のヒラメ
【ツマミ】真鯛の白子
【ツマミ】宍道湖の白魚の酒盗焼き
【ツマミ】ホタルイカの味噌漬け、鮟肝を甘く煮付けたもの、新政の貴醸酒
【ツマミ】竹岡の太刀魚の焼き物
【ツマミ】ばちこ
【ツマミ】鰹
【握り】鯖の巻物
【握り】コハダ
握り】ヒラメ
【握り】赤身の漬け
【握り】かすご
【握り】ボタン海老
【握り】中トロ
【握り】鯵
【握り】子持ちヤリイカ
【握り】巻海老
【握り】金目鯛
【握り】雲丹
【握り】煮蛤
【握り】ミル貝
【握り】アオヤギ
【握り】〆鯖
【握り】穴子(塩)
【握り】穴子(ツメ)
【握り】金目鯛
2019/04/28 更新
2018/11 訪問
この鮨をいただけることの悦び...「日本橋蛎殻町 すぎた」、わたしはここの鮨をいただくために日々仕事をしているのだと思う
白い魚が香り、優しいシャリとの溶け合いを満喫すること。魚の脂に頼ることなく、美しい魚の香りをそっと掌(たなごころ)に包んでしめやかに饗してくれるのが「すぎた」の素晴らしさだ。...それにしても、これが今年最後のすぎただと思うと一抹の寂しさがよぎる。
2018年11月24日(土)、今年最後の「すぎた」での晩餐について、書き綴っていきたい。
ぎんなんからのスタートである。
1.【ツマミ】竹岡のかわはぎと氷見の鰤
鰤はそのままでいただく。寒鰤。極めて脂がキレイである。いたずらな主張もササクレもなく口腔にすっとなじんで、ひたすら豊満である。
かわはぎの方は肝醤油で。筋肉の繊維を噛み締めるこの食感がたまらない。トラフグの薄造りも大変調子の高いものであるけれど、かわはぎの薄造りも捨てがたい魅力がある。トラフグの味調が"陽"だとしたら、少しメランコリックな沈んだ感じがあるのが、このかわはぎの魅力ではなかろうか。
2.【ツマミ】締め鯖、大葉、あさつきの巻物
わさび多めでいただく。これも「すぎた」の定番である。鯖の脂乗りが透徹していて澄み切っている。存在感があるのだけれどスッと"いなせ"な佇まいだ。ここに大葉、あさつきの清々しさが最高のアクセントを添える。
3.【ツマミ】対馬の穴子の白焼き
これがふくよかな焼き上がりであった!アツアツで饗されたそれを頬張ると、穴子の香りを通して、ジビエそのもののなまめかしくも瑞々しい律動を感じる。
4.【ツマミ】タラの白子ポン酢
良質な白子である。わたしの中で、何度いただいても白子は、このタラのものか、フグのものが最も調子が高い。でも、もちろん味わいは違っていて、フグの芳醇でたわわな味調に対して、タラの白子は、生真面目に襟を正した禁欲性を感じるのはわたしだけだろうか。
5.【ツマミ】佐島の煮タコ
大将が最近はいいタコがなくて...と嘆く。なんでも、タコは市場で手に取って揉んでみて、どのくらい指が入るかで良し悪しが分かるそうだ。身肉が弱っていて入るのではなく、身肉の力はあるけど、柔らかい筋肉のものが最高とのことだけれど、昨今それが減ってきているという。...それにしたって「すぎた」の煮タコは旨い!
6.【ツマミ】すじこ、数の子、あんきも 新政のきじょうしゅ(火の鳥)ちょっと甘いお酒
あんきもは甘く煮付けたもの、すじこ、数の子は味噌漬けにしたもの。...いつもの定番である。この甘みに、わたしは江戸前を感じる。
7.【ツマミ】鰤の焼き物
焼き物だけれど、今日は鰤。「すぎた」さんは太刀魚のイメージがあるけれど、今日は寒鰤。これもよい。
8.【ツマミ】ほっき貝
ほのかな温かみが感じられる。食感は、柔らかく、これも貝独特のしゃきしゃきとした食感が心地よい。なんとも身の厚い立派な一品である。
9.【ツマミ】ホタテの磯辺焼き
これは久しぶりだ。ホタテの磯辺焼きは、2017/5/29訪問時にいただいた時以来だから、1年半ぶりだろうか...しかしでも、何度いただいても「すぎた」でだされる佐賀海苔がよい!この佐賀海苔は、おにぎりを巻いて食べたいというより、舌の上にのせてお酒を愉しみたくなるような繊細で緻密な味わいがある。
10.【ツマミ】牡蠣の味噌漬け
これも定番である。しめやかな牡蠣と味噌の風味を堪能する。
11.【握り】こはだ
さぁ、ここからが握りである!...わたしは、大将がすうっと握って黒い付け台に握りをそっと置くさまが大好きだ。それだけでポーっと見とれてしまうのだ。
そして、いつもの通り、最初は仕事を施したこはだのスタートだ。ここで、「すぎた」の握りの素晴らしさに胸をえぐられ、毎回愚かしいけれど、あらためて気を引き締めることになる。
12.【握り】鯛
しばらく、白身の握りにうっとりしよう!...白身の中でも、やはり鯛は王者の風格がある。香り立ち華やかながら、内に秘めたものがある点で、やはり白身の最高峰である。
13.【握り】さわら
この白身も大好きだ。鯛ほどの華美さはないけれど、哀愁をおびた低音の和音を感じるようなその佇まいに、そっと抱きしめたくなるような雰囲気がある。そして藁で燻した薫香!
14.【握り】かすご
鯛の赤ちゃん。実は、わたしは、かすごと鯛は別物という印象がある。かすごはとても柔らかく上品だ。でも、あの鯛の風格を思うと、このかすごがどういう経緯を経てあの白身の王者の風格をまとうのか、いつも不思議な気分になる。...無論かすごの品の良さは折り紙付きだ。
15.【握り】赤身
わたしは、あらゆる鮨屋の鮪の中で、「すぎた」の鮪が一番好きである。これほど魚を感じさせる鮪があるだろうか。そもそも牛肉みたいな脂だらけの鮪なんていらないのだ!その意味で「すぎた」の鮪は美しい。
16.【握り】中トロ
脂の入り具合といい、中トロも洗練されていて旨い。素晴らしい背かみである。
17.【握り】いわし
やっぱり「すぎた」で饗されるいわしは旨い。...世の中にこんなにうまい魚があっていいのかと思うくらいに旨い。誇張なく「すぎた」のいわしであれば、わたしは命を捧げるくらいの準備がある。ここのいわしの素晴らしさは、落涙ものである。
18.【握り】赤貝
これもまったり舌に媚びてくる食材というより、透徹系である。この鉄の透徹感に心が震える。
19.【握り】巻き海老
そっと柔らかに、炊き立ての巻き海老の握りで落ち着く。
20.【握り】青森の雲丹
甘い。さりとて、恬淡としていて、媚びてこない佇まいに好感が持てる。
21.【握り】墨烏賊
ここからは大将にお願いして、お好みのラインナップだ。墨烏賊。歯切れよく、やっぱり鮨でイカといったら墨烏賊、という逸品である。
22.【握り】蛤
最後に煮蛤、さらに、赤身、雲丹、をお代わりして、穴子(白)、穴子(ツメ)、卵焼きで一通りとなる。
「日本橋蛎殻町 すぎた」。ここはやはり凄い。2018年もそろそろ暮だけれど、やっぱりわたしはここを一番のお鮨屋さんとして推奨したい!
【握り】鯛
【握り】墨烏賊
【握り】赤身
【握り】こはだ
【ツマミ】竹岡のかわはぎの肝
【ツマミ】竹岡のかわはぎと氷見の鰤
【ツマミ】締め鯖、大葉、あさつきの巻物
【ツマミ】対馬の穴子の白焼き
【ツマミ】タラの白子ポン酢
【ツマミ】佐島の煮タコ
【ツマミ】すじこ、数の子、あんきも 新政のきじょうしゅ(火の鳥)ちょっと甘いお酒
【ツマミ】鰤の焼き物
【ツマミ】ほっき貝
【ツマミ】ホタテの磯辺焼き
【ツマミ】牡蠣の味噌漬け
【握り】こはだ
【握り】鯛
【握り】さわら
【握り】かすご
【握り】赤身
【握り】中トロ
【握り】いわし
【握り】赤貝
【握り】巻き海老
【握り】中トロ
【握り】いわし
【握り】赤貝
【握り】青森の雲丹
【握り】蛤
【握り】穴子(白)
【握り】穴子(ツメ)
卵焼き
2019/01/17 更新
2018/05 訪問
鮨屋という存在はこの鮨店とともにこの地上に生まれ落ちたに違いない!...「日本橋蛎殻町 すぎた」、誰が何と言おうと、ここは日本(すなわち世界)で最高の鮨屋だと思う!
香り立つ美しい鮨。...青身魚の真っすぐな味調から微妙にずれたコハダの奏でる小悪魔的な不協和音は、どうしてあれほど美しいのか。...軽くあぶって香ばしさ際立つ金目鯛のふくよかな味わいは、なぜこんなに食するものを興奮させるのか。...そしてそれらの珠玉の味わいを、張りの中にもユーモアがある、杉田さんが作り出す垢抜けたカウンターの空気感が、さらに洗練させていく。...ここは、"名店"という言葉が惜しまれるくらいの途方もない鮨店である。
もう何度目の訪問になるだろうか。...またまた「すぎた」での素晴らしい晩餐について、以下詳細に書き綴って行きたいと思う。
本日のお連れさまと店前で落ち合う。2018年5月4日(金)、18:00。お連れさまは、今回初めてとのことで、ことのほか今回の「すぎた」訪問を愉しみにされている。
入店して、まず最初はビールを軽くいただく。...乾ききった空腹に冷たいビールが染みわたるほどに、今日もまた、ツマミも握りも完全制覇でいくことを固く心に誓う!(笑)
1.【ツマミ】そら豆
豆とはいえ、お芋のようなホクホクとした存在感がある。そして、そら豆ならではの鄙びた味わいの向こうにたゆたう、そら豆独特の"青さ"が、夏の夕暮れの縁台に響くひぐらしの声を彷彿とさせる...
2.【ツマミ】真子ガレイとたいらぎ
この真子ガレイもこの時期「すぎた」の定番である。弾力のあるテクスチャの向こうに初夏の空の透き通った透明感を感じさせる逸品だ。時にアオリイカとの合わせであったりするのだけれど、本日のたいらぎの朴訥な佇まいとの相性もすこぶるよい。
3.【ツマミ】佐島の煮ダコ
いつもながらこれが素晴らしい。毎回、この佐島のタコの筋肉の緻密さにやられてしまう!そしてまた、この甘さ加減がわたしの好みのど真ん中を射貫いているのだ。これはわたしの中で今までいただいた煮ダコの中で最高の逸品である。
4.【ツマミ】アナゴの茶わん蒸し
これもいつのものように「すぎた」さんでホッと落ち着ける秀逸な一品である。
5.【ツマミ】鯛白子
白子といえば、誰もがフグを思い出すけれど、あの迫力とはまた違って、鯛白子の柳美人のようなすんなりとした姿の良い味調にしばし言葉を失う。
6.【ツマミ】鯖の海苔巻き
これも「すぎた」さんの定番である。真っすぐで透徹した鯖の力強い旨みが、佐賀海苔できちっと巻かれて出される。そしてこの海苔が秀逸。...この佐賀海苔は、おにぎりを巻いて食べたいというより、舌の上にのせてお酒を愉しみたくなるような万華鏡のような緻密な味わいがある。
7.【ツマミ】子持ち蝦蛄
蝦蛄とは何か。...これは、同じ甲殻類とはいっても海老とは全く異なる。海老にはない蝦蛄独特の湿り気を帯びた沈んだ調べが蝦蛄の最大の特徴だと思う。そして、今日はその子持ち蝦蛄。...その憂いを帯びた味調に耳を澄ましながら堪能する。
8.【ツマミ】鮟肝、バチコ
これも「すぎた」さんの定番である。これを新政の貴醸酒(きじょうしゅ)でいただくのが「すぎた」流である。...バチコも肉厚の肉厚さ加減が感動的だ!
9.【ツマミ】太刀魚の焼き物
これも「すぎた」さんのスペシャリテといってもよいと思う。...とにかく潤沢でキレイな太刀魚の脂乗りに感動すること請け合いである!
10.【ツマミ】雲丹の佃煮、数の子、ホタルイカの沖漬け
今日のツマミのトリである。"雲丹の佃煮"というのがいつもながら渋い(笑)。...ちなみに、今日のお連れさまは、ホタルイカの沖漬けの旨さにひとしきり感動されていた♪
11.【握り】コハダ
さぁ、ここから握りの連綿である!まずはいつものようにコハダからである。...「日本橋蛎殻町 すぎた」で握りの一品目は、これでないといけない。...青身特有の味の濃さの向こうに漂う蠱惑的なコハダ臭にいつもながら打ちのめされる!
12.【握り】真鯛
これがまた美しい。...しつこくなく、しかしでも泰然としていて、王侯貴族のような風格すら感じさせる。...静かに黙る旨さだ。
13.【握り】マグロの赤身
わたしが「日本橋蛎殻町 すぎた」を愛して止まないのは、鮨屋の仕事にある。「すぎた」で仕事を施さないネタといったら、ウニと中トロ(本当にたまに大トロ)くらいで、そのほかはほとんどすべてのネタに手当てを施しているそうだ。だから、マグロも仕事を施した、宝石のように美しいこの赤身が一番好きなのだ。
14.【握り】かすご鯛
さきほどの真鯛を柔らかくしたような、優しい味わいの握りだ。「すぎた」のカドの立っていない酢飯との相性が抜群である。
15.【握り】マグロの中トロ
マグロは赤身が好みとはいえ、なるほど、コイツは旨い。濃厚とまではいかないけれど、脂がしっかりのっている。ただ、わたしにとって、「すぎた」さんでいただく中トロ(大トロ)はあくまで、連綿と続くいなせな鮨ネタの中に置かれた嫋(たお)やかなアクセントという位置づけで、決してそれが主役ではないのだ。
わたしの中では、「すぎた」の本質は、なんといっても仕事を施した白い魚にあると思う!
16.【握り】鯵
島根の"どんちっち"はまだだったけれど、「すぎた」の鯵は肉厚で、旨みを凝縮していてやはり欠かせない。
17.【握り】子持ちヤリイカ
歯切れよく気風(キップ)のよいスミイカのテクスチャとは違って、柔らかで優しい味わいがする。
18.【握り】サーモン
「だいたいサーモンというとお客さまがっかりされます」という大将の一言に、カウンターに笑いがさざめく。しかし、これもどうしてどうして素晴らしい。仄かな熟成から立ち上る白身と赤身の中間の艶めかしさを味わわせる逸品である。
19.【握り】巻きエビ
握る前にボイルしたエビ。大きさといい、温度感といい、「すぎた」のエビの握りはやっぱりよい。
20.【握り】金目鯛
これが、待ってましたの逸品だ!最上級の脂乗りを愉しむのだとしたら、やはりこの金目鯛か、クエだと思う。(のどぐろよりずっと品性があると思う)
21.【握り】ムラサキ雲丹
わたしは、「すぎた」のウニの握りが滅法好きだ。まず、大将が握りを付け台にそっと置くその姿がいい。こぼれる涙をそっと拭うようなその優しい掌(てのひら)のしぐさは、まさに映画的な感動がある。
22.【握り】ほっき貝
優しいシャリと、肉厚で、シャリシャリとしたほっき貝の味調が何とも愉しい。貝は味わうほどに旨みを演出する。
23.【握り】カツオ
「すぎた」さんでは、冬場に迷いガツオの握りを出されるが、今日のは太平洋側だと思う。太平洋側のこれはこれで気風(キップ)がよくてよい握りだ。
24.【握り】しまえび
これが悩ましかった。甘みがあるけれど、噛み締めるほどに、媚びるような甘さに堕落することなく海老の旨みを際立たせる逸品。ぜひ、お薦めしたい!
25.【握り】ミル貝
アワビに匹敵する旨み。貝類の中では、大変端正な味調のとれた貝である。
26.【握り】アナゴ 塩
やはり、「すぎた」さんでは塩、ツメ両方いってしまう。とろけるアナゴの表面の塩のざらつきを堪能する。
27.【握り】アナゴ ツメ
これはもう蕩けるような逸品。デザートといってもよい最後の締めである。
最後にいつものように美しい玉で締めとなる。...今日も目一杯美味しいお鮨をいただいた!今日のお連れさまも大変満足され、お誘いした甲斐があったというものだ。...もう、今の今から次の訪問が愉しみで仕方ない!
【握り】しまえび
【握り】マグロの赤身
【握り】ミル貝
【握り】カツオ
杉田大将の美しき握りの所作1
杉田大将の美しき握りの所作2
杉田大将の美しき握りの所作3
杉田大将の美しき握りの所作4
【ツマミ】そら豆
【ツマミ】真子ガレイとたいらぎ
【ツマミ】佐島の煮ダコ
【ツマミ】アナゴの茶わん蒸し
【ツマミ】鯛白子
【ツマミ】鯖の海苔巻き
【ツマミ】子持ち蝦蛄
【ツマミ】鮟肝、バチコ
【ツマミ】太刀魚の焼き物
【ツマミ】雲丹の佃煮、数の子、ホタルイカの沖漬け
【ツマミ】ホタルイカの沖漬け
【握り】コハダ
【握り】真鯛
【握り】マグロの赤身
【握り】かすご鯛
【握り】マグロの中トロ
【握り】鯵
【握り】子持ちヤリイカ
【握り】サーモン
【握り】巻きエビ
【握り】金目鯛
【握り】ムラサキ雲丹
【握り】ほっき貝
【握り】カツオ
【握り】しまえび
【握り】ミル貝
【握り】アナゴ 塩
【握り】アナゴ ツメ
2018/05/31 更新
2018/04 訪問
シャリをいただく恍惚...「日本橋蛎殻町 すぎた」、酢の優しく、そしてしっかりと握られたシャリの存在感。...この至高のシャリと鮨ダネの合わせは、傑作というのが惜しまれるくらいの相性である
「すぎた」の握りは、あくまでも引き締まったキレイな白身が中心である。そして、握りの中ほどで、背かみの赤身と中トロの脂ノリが、薄紅色(うすべにいろ)のように仄かに柔らかな存在感をしめしてくるのが特徴だ。...だからシャリはあくまでも酢の立ち過ぎていない優しい佇まいでまとめられていて、これが、コハダ、鯛、かんぬき、そして背かみの鮪といった、いきでいなせなタネに滅法合うのだ。
2018年3月24日(土)、「日本橋蛎殻町 すぎた」での素晴らしい晩餐について、以下詳細に書き綴っていきたい。今日はツマミから春を感じさせるラインナップである。
1.【ツマミ】そら豆
わたしは、皮ごといく。本日のお連れさまは、そら豆の皮は剥くタイプだそうだ(笑)。ま、このあたりは、ひとそれぞれ、好きなようにいただけばよいと思う。
2.【ツマミ】ミル貝は岡山のもの、鮃は千葉の東京湾、安房勝山のもの
ミル貝の最高級品は岡山である。京都の「木山」さんで出たミル貝もとても調子が高かったけれど、やはり岡山産であった。コリコリとした食感の向こうに磯の香りが香る。
3.【ツマミ】佐島の蛸
これは雌。...それにしても「すぎた」さんのこの煮蛸はぜひ味わっていただきたい。その旨さに、幸福な沈黙を強いられる素晴らしい逸品である。
4.【ツマミ】腸がしっかりとついたミル貝
水管だけでなく、本ミル貝のミル舌がしっかりとまとわりついたものを焼いている。これは珍しい。この貝の甘みは犯罪だ!
5.【ツマミ】このわたの茶碗蒸し
限りなく透き通った味わいで、どこまでも優しい。
6.【ツマミ】あん肝、ホタルイカ、ノレソレ
ノレソレ。時期を感じさせる食材だ。穴子の稚魚。それに卵黄とポン酢を合わせたソースを絡めてある。そして、味噌漬けのホタルイカに、あん肝だ。ここに秋田の新政の貴醸酒をあわせるのが「すぎた」流だ。
7.【ツマミ】東京湾の竹岡の太刀魚
この脂ノリが凄まじい。しかもその脂に一片のいやらしさもなく、そのキレイな味わいに舌を巻く。
8.【ツマミ】バチコ
日本酒のアテにこれ以上のものはないと断言したい!
9.【ツマミ】白魚
肝が添えられた白魚。春を感じさせる逸品である。
10.【握り】コハダ
ここから握りである。いつものごとく、「すぎた」さんではコハダからの握りとなる。これが何度いただいても途方もなく素晴らしい。魚は香りのものであることを突き付けてくる「これぞ鮨!」といった逸品である。
11.【握り】鮃
媚のないこの弾力こそが鮃の持ち味だ。そして透き通る青空のような澄明な味調にこそ鮃の本来の特徴がある。旨い。
12.【握り】鯛
一口でいただくが、その噛みごたえ、香り、どれをとっても白身魚の王様である。鯛独特の王者の風格がいつまでも鼻腔のあたりに漂う。
13.【握り】赤身
「すぎた」さんのマグロの味わいは粋である。こちらの赤身をいただくと、大トロの握りにまったく魅力を感じなくなるから不思議である。
14.【握り】中トロ
ほのかな脂の差し具合がなんとも素晴らしい。赤身の血潮にほんのりと良質な脂で薄化粧を施したような感じである。
15.【握り】鯵
"どんちっち"とまではいかないけれど、これも青身の素晴らしい脂ノリに溜息がでる。
16.【握り】かすご鯛
真鯛の稚魚。そこはかとない甘美さの奥にコクのある鯛の香りが陽炎(かげろう)のように立ち昇る...
17.【握り】トリガイ
シャキシャキとした鳥貝の肉の響きがなんともよい。鶏肉を食べている感覚と似ているからトリガイという名前がついたと言われるくらいで、弾力感のあるささみ肉をいただいているような感覚を覚える。
18.【握り】巻き海老
握る前に茹で上げたものである。人肌のぬくもりから口の中に海老の甘みが広がる。
19.【握り】子持ちヤリイカ
女性的で、優美で繊細。"たおやめぶり"とでも言おうか...優しい味覚を堪能する。
20.【握り】紫雲丹
紫雲丹の、枯淡の域に達したと表現したいような滋味深い味わいがなんとも素晴らしい。
21.【握り】かんぬき
これも春の逸品。しかし、もうそろそろ盛りは終わりだろう。
22.【握り】金目鯛
脂ノリが素晴らしい。「すぎた」にお伺いしたら絶対に味わっておきたい逸品である。
23.【握り】煮蛤
刷毛で煮ツメをさっと塗って、饗される。さっそく口に放り込むと、とろっとしたミルキーな風味が蜜のように口中に滲み出してくる。しかし、その奥の奥の方に、貝の旨味というか、肝臓に染み入るような蛤の滋味がしんしんとしめやかな調べを奏でているのが聴き取れる。
24.【握り】穴子(塩)
その味わいはきわめて上品。九州産穴子の特徴が十二分に引き出された一品である。
以上で、一通りとなる。何度訪問しても、鮨屋はこの「日本橋蛎殻町 すぎた」とともにこの地上に生まれ落ちたに違いないと思わせる素晴らしさだ!次回の訪問が今から愉しみである。
【握り】トリガイ
【握り】コハダ
【握り】鯛
【握り】鯵
【握り】かんぬき
【握り】子持ちヤリイカ
日本橋蛎殻町 すぎた
【ツマミ】そら豆
【ツマミ】ミル貝は岡山のもの、鮃は千葉の東京湾、安房勝山のもの
【ツマミ】佐島の蛸
【ツマミ】腸がしっかりとついたミル貝
【ツマミ】このわたの茶碗蒸し
【ツマミ】あん肝、ホタルイカ、ノレソレ
【ツマミ】東京湾の竹岡の太刀魚
【ツマミ】バチコ
【ツマミ】白魚
【握り】コハダ
【握り】鮃
【握り】鯛
【握り】赤身
【握り】中トロ
【握り】かすご鯛
【握り】巻き海老
【握り】子持ちヤリイカ
【握り】紫雲丹
【握り】金目鯛
【握り】煮蛤
【握り】穴子(塩)
2018/04/16 更新
2018/02 訪問
つけ台の鮨がそっと沈む...「日本橋蛎殻町 すぎた」、ここの珠玉の鮨の連なりを味わえば、心のどこかで、今までの鮨体験などそっくり犬にでもくれてしまえとつぶやいている自分を見出す
そういえば、すぎたさんって雲丹は海苔巻きにしませんよね、とふと思い立って大将にお声がけしてみる。すると、「ええ、海苔巻きにするのは、年に数回ぐらいですかね...もちろん、雲丹って海苔との相性がよいですから、軍艦もいいんですけれど、シャリと直に合わせた雲丹がリゾットみたいになるのが、僕は好きなんですよ」...淡泊で上品な甘みの中に一抹の仄かな苦み漂う雲丹と、シャリが演じたてるマリアージュを堪能しながら、大将とこんなやりとりをゆったりと愉しむのが「すぎた」でのこの上ない贅沢な過ごし方だ。
2018年2月10日(土)。2回目の回転。始まったその瞬間から、この空間が終わりを迎えることが惜しまれてならない「すぎた」でのひとときについて、以下詳細に書き綴っていきたい。本日のお連れ様とはお店で直接落ち合う。ほとんど待たされることなく、カウンター席に通される。
今日もつまみから、食材に合わせて日本酒を出していただく。(ただし、握りからは前回宗隆さんに教えてもらって味をしめた米焼酎のガリ酢割りでやっていただくことにする)
【ツマミ】浅葱の新芽
冬場の"きぬかつぎ"、早春の"わけぎ"、夏場の"枝豆"、秋の"銀杏"と「すぎた」の突き出しは季節にあわせて目くるめく。春を目前にしたこの一品の慎ましい優しさもことのほか好感が持てる。
【ツマミ】アオヤギとカワハギ
アオヤギはお醤油とわさび、カワハギは肝醤油をつけていただく。アオヤギ。その味調は、その姿形から感じ取れる艶めかしい印象とは異なり、しこしことした食感の向こうに底堅い存在感のようなものを感じる。やはりこれはしっかりと醤油と合わせるのが正しいやり方だ。いつもながらカワハギからは、その筋肉質な弾力と、駆け抜ける澄明な味調にこころのときめきを感じる。
【ツマミ】ゴマサバの海苔巻き
わたしは、「すぎた」の海苔巻きが大好きである。ときに鰯であったり、鯖であったりするのだけれど、それら光モノを香り高き佐賀海苔で巻いたこの一品が何とも素晴らしいのだ。
【ツマミ】たいらぎの西京焼き
渋い。これは噛むほどに味わいが募りゆく渋い逸品である。たいらぎの噛みごたえのある存在感から静かに浮き上がる西京焼きの味噌の風味が何とも渋い。
【ツマミ】白子ポン酢
口に含んだとたんに感じる、この艶っぽいぬくもりにいつもやられてしまう。これほど日本酒のアテにもってこいの逸品がほかにあるだろうか...
【ツマミ】縞海老の頭を軽く炙ったもの、数の子、雲丹の佃煮
これもまた"THE酒のアテ"といった一品だ。炙った向こうに縞海老の仄かな甘みを感じる。また、この雲丹の佃煮が、雲丹の旨味が濃縮された良い味わいを出している。
【ツマミ】千葉の竹岡の太刀魚の焼き物
これが凄い。溢れる上質な脂にむせ返りながら、その香りを存分に堪能する。
【ツマミ】白魚の酒盗焼き
...白魚のどつと生るゝおぼろ哉
朧月の揺らめく青い水中に"どっと"生まれる白魚の生命の乱舞。...一瞬、そんな春の躍動感溢るる一茶の句が脳裏をよぎる。
【ツマミ】佐島のタコの柔らか煮
タコは冬と初夏がよい。こちらの煮タコの筋肉質な食感から放たれる旨味にいつもやられてしまう。
【握り】コハダ
いつものように一貫目は、コハダである。青身特有の味の濃さの向こうに蠱惑的なコハダ臭が漂う。思わず瞳を伏せて、「いる、いる、いる」とひとりごちてしまう。
【握り】寒ヒラメの昆布締め
寒ヒラメは今が良い。一種名刀のような冴えわたった切れ味を思わせる味調にどきりとする。
【握り】鯛
冬場の深場の鯛には独特の力強い香味がある。口中に放り込んでからいつまでも残る残り香にうっとりとする。
【握り】寒鰆
低い哀愁を帯びた和音。そんな印象の魚だ。陽気といより楚々とした落ち着きのある味調だ。
【握り】大洗のかすご鯛の昆布締め
真鯛の稚魚。...噛み締めると、身の芯までまわった酢が香り立ち、そこはかとない甘さの奥にコクのある鯛の香りが陽炎(かげろう)のように立ち昇る...
【握り】山口県仙崎の赤身の漬け
これが宝石のように美しい。「すぎた」の鮪は絶品である。脂まみれでなく何とも姿がよいのだ!
【握り】鯵
味が濃い。肉質は強い弾力性があり、脂の載り方が実に緻密である。これは青ものの最高峰に違いない。
【握り】金目鯛
これはいただいた瞬間、心の中で「やられた、やられた」と呟き続けている自分を発見する。たわわに溢れる脂の上品さ、その香り、全てが完璧である。
【握り】巻き海老
「普通、一度茹で上げてから、そのまま握るんですが、腹を開くまでに少し時間があって冷めますので、直前にもう一度そっと軽く火を入れてから、握るんです。そうすると食感がぐりぐり過ぎないで丁度良いんです」繊細な仕事が光る逸品だ。仄かな海老の甘みに酔いしれる。
【握り】中トロ
脂のりが丁度良い塩梅。江戸前の矜持を感じる素晴らしい逸品である。ほとんど言葉による修飾や説明を必要としない優れた握りである。
【握り】紫雲丹
リゾットのように広がる旨味を存分に堪能する。
【握り】サヨリ
これも時期である。身がしまっていて贅肉がない、流れるような溌剌とした精彩を感じさせる逸品である。
【握り】墨イカ
「すぎた」のこの墨イカがまた何とも粋なのだ!この歯切れ、媚のない味わい、...嫉妬するくらいにいなせで粋なフォルムに収まっている!
【握り】愛媛のトリガイ
わたしはトリガイというものに目がない。シャキシャキとした肉の響きの中に鄙びた味調が聴きとれる、あのトリガイの楚々とした感じがわたしは大好きなのだ。
【握り】バフン雲丹
とろけるような赤。シャリに乗っているのが奇跡としか思えないような佇まいで饗される。一口でいただく。ひとつひとつの雲丹の香りの分子が緻密に濃縮され、力強い香気となって押し寄せてくる。
【握り】穴子(塩、ツメ)
塩はさっぱりと穴子そのものの良さを堪能できる一品。ツメはまるで金時芋のように濃密に悩ましい。
最後に、玉とアサリの澄まし汁で一通りとなる。やはり、素晴らしすぎる。...と、ふと、2018年のミシュランガイドのことが脳裏をよぎって少しばかり気分が悪くなる。...この「すぎた」が1つ星!?どこからどんな誤解をすればそんな評価に着地するのか、まったくもって意味が理解できない。
...そもそも、わたしはあのタイヤの星というのはまったく信用していないけれど、この「すぎた」や「鳥しき」、「ペレグリーノ」、「深町」、「ICARO」といった名店に、軒並みベタベタと1つ星という醜いレッテルを張りまくって涼しい顔でやり過ごしているその暴挙を見るにつけ、あの格付け機関のことだけは、絶対に許さないと心に誓う!
【握り】山口県仙崎の赤身の漬け
【握り】金目鯛
【握り】鯛
【握り】鯵
【握り】コハダ
【握り】サヨリ
【握り】墨イカ
【握り】愛媛のトリガイ
日本橋蛎殻町 すぎた
【ツマミ】アオヤギとカワハギ
【ツマミ】ゴマサバの海苔巻き
【ツマミ】たいらぎの西京焼き
【ツマミ】白子ポン酢
【ツマミ】縞海老の頭を軽く炙ったもの、数の子、雲丹の佃煮
【ツマミ】千葉の竹岡の太刀魚の焼き物
【ツマミ】白魚の酒盗焼き
【ツマミ】佐島のタコの柔らか煮
【握り】コハダ
【握り】寒ヒラメの昆布締め
【握り】鯛
【握り】寒鰆
【握り】大洗のかすご鯛の昆布締め
【握り】山口県仙崎の赤身の漬け
【握り】鯵
【握り】金目鯛
【握り】巻き海老
【握り】中トロ
【握り】紫雲丹
【握り】サヨリ
【握り】墨イカ
【握り】愛媛のトリガイ
【握り】バフン雲丹
【握り】穴子(塩)
【握り】穴子(ツメ)
玉
アサリの澄まし汁
2018/02/18 更新
2018/02 訪問
米焼酎の"ガリ酢"割りで絶品鮨に舌鼓(したつづみ)!...「日本橋蛎殻町 すぎた」、今夜は素敵な友人とお鮨と"ガリ酢"焼酎の美しい組み合わせに酔いしれる
すぎたの"ガリ酢"は生姜のエッジが効いている。...甘みが抑えられた"ガリ酢"で米焼酎を割ると、味わいがことのほかキレイで、握りとの相性が滅法よい!今日はこれですぎた絶品握りの連綿をひとしきり愉しむ。
2018年1月14日(日)、17:00。かねてから愉しみにしていた今日のこの日。いつものように水天宮の裏路地で「テキサス」の年季の入った看板を眺めやっていると、友人の姿が遠くに視界に入る。大きな声で「こんにちは!」と元気よくお声がけいただく。...いつも懇意にさせていただいている「ICARO miyamoto」のお兄さん、宗隆さんだ。今日は、宗隆さんと「日本橋蛎殻町 すぎた」の会である!
17:00になると暖簾がかかって、入場可となる。宗隆さんの気配りは素晴らしく、お店のみなさんとわたしにまでお土産をご用意されている。今日は、嬉しいことに大将前である。
【ツマミ】浅葱の新芽
優しい新芽の仄かな甘みに癒される...胃袋の空虚感に静かにしんみりと染み渡るのが心地よい。
【ツマミ】つぶ貝とカワハギ
つぶ貝はお醤油とわさび、カワハギは肝醤油をつけていただく。つぶ貝は輪郭がしっかりとしている。カワハギの澄み切った味わいもいつもの通りである。
【ツマミ】長崎壱岐の迷いガツオの漬け
このまろやかさが素晴らしい。もうそろそろ終わりの時期かと思うと何か一抹の寂しさを感じないでもない。
【ツマミ】タラ白子
この柔らかな舌ざわりから伝わる温もりに、冬の恵みを感じる。これももうそろそろ終わりの時期である。
【ツマミ】白魚の酒盗焼き
とうとう、白魚の季節がやってきた!
明ぼのや しら魚白き こと一寸(芭蕉)
可憐な白魚の一尾一尾の味わいに、遥かけく瞬く春の言祝(ことほ)ぎを感じる...
【ツマミ】赤むつの焼き物
太刀魚の焼き物も脂載り抜群だけれど、赤むつはやはり迫力がある。
【ツマミ】穴子の茶碗蒸し
優しい味わいである。対馬の穴子も角がなくて素晴らしい。
【ツマミ】シメ鯖の巻物
これがすぎたでのお愉しみの1つである。時期によって巻かれるものが鰯であったりもするのだけれど、なんといってもこの佐賀海苔が秀逸なのだ。強い旨味と美しい香りにいつもやられてしまう。
【ツマミ】佐島のタコの柔らか煮
これもいつものごとく素晴らしい。お鮨やさんの最高の仕事を味わえる逸品である。最上のタコの筋肉の内に秘めた力強さを堪能できる逸品である。
【ツマミ】雲丹の佃煮
中々滋味深い。これは酒のあてにもってこいの一品だ!
【握り】コハダ
さぁ、ここから握りだけれど、今日はここから宗隆さんを真似て、例の"ガリ酢"割りでいってみる。...これが滅法良かった。"ガリ酢"というのは甘目なのが通常のようだけれど、すぎたの"ガリ酢"は、生姜の辛みが立っててキリリとしている。わたしは、握りは今後これでいくことにしたい。そのくらいに握りとの相性が素晴らしかった!
最初の握りはコハダである。蠱惑の一品だ。
【握り】淡路の鯛
今日の鯛も味わいがキレイだ。みなぎる身肉(みしし)からあふれ出す高貴な鯛の味わいを、いつまでもいつまでも堪能する。
【握り】山口の鯵
良質な鯵である。清麗で爽やかにしまっていて、特有の澄んだ潤味(うるおみ)のある香りがする。
【握り】鰆(さわら)
この藁の燻しが堪らない。一口いただくと、一瞬藁の薫香で魚の香りは不安定に揺さぶられる。...しかし味わうにつれ、納得するほかない強い旨味の着地点に収まる素晴らしさは感動的ですらある。
【握り】墨イカ
歯切れのよい江戸っ子の気風の良さを感じる逸品だ。透明で艶やかで宝石のような一品である。
【握り】大間の鮪、赤身の漬け
すぎたの鮪は色気がある。なんとも粋な色気があるのだ。媚のない恬淡(てんたん)な色気と言おうか。この鮪があることで、すぎたの鮨の連なりの引き締まり方が全然違う。
【握り】大間の鮪、小トロ
これも、大トロの溢れるような脂載りの一歩手前で押さえている感じが何とも粋なのである!
【握り】鰯
誰が何と言おうと鰯は旨い!これが庶民に手が出ない高級魚でないことにひたすら感謝しようではないか!
【握り】巻き海老
握る前に茹で上げられるこれもいつものように秀逸である。シャリを巻き海老の温もりが優しく包み込む。
[b:【握り】青森の紫雲丹
紫雲丹は、バフンウニのような焔立つ迫力ではなく、実に慎ましやかな旨味を湛えている。
【握り】穴子塩
今日は穴子の塩で一通りとなる。...しかしでも、今日は何といっても「ICARO miyamoto」の宗隆さんとご一緒できたのが素晴らしかった!...彼は、そんなに口数が多い方ではない。しかし、なんというか...あからさまに表面には出ないのだけれど、仄かに優しい雰囲気を持った方なのである。(これは義隆さんも一緒)そして、(わたしが言うのもおこがましいけれど)味覚に対してしっかりとした哲学を持っている。...だからご一緒していて滅法面白い。今日は素晴らしいすぎたで、お鮨と宗隆さんとの申し分ない晩餐であった!
【握り】コハダ
【握り】山口の鯵
【握り】巻き海老
【握り】淡路の鯛
【握り】大間の鮪、赤身の漬け
【握り】大間の鮪、小トロ
【握り】鰯
【握り】墨イカ
【ツマミ】浅葱の新芽
【ツマミ】つぶ貝とカワハギ
【ツマミ】長崎壱岐の迷いガツオの漬け
【ツマミ】タラ白子
【ツマミ】白魚の酒盗焼き
【ツマミ】赤むつの焼き物
【ツマミ】穴子の茶碗蒸し
【ツマミ】シメ鯖の巻物
【ツマミ】佐島のタコの柔らか煮
【握り】コハダ
【握り】淡路の鯛
【握り】山口の鯵
【握り】鰆(さわら)
【握り】墨イカ
【握り】大間の鮪、赤身の漬け
【握り】大間の鮪、小トロ
【握り】鰯
【握り】巻き海老
【握り】青森の紫雲丹
【握り】穴子塩
2018/02/05 更新
2018/01 訪問
ここを最高の鮨店として推奨したい!...「日本橋蛎殻町 すぎた」、ここを最高の鮨店として称揚することはほとんど神の摂理にかなっている!
去年1年を振り返ってみて素晴らしいお店との出会いは多々あった。...今はなき「カゲロウ」もよかったし、「まき村」も感動的であった。「寿しの吉乃」もその巧みの技を存分に愉しませてくれた。しかしそうした例外的なお店でさえ、「日本橋蛎殻町 すぎた」の前では色あせて見える。この鮨店はわたしが味わってきた鮨店の中で紛れもなく最高の鮨店である。
2017年12月10日(日)11:00。「日本橋蛎殻町 すぎた」さん再訪。本日は大将前である。大将にご挨拶して、皆さんで愉しんでくださいと、自由が丘のパティスリー・パリセヴェイユ で買ってきたお土産をお渡しする。
ほどなく、今日のお料理がスタートする。
【ツマミ】三重の尾鷲のかんぱちとカワハギの刺身
かんぱちはお醤油と山葵でいただく。カワハギは肝ポン酢でいただく。カンパチのねっとりとした練り羊羹のような味わいにうっとりする。カワハギは柔らかい筋肉の中にも引きしぼった弓のような緊張感をみなぎらせている。
【ツマミ】長崎壱岐の迷いガツオの刺身
雨に濡れた躑躅(つつじ)のような目の覚める光沢が素晴らしい。一度塩でしめてから漬けにしている。味がしっかりついているので、そのままでいただく。太平洋側のものと比べると、酸度が高くなくまろやかでそれほど鉄分を強く感じさせない。実にキレイな味わいである。
【ツマミ】佐島のタコの柔らか煮
まず、圧倒するようなタコの香りが素晴らしい。こんなに薫り高き煮だこを出す鮨店をわたしはしらない。噛みしめるほどに脈打つようなタコの旨味が口中に広がる。
【ツマミ】羅臼のタラ白子の焼き物
タラ白子。ぬくもりを帯びたメランコリックな味わいといえばよいか。感情を内に秘めたようなこのタラ白子の旨味は、しんしんと雪の降り募る海辺の光景を彷彿とさせる。
【ツマミ】あん肝と牡蠣と貴醸酒
あん肝は甘く煮付けたもの、味噌漬けにしてある。これと貴醸酒の相性が素晴らしい。
【ツマミ】太刀魚の焼き物
これも「すぎた」さんの定番だ。しかしでもこの熱々に焼き上げられた身肉(みしし)がほろほろとほどけだす食感がたまらない。また、この魚も強い青身魚の香りを持っている。
【ツマミ】数の子の味噌漬け
これも「すぎた」さんの定番だ。「すぎた」さんで出されるネタは、摘みであろうと必ず何らか仕事がされているのが嬉しい。
【ツマミ】対馬穴子の白焼き
長崎の穴子だ。強く焼き上げられたホクホクの食感を愉しんだかと思うと、次の瞬間口の中で上品に溶ける。
【握り】コハダ
ここから、握りになる。このコハダにしかない独特の臭気がたまらない。わたしは鮨ネタの中で最も好きなネタは、間違いなくこのコハダである。しかも「すぎた」さんのコハダは、他の追随を許さないものがある。
【握り】淡路の鯛
わたしには、どうしてもこの時期の鯛が一番うまいと感じられる。鯛特有の懐の深い味わいで残り香がいつまでもずっと続く。贅沢な余韻を胸いっぱいに愉しむ。
【握り】鰆(さわら)
少し藁で炙ってある。この藁で少し炙る仕事が素晴らしく鰆の旨味を引き立てている。藁の香りがふわっと鼻腔を抜けた後、鰆の上品で淡い脂肪の旨味が口に広がる。
【握り】北寄貝
北寄貝は、甘味があり、旨みをたっぷりと含んだジューシーな味わいだ。
【握り】大間の鮪、赤身の漬け
これはしかし、通常の鮪の赤身よりまろやかな感じ。血の香りが立っていない。「すぎた」さんでは鮪は腹かみを使われることもあるようだけれど、もっぱら背かみを使われるそうだ。
【握り】大間の鮪、中トロ
緻密な旨味がある。腹かみのような脂の横溢感はないが、上品にして旨味もしっかりある。わたしは鮪は背かみの方が断然好きである。
【握り】鰯
これが素晴らしかった!鰯の魚の香りを感じさせてくれる逸品である。香味は軽いものの流れるような潤味のある味わいにうっとりしてしまう。お塩とお酢で軽く締めている。すうっと溶けるような味調の高さに惚れ惚れする。思わずお代わりしてしまう。
【握り】金目鯛
炙られた皮から上質な脂が溢れ出す。とろりと甘く、白身とは思えない濃厚な旨味をもっている。絶品!
【握り】巻き海老
シャリと茹で上げられたばかりの巻の暖かい身肉の相性が抜群である
【握り】青森の紫雲丹
馬糞雲丹が、濃厚で感情を内に秘めたような力強さがあるのに対して、紫雲丹は恬淡ですっきりとした味わいを持っている。品良い雲丹の旨味を存分に楽しむ。
【握り】しめ鯖
鼻腔を駆け抜ける酢の風味が、抜き身のようなしめ鯖の鋭い存在感を際立たせる。脂のりも大変良い。
【握り】鰤
寒鰤である。字のごとく師走に一番脂がのって味がよくなる。これも香りのものだ。どういったらよいか...磯のにおいを感じさせる鮮魚臭とでいう香りに惚れ惚れする。
【握り】鰯
お代わり
【握り】金目鯛
お代わり
【握り】穴子塩
江戸前のものに比べて上品でカドがないのが九州産の穴子の特徴のように思う。
【握り】穴子ツメ
鳴門金時のような傷のない甘味が素晴らしい。
一筋の瑕瑾もない玉をいただいて一通りとなる。今回もまたしても文句がつけられないくらいに素晴らしかった!次回は今月、ICARO miyamotoの宗隆さんとお伺いする予定だ!今から愉しみだ♪
【握り】鰯
【握り】大間の鮪、赤身の漬け
【握り】淡路の鯛
【握り】金目鯛
【握り】青森の紫雲丹
【握り】しめ鯖
【握り】大間の鮪、中トロ
【握り】コハダ
141kg、大間の背かみ
銀杏
【ツマミ】長崎壱岐の迷いガツオの刺身
ツマミ】三重の尾鷲のかんぱちとカワハギの刺身
【ツマミ】佐島のタコの柔らか煮
【ツマミ】羅臼のタラ白子の焼き物
【ツマミ】あん肝と牡蠣と貴醸酒
【ツマミ】あん肝と牡蠣と貴醸酒
【ツマミ】太刀魚の焼き物
【ツマミ】数の子の味噌漬け
【ツマミ】対馬穴子の白焼き
コハダ
【握り】コハダ
【握り】淡路の鯛
【握り】鰆(さわら)
【握り】北寄貝
【握り】大間の鮪、赤身の漬け
【握り】大間の鮪、中トロ
【握り】鰯
【握り】金目鯛
【握り】巻き海老
【握り】青森の紫雲丹
【握り】しめ鯖
【握り】鰤
【握り】鰯
【握り】金目鯛
【握り】穴子塩
【握り】穴子ツメ
2018/01/06 更新
2017/12 訪問
意気地(いくじ)と艶めかしさ、そしてさりげなく漂う屈託のなさ...「日本橋蛎殻町 すぎた」、ここには紛れもなく"粋(すい)"の結晶がある
「日本橋蛎殻町 すぎた」は、ひたすら粋である。ここには塗り固められた旨味などどこを探しても見あたらない。...「鮨はね、まずは姿が良くなくっちゃぁしょうがねぇや」という江戸っ子の気っ風(キップ)のよい啖呵がどこかから聞こえてきそうだ。だからここでは、キャビアとかトリュフとか松茸といった派手な味覚の演出などはハナっから遠ざけられ、最後まで、柳葉のような、しゃなりとした魚の香りが、端正に臭覚と味覚を刺激してくれる。それがなんとも心地よいのだ。
「日本橋蛎殻町 すぎた」で過ごした晩餐はまたもや素晴らしかった。以下、その詳細を書き綴っていきたい。2017年11月18日(土)、20:00。友人たち4人とお店で直接落ち合う。座席に着く際、付け場の大将から物腰低く、しっかりと目を合わせて「いらっしゃいませ!」とお声がけいただく。その惚れ惚れするような低音の声の良さに心のこわばりが一気にほどけてしまう。
今日もまたお任せで、お酒も大将に見繕っていただく。まずは、ほろ苦な銀杏からのスタートで、はやる心を落ち着かせる。
1.【ツマミ】鰈(かれい)
美しい刺身である。ほんの少しお醤油をつけて頬張ってみるが、空に吸い込まれるような清澄さの中に格調高い味わいを堪能する。
2.【ツマミ】長崎壱岐の迷い鰹
これが冬のすぎたさんでの愉しみの一つ。実に鰹っぽくない鰹である。鰹は江戸っ子の気っ風のよさを感じさせるはっきりした味わいの魚だけれど、この迷い鰹は、なんとも艶めかしくも悩ましいのだ。...鰹が食べている魚の違いだろうか。太平洋の鰹は鰯を食んでいるけれど、日本海側の鰹は鮪の群れに交じって、烏賊を食べている。...ひょっとするとそんな食べ物の違いがこの身質の違いを生み出しているのかもしれない、などとぼんやり思いを巡らす。
3.【ツマミ】仙鳳趾の牡蠣
口中に広がる牡蠣特有の滋味掬(きく)すべき風味はどうだろう!これはまさに海がこぼした涙である。
4.【ツマミ】鰯の海苔巻き
脂ののったお酢でしめた鰯に、大葉、浅葱、ガリ。鰯のたわわな脂のりに溜息がでる!山葵をしっかり塗布しても、辛み成分を脂が涼やかになだめてくれる。そして圧巻だったのが、佐賀海苔。旨い。...太い味がドンときてずうっと続く感じ...おにぎりに巻きたいくらいな旨味の強い海苔である。...でも、旨味だけでなく香りも江戸前に負けない香り高さがあるのが素晴らしい。
5.【ツマミ】タラ白子
鱈白子のクリーミーで生っぽい温かみがよい。口に含めば、雲間に漂うような至福感を感じる。河豚ほどの格調はないものの、これは冬場に欠かせない逸品だ。
6.【ツマミ】竹岡の太刀魚の焼き物
このホクホク感は凄すぎる!口に含めば、ほどけてホクホク。そして太刀魚の脂の華やかさに息が詰まりそうだ!
7.【ツマミ】あん肝、数の子、貴醸酒
すぎたに来たらこれだ。甘く煮付けたあん肝、味噌漬けにした数の子、それに貴醸酒。貴醸酒とあん肝の相性。申し分ない。
8.【ツマミ】対馬の穴子の茶碗蒸し
ここでしっとりと茶碗蒸し。対馬穴子の繊細さと卵のやさしさに癒される。
9.【ツマミ】佐島の煮だこ
実は、わたしは、すぎたさのこの煮だこに滅法目がない!甘くて色気を感じさせる香りがあって、テクスチャもいささかのささくれもない。...佐島の最高級品を使われているのだけれど、同じ食材のものを他所で食べても絶対にこの素晴らしさは体感できないと思う。つまり、すぎたさんの仕事の素晴らしさが光りまくる逸品である!
10.【ツマミ】対馬の穴子の白焼き
対馬の穴子は優しくも麗しい。仄かな温かみとともに、そっと添えられるような慎ましやかな味わいに心が静かに落ち着く。
11.【握り】コハダ
ここから握りの始まりである。すぎたさんでの握りは基本的にコハダがスタートである(一度だけ墨烏賊であったことがあるけれど)。これが素晴らしい。この一貫目の感動で、絶対にこれはお代わりだと、のっけから確信する。...コハダ。心に渦巻く不協和音を奏でているような独特な魚。わたしは、すぎたさんで出されるコハダがどこの鮨店より好きである。
12.【握り】鯛
これも調子が高かった。白身の王様の風格を最も感じることができのは、このくらいの時期からではないだろうか...
13.【握り】さわら
哀愁を帯びた和音。...いつも書くことだけれど、わたしには、さわらの味わいはそんな風に聴きとれる。
14.【握り】かすご
鯛の赤ちゃんだ。真鯛ほどの王者の風格はないものの、薄紅色の淡い色調のように、鯛の風味をそこはかとなく感じ取ることができる。
15.【握り】赤身漬け
やはり赤身はうまい!慎ましやかに香る血潮の香りにうっとりとする。
16.【握り】中トロ
背かみ。実に端正な一品である。やはりマグロは中トロが旨い。鮪の脂に、鮪の血潮が、ほのかに化粧を施すように、まろやかな衣をまとわせている。
17.【握り】鯵
どんちっちほどの素晴らしさはないものの、やはり誰が何と言おうと鯵は旨い。重ねにした肉厚な身肉(みしし)にのった脂のりにはうっとりとするものがある。
18.【握り】大トロ
燃え上がるような旨みが、一瞬明滅してすっと解ける...
19.【握り】巻きえび
出す寸前に茹で上げられた海老。ほなかな温かみと甘みが心地よい。
20.【握り】鰤
食べ手を圧倒するような脂のりがある。天然鰤とはかくも脂のりのよい食材だったのかと驚きを隠せない。
21.【握り】雲丹
雲丹の花びら一枚一枚に、感情をうちに秘めたような雲丹の香りの分子が緻密に濃縮されていて、ため息が漏れる...
22.【握り】北寄貝
しゃきしゃきとした小気味よい食感を通して、磯の風味が口中に漂う。
23.【握り】墨烏賊
墨烏賊の季節だ。肉厚で、信じられないくらいに歯切れよく、こってりとした旨みをまとっている。素晴らしい。
24.【握り】ミル貝
サクサクとした潔い歯ざわりと豊かに広がる潮の甘味がミル貝の身上だ。貝の中でももっとも味調がとれた味感がある。
25.【握り】鰹の大トロ
長崎壱岐の迷い鰹大トロ。これが何とも素晴らしかった。鮪の大トロよりもしっかりとした味わいの主張があって、シルクのような口どけにしばし言葉を失う。
26.【握り】金目鯛
わたしは、すぎたの金目鯛の握りに滅法目がない。金目鯛の脂は、たわわであるにもかかわらず、香りと気品を感じるのだ。今日はこれを締めの一品と決めて、したたかにやられて幕引きとなる。
何度訪問しても溜息が出るほど素晴らしい。その日の陽光や風向きの加減で、と村になったりすることもあるけれど、この日の夜は何のためらいもなく、「日本橋蛎殻町 すぎた」の大将こそ、日本一の料理人だと呟かずにはいられなかった。
【握り】コハダ
【握り】鯛
【握り】さわら
【握り】かすご
【握り】赤身漬け
【握り】鯵
握り】大トロ
【握り】鰹の大トロ
銀杏
【ツマミ】鰈(かれい)
【ツマミ】長崎壱岐の迷い鰹
【ツマミ】仙鳳趾の牡蠣
【ツマミ】鰯の海苔巻き
【ツマミ】タラ白子
【ツマミ】竹岡の太刀魚の焼き物
【ツマミ】対馬の穴子の茶碗蒸し
【ツマミ】あん肝、数の子、貴醸酒
【ツマミ】佐島の煮だこ
【ツマミ】対馬の穴子の白焼き
【握り】コハダ
【握り】鯛
【握り】さわら
【握り】かすご
【握り】赤身漬け
【握り】中トロ
【握り】鯵
【握り】大トロ
【握り】巻きえび
【握り】鰤
【握り】雲丹
【握り】北寄貝
【握り】墨烏賊
【握り】ミル貝
【握り】さわら
【握り】鰹の大トロ
【握り】金目鯛
2017/12/23 更新
2017/10 訪問
魚は香りのものであることを思い出させてくれる!...「日本橋蛎殻町 すぎた」、魚の滴るような香りを堪能したいのであれば、やはりここしかない!
付け台にふわりと寿司ネタがおかれた途端、滴るような魚の香りに息を呑む。これを体感するたびに、驚きだの悦びだのといった感情にとらわれることのむなしさを思い知らされる...いつの間にかあらゆる感情の遠く向こうに音もなく誘われ、緊張とはおよそ無縁の滑らかな時空にたゆたっている...この武装解除の力学にそっくり身を預けるのはいつものことながらなんとも快い体験だ。
2017年9月17日(日)。お昼は初めてであったけれど、夜と何ら変わらぬ素晴らしかったこの日のお食事会について、以下できるだけ詳細に書き綴っていきたい。小雨のそぼ降る水天宮。10:55に「日本橋蛎殻町 すぎた」の店前で今日のお連れさまと落ち合う。ほどなく女将が暖簾をかけ、店内に招じ入れてくれる。本日は、カウンター一番奥の席だ。ビールで喉を潤すほどに一品目だ。
1.【ツマミ】枝豆
香りがよく味も良い。自然そのものの爽やかな香りと仄かな甘味をたたえている。
2.【ツマミ】高知の天然シマアジと北海道の北寄貝
夏らしい逸品だ。北寄貝のシャリシャリとした味調が心地よい。
3.【ツマミ】鰯、大葉、浅葱、酢漬けにした茗荷の巻物
脂が非常に強い。これは、山葵をたっぷりつけて醤油でいただく。しかしでも鰯のこの良質な脂のりはどうだろう!...あの源氏物語の紫式部は、鰯に目がなかったという。その式部にこんな歌が残っている。
"日の本にはやらせ給ふいわしみず まいらぬ人はあらじとぞ思ふ"
簡単にいうと、「日本人なら鰯が嫌いなんて人はいないわ!」というくらいの意味なのだけれど、わたしは決定的に式部の肩を持ちたいと思う。
4.【ツマミ】穴子白焼き
穴子の白焼きと続く。その味わいはきわめて上品。これも匂い立つような穴子の風味をしめやかに感じさせる素晴らしい逸品であった。
5.【ツマミ】甘く煮付けたあん肝といくらの漬け、の貴醸酒(きじょうしゅ)と一緒に...
脂質の乗ったあん肝は、ねっとりと舌に絡みつき、深く溜息をつきたくなるような濃厚な風情を漂わせる。甘めのお酒とあん肝の相性が抜群。あわせて悩ましいまでのいくらの凝縮感を堪能する。
6.【ツマミ】太刀魚の炙り
銀の輝きが眩しいばかりである。太刀魚特有の脂のりよさで、食した後まで深い旨みが口中に残り続ける...
7.【ツマミ】タコの柔らか煮
香りがいい。そして、口中でほろほろっとほどけて、甘い。これは堪らない。こういうものをいただくと、これが本当のタコだと何の迷いもなく断定したくなる!
8.【ツマミ】たいらぎの西京焼き
しゃきしゃきとした食感の中に西京焼きの風味が香る。そんな中、たいらぎの旨み、甘味が遠くに感じ取れるのが嬉しい。
9.【ツマミ】鮑の肝
チューブから搾り出して固めたような濃厚さに溜息がでる。これはワインと合わせてもらっても絶対によいはず!香るなぁ。
10.【ツマミ】茶碗蒸し
つるりとしたテクスチャの向こうに卵の風味優しくほっと落ち着く。
11.【握り】こはだ
ここから握りだ。まずは、こはだ。すぎたさんの鮨はシャリのほどけ感が素晴らしい。ここしかないという奈一点で握られている。また、こはだスタートというのも頗(すこぶ)るよい。少し存在感のあるこの匂いの存在感がこはだの醍醐味だ!
12.【握り】鯛
一口でいただくが、その噛みごたえ、香り、どれをとっても白身魚の王様である。鯛独特の王者の風格がいつまでも鼻腔のあたりに漂う。
13.【握り】すみいか
すみいか特有の肉厚で歯切れよい。それでいて柔らかく、独特の力強い風味が端然と鼻腔をくすぐる。
14.【握り】三重の鯵
この丸みを帯びた、光り輝くアピアランスはどうだろう!一口口に含めば、脂がのり、身はしっかりしていて、甘みが強い。
15.【握り】鰆(さわら)
鰆(さわら)はやはり旨い。脂肪の甘味が口中豊かに広がる。低い哀愁を帯びた和音を耳にしたときのように心が落ち着いてくる...
16.【握り】大間の赤身の漬け
まぁまだ冬のマグロじゃないけど、夏マグロという感じか。鮮烈で若々しい血潮の香りに背筋が伸びる!
17.【握り】大間の中トロ
んん、冬場の圧倒するような迫力はないものの、実に端正な一品である。やはりマグロは中トロが旨い。
18.【握り】鰯
巻物は酢締めにして、塩で締めて一日寝かせている。今日仕込んで、塩占めだけにしている。最初の巻物よりも優しい印象だ。でもこれも実に味わい深い逸品だ。
19.【握り】銚子の金目鯛
若干炙った金目鯛の旨みに圧倒される。この脂の落とし具合がなんとも憎い。口に放り込めば、あっというまにホロホロと溶けてしまう。
20.【握り】車海老
大車海老を湯がいてトンと二つに割って出すところもあるけれど、やっぱり海老はこのサイズが一番よいと思う。ほわりと漂う海老の優しい香りにひとしきり満足だ。
21.【握り】雲丹
これは恬淡ですっきりとした味わいを持っている。軍艦にしないのもすぎたさんの特徴だ。
22.【握り】穴子塩
さらりとほどけるような舌ざわりで、ホクホクと優しく穴子の香りを伝えてくる感じに好感がもてる。質朴な感じである。
23.【握り】穴子ツメ
このツメの甘みと穴子の組み合わせもまたよい。ツメをつけることによって金時芋みたいな様相を呈する穴子は、毎回いただいておきたいと思う。
最後に、アサリ汁と美しすぎる玉で一通りとなる。
...「日本橋蛎殻町 すぎた」で繰り広げられる贅沢な時空は何者にも代えがたいと断言したい!
...みなさんもご存知のようにこのお店は途轍もなく予約困難だ。朝9時から電話をかけまくって、お昼近辺でやっと電話がつながったものの、電話の向こうで女将さんから申し訳なさそうに"ソール・ドアウト"の報告をいただくとき、もうその日は何もやる気がしなくなるくらいにへこむのだけれど、でもこのお店は、それでも通い続けなくてはいけないとわたしに思い込ませる鮨の名店なのだ!
【握り】大間の中トロ
【握り】すみいか
【握り】銚子の金目鯛
【握り】鯛
【握り】大間の赤身の漬け
【握り】鰆(さわら)
【握り】雲丹
【握り】穴子ツメ
【ツマミ】枝豆
【ツマミ】高知の天然シマアジと北海道の北寄貝
【ツマミ】鰯、大葉、浅葱、酢漬けにした茗荷の巻物
【ツマミ】穴子白焼き
【ツマミ】甘く煮付けたあん肝といくらの漬け、の貴醸酒(きじょうしゅ)と一緒に...
【ツマミ】太刀魚の炙り
【ツマミ】タコの柔らか煮
【ツマミ】たいらぎの西京焼き
【ツマミ】鮑の肝
【ツマミ】茶碗蒸し
【握り】こはだ
【握り】鯛
【握り】すみいか
【握り】三重の鯵
【握り】鰆(さわら)
【握り】大間の赤身の漬け
【握り】大間の中トロ
【握り】鰯
【握り】銚子の金目鯛
【握り】車海老
【握り】雲丹
【握り】穴子塩
【握り】穴子ツメ
アサリ汁
美しすぎる玉
2017/10/11 更新
2017/05 訪問
付台の鮨が、ゆったりと優雅に沈む...「日本橋蛎殻町 すぎた」、伏し目がちに、手元に語りかけるように握る親方の所作を眺めることはカウンターに座ったものに許された至上の贅沢である
「日本橋蛎殻町 すぎた」さんのカウンター席は、贅沢な瞬間にみちあふれている。親方、杉田孝明さんは、伏し目がちに少しばかり手元から視線を逸らしつつ、しかし優しく語りかけるように珠玉の鮨を握り続ける...その流れるような所作は、ある静謐な感動を見るものの体のすみずみまでゆきわたらせる...
2017年5月23日(火)、「日本橋蛎殻町 すぎた」での4時間に及ぶ素晴らしいお食事会について、以下できるだけ詳細に書き綴っていきたい。本日は、これまで度々いろいろなお店をご一緒させていただいてるレビュアーさんのお誘いで、20:30からの「日本橋蛎殻町 すぎた」さんの会である。予約至難で有名なこのお店の予約はもはやプラチナチケットだ!レビュアーさんに大感謝である!
本日は3名の会で、全員がそろったところでさっそく親方に始めていただく。最初はグラスビールにして、後は鮨ネタに併せて親方に日本酒を選(よ)っていただく。ビールで喉を潤すほどに1品目が饗される。
1.【ツマミ】わけぎの突き出し
前回は、冬に訪問し、最初の一品目はきぬかつぎだったけれど、今回の突出しは、ねぎの風味かおる爽やかな一品である。
2.【ツマミ】アオリイカと真子鰈
最初のお刺身が饗される。アオリイカと真子鰈。アオリイカは3kg台のものだそうだ。これを生姜醤油でいただく。やはり、夏場になったらこれはいただいておきたい一品だ。握りはスミイカの歯切れの良さが小気味よいけれど、つまみでいただくならなんといってもアオリイカこそがイカの王様だ。
真子鰈の天駆けるような澄み切った味調も素晴らしい。この鰈の繊細な味調を肝などとあわせてしまうのではなく、シンプルに出すあたりが杉田さんの素晴らしさだ。
3.【ツマミ】千葉の銚子の鰹
鰹は、よく戻り鰹とか上り鰹ということが言われるけれど、今はあまりそういう区別ははっきりしないそうだ。しっかりとした旨味があるけれど、爽やかな印象を受ける。
4.【ツマミ】酢締めにしたニシンと浅葱の巻物
ニシンはコハダの仲間である。なので味にしっかりした主張があるけれど、どこかしら優しい潤みのようなものが感じられる。
5.【ツマミ】甘く煮付けたあん肝とホタルイカ、新政の貴醸酒(きじょうしゅ)を添えて
脂質の乗ったあん肝は、ねっとりと舌に絡みつき、深く溜息をつきたくなるような濃厚な風情を漂わせる。甘めのお酒とあん肝の相性が抜群だ。そこにホタルイカの仄かな肝の苦味が抜群のマリアージュを演じたてる。
6.【ツマミ】真魚鰹の幽庵焼き
"幽庵焼き"とは、お醤油、お酒、味醂で、食材をひと晩じっくり漬け込んで、炭火焼にしたもの。真魚鰹は、今から夏、あと秋口にもっともよい時期を迎える。しかしこの旨みと甘味の凝縮感はどうだろう!迫力がある。
7.【ツマミ】子持ちヤリイカ
ヤリイカ独特の歯切れの良い食感。ネットリとしたアオリイカやコウイカの食感も素晴らしいけれど襟を正した、キリっとしたヤリイカの佇まいもまた夏らしくて素晴らしいものがある。
8.【ツマミ】シマエビの頭を殻ごと焼いて中の海老味噌を取り出してペースト状にして味をつけたもの
殻を炙っているため香ばしい味わいだけれど、カニ味噌に比べてずっと繊細な甲殻類の味わいだ。
9.【ツマミ】ホタテの磯辺焼き
熱々の状態で手渡しされる。磯の香りとホタテの特有の甘みに圧倒される。旨みが凝縮されており、思わず黙って味わってしまう。
10.【ツマミ】煮タコ
吸盤に大きさのバラツキがなく、端正な並びをしている。これはメスである。いささかも噛みにくさがなく、筋肉の中に蛸の脈打つ血の流れが感じとれるかのようだ。
11.【ツマミ】数の子の味噌漬け
味噌の仄かな甘みがそっと優しく数の子のプチプチとした食感を包み込むのが心地よい。
12.【ツマミ】タイラガイの西京焼き
しゃきしゃきとした食感の中に味噌の風味が香る。そんな中、タイラギの旨み、甘味もしっかりと感じ取ることができる。
13.【ツマミ】ほっき貝
ほのかな温かみが感じられる。食感は、柔らかく、これも貝独特のしゃきしゃきとした食感が心地よい。なんとも身の厚い立派な一品である。
14.【握り】3日熟成のコハダ
ここから握りとなる。「日本橋蛎殻町 すぎた」さんの鮨飯は抜群に旨い。酢が強すぎず、丁度塩梅がよい。1品目は、3日熟成のコハダ。コハダに対する仕事も秀逸である。魚を殺しすぎず、また逆に青魚の生臭さがたたない程度に酢じめしてあるその絶妙なバランスが、途方もなく素晴らしい。他の青身魚にはない、コハダのあの小悪魔的な存分に堪能する。
15.【握り】縞鯵
縞鯵は、"鯵"という字がついているけれど、「日本橋蛎殻町 すぎた」さんでは、この魚は、青身ではなくて、白身のものと見做して扱っているとのことだ。しかし、この透けるような薄紅さした蠱惑的な色調が素晴らしい。一口含むとコリコリとした軽快な噛み心地の中にも、ねっとりと舌にまつわりつく食感が感じ取れ、酸味の強い青魚にはまったくないといってよい優雅な香りをもっている。
16.【握り】桜鱒
軽く燻したものを握りにしてある。ごくごく軽く燻すことによって藁の薫香がほのかに漂う。香りを愉しむ嗜好品のような逸品である。
17.【握り】かすご
鯛の稚魚...かすご。その薄紅色の色調から"桜鯛"ともいわれるこの魚の握りを頬張れば、いまだ真鯛ほどの王者の風格はないものの、淡いそこはかとない鯛の香りを、遠くに聞き分けることができる。
18.【握り】淡路の真鯛
付け台で深く沈んだ鯛の握りをつまみ上げ、一口でいただくが、その噛みごたえ、香り、どれをとっても白身魚の王様である。鯛独特の風味がいつまでも鼻腔のあたりに漂う。
19.【握り】塩釜の60kgの鮪トロ
冬場の濃厚な旨味をまとったトロも素晴らしいけれど、夏場の涼やかな大トロも大変結構だ。
20.【握り】浜田のどんちっち鯵
"どんちっち"とは島根県西部沖で獲れる真鯵のブランド名だ。島根県の方言で"お囃子(おはやし)"を意味する言葉のようだ。日本海に生息するプランクトンの影響で、脂ののりが良く、旬の初夏にはトロにも匹敵するとも言われる。杉田さんいわく、築地で一見しただけで他の真鯵との違いがわかるそうである。今回、始めていただいたけれど、肉厚で、豊潤な旨味のある逸品であった!
21.【握り】金目鯛
これが抜群であった!王者の風格とでも言おうか...有無も言わせぬ絢爛な脂の旨味が溢れだし、まるで食べ手を見下したように傲然(ごうぜん)と圧倒してくる!これはお代わり必死の逸品である。
22.【握り】巻海老
直前に茹で上げて、水でひと肌まで温度を落とした海老の握り。上品な海老を、絶妙の温度帯でいただく幸せを噛みしめる。
23.【握り】馬糞雲丹
馬糞雲丹。濃厚で感情を内に秘めたような力強さがある。
24.【握り】塩釜の鮪の赤身の漬け
ここから追加となる。わたしは、まず鮪の赤身の漬け。これが絶品であった!一口でいただくと、瞼の裏に、深く燃えるような赤が一面に広がり、口中は鮪の香りで満たされる。と、ひと粒ひと粒の存在感を感じ取れるほどに絶妙に炊き上げられたシャリが、赤酢の風味とともに口の中でほどける中、赤身の澄み切った血と鉄の香りが、真っ直ぐに立ち昇り、いつまでも鼻腔をくすぐり続ける...素晴らしい逸品だ!
25.【握り】金目鯛
居てもたってもいられず、思わずお代わり!
26.【握り】穴子塩
柔らかい。仄かな塩が穴子本来の味わいを引き立てる。穴子は、これからどんどん良くなっていくのだろう。
27.【握り】穴子ツメ
ふっくらとした金時芋をいただいているような至福感に見舞われる。
28.あさりのお吸い物
五臓六腑に滲みわたるあさりの滋味に深い感動を覚える。この時間がいつまでも続いて欲しいとさえ思う。
29.玉
一片のカスも混入していない実に美しい玉をいただいて一通りとなる。...あまり頻繁に訪問できないものだから、「日本橋蛎殻町 すぎた」さんの訪問の際には、しっかりとお腹を空かせて臨むようにしている。今回は、ツマミはご用意があるものは全ていただくことができた。次回は、お鮨全品で行こうと思う。次回は9月の訪問となる。今から待ち遠しい!
[握り]塩釜の鮪の赤身の漬け
[握り]金目鯛
[握り]浜田のどんちっち鯵
[握り]3日熟成のコハダ
[握り]塩釜の60kgの鮪トロ
[握り]縞鯵
[握り]淡路の真鯛
[握り]馬糞雲丹
付台
[ツマミ]わけぎの突き出し
[ツマミ]アオリイカと真子鰈
[ツマミ]千葉の銚子の鰹
[ツマミ]酢締めにしたニシンと浅葱の巻物
[ツマミ]甘く煮付けたあん肝とホタルイカ、新政の貴醸酒(きじょうしゅ)を添えて
[ツマミ]真魚鰹の幽庵焼き
[ツマミ]子持ちヤリイカ
[ツマミ]シマエビの頭を殻ごと焼いて中の海老味噌を取り出してペースト状にして味をつけたもの
[ツマミ]ホタテの磯辺焼き
[ツマミ]煮タコ
[ツマミ]数の子の味噌漬け
[ツマミ]タイラガイの西京焼き
[ツマミ]ほっき貝
[握り]3日熟成のコハダ
[握り]縞鯵
[握り]桜鱒
[握り]かすご
[握り]淡路の真鯛
[握り]塩釜の60kgの鮪トロ
[握り]浜田のどんちっち鯵
[握り]金目鯛
[握り]巻海老
[握り]馬糞雲丹
[握り]塩釜の鮪の赤身の漬け
[握り]金目鯛
[握り]穴子塩
[握り]穴子ツメ
あさりのお吸い物
玉
日本橋蛎殻町 すぎた
2017/05/29 更新
2016/12 訪問
ここはとにかく美しい!...「日本橋蠣殻町 すぎた」、その流麗なまでの握りの所作に心奪われる。嘘のような透明さで描き上げられる鮨の珠玉の連なりに言葉を失う!
「日本橋蠣殻町 すぎた」。言わずと知れた誰もが一度は訪問を果たしたい鮨の名店である。なので、日ごろから、すぎた、すぎた、と芸もなくつぶやき続けてきたわけだけれど、芸はなくとも、つぶやくことだけは続けておいてよかったというものだ。なんと、日ごろから懇意にさせていただいている敬愛する"日本海老マヨ協会"の会長さまから「マドさん、すぎた1席あるけど、いかが?」と待ってましたの神のお声掛け!もちろん、2つ返事で参加の意向をお伝えする!
かくして、2016年12月9日(金)17:30、初の「すぎた」訪問の夢がかなう。この日は、これまた、日ごろから尊敬してやまぬ食通のご夫婦もご参加されるとのことで、素晴らしいお食事会となった。しかしでも、凄い凄いと耳にはしていたけれど「すぎた」の素晴らさはわたしの想像を軽々と超えてきた。以下、興奮を抑えつつ、できるだけ詳細にレポートしていきたい。
お店はピッタリ17:30に暖簾がかかり開店する。カウンター席に案内され、まずはシャンパンで喉を潤していると、ほどなくご主人、杉田孝明さんがカウンター越しにご挨拶され、おまかせのコースがスタートする。
1.きぬかつぎ
きぬかつぎには、"石川小芋"という品種のものを使われているそうだ。皮を剥いても食べてもよいし、また、皮はしっかりアク抜きをしているので、そのまま皮ごと食べてもよいとのこと。"石川小芋"は小ぶりの球形で美しい白い肌をしている。ねっとりした食感とコクのある味わいがなかなかよい。上に乗せられた胡麻塩と炒り雲丹塩も、小芋の質朴な味わいに小気味よいアクセントを添えている。
2.三重、尾鷲(おわせ)のカンパチと九州、熊本のカワハギのお造り
カンパチは、三重、尾鷲(おわせ)で獲れた17.6kgの大物。お醤油とわさびで食べるようご案内がある。カンパチはお塩でしめて2週間ぐらいねかせたものだそうだ。熟成されたカンパチの脂のりが素晴らしい。
カワハギは九州、熊本で獲れたもので、今朝しめたものだそうだ。肝とあわせていただく。カワハギの肝...魚の肝の中でも5本の指に入る逸品ではないかと思う。河豚のような華麗さはないけれど、したしたと磯に降り募る時雨(しぐれ)にも似た慎ましやかな味調にうっとりする。また、カワハギの切り身の澄み切った佇まいは、天高き秋の空の透明感を思わせる!
3.しめ鯖と大葉、浅葱の巻物
「わさびたっぷり付けていただいて、お醤油ちょっとで召し上がってください...」とのご案内がある。浅葱を挟んでいる感じがよい。おそらく芽ネギでは、浅葱の刻み薬味のこの香りはでないだろう。
4.鱈の焼き白子(雲子)
「すぎた」さんでは、鱈白子は、塩でちょっともんで、2時間ぐらいずっと流水にさらしておくそうだ。そしてシンプルに軽く炙って出すそうである。この一品、にごり酒と一緒に饗していただく。鱈白子のクリーミーで生っぽい温かみがよい。掌で口中に放り込んだ途端、雲間に漂うような至福感を感じる。
5.酒蒸しにしたあと10日味噌漬けにした牡蠣、そしてあん肝
10日味噌漬けにしているとはいえ、饗していただいた途端、ふうわりと牡蠣の香りが鼻腔を刺激する。味噌の風味のその遠く向こうに、なまりのような銅の風味がそこはかとなく感じ取れる。これこそが牡蠣の醍醐味だ!あん肝には、新政が猪口で添えられる。新政とあん肝との相性がなんとも素晴らしい。
6.ノドグロの焼き物
このノドグロという魚の溢れるような上質の脂にはいつも感嘆するほかない。"白身のトロ"と言われるのも納得の脂のりで、ノドグロ独特の香味をしっかりと感じることができる。
7.貝の炙り
ここで、貝の炙りがつまみで饗される。香ばしい香気とシャリシャリとした食感にひとしきり好感が持てる。
8.佐島のタコ
大将曰く、こういう風に鮨屋でつまみとしてタコを出す場合、やはり明石よりも佐島のタコの方がよいとのことだ。佐島のタコは、身肉(みしし)が厚く太く、煮あがってからの甘みが濃い感じがする。
9.対馬の穴子の焼き物
時期によって穴子は使い分けるそうだけれど、今は対馬のものがよいということだ。その味わいはきわめて上品。九州産穴子の特徴が十二分に引き出された一品である。
10.筋子の味噌漬けと、牡蠣を酒蒸しにして酒粕と白味噌をあえたもの
筋子は味噌にほのかに浅く漬けていて、そこまで卵黄っぽくない。牡蠣の方はこれもまた牡蠣の存在感が堪能できる白味噌和えとなっている。
11.たいらがいの磯辺巻き
たいらがいの炙りはなんといってもこの食べ方が王道だ。えぐるようなたいらがいの貝の風味と、焼き海苔から漂う海の風味が口中で絶妙の掛け合いを演じ立てる。
12.牡蠣の大根おろし
大ぶりの牡蠣にシンプルに大根おろしをのせたもの。海がこぼした大粒の涙である。文句のつけようがない。ほのかに口の中に広がる牡蠣の甘味が素晴らしい。
13.鹿児島いずみの墨烏賊の握り
ここから握りとなる。まずは墨烏賊から。紛れもなく墨烏賊の肉のしっかりとした存在感が感じられ、歯触りもコリコリとして格別だ。ただし硬さはなく、噛みしめるほどに烏賊特有のねっとりとしたテクスチャに変化してくる。
また、「すぎた」さんのシャリは別格だ。酢が立ちすぎておらず、品がよく甘みと酢のバランスが何とも素晴らしい。シャリにお水と酒粕と甘酢を、絶妙なさじ加減でブレンドした感じだ。いくつか鮨を食べ歩いた中で、わたしはこここのシャリが一番好きかもしれない。
また、大将の一分の無駄もない握りの所作は、いつまでもいつまでも観ていられる。その所作からは、流れるようなリズム感を感じ取ることができて、食べ手に一種の快感を与える効果がある!
14.塩じめにして4日の鯛の握り
鯛の味調が本当にのってくるのは真冬である。一般に鯛の旬は春だと思われているけれど、それは鯛が産卵のため浅瀬に上がってきて、容易に捕獲できるからで、魚体の味わいの旬とはまた区別して考えられるべきものだと思う。
その観点でいうと、実は春先のものは、滋養は卵にとられてしまってそれほど味わいはない。これに対して、真冬の鯛は海の奥深くに棲息し、産卵を控え大量に餌を食べ、魚体が最も充実している。この鯛の握りは素晴らしかった。鯛の冬場の深場の迫力に圧倒される。
15.鰆(さわら)のわら焼きの握り
鰆(さわら)はやはり旨い。一口口に含むと鰆の脂肪の甘味が口中豊かに広がる。低い哀愁を帯びた和音を耳にしたときのように心が落ち着いてくる...また、この一品、わさびではなく、辛子味噌を挟んでいる。...面白い。わさびのあのしめやかに浸透するような、それでいてツンとするような辛味ではなく、味噌の風味の香ばしい華やかな辛味が、わら焼きのスモーキーな鰆の味わいとぴったりである。
16.しまえびの握り
プリプリっとした厚い身が特徴的なえびである。甘えびともぼたんえびとも違うヤミツキになる味わいである。
「すぎた」さんの鮨ネタで、仕事をしていないのは、ウニと中トロぐらいで、あとは全てひと仕事、ふた仕事施している、とのことだ。
17.大間の中トロの握り
「今日は大間ですね、今の時期は、だいたい津軽海峡のどっかで獲れたものですね」とのことである。 実に端正な一品である。やはりマグロは中トロが旨い。鮪の脂に、鮪の血潮が、ほのかに化粧を施すように、まろやかな衣をまとわせている。
18.和歌山の鯵の握り
大将曰く、鯵は季節によって全然違うとのこと。「僕が一番好きなのは、夏の終わりぐらいの島根県西部沖で獲れるマアジ、"どんちっち鯵"」とおっしゃっていた。ただ、この和歌山の鯵もなかなかのものであった。身肉が肉厚で、旨味が凝縮している感じを受ける。
19.鰤(ぶり)の握り
寒ブリ。胸がときめく!"鰤"の字が表すごとく、この魚は師走に一番脂がのってくる魚だ。その濃厚な心地よい酸味にうっとりする。枯淡に達したとでも表現したくなるような過つことのないしっかりとした旨味を感じる。
20.迷い鰹の握り
通常鰹は、夏くらいまで太平洋を遡上し宮城県沖まで達し、今度は秋口から冬にかけて、遡上してきた海域を南下して九州沖を目指す回遊魚である。ただ、中には太平洋側を北上するのではなく、日本海側に迷い込む鰹もいて、これを"迷い鰹"という。
太平洋側での漁は、土佐明神丸に代表されるような1本釣りが有名であるけれど、日本海側での漁は、定置網が中心になるという。今回のこの鰹も定置網にかかったものとのことだ。一口いただくが、これが、鰹とは思えない味わいなのだ。あの鰹特有の鉄分を感じさせる血の風味がなく、まず脂の甘みがドンときて、それがずっと続く感じである。
"迷い鰹"は日本海に迷い込んで、メジマグロの群れに交じって自分もマグロと思い込み、エサもマグロと同じように烏賊を食べて仕上がっていく。そうするとこんな鰹ならざる味わいになるとのことだ。
21.巻海老の握り
サイズ的には、才巻と車の間くらいのぎりぎりの海老のとのこと。つまり"巻"である。車海老は、その大きさによって呼び方が変わる。一番小さいものから、"小巻"、"才巻"、"巻"、"車"、"大車"となっていくのだけれど、わたしは、海老は"巻"サイズのものが一番好きだ。「すし匠」もこのサイズのものを使っていたように思う。
22.北海道の落石の馬糞雲丹の握り
馬糞雲丹。素晴らしい。ひとつひとつの香りの分子が緻密に濃縮された力強い香気にうっとりとする。
23.長崎の穴子の握り(塩)
その味わいはきわめて上品。長崎産穴子の特徴が十二分に引き出された一品である。
24.長崎の穴子の握り(ツメ)
ふっくらとした金時芋をいただいているような至福感に見舞われる。穴子という魚も、鯛と同様にわたしは今の時期のものが一番好きである。穴子の旬は一般に梅雨とされているけれど、冬場の深場のものの方に調子の高さを感じてしまうのだ。
25.玉
焦げや焼きカスが一切混入していない実に綺麗な玉である。
26.大あさりのお味噌汁
お味噌汁をいただいて一通りとなる。
実は、わたしにとって、お鮨屋さんというのは難しい存在である。わたしも、わたしなりに銀座の有名どころの鮨店とかいくつかお伺いしてはいるけれど、やはり、お鮨は難しい、というのがその印象だ。もちろん、いずれのお店も仕入れに力を入れられていて「まずい」なんていうことはない。でも、では、そのお店を再訪するか、となると話は別になる。
実のところ、わたしが何度でも再訪したいと思うお鮨の店は、
赤羽橋の「天本」
千葉の「寿司栄」
この2店だけである。「天本」は魚の香りに対するこだわりで、他の追随を許さないものがある。ここは間違いない鮨の名店である。「寿司栄」は、日本海の恵みをファナティックに追求している点で、食べてを挑発する凄みを持っている。ここも毎回食事終わりに次の予約を入れてしまう訪問をやめられないお店である。なにかそうした強烈なアピールがないとわたしは再訪したいとは思わない。
しかしでも、今日この日、何が何でも再訪しなければと思う鮨店が1つわたしの中で追加された。「日本橋蠣殻町 すぎた」。ここは、わたしがお鮨屋さんにずっと求めてきた、流麗な美しさを兼ね備えているという点で抜きん出たお鮨屋さんである!
塩じめにして4日の鯛の握り
鹿児島いずみの墨烏賊の握り
大間の中トロの握り
鰆(さわら)のわら焼きの握り
しまえびの握り
長崎の穴子の握り(塩)
長崎の穴子の握り(ツメ)
迷い鰹の握り
きぬかつぎ
三重、尾鷲(おわせ)のカンパチと九州、熊本のカワハギのお造り
しめ鯖と大葉、浅葱の巻物
鱈の焼き白子(雲子)
酒蒸しにしたあと10日味噌漬けにした牡蠣、そしてあん肝
ノドグロの焼き物
貝の炙り
佐島のタコ
対馬の穴子の焼き物
筋子の味噌漬けと、牡蠣を酒蒸しにして酒粕と白味噌をあえたもの
たいらがいの磯辺巻き
牡蠣の大根おろし
鹿児島いずみの墨烏賊の握り
塩じめにして4日の鯛の握り
鰆(さわら)のわら焼きの握り
しまえびの握り
大間の中トロの握り
和歌山の鯵の握り
鰤(ぶり)の握り
迷い鰹の握り
巻海老の握り
北海道の落石の馬糞雲丹の握り
長崎の穴子の握り(塩)
長崎の穴子の握り(ツメ)
玉
大あさりのお味噌汁
日本橋蠣殻町 すぎた
日本橋蠣殻町 すぎた
2016/12/13 更新
これが握りのはじまりです...という言葉の代わりに、小粋な銀鼠(ぎんねず)色のこはだの握りが静かにすっと付け台に饗される。ひとくち頬張ると、肉厚なこはだのもっちりとした身肉から漂う蠱惑的な香りに言葉を失う。
普通の人が饒舌に念を押したくなるときに、「蛎殻町 すぎた」は念を押さず、表面に現れない丹念な仕事を施したひとネタひとネタを、言葉少なに食べ手にゆだねる。食べ手がここで受け取るのは、一品一品に丁寧に注ぎ込まれたこのささやかな信頼関係なのだ。
2020年11月21日(土)20:00。いつもながら、あの素晴らしい体験をまた感じ取れる幸せに胸膨らませつつ、お伺いする。
1.【つまみ】銀杏
秋のつまみである。もっちりとした肉感と仄かな甘みを愉しむ。
2.【つまみ】長崎県産かわはぎ
美しいかわはぎのつまみ。初冬の朝まだきの大気のように澄み切った味調のかわはぎを、肝醤油でいただく。
3.【つまみ】北海道、仙鳳趾の牡蠣
濃密でミルキーな海のこぼした一粒の涙を、大根おろし、酢橘、わさびでさっぱりといただく。うん、素晴らしい。
4.【つまみ】穴子の白焼き
塩焼きにした繊細な味わいの穴子の身肉を、わさびをそっと乗せてお醤油ちょっとでいただく。日本酒が旨すぎる!
5.【つまみ】鱈白子
蒸した雲子。ポン酢しょうゆと浅葱、もみじおろしでさっぱりといただく。鱈白子はこの時期絶対にいただきたい一品である。
6.【つまみ】】甘く煮付けた鮟肝とうにの佃煮、味噌漬けのすじこに新政の陽乃鳥
鮟肝の濃厚な甘さと、陽乃鳥のまろやかさが素敵なマリアージュを演じる。そこに甘いばふんうにと味噌漬けのすじこが悩ましく舌に媚びてくる。
7.【つまみ】ねぎま
これもこの時期のお愉しみ。炙った葱の香ばしい香りが、炙って立たせた鮪の香りを包み込む。
8.【つまみ】北寄貝に生姜醤油焼き
シャキシャキの北寄貝の食感に、醤油と生姜の香ばしい香りがまといつく。旨い。
9.【つまみ】北海道小樽の子持ち蝦蛄
漬け込んで味を含ませたもの。ねっとりとした濃厚な旨み。
10.【つまみ】墨烏賊のゲソの粕漬
烏賊の甘みがしっかりと感じ取れて旨かった。最高の酒肴である。
11.【つまみ】数の子の味噌漬け
これも冬場のすぎたさんのつまみの定番である。この西京漬けがたまらない。日本酒のあてにばっちりである。
12.【つまみ】ホタテの磯辺焼き
ホタテのふくよかな甘みを醤油で炙って香ばしさをまとわせ、さらに海苔を巻いて、のんべぇを打ちのめす逸品となっている。
13.【つまみ】タコの柔らか煮
これもすぎたのお愉しみのひとつ。やまとくんがこの仕事を一任されているとのことだが、どのお鮨屋さんでいただくタコの柔らか煮よりもここのものが旨い!
14.【つまみ】平貝の西京焼き
数の子といい、すぎたさんの西京味噌漬けは素晴らしい。これをもって、本日のすまみはひととおりとなる。
15.【握り】佐賀のなかずみの片身漬け
ここから握りだけれど、いつもながらシャリと魚との寄り添い具合が素晴らしい。シャリにエッジを効かせ過ぎず、仕込みをした魚とちょうどいい塩梅のシャリの仕上げ具合とにやられてしまう。わたしは、こちらのお店のシャリが、あらゆる鮨店の中で一番好きである。
16.【握り】鯛
冬場の深場の鯛はよい。脂がのっていて絶品である。
17.【握り】寒ヒラメの昆布締め
寒ヒラメはやはりこの時期が良い。一種名刀のような冴えわたった切れ味を思わせる味調にどきりとする。
18.【握り】寒鰆
低い哀愁を帯びた和音。そんな印象の魚だ。陽気といより楚々とした落ち着きのある味調だ。
19.【握り】かすご鯛の昆布締め
真鯛の稚魚。...噛み締めると、身の芯までまわった酢が香り立ち、そこはかとない甘さの奥にコクのある鯛の香りが陽炎のように立ち昇る...
20.【握り】大間の中トロ(血合いぎし)の握り
わたしは、鮪はすぎたのものが一番好きである。脂でギラギラしておらず、鮪の旨みを湛えてシュッとまとまっている。そこがすぎたの鮪が好きな理由だ。
21.【握り】赤身漬けの握り
これ、これ、これ!すぎたにお伺いしたら、是非とも味わっておきたい"いなせな逸品"である。赤身の漬けですぎたの右に出る店をわたしは知らない。
22.【握り】大トロの握り
旨味が凄いけれど、ここにもやはりすぎたの品性がある。わたしは、普段あまり大トロに心動かされるタイプではないけれど、中トロ同様、ここの鮪の脂の乗った握りには、心ざわつく!
23.【握り】鰯の握り
紫式部も愛した岩清水大権現("いわし"みずだいごんげん)!うまいなぁ。ちょっと目を閉じて味わっちゃう♪
24.【握り】巻きえびの握り
このサイズ感と、茹でたての海老のぬくもりが優しい。海老の香りの立ち方も素晴らしい。
25.【握り】金目鯛の握り
[b:豪奢な魚である。この握りもすぎたさんに伺ったときの愉しみの一つである。
26.【握り】雲丹の握り
軍艦にしないところがよい。雲丹と抜群のシャリのマリアージュを存分に愉しむ。
27.【握り】墨烏賊の握り
歯切れのよい墨烏賊の握り。甘みがあるけど舌に媚びてこない緊張感がある。実に粋な素材である。
28.【握り】赤身漬けの握り(お代わり)
やっぱり、漬けはお代わりしておきたい!
29.【握り】穴子の握り(塩)
ふっくらとした穴子の味調を塩でさっぱりといただく。
30.【握り】穴子の握り(ツメ)
穴子の煮汁から作った甘めのツメでまったりといただく。
32.玉
最後に美しい玉でしめる。
この一連の見事さ。盛らない美学...だからすぎたは美しい!