5回
2018/05 訪問
めくるめくジビエの魅力に身を焦して 第8弾!...「柳屋」、感性の抑制などそっくり放棄して、この目の前の悦びをまるごと受け入れようではないか!
天然のあまごの炭焼き
イノシシ肉
イノシシ肉
九頭竜川のサクラマスのお造り(70cmくらい)
天然のあまごの炭焼き
天然のあまご
九頭竜川のサクラマスのお造り
(左から)たらのめ、たら、こごみ、やまうど、やまぶきの葉
ふきのとうの天ぷら
鹿のヒレ
鹿のヒレ
尾長鴨
尾長鴨
イノシシ肉
イノシシ肉
春の山菜、行者ニンニク、しめじ、ごぼう、こんにゃく、わらびのお鍋
春の山菜、行者ニンニク、しめじ、ごぼう、こんにゃく、わらびのお鍋
山芋ご飯
山芋ご飯に鍋のお出汁をかけて
いちご
2018/05/19 更新
2017/12 訪問
めくるめくジビエの魅力に身を焦して 第7弾!...「柳屋」、掛針(かけばり)の傷痕(しょうこん)が猛々しく刻まれた鮎の肢体に、神々しい生の躍動を感じる
一度見たら忘れられない精悍な顔。...鮎には、紛れもなく"よい顔"というものがあると思う。...生命の躍動感そのままを切り取ったような顔。...そして、さらに背中にかけて、友釣りの掛針が猛々しく刻まれた傷跡などを目の当たりにすると、その命がけの生命の躍動に胸が熱くなる。
2017年11月26日(日)。「柳屋」さん10人の会は、またしても素晴らしい会となった。この日は特に、お肉も絶品であった!以下この日の素晴らしい献立について書き綴っていきたい。瑞浪駅11:30。本日のメンバーと落ち合う。わたしは、これで柳屋さんは7回目となるが、柳屋さんにお伺いした日で雨天であったためしがない。本日も空はキレイに澄み上がっている。
30分乗車の後、岐阜県瑞浪市猿爪(ましづめ)の柳屋さんに到着する。店内に入り、今日の囲炉裏部屋に入ると、すでに鮎がぱちぱちと音を立てながら焼き上げられている。その大きさに思わず息を呑む。この時期は子持ち鮎の最高の時期であるけれど、腹にはちきれんばかりの卵を抱えている。
まずは、シャンパンで乾杯する。ボーモン・デ・クレイエール グランド・レゼルヴァ ブリュット。泡立ちがきめ細やかで柑橘系の味わい。こいつで長旅の乾いた喉を潤すのは、最良のやり方だ。
1.馬瀬川の子持ち鮎
ダムがあるため、馬瀬川は天然遡上がない。琵琶湖の稚鮎が大きく育ったものだ。その巨体に狼狽(うろた)えながら、少しずついただいてみる。身肉(みしし)のほとんどが卵といっても過言ではない。感情を内に秘めたようなたわわな卵塊に咽(むせり)ながら、深い感動を噛みしめる。この時期の鮎は身というより、この卵をこそ愉しむ時期なのだと得心する。
2.落ち鮎の網にかかったサツキマス
この時期でも、落ち鮎の網にかかるサツキマスはいただいてもよいそうだ。このサツキマスのお造りをいただくと、「柳屋」さんに来たと実感が湧いてくる。
次の白は、ポッジョ アッレ ガッツェ テヌータ デル オルネッライア。上品な果実味、さらに心地よい爽やかさを感じさせる見事なバランスにすっかり気分が良くなる。
3.野鳥の焼き物
これが素晴らしかった。この野鳥は、今の時期が一番うまいと思う。鮮度が良いので、軽めの焼きにしてあるとのことであるが、何とも脳みそが緻密で繊細で旨いのだ。もうしばらくすると、地上に降りて毛虫などを食べだすのだけれど、今の時期は木の上で木の実ばかりをついばんでいると聞いたことがある。やはりこの時期のものは身質がキレイな気がする。
次の赤。ペルナン・ヴェルジュレス。赤は濃いルビー色で深い赤紫。肉付きが良くてコクがあるけれど、バランスが素晴らしい。
4.子猪のロース
じっくりと焼き上げた後、八丁味噌、生姜のしぼり汁、土佐醤油で作ったタレにくぐらせて饗される。猪は豚に近いのでマスタードを添えていただく。これが良かった。分厚い脂を噛みしめると、肉の旨味が豊かに口中にあふれ出す。
5.ツキノワグマ
焼き場に漂う香りが素晴らしい。これは、赤身に力がある。安曇野の本わさびでいただくけれど、しっかりと鉄分が感じ取れる。
6.鹿のロース
背肉。少しバラの部分を使っている。やはり鹿は旨い。いささかもササクレがなく、純粋で心洗われるような香りと旨味に言葉を失う。
ここで、最高の赤、[b:シャトー・デ・ジャック ムーラン・ア・ヴァン。ムーラン・ナ・ヴァンはクリュ・ボージョレの中でボージョレの王様だ。深みのあるアロマとコクに打ちのめされる。
7.猪鍋
平成21年(2009年)仕込みのお味噌の鍋。猪鍋には、ふんだんに野菜が入っている。...ごぼう、春菊、ネギ、こんにゃく、大根、カブ、えのき、しめじ、里芋、お豆腐。東濃の田舎料理。こころが温まる。
8.自然薯ご飯
最後に自然薯ご飯で一通りとなる。今回も力の限りを尽くした素晴らしいおもてなしであった。本当に本当に柳屋さんには感謝である。これだから、ここは伺うたびに再訪を誓うことになる。次は、4月初旬、春の柳屋だ!
馬瀬川の子持ち鮎、精悍な顔と、猛々しい掛針(かけばり)の傷痕(しょうこん)!
馬瀬川の子持ち鮎、このでかさ!
馬瀬川の子持ち鮎、壮観!
馬瀬川の子持ち鮎、壮観!
子猪のロース
ツキノワグマ
鹿のロース
ごぼう、春菊、ネギ、こんにゃく、大根、カブ、えのき、しめじ、里芋、お豆腐...猪鍋
蜂の子、ヘボ
馬瀬川の子持ち鮎
落ち鮎の網にかかったサツキマス
子猪のロース
子猪のロース
子猪のロース
ツキノワグマ
ツキノワグマ
ツキノワグマ
鹿のロース
鹿のロース
猪鍋
猪鍋
自然薯
むかごご飯
自然薯ご飯
ボーモン・デ・クレイエール グランド・レゼルヴァ ブリュット
ポッジョ アッレ ガッツェ テヌータ デル オルネッライア
ペルナン・ヴェルジュレス
シャトー・デ・ジャック ムーラン・ア・ヴァン
2017/12/30 更新
2017/08 訪問
めくるめくジビエの魅力に身を焦して 第6弾!...「柳屋」、コイツら最強の鮎ですよ、とコソっと囁く剛之さんの耳打ちに胸の高鳴りを覚え、いつも変わらぬ丹念な和孝さんのお料理の説明に深く吐息をつく...
放ったオトリと野鮎が清流の中で織り成す香魚の舞。...透明な円柱にでも絡みつくみたいに素早く泳ぎ回り、ひたすら回転して相手を縄張りから追い出す鮎の習性。...扇子も花吹雪もない、自然の中で織り成される女王の舞。仲間同志でじゃれあっているようなその光景は、微笑ましくもあるけれど、実は鮎たちにしてみれば、とるかとられるかの命をかけたテリトリーの奪い合い...
それらの気高き野鮎たちの中から、さらに風格がとびぬけた野鮎たちが選りすぐられ、今パチリパチリと目の前の立派な囲炉裏の中で爆(は)ぜている...なんとも壮観な光景だ。その光景を目の当たりにして唖然としていると、すっと剛之さんが寄っていらっしゃって「マドさん、コイツら、〇〇匹に数匹しかいない最強鮎ですよ」と、コソっと耳打ちしてくれる!その比率に愕然とする。なんて素晴らしいだろう!...和孝さん、剛之さん、本当にありがとう!
本日は、6名の鮎の会である。この囲炉裏の光景にみなさん一様に嘆息が漏れる!皆さんがそろったタイミングできっちり焼きあがるようにきちんと計算されているのは、いつもの柳屋さんの光景だ。
1.馬瀬川の鮎の塩焼き
最強の鮎をご用意いただく。釣れた鮎は、まず漁業組合で5段階に仕訳されるそうだ。今日のはその2番目の"大"。80g~100gのものだそうだ。この時期にこの大きさ、凄い!和孝さん曰く、「ちょっと裏技がありまして釣ったその日には締めないんです。鮎は苔を目いっぱい食べているので、苔の生臭いにおいがするのがやなので、一晩山水に飼ってもらって、お腹のものをきれいにだしてから調理しているんです」とのことだ。"山水に飼ってもらって"という表現が何とも素敵だ。
頭からいただいてみるけれど、口の中で旨味と苦みの粒子が織り成す緻密な味わいの輪舞(ロンド)に、いつものようにのっけからやられてしまう。これに合わせていただくのは、E. ギガル コンドリュー。コンドリューの華やかな香りが、香魚の旨味を引き立たせる!
2.サツキマスのお造り
これも柳屋さんでは欠かせない逸品だ。舌にまとわりつくようなメランコリックな佇まいに独特の存在感を感じる。
3.信州産の松茸
これもいつもよりすごく良いものを出していただいている。まずいつもより、ぐんと大振りの松茸だ!これを生姜だまりでいただくののだけれど、口の中でシャリシャリと裂ける小気味よいテクスチャと、あの秋の松茸の豪奢なまでの香りを放つ前の、生硬な若々しさにひたすら好感が持てる。
2013年の少し熟成感のあるムルソー。ブルゴーニュ。
4.夏野菜の天ぷらの盛り合わせ...(左から)オクラ、ヤングコーン、こなす、(こなすの下)やまうど、もろこいんげん、みょうが、花ズッキーニ
夏野菜の天ぷらだ。柳屋さんの天ぷらは衣薄く、カリッと揚げあげられているのが特徴だ。ムルソーの透徹感、ミネラル感のお供に最強だ。
5.天然鮎の開き
和孝さん曰く、「1晩飼ったものを3%(海水くらい)の食塩水に1時間くらいつけて、天日に干す。それから仕上がる瞬間に麦焼酎、自家製の土佐醤油を加えたものを霧吹いて香りをつけて、最後に干して仕上げたもの」だそうだ。鮎の干物は実に品性がある。あえてあの旨い鮎の苦みを取り除き、身肉(みしし)の旨味を最大限に味わってもらう想いが伝わる一品だ。
干物というと酒飲みの目のないところだけれど、これは酒のアテというにはちょっともったいない上品さを備えた逸品であった。
ここで和孝さんから"古参鮎"について教えていただく。
「わたしは鮎をパッと見ただけで、鱗の目の粗さとかで"古参"のものなのか"海産系"のものなのかすぐわかるんです。実は、淡水で育った鮎の放流にはルールがあるんです。今日、最初の塩焼きは馬瀬川で獲れたものです。馬瀬川は木曽川の水系なのでダムがあります。...ダムがある、つまり天然遡上がない。なので琵琶湖の淡水で生きてしかいない稚鮎を放流してもよいというルールがあるんです。これに対して、長良川は天然遡上といって海から上ってくるものがある。これが理由で長良川水系には琵琶湖の淡水で育った古参鮎をいれちゃいけないというルールがあるんです。要は生きていけないんですね」
「海から上がってきたものはヒレが大きくて細い。これに対して琵琶湖の鮎は、簡単に言うと水溜まりの中に生きているので、そんなに強い流れがないので、どちらかというと丸みを帯びた魚体になって、そんなに泳ぐ必要がない。必然、天然遡上の川で獲れた鮎よりも、"古参鮎"の方が、荒々しさがなくてまろやかで奥行きのある鮎に仕上がるんですね」
6.鮎、さくらます、ながなす、ズッキーニを和風タルタルソースで...
鮎を今度は揚げ物で愉しませてくれる。これもいいなぁ。焼きと干しと揚げ、清流の女王をあらゆる角度からやっつける!
7.鮎の丸干し
これは、生きた鮎を塩水の中で1時間ほど泳がせて、氷をたくさん入れて一晩干したものになる。内臓も入っていて味が凝縮している。これは長良川のものとのことだ。瞳を閉じて味わうと、遠くに西瓜...瓜の甘みを感じる。
8.尾長鴨(今日は海鴨ではなく、淡水系)の串焼き
この時期に鴨とは恐れ入った!「いいものを取っておきましたよ!」とのお言葉に本当に感謝だ!
9.有害駆除の小鹿ロースの串焼き
冬場の脂がしっかりのったものもよいけれど、このくらい若いのもわたしは捨てがたい。熟成とは縁遠い、若々しくて生硬な躍動感を感じるのだ。
ここで剛之さんから、本日目玉の赤ワインのご説明がある。...聞き耳を立ててみよう!
「今日ご用意したこの赤、ボジョレーヌーヴォーと同じ村で作られているシャトー・デ・ジャックという作り手ですね、...ムーラン・ア・ヴァンというGamay(ガメイ)という品種から作られた一品です。1997年、20年前のものです。ガメイで長期熟成させるってすごく難しいんですが、それを成しえた稀少な一品です。これに使われているガメイは、ムーラン・ア・ヴァンの中でもシャン・ド・クールという限定された畑で作られた葡萄になります。この逸品、今年日本に48本入ってきていますが、ルイ・ジャド社がうちにしか卸してないないんです。うちも残り2本となっていますが、1本こちらのお部屋に、もう1本はお隣のお部屋に...」と何とも素晴らしいご案内だ。
この1本、本日の会の女性の方に滅法評判が良かった!さっそくいただいてみるが、ボジョレーヌーヴォーというと、甘さ程よく、飲みやすい若々しい味わいのイメージがあるけれど、これは全く佇まいが異なる。凝縮感とストラクチャーがあるけれど、つうっと透明感のある華やかな美しさを感じるワインだ。外連味がなくて、ガメイ特有ともいえるキャンディ香を感じさせない。「みなさんが今後、飲んでいただける機会はあまりない逸品だと思います」との剛之さんのご案内にホントにホントに感謝である!
10.長良川の天然鰻の蒲焼きと白焼き
井戸水で1週間から10日飼って、体内を浄化させた後に調理してある。一口タレご飯が添えられて饗される。蒸らしはなし。焼き一本が旨い。この焔立つような天然鰻の強い旨味を味わうなら、焼きに限る!シャトー・デ・ジャックとの相性は文句ない。どちらがどちらを凌駕することなく、相手に言祝ぎを贈りつづける慎ましやかなハーモニーに、思わず「ありがとう」とひとりごちてしまう...
11.鮎と松茸の雑炊
鮎と松茸の雑炊。このやさしさに今日の会のみなさん、思わず黙りこくる...そして、さくらんぼで一通りとなる。
いつもいつも柳屋さんは感動的だけれど、今回のおもてなしには本当に感動した!ただ、それはわたしたちに限ったことでなく、柳屋さんは本当に本当にすべてのお客さんを大事にされるプロ中のプロであることを実感した一夜であった!即座に次の会の予約を入れる。次回は、落ち鮎と熊の会だ!今から愉しみ~♪
扇子も花吹雪もない、自然の中で織り成される女王の舞
長良川の天然鰻の蒲焼き
小鹿ロース
尾長鴨(今日は海鴨ではなく、淡水系)
馬瀬川の鮎の塩焼き
信州産の松茸
尾長鴨(今日は海鴨ではなく、淡水系)の串焼き
有害駆除の小鹿ロースの串焼き
馬瀬川の鮎の塩焼き
お漬物
馬瀬川の鮎の塩焼き
サツキマスのお造り
信州産の松茸
信州産の松茸
夏野菜の天ぷらの盛り合わせ...(左から)オクラ、ヤングコーン、こなす、(こなすの下)やまうど、もろこいんげん、みょうが、花ズッキーニ
天然鮎の開き
鮎、さくらます、ながなす、ズッキーニを和風タルタルソースで...
鮎の丸干し
尾長鴨(今日は海鴨ではなく、淡水系)の串焼き
尾長鴨(今日は海鴨ではなく、淡水系)の串焼き
有害駆除の小鹿ロースの串焼き
有害駆除の小鹿ロースの串焼き
長良川の天然鰻の蒲焼きと白焼き
一口タレご飯
長良川の天然鰻の白焼き
長良川の天然鰻の蒲焼き
鮎と松茸の雑炊
さくらんぼ
E. ギガル コンドリュー
2013年の少し熟成感のあるムルソー
これが凄かった!97年、シャトー・デ・ジャック!
2017/08/19 更新
2017/04 訪問
めくるめくジビエの魅力に身を焦して 第5弾!...「柳家」、東濃(とうのう)の山奥で、有明海網獲りの最強のフレッシュ鴨を味わい尽くす!
岐阜県瑞浪市猿爪(ましづめ)「柳家」。山野が育んだ芳醇そのものの迫力を堪能したいなら、いますぐこの日本屈指の郷土料理の名店に駆けつけよう!そこには、美味だとか、かぐわしいとか、美しいとか、そうした言葉すら意味を失いかねない、日本の山川草木が洩らした"ため息"とでもいうべき豊かな息遣いが間違いなく存在する。
この桃源郷には、料理人の技術を衒(てら)うような、賢しらな調理技巧など見当らない。「柳屋」さんで饗されるジビエ料理の数々は、ただただひたすら無警戒にそこにあるだけだ。その味わいは、一瞬ごとに無防備な輝きをまとって煌(きら)めいている。
それは、ひとを身構えさせるような緊張感とは程遠いものだ。そこでひとが触れるのは、緊張感とはおおよそ無縁のなめらかな肌触りとでもいうべきものである。われわれは、無駄な抵抗を早々に放棄して、その誘いにそっくり身をあずけ、瞳を閉じて吐息を漏らすように、そこで饗されるお料理たちを全身で受け止めればそれだけで充分なのである。
...それらの無垢なまでの料理たちを前にすれば、「調理技巧」やら「飾り包丁」などという言葉のはしたなさに、たじろぎを覚えるに違いない。以下、またしても感動的だった「柳家」さんの会について詳細に書き綴っていきたい!
2017年3月25日(土)。本日は「柳家」さんで、待ちに待った鴨尽くしの会である!...しかしでも、3月25日に"鴨"とは、少しばかり時期を通り過ぎた感がしないでもない。と、即座にそれについて「柳家」ご主人、山田和孝さんがこう教えてくださる。
「実は、今年は、佐賀県に限って4月30日まで鴨猟を延長したんです。今年は有明海で海鴨の海苔網の被害が多発しまして、海苔の生産量がとても悪かったんです。ですので、今年に限り佐賀県は、4月30日まで鴨の猟期を延ばしたんです。で、本日は3日前に網獲りで獲れたばかりの最高のものが入りました!」
とのことである。なんとも嬉しい限りだ!本日は名古屋のレビュアーさんと東京のレビュアーさんの混成チームである。始めてご一緒させていただく方もいらっしゃったけれど、みなさん、素晴らしい方たちで、この夜の晩餐会は最高のものとなった!さっそくご主人の和さんから本日のお料理のご案内がある。
「本日は、まず鴨は、緋鳥鴨(ひどりがも)の首の皮を使ったネギまをご用意しまして、続いて砂肝、心臓、肝臓と続きます。非常にフレッシュな鴨が佐賀県から入手できましたので生に近いものをお出しできます。続いて、焼き物に、緋鳥鴨(ひどりがも)と葦鴨(よしがも)と続きまして、鍋は青首の鴨鍋になります。最後は自然薯ご飯でしめる形になります。それ以外にも、時期ものの野鳥、仔鹿のロース、害獣駆除で獲れた子猪のご用意となります」
いや!なんとも盛りだくさんでこんなに嬉しいことはない!さっそくローランペリエで乾杯し、本日のお料理をスタートしていただく。
1.時期ものの鳥たち
突出しの岐阜県産の大根とヘボをいただいていると、最初の鳥の焼き物が登場する。りんごの実を啄(ついば)んだ小鳥たちが本日の一品目である。12月にいただいたときより、気のせいか優しくマイルドさが加わったような感じがする...
2.緋鳥鴨(ひどりがも)の首の皮を使ったネギま
鴨がねぎを背負ってやってきた!首の皮は、迫力でどんと圧倒するというより実に上品な脂で覆われている。海苔棚でずっと悪さをしていた鴨だけに、心もち海の香りがするような気がしないでもない。
「うちでは、本来、海鴨を使わないんですね。通常は、養老・木曽三川(きそみかわ)公園近辺の川鴨を使うんですけどね、せっかくなので本日は有明海の友人に頼んで送ってもらいました」とのことだ。上品な鴨の脂が秀逸な一品である。
3.緋鳥鴨(ひどりがも)のロースとささみ
ここで、ムルソー(白)をいただきながら、ロースとささみをいただく。これが鴨の概念を覆すほどに旨かった!脂も良質ながら、しっかりとした鴨肉の主張もある。鶏とは明らかに異なって、鴨独特の鉄分を感じさせる血潮の風合いが何とも素晴らしい!
4.砂肝
砂肝の噛みごたえがなんとも心地よい。フレッシュな鴨であることが伝わってくる弾力感だ。
5.緋鳥鴨(ひどりがも)の心臓(ハツ)と肝臓(レバー)
肝臓の方はあまり火を通しすぎないでしっとり感を出す焼き加減である。近火で焼かれていて、苦味があるけれどレバー臭はない。2時間くらい、海水(3%)くらいの塩水とお酒で全浸透圧で血を向いたそうである。本当はもっと倍くらいつけるともっと血が抜けて優しい味になるそうだ。これと、ブルゴーニュの赤をあわせていただく。
6.馬瀬村の子猪のロース
猪は、豚に近いので、鴨や仔鹿よりいささか強火を通して仕上げてある。子猪とはいっても少しも水っぽさはない。噛んで肉の旨味を感じる逸品だ。「うちは調理法は極力シンプルに抑えて、素材の良さを引き出します。素材が良くないとこの味はお客様に提供にだせません。いい状態のジビエのよさをいかに焼きという技術だけで引き出すかがポイントだと思っています」とのことだ。
なんとも「柳家」さんらしい、素晴らしいスタンスである。こんな言葉を耳にすると、いわゆるプロのテクニックとかいうやつで素材をいじり倒し、素材そのものの良さに味を足しこんだものなど、断じてプロの調理ではないと、ここに清々しく声高に言い切って見せたくなるくらいだ!
7.馬瀬村の仔鹿のロース
柚子胡椒で。仔鹿は夏場も饗されるが、この時期の脂をよりまとったものの方がわたしは好みだ。今回も脂身が赤身の旨味を十二分に引き立てている。
また、「柳家」さん秘伝のタレも素晴らしい。継ぎ足しのタレ。かつおの出汁の効いた土佐醤油と生姜の絞り汁がベースとなっており、甘いものは入れていないとのことだ。「あくまでこじゃれた料理をだすのではなく、ただ岐阜の東濃地方の昔からの郷土料理を残していこうというのが当店のコンセプトになります。若干お飲み物にあわせて調味料を変えていくことはありますが、基本は昔ながらの生姜だまりです。今風のものをだすことはありません」とのことである。
8.しっかりと脂がのった小鴨の半身
今日のお肉たちは鴨にしても、仔鹿にしても、子猪にしてもどれもしっかりと脂がのっており、同じタレでもそれぞれ肉の味わいが感じ取れるのが嬉しい。小鴨は安曇野の本わさびでいただく。
ここで笊に入れた本日の鴨たち(緋鳥鴨、葦鴨のオスメス、網取りの鴨ちゃんたち)を見せていただく...美しい。
9.鴨とこんにゃく、大根、まいたけ、しめじ、えのき、おネギとセリのお鍋
この時期に最高のお鍋だ。ここで、焼き場の担当が、わたしが大好きなブルゴーニュ好きの弟さんにバトンタッチとなる!彼の元気いっぱいで真っ直ぐで嫌味がない性格が、わたしは何とも好きなのだ!本日も、このあと、弟さんが愛してやまないブルゴーニュ・ワインで、最後のこの山の幸がふんだんにもられたお鍋を愉しむ♪
最後にシメの山かけご飯で一通りとなる。今回もまたまた素晴らしく愉しい会であった!次回もまたこの感動を味わうため、早速に鮎の時期に同じメンバーで予約を入れてしまう!次回は、最も鮎がよい梅雨明けの会となる。
みなさん、今回はありがとうございました!次回もまたよろしくお願いしますね~♪
しっかりと脂がのった小鴨の半身
緋鳥鴨(ひどりがも)のロースとささみ
緋鳥鴨、葦鴨のオスメス、網取りの鴨ちゃんたち
鴨とこんにゃく、大根、まいたけ、しめじ、えのき、おネギとセリのお鍋
緋鳥鴨(ひどりがも)のロースとささみ
緋鳥鴨(ひどりがも)の首の皮を使ったネギま
緋鳥鴨(ひどりがも)の心臓(ハツ)と肝臓(レバー)
「柳屋」三代目当主、山田和孝さん!
突出しの岐阜県産の大根
緋鳥鴨(ひどりがも)の首の皮を使ったネギま
緋鳥鴨(ひどりがも)のロースとささみ
緋鳥鴨(ひどりがも)のロースとささみ
緋鳥鴨(ひどりがも)のロースとささみ
砂肝
緋鳥鴨(ひどりがも)の心臓(ハツ)と肝臓(レバー)
馬瀬村の子猪のロース
馬瀬村の子猪のロース
馬瀬村の仔鹿のロース
しっかりと脂がのった小鴨の半身
緋鳥鴨、葦鴨のオスメス、網取りの鴨ちゃんたち
鴨とこんにゃく、大根、まいたけ、しめじ、えのき、おネギとセリのお鍋
名古屋在住の今夜の素敵なおともだち!(左から)こうさま、こうさまの奥さま、そして鉄ちゃん!みなさん、いい笑顔だね♪
2017/04/05 更新
2016/12 訪問
めくるめくジビエの魅力に身を焦して 第4弾!...「柳家」、12月、日本の冬山が育んだ豊饒を味わい尽くす!その連綿たるジビエ肉の連なりは壮観ですらある!
2016年12月18日(土)は、波乱含みの幕開けとなった。浜松のJR東海浜松工場で見つかった不発弾移送のため、浜松市が、18日午前8時から2時間、移送経路周辺住民に避難勧告を出したのだ。そして、悪いことに東海道新幹線もまたその交通規制区域内に入っていたため、運転が不発弾移送に伴い一時見合わせとなり、上下線28本で最大41分遅れるという事態となった。
本日の「柳屋」行きメンバーが乗り込んだのが、8:40東京発、東海道山陽新幹線 のぞみ211 新大阪行きだから、この不慮の事態の真っ只中に放り込まれる結果となってしまった。それでも、品川駅に止まり続ける車内の中で、頻繁に「柳屋」さんと電話で連絡を取りつつ状況をお伝えしながら、名古屋についたのが、予定より30分遅れの10:50。中央線に揺られて瑞浪駅についたのが11:50。
瑞浪駅というのは、普段人気(ひとけ)のそれほど多くない閑散とした駅なのだけれど、今日はたまたまイベントがあるということで、どこから湧いて出たかと思うくらいの人出でごった返している...新幹線運転見合わせに引き続いてのハプニングである!当然駅前ロータリーに送迎バスを止めるスペースなどないものだから、電話口での「柳屋」さんのご指示にしたがいながら、地下通路を抜けた駅裏のロータリーに向かい、そこに抜かりなく横付けされている「柳屋」さんの送迎バスに乗り込む。
そんなすったもんだがありつつ、やっと「柳屋」さんに到着したのが、予定より30分遅れの12:30。一時は肝を冷やしたけれど、なんとか30分遅れでお食事をスタートしていただけるということで、今日の大好きなメンバーとまた囲炉裏を囲める悦びにほっと安堵の胸をなでおろす。
今回の「柳屋」さんの会は8名の会だ。まずは、ご主人お奨めのシャンパン、プレリュード グラン・クリュ(Prelude Grands Crus) / テタンジェ(Taittinger)で乾杯する。柑橘系の風味が際立つ溌剌としたシャンパンだ。
1.たけのこ
着席と同時に焼き始められたたけのこが焼きあがってくる。とうもろこしのような香ばしさをもったたけのこである。炭火で炙ったものに醤油をつけていただくのがピッタリの一品である。
2.おおきな雀たち
たけのこのあと、本日のお愉しみのひとつ、おおきな雀たちのお目見えとなる。ちょうど今が最高に仕上がってくる時期だという。頭の先から足の先まで串についた野鳥を丸焼きにしていく。
「柳屋」さんのご主人がおっしゃるには、野鳥は炭火で焼かないとダメとのことだ。また、頭から足の先まで全ていただけると仰る。そこでさっそく骨ごとバリバリといってみる...まずは野趣みなぎる味わいに圧倒される!鳥の旨味・甘味、内蔵の苦味、つけだれの塩味、それに脳みその極上の旨味を味蕾(みらい)で一気に受け止めることになる!そしてその後、相俟う五味のさざめきと余韻にしばらく耳を澄ます...ひと串で野鳥の全てを味わわせるお料理である。
これは凄い!毎年この野鳥だけをお目当てに訪問されるお客さんがいるそうであるが、わたしにはその気持ちが少し分かるような気がする。
ここで、野鳥にあわせて、ご主人がシャンボール・ミュジニー(CHAMBOLLE-MUSIGNY)を饗してくれる。ピノ・ノワールの逸品。繊細でエレガントだけれど、奥行が感じられる逸品である。タンニンもしっかりと太い。野鳥にはぴったりの一品だと思う。
これに加えて、ニコラ・ペランのコート・ロティ(Cote Rotie)も出していただく。複数のワインを出していただき、囲炉裏部屋を複数の大ぶりのグラスたちがぶつかってコンコンと心地よい響きを響かせる光景が柳家さんの食卓の風景だ。
コート・ロティ。野鳥にはピッタリという評判を聞いていたものだから、ご主人にお願いしてこのシラーの一品もピノと飲み比べて見たけれど、こちらはやや生硬(せいこう)な感じがある。まだセラーから出したてでパンチのあるスパイシーな一品だ。
今日のワイン...飲み比べてみると、確かにシャンボールは素晴らしく、今日のみなさんもそちらを推されていた。それに異論はないけれど、ただ、わたしはシラーの方を駄目なワインとは思わなかった。
ワインというのは、いいワインとそうではないワインとはっきりしているような気がする。全然表情が違うけれど、それぞれに個性を持っている。その個性を容認できるかどうかがポイントのような気がする。個性を容認できなければ、それは駄目なワインだ。その意味で言うと、わたしはシラーの方もその個性を十分に容認することができた。これは決して駄目なワインではないと思う。
お口直しに岐阜県の大根が饗される。新鮮で旨い。
ご主人の「猟師さんから今朝入りました」のご案内のもと、本日のジビエが囲炉裏の脇に並べられる。鹿のヒレとロース、子熊のヒレ、猪肉...「柳屋」さんでは、岐阜、長野県の猟師さんから仕入れられることが多いそうだ。
3.鹿のヒレ
口当たりは絹のような滑らかだ。ただその肉の繊細な食感にも関わらず、味わいはしっかりと濃い。後味はさっぱりして贅沢な余韻をいつまでも愉しむことができる。
4.月の輪熊の子供のヒレ
どんぐりを大量に食べた月の輪熊の子供のヒレ肉。熊は、60kgとか70kgになると肉がちょうど良い柔らかさになるとのことだ。お母さんも一緒に獲れたそうだけれど、150kgほどあったので「柳屋」さんでは入荷しなかったそうだ。猟師さんが、熊肉は美味しいので、お母さんの方は、お正月用に自分たちで食べる、と喜んでらしたそうだ。
一口いただくが、掛け値なく旨い。これは噛んで旨みがでてくるお肉だ。熊は子供過ぎても水っぽくて駄目なのだそうだ。噛んで旨みがでるのがこのサイズだとのことだ。
5.猪肉
これは存在感ある肉。これぞジビエの醍醐味である!肉はとろける中に旨味はない。筋を噛んで旨みを感じる逸品!お肉自体が持っているポテンシャル、赤身の旨味を感じとることができる素晴らしい料理である!。
6.鹿のロース
今日一!これは、食する者の心をしたたかに震わせる逸品であった!冬の鹿はかなりしっかり脂がのっている。赤身を分厚い脂がしっかりと覆っている。しかしでも、この脂が絶品であった。この脂を豚や牛の脂と思っていただいては困る。この脂は鹿の赤身の旨みをいかんなく引き出す役割をになっている。
7.月の輪熊の鍋と自然薯ご飯
豆味噌で炊いた熊鍋。麹が入っていないそうだ。洗練されていて上品。これに京都、長文屋さんの山椒を振っていただく。熊肉も一片の臭みもない。これを絶品の自然薯ご飯で、3杯もいただく。
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2016年8月11日(木)記す
『めくるめくジビエの魅力に身を焦して 第3弾!...「柳家」、この日本の山川草木が育んだ豊饒は、瞳を伏せたまま、吐息を漏らすように味わうにふさわしい絶対的な料理だ!』
食べ歩きの愉しみとは何だろうか...それはわたしにとっては、思いもよらない美味との遭遇に強かに打ちのめされることである...だからこそ、このお店しかないといった断定的な結論だけは下したくないとは、常日頃思うところである。
だけどしかし、ひたすら結論を回避していてどうする、自分を絶対と看做せと言わんばかりに切羽詰まった思いを煽り立ててくるお店というものが、稀に存在してしまうのもまた事実である。岐阜県瑞浪市陶町猿爪(すえちょうましづめ)「柳家」。ここは、間違いなく料理を超えた何ものかとの遭遇を約束してくれる絶対的な郷土料理店である。
...しかしでも、日頃食べ歩きが好きだとつぶやいてみたり、あえて自分に言い聞かせるまでもなく、料理への愛着を無邪気に確信しているものが、ふと"料理を超えた何ものか"と出会ってしまった場合、その残酷な体験をどのように処理すればよいというのだろうか...「柳家」で饗される絶対的なジビエ料理を前にすれば、味覚自体が無駄な器官に思えてしまうほどの感動を覚えることは間違いない。調理するという言葉の醜さに思わずたじろがずにはいられぬほど、ここで饗されるジビエ料理は無警戒に山野の産み落とした豊饒を身に纏(まと)っているのだ!以下3度目の「柳家」訪問記をできるだけ詳細に書き綴っていきたい。
2016年8月11日(木)17:20、岐阜県瑞浪駅改札前。ひねもすかまびすしく鳴きたてた真夏の灼熱も、陽の傾くにしたがって徐々に落ち着きを取り戻しつつある夕間暮れ(ゆうまぐれ)、大好きな友人たちとこの鄙びた駅の改札前で落ち合う。すでに駅には送迎バスが迎えに来ており、お酒とソフトドリンクを買い込んで、30分間、わいがやで桃源郷を目指す。なんとも愉しい大人の夏休みだ。
話弾むほどに、桃源郷への到着はあっという間のこととなる。古民家風の平屋のレストラン。ああまたやってきたと再訪の喜びがふつふつと身内にみなぎる。室内に入り、囲炉裏部屋に通されると、もうすでにたくさんの串打ちされた天然鮎がパチパチと焼き音を立てている。
皆着座したのを見て、シャンパーニュを注文するのと、鮎にあわせてニコラ・ペランのコンドリューをオーダーする。
1.蜂(クロスズメバチ)の子の佃煮(ヘボ)
箸先の数個を、口中に含むと、舌先にほのかに佃煮の甘味が広がる。食感はパリパリとして香ばしい。
2.友釣りで獲った長良川の天然鮎の串焼き
鮎は、串から外して、"蓼酢"とともに饗される。まずは何もつけずに頭からいってみる。やはりよい。最上級とも言える鮎の肝の苦味(滋味)とともに、鮎の身から放たれる予想を超越する肌理の細かい緻密な旨みのさざめきに陶然とする。ひと噛みごとに豊かに表情を変えながら口中を愉しませてくる珠(たま)のような味わいに、はからずも涙腺がゆるむ。続けて、"蓼酢"に少しばかり浸していただいてみるが、この鼻腔にかけて突き抜ける涼やかな酸味が鮎の滋味をまた爽やかに一変させてくれる。
ニコラ・ペランのコンドリュー(NICOLAS PERRIN Cndrieu)。鼻を近づけると甘い香りが漂うが、実際に一口いただくと、香りほどの甘さは感じず、かといってすっぱいわけでもない。大変バランスがよい逸品である。後味に、きりっと引き締まったミネラル感があるのも好感が持てる。これと天然鮎との相性は折り紙付きだ。
3.川手長海老と花ズッキーニの天ぷら
「柳家」さんの揚げ物は、衣薄く、カリリとしている。川海老の香ばしさを2種類の岩塩でいただく。抹茶塩と一味塩。お塩は細かくしてから焼いたものと岩塩を削ったものの2種類使っている。また、一味、七味、山椒は京都産のもの(長文屋さん)を使っているとのことである。
ムルソー(Meursault)。複雑で良い香りが漂う。一口いただくがボリューム感があり、ふくよかな感じの白ワインだ。
4.長良川五月鱒造りのルイベ
「海から川に上がってきた一番河口に近いところで獲ったもので虫がいません。そして川魚は必ずルイベしてお出ししています」とのことだ。ルイベとは、川魚を冷凍保存し、食べる際に凍ったまま小刀で切り分け、火で炙って融けかけたところで塩をふりかけて味わうの調理法のことである。口に含めば、肉厚で噛みごたえのある弾力に満ちていて、一片の生臭さもない。これもまた、舌触り滑らかなテクスチャを感じ取ることができる鮮やかな逸品である。
5.チベット産松茸の串焼き
一口口に含むと、ギュッという咀嚼音とともに松茸の薫香が一気に広がる。炭火の質朴な香りが鼻腔のあたりを漂う中、松茸はどこまでも高貴に自分の存在を主張してくる。
6.鮎の開き干しの串焼き
「長良川の中流域の食文化です。背開きにして塩水につけて4時間干してあります」とのことである。鮎の旨みが干物の中に凝縮されている。今度は、天日に干され続けた陽光の馥郁(ふくいく)とした香りとともに鮎の滋味を味わう。
7.金時草(きんじそう)、卵を抱えた馬瀬川の味女泥鰌(あじめどじょう)の天ぷら
金時草の天ぷらは今回初めて食べたが、口中にとろりとした食感が味わえて実に旨い。味女泥鰌は、淡水魚系の魚うちでも高級魚。揚げたての味女泥鰌は口中でほろほろと上品にほどけていく。嫌なクセが一切ない別格の天ぷらである。
ドメーヌ・マシャール・ド・グラモン ポマール 1er クロ・ブラン(Domaine Machard de Gramont Pommard 1er Cru Clos Blanc)。力強いタイプの赤である。しっかりと熟成されてはいるけれど、滑らかなタンニンの深い余韻が楽しめるピノ・ノワールである。これと鹿肉をどうしても合わせたかった。
8.馬瀬の鹿のヒレの串焼き
生姜と醤油だけで作った秘伝のタレをつけていただく。その柔らかさと味わい深さに深く心を動かされる。
9.蝦夷鹿のロースの串焼き、大分の柚子胡椒を添えて
夏の岐阜の鹿はまったく脂がないので、北海道から取り寄せているそうである。一片口中に含むと、その脂はいささかも脂を主張することなく、一気にロースを包み込み、ロースの旨みを引き立てることに余念がない。どこまでも限りなく上品な逸品である。傍らに添えられている大分の柚子胡椒との相性も抜群である。
10.長良川の天然鰻の白焼き、安曇野の山葵をそえて
天然鰻はふっくらと焼き上げられている。しかしでも、この鰻の皮と身に凝縮された脂から仄かに香り立つ土や泥の匂いがどうにもたまらない。これは当然養殖ものでは感じることのできない風味である...安曇野の山葵が鰻の味わいに華やかな点睛を添えている。
11.長良川の天然鰻の蒲焼、京都、長文屋さんの山椒をそえて
「鰻タレには濃口ではなくたまりを使っています。あとは氷砂糖ですね。フレッシュなタレを使わないので。うちはあえて業務用の大きいサイズのものではなく、小袋の一般売りのサイズで送ってもらっています。そうでないと香りが飛んで行っていってしまいますので」とのことである。
12.長良川の天然鮎と松茸のお雑炊
限りなく優しい味わいのお雑炊に仕上がっている。そしてさらにその味わいの深さに嘆息すること頻りである。
ここで「柳家」さんの真夏のコースは一通りとなる。ここは、紛れもなく"料理を超えた何ものか"と遭遇できる桃源郷である。とはいっても、"料理を超えた何ものか"とは、決して人を身構えさせたりはしない。全く逆に、食するものを緊張感とはおよそ無縁の滑らかな時空へと誘い出し、いかなる魔術も施したりせずに、あらゆる存在をごくすんなりと武装解除させてしまうのが"料理を超えた何ものか"との遭遇劇であるのだ。
そのときひとにできることは、ゆっくりと息を吸い込み、たおやかに吐き出される山野のなまめかしくも瑞々しい呼吸の律動を、五感のすべてを使って味わいつくすことより他にない。そして胸をふくらませ、山野が漏らす馥郁(ふくいく)としたため息を、肺の細胞ひとつひとつを使って体内に取り入れてみれば、そこに付け足す言葉などどこにも見当たらないことを発見するに違いない。
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2014年5月24日(土)記す
『めくるめくジビエの魅力に身を焦して...「柳家」は、日本の山川草木が育んだ豊饒の数々を饗応する、山深き猿爪(ましづめ)の里に忽然と現れたシャングリ・ラである』
コンウェイは、果たしてシャングリ・ラ(地上の楽園)を尋ね当てるだろうか?
-『失われた地平線』ジェイムズ・ヒルトン
●プロローグ
驚くべきことに、世の中には、人手を一切媒介することなく、純粋に山野が育んだ芳醇をそのまま料理に仕立てあげ、豊かな恵みそのものの迫力でわれわれを強かに打ちのめしてしまう、いわば"絶対的な料理"というものが存在してしまう。
今は、そんなお料理に触れてしまった火照るような想いに急かされて、もったいぶってあれやこれやのゴタクを述べ立てるほどの気持ちの余裕などないものだから、早々にその料理がなんであるかを白状してしまえば、それは、岐阜県瑞浪市猿爪(ましづめ)に店舗を構える「柳家」で饗されるジビエ料理にほかならない。
...しかしでも、美味だとか、かぐわしいとか、美しいとか、そうした言葉さえ意味を失いかねない料理をなんと形容したらよいのだろうか。日本の山川草木が洩らす"ため息"とでもいうべきか。そう、3時間くらいの優雅なランチで、山野が洩らす"ため息"といったものを感じたいというなら、ジビエをいただくべく、今すぐ岐阜瑞浪市に駆けつけなくてはならない!
そして、ゆっくりと息を吸い込み、たおやかに吐き出される、その山野のなまめかしくも瑞々しい呼吸の律動を、お料理をいただきながら、五感のすべてを使って味わいつくそうではないか!胸をふくらませ、山野が漏らす馥郁としたため息を、肺の細胞ひとつひとつで体内に取り入れることができるのなら、そこにさらに付け足す言葉など、あたりをしらみ潰しに探してもどこにも見当たらないはずだ!
「柳家」さんで饗される絶対的なジビエ料理を前にすれば、味覚自体が無駄な器官に思えてしまうほどの感動を覚えることは間違いない。調理するという言葉の醜さに思わずたじろがずにはいられぬほど、そこで饗されるジビエ料理は無警戒に山野の産み落とした豊饒を身に纏っていることをここに断言したい!
2014年5月24日(土)、山野の産み落とした豊饒に触れてしまった経験を、以下できるだけ落ち着いて、詳細に記述してみたいと思う。
●いやその前に少しばかり...限りなく軽量なレトロスペクティブ=2013年の振り返り
わたしが「柳家」さんを初めて訪問したのは、1年前の、2013年8月3日(土)のことになる。真夏のギラギラとした太陽の照りつける中、会社の後輩くんたちを3名伴っての昼下がりの訪問だったのだけれど、このときの食事体験は、自分の味覚を根本的に変えるほどの衝撃を伴うものであった。なんといっても、この8月の第1週は、鮎が最高の発育を迎える週で、その大きさ、味わいともに絶品というほかない完成度に達していた。
●2014年「柳屋」の会
あの素晴らしい衝撃を2014年は誰と共有するべきか。迷うことなく東京八王子に在住する両親を招待することに決定する。この至福と言ってよい食事体験を、ぜひ彼らにも体験してもらいたい、その一心で、問い合わせると、年もとっていることであるし、暑い時期や寒い時期の移動は何かと体にこたえる、早春のころであれば動きやすい、とのこと。
さっそく、2014年2月16日(日)14時過ぎ、「柳家」さんに予約の電話を入れる。(電話を入れる時間帯は、書き入れ時のお昼は避け、ランチがほどよくフェードアウトする15:00くらいを見計らってかけるくらいがちょうど良い)
最初、2014年5月17日(土)で予約を入れようとしたところ、ご主人から、訪問日をもう1週間遅らせることはできないか、とのご提案がある。付知川(つけちがわ)の天然鮎が解禁になるのが、ちょうど17日の1週間後にあたるため、そこに照準をあわせていただければ、「バリバリの鮎」(ご主人談)をご提供できるとのこと。逆に、提供できるお料理という観点でいうと、5月17日というのは、とっても微妙な時期にあたってしまうんです、と仰る。有無もなくご主人のご提案を受け入れ、訪問の日程を5月17日(土)から5月24日(土)12:30に変更することにする。
かくして、2014年の「柳家」さん訪問が、5月24日(土)12:30に確定する。なんとも喜ばしい限りである。
2014年5月24日(土)9:30、名古屋錦、東京第一ホテル1013号室で、父、母、弟と合流する。本日、実弟は埼玉県比企郡小川町からの参加である。1013号室で合流後、ホテルの一室で漫然と流れるN・ヤンキース戦をみるともなく眺めているうち、出立の時間になる。ホテル前の錦通りでタクシーを捕まえ、名古屋駅正面口に向かう。
給料後の人出の多い名古屋駅構内を抜け、JR本線の改札から、長い階段を上って、名古屋駅JR本線7番ホームに出ると、出発10分前だというのに、もうすでにJR中央本線 快速 瑞浪行がホームに停車している。座席を確保して、小休止しているとほどなく、発車ベルのけたたましい音があたりに鳴り響き、11:02、電車は軽快な疾走音をあたりに響かせながら、岐阜瑞浪駅に向け線路を小気味良く滑走しはじめる。父、母、弟とは、正月以来半年ぶりの再会である。仕事のこと、弟の子供たち(男3人)のことなどを話していると、あっという間に11:51、瑞浪駅に到着する。
瑞浪駅は、いかにも田舎の駅という鄙びた空気が漂う駅だ。「柳家」さんには、このJR中央本線瑞浪駅からタクシーで行く行き方と、明知鉄道恵那駅経由で、明智駅からタクシーで向かう行き方の2通りあるが、「柳家」さんの訪問客のほとんどは、瑞浪駅からの道順を選ぶ方が多いそうである。(前回訪問した際、瑞浪駅のタクシーの運転手さんがそう仰っていた)
改札を出ると、今回もさっそく駅前に停車している1台のタクシーに乗り込む。「柳家」さんの店名を告げるだけで、タクシーは当たり前のようになめらかに駅前ロータリーを滑り出す。タクシー乗車時間は27、8分程度。まず、土岐川の支流、小里川沿いに県道20号線を南下し、大川交差点から県道383号日吉釜戸線に入り、今度はひとしきり東に進路を変えて進む。
しかし、それにしても、今日は心地よいくらいの晴天に恵まれた。車の窓から小里川の向こう側に眺める山野の緑が滴るように目に眩しい。陶郵便局を過ぎて程なく、十字路を右折して路地に入り、数メートル先の突き当りを左折した後、またすぐに右折する。と、いきなりぐっと急勾配の上り坂に足を踏み込む格好になるため、車は瞬時にキックダウンし、ローギアで一気にこの急勾配の上り坂を駆け上がる。12:14、陶町猿爪(すえちょうましづめ)の高台に、岐阜の理想郷「柳家」さんが忽然と姿を現す。
●シャングリ・ラ! "ほどなく道は平らになって霧を抜け、日差しの明るい開けた場所に出た。目の前、一跨ぎと言えるところに、(略)シャングリ・ラが横たわっていた"-『失われた地平線』
タクシーから降り、5月の眩しい日差しの降り注ぐ「柳家」さんのお庭に降りたつと、店内から「柳家」3代目当主山田和孝さんが、にこやかに出迎えてくれる。高台の北側には、瑞浪市から恵那市にかけて広がる美しい山並みを遥かけく臨むことができる。どこまでもどこまでも青い大気の中を、鶯の透き通るような鳴き声が辺りにこだましている。「柳家」さんは古民家風の平屋の一軒家である。大きく開け放たれた入口の引き分け戸を入り、土間で靴を脱ぎ入店する。店内は大小複数の囲炉裏部屋で構成されている。案内された囲炉裏部屋に着座する。部屋に漂う山百合の濃い香りに、一瞬どきりとする。今日の焼き場の担当は、山田和孝さんの弟さんである。
1.蜂(クロスズメバチ)の子の佃煮(ヘボ)
まずは、ルイ・ロデレール (Champagne Louis Roederer)をオーダーして4人で乾杯する。おそらくシャンパーニュの中では熟成期間が抜きん出て長いこのシャンパンの味わいは、"豪華絢爛"という表現が一番ピッタリくるシャンパンである。これを家族と一緒にいただける喜びを噛み締めつつ、蜂(クロスズメバチ)の子の佃煮(ヘボ)を併せて少しつまんでみる。箸先の卵数個を、口中に含むと、舌先にほのかに佃煮の甘味が広がる。食感はパリパリとして実に香ばしい。
2.馬瀬川天然雨子塩焼き
30センチになんなんとする、肉厚で立派な雨子である。内臓を取り出し、適度に塩をまぶしたそれを、10分程度かけて、じっくりと炭火で焼き上げていくのだけれど、徐々に、オレンジ色の斑点が浮かぶ銀色の鱗が香ばしい黄金色(こがねいろ)に焼きあがっていく。縦串を抜いて、お皿に載せて饗されるが、その身は肉厚で滑らか、舌触りが途轍もなくふんわりとしている。そして、3種類の岩塩をブレンドしたという塩の加減がまた絶妙なのだ!焼きを担当していただいている弟さんから、「大ぶりの川魚ですが、頭から行けますよ」とご案内がある。さっそく頭からいってみると、おっしゃるとおり、予想を悠かに超えて柔らかく、頭部、背骨から放たれる雨子の旨みを、余すことなく存分に愉しむことができる。
3.長良川五月鱒造り
サツキマス、サクラマス、雨子、いずれも同じ魚だけれども、この1品はそのお造りである。海で産卵を済ませた後、長良川に遡上してきたもの、とのことであるが、口に含めば、肉厚で噛みごたえのある弾力に満ちていて、一片の生臭さもない。塩焼きの身肉と同様、これもまた、舌触り滑らかなテクスチャを感じ取ることができる色鮮やかな逸品である。
4.付知川(つけちがわ)天然鮎塩焼き
付知川(つけちがわ)は、別名"青川"とも呼ばれる木曽川水系の美しき清流である。弟さんいわく「付知川は、水温が冷たくて美しい水質の川なんです。だから、石に良質のコケがつきやすく、ここの鮎はそれを食(は)んで大きくなるものですから、他の川で育った鮎の追随を許さないくらい美味いんです」とのこと。続けて、「付知川の鮎は先週解禁したばかりなので、まだ身はそんなに大ぶりではないんですが、自分はこの時期のこのくらいの精悍なヤツにどうしても心奪われるものがあるんです」と、銀紙をしいた笊の上に載せられた、8尾の縦串の通った鮎たちを見せてくれる。
さらに、弟さんの"鮎愛"はとまらない。「見てください、この鮎どもの顔ツキ...養殖ものと一番違うのは、この顔ツキなんです。養殖ものは顔が丸いんですが、この、いかにも性格悪そうなコイツらの獰猛な顔ツキこそが、天然物の証なんです」...さらに弟さんの"鮎愛"は冷めやらない。「鮎という魚は、異常に縄張り意識が強くて、他の鮎の侵入に過敏なんです。でも、一方で寂しがり屋の一面も持っているんです。そして、このわがまま度合いこそ、"清流の女王"といわれるゆえんなんです」
8尾の縦串の通った美しい鮎の姿態を眺めながら、「友釣りですか?」とお伺いしてみる。弟さん、クリクリとした瞳を輝かせながら、「はい、そうです!自分はコイツらとの付き合いだけは、どうにもやめられません...」とのこと。
振り回されつつも、振り回したい、そのマゾヒスティックとサディスティックの確執というか、その間の微妙な均衡の奈一点に着地点を模索する、たぎるような、危ういような3代目当主の弟さんの鮎に対する偏愛を肌で感じながら、炭火の前で、脂を吹き上げながら焼き上がろうとしている鮎たちにいやがおうにも期待が高まっていく。
鮎は、串から外して、"蓼酢"とともに饗される。まずは何もつけずに頭からいってみる。その旨みたるや途轍もない。最上級とも言える鮎の肝の苦味=滋味とともに、鮎の身から放たれる予想を超越する肌理の細かい緻密な旨みのさんざめきに舌を巻くことになる。ただ食べさせられているような鈍感な味のたるみなど一切なく、ひと噛みごとに豊かに表情を変えながら口中を愉しませてくる珠玉のような味わいの饗宴に、はからずも涙腺がゆるむ。続けて、"蓼酢"に少しばかり浸していただいてみるが、この鼻腔にかけて突き抜ける涼やかな酸味に、どこまでも青い大気に響き渡る鶯の透徹した鳴き声が脳裏をよぎる。これまで、この鮎は数え切れない人たちに饗されてきただろうけれども、これを饗されて、ああ、なるほど、なるほど、たしかに上質な料理ですね、などと高を括ってあじわった人たちが何人もいたとは信じたくないものだ。
ちなみに、鮎をいただくにあたり、あらかじめニコラ・ペラン、コンドリュー(白)をオーダーしておいたのだけれど、このマリアージュも絶品だったことをここに忘れずに記しておきたいと思う。わたしはコンドリューは今回初めていただいたのだけれども、以前から、"「柳家」の鮎とコンドリューのマリアージュは絶品だ!"というほかのレビュアーの方の口コミを拝見していたものだから、今日は絶対に一緒にいただいてみることに決めていたのだ。
ニコラ・ペラン、コンドリュー。きりりとして美味。鮮烈にして個性的。これが、このワインに対するわたしのファースト・インプレッションだ。そして、遥か遠くに香るのは黒胡椒の香りだろうか...これと天然鮎の相性が悪いはずがない。まさに猛々しき両雄のマリアージュといったところだ。
5.山菜天婦羅(左から、はりぎり、やまうど、もみじがさ、こごみ)
「柳家」の揚げ物は、衣薄く、カリリとしている。はりぎり。濃く深みのある風味といい、歯ざわりといい、天麩羅にもってこいの1品である。やまうど。ともすれば、えぐみが勝ってしまって残念な感じがすることもままあるやまうどなのだけれども、これは絶品だ。食感は大根に近似しているのだけれど、紛れもなくやまうどの存在感を出しつつ、一片のえぐみもない。ほろ苦いこごみの天麩羅の前にもみじがさを挟みつつ、抹茶塩で、これらの飛騨の山菜たちを存分に堪能する。
6.揚げ物(雨子の稚魚、鮎、川海老)
これもまた衣薄く、すべてが素材の旨みを強烈にアピールしてくる逸品である。特に川海老。2尾饗され、手の長いのは牡、手の短いのは牝とご説明をうける。薄い衣の向こうに、海の甲殻類とは明らかに異なる、淡水で育った上品な海老の風味を愉しむ。
7.おひたし(うるい、芹、ぎょうじゃにんにく)、やまうど皮きんぴら
焼き物やら揚げ物の合間合間に饗される、さっぱりとしたおひたしやら、やまうどの皮きんぴらがまた素晴らしい。うるい、芹、ぎょうじゃにんにくとも、鰹出汁と合わさり、口直しに最適である。
おひたしを運ぶのは、焼き場を担当されている弟さんの奥さんの役割となっているようだ。その背中には、去年3月に生まれた赤ちゃん(女の子)をおぶっての登場なのだけれど、しかしでもまぁ、指をくわえた赤ちゃんの可愛らしさといったらない!物珍しげにこちらを眺めながら、ときおりニコリと微笑むのだ。そして奥さんもにこやかにとても感じがよい。
8.仔鹿ヒレ焼き
お肉をスタートするにあたり、迷いつつも、バローロ(Barolo)(赤)をオーダーする。白の余韻を引きずりつつ、ピノノワール100%でタンニンの強いポマール(Pommard)(フランス)でいくかどうか迷ったけれど、ここはガラッと趣向を変えて、イタリア産ネッビオーロ種の重厚な一品で、仔鹿をいただくことにする。色が濃く、しっかりした渋みと、深いこくのある赤ワインである。10%を少し超える、アルコール度数の高めの、非常に重厚な味わいのワインだ。
これと一緒にまずは仔鹿ヒレ焼きをいただく。ハサミで3口ほどに切り分けられたそれをいただくのだけれど、その柔らかさと味わい深さに思わず舌を巻く。そして、バローロと一緒に嚥下した後、口中から鼻腔にずうっと残り続ける子鹿の旨みにうっとりとする。その余韻に浸りながら、瞼の裏に、細勁な描線を辿る様に、いささかの邪気もなく高山を駆け巡る健康な仔鹿の無防備で華奢な肢体が浮かび上がり、涙で視界が潤む。そのイメージに胸をうたれ、深く吐息をついてから、何に向かってかはわからないけれど、ありがとうと理由のない感謝の言葉をつぶやいている自分がいることに気がつく。端的に言って、この仔鹿ヒレ焼きの焼き上がりの艶のなめかしさを涼しい顔で正視しえた人間とは、縁を絶ちたいと思う。
9.仔鹿ロース焼き
どんなお肉をいただくにあたっても、一般に、ヒレ肉は上品で、ロース肉には肉の旨味の詰まった迫力がある、というのが、いわば常識であるけれども、この子鹿の焼き物ばかりは、その通念をいったん括弧に入れていただく必要がある。子鹿のロース肉にはかなり大ぶりの脂身がついているが、一片口中に含むと、その脂はいささかも脂を主張することなく、一気にロースを包み込み、ロースの旨みを引き立てることに余念がないのだ。
10.矢作川天然鰻蒲焼
1年前に伺った時も同様に天然鰻蒲焼が饗されたのだけれど、そのとき、食前、自分は関東の人間なので、いわゆる"蒸らし"が入っていない以西の鰻はどうも...などという思いがよぎったものの、実際に食してみて、そんな東や西やらといった調理の手法の違いを超越するのが天然鰻蒲焼なのだと、その旨さに圧倒された記憶がある。
この鰻はどこをどうとっても素晴らしい!そう、素晴らしすぎるのだ!鰻の皮目は、蒲焼にされることによって鰻とつけタレの甘味のみでキャラメリゼされ、カリカリとした食感をたたえており、その中から、いささかの抵抗もない肉厚の身が一気に口中に溢れ出してくる。京都の山椒との相性も、当然ながら抜群である。この一品もまた、食する間、調理の手法を超越し、山野の産み落とした燦然たる豊饒を歌い上げ続ける逸品である。
しかしでも、この皮と身に凝縮された脂から香り立つ土や泥の匂いがどうにもたまらない。これは当然養殖ものでは感じることのできない風味である。もちろん、人によっては、この風味を好む、好まないという嗜好の別はあるとは思う。しかしでも、わたしにはこの匂いこそが鰻本来の香味であり、鰻を鰻たらしめる所以だと今回味わってさらにその想いを固くする。この焔(ほむら)立つような風味があるからこそ、鰻に山椒を添える意味も始めて納得できるのだ。
11.自然薯ご飯
絹のような喉ごしと山野の豊饒を表現してやまない山の芋の風合い。これだけの分量のお料理をいただいているのにもかかわらず、何杯でもおかわりできてしまう。麦トロご飯という存在がこの世の中にあることにひたすら感謝である。
12.メロン、胡瓜漬
最後はメロンですべてのお料理を終了する。メロンの甘みと付け合せの胡瓜の仄かなしょっぱ味の組み合わせもまた大変結構であった。
●エピローグ
「柳家」さんのジビエ料理は、日本の山川草木の豊饒さの誇らしき讃歌である、と断言して、この一文を締めくくってみたい。
愛国者からは限りなく遠いこのわたくしが、「柳家」さんの"ジビエ料理"を食したときばかりは、我国の山野の豊かさに感動し、この国に生を受けたことにありがとう、と思わずひとりごちるほかない。もし、手垢にまみれまくった"文化"なる言葉をいったん刷新し、慎重に慎重に時間をかけて、この国の"文化"なるものを再定義しようというならば、紛れもなくこの店舗はランナップされなくてはならないと思う。そんな店舗に、2014年5月17日(土)、家族を招き歓談できた喜びに、今震えるような感動を覚えている。
たしかに素晴らしい。しかしでも、「柳家」さんで饗される"ジビエ"料理は、例外という名の緊張をひとに要請するものでは、いささかもない。普段の生活そのままに、あるがままの振る舞いでこのお料理に接するのがもっとも正しいやりかたである。そして、そこに自然の息遣いともいうべき山野の"吐息"を感じていただければ、幸いだ。
紛れもなくいえることは、「柳家」さんに伺えば、確実に"料理を超えたなにものか"との邂逅の劇に立ち会うことになる。とはいえ、それは決してひとを身構えさせたりはせず、緊張感とはおおよそ無縁のなめらかな時空へと食するものを誘い出し、いかなる魔術も施したりはせずに、あらゆる存在をごくすんなりと武装解除してしまう邂逅の劇なのだ。今一度言おう、山野が洩らす"ため息"といったものを感じたいというなら、ジビエをいただくべく、今すぐ岐阜瑞浪市に駆けつけなくてはならない!
猪肉
月の輪熊の子供のヒレ
鹿のヒレ
鹿のロース
月の輪熊の子供のヒレ
鹿のロース
月の輪熊の鍋
猪肉
たけのこ
綺麗な囲炉裏
お箸
蜂(クロスズメバチ)の子の佃煮(ヘボ)
たけのこ
たけのこ
シャンパン、プレリュード グラン・クリュ(Prelude Grands Crus) / テタンジェ(Taittinger)
シャンボール・ミュジニー(CHAMBOLLE-MUSIGNY)
お口直しの岐阜県の大根
鹿のヒレ
鹿のヒレ
月の輪熊の子供のヒレ
月の輪熊の子供のヒレ
猪肉
猪肉
猪肉
猪肉
鹿のロース
鹿のロース
鹿のロース
月の輪熊の鍋
月の輪熊の鍋
自然薯ご飯
月の輪熊の鍋と自然薯ご飯
友釣りで獲った長良川の天然鮎の串焼き
友釣りで獲った長良川の天然鮎の串焼き
チベット産松茸の串焼き
チベット産松茸の串焼き
鮎の開き干しの串焼き
鮎の開き干しの串焼き
蝦夷鹿のロースの串焼き
蝦夷鹿のロースの串焼き
長良川の天然鰻の白焼き
長良川の天然鰻の蒲焼
長良川の天然鮎と松茸のお雑炊
長良川の天然鮎と松茸のお雑炊
友釣りで獲った長良川の天然鮎の串焼き
友釣りで獲った長良川の天然鮎の串焼き
友釣りで獲った長良川の天然鮎の串焼き
蜂(クロスズメバチ)の子の佃煮(ヘボ)
ニコラ・ペランのコンドリュー(NICOLAS PERRIN Cndrieu)
チベット産松茸
友釣りで獲った長良川の天然鮎の串焼き
チベット産松茸の串焼き
チベット産松茸の串焼き
川手長海老と花ズッキーニの天ぷら
ムルソー(Meursault)
長良川五月鱒造りのルイベ
チベット産松茸の串焼き
金時草(きんじそう)、卵を抱えた馬瀬川の味女泥鰌(あじめどじょう)の天ぷら
鮎の開き干しの串焼き
馬瀬の鹿のヒレと蝦夷鹿のロース
ドメーヌ・マシャール・ド・グラモン ポマール 1er クロ・ブラン(Domaine Machard de Gramont Pommard 1er Cru Clos Blanc)
生姜と醤油だけで作った「柳家」特製秘伝のタレ
馬瀬の鹿のヒレの串焼き、生姜と醤油だけで作った秘伝のタレをつけて
蝦夷鹿のロースの串焼き
蝦夷鹿のロースの串焼き
蝦夷鹿のロースの串焼き、大分の柚子胡椒を添えて
長良川の天然鰻の白焼き
長良川の天然鰻の白焼き、安曇野の山葵をそえて
長良川の天然鰻の蒲焼
長良川の天然鰻の蒲焼、京都、長文屋さんの山椒をそえて
長良川の天然鮎と松茸のお雑炊
長良川の天然鮎と松茸のお雑炊
付知川(つけちがわ)天然鮎塩焼き
矢作川天然鰻蒲焼
矢作川天然鰻蒲焼
仔鹿ロース焼き
仔鹿ヒレ焼き
付知川(つけちがわ)天然鮎塩焼き
馬瀬川天然雨子塩焼き
長良川五月鱒造り
矢作川天然鰻蒲焼
揚げ物(雨子の稚魚、鮎、川海老)
仔鹿ロース焼き
仔鹿ロース焼き
付知川(つけちがわ)天然鮎
囲炉裏
天然鰻用のちいさなご飯
自然薯ご飯
蜂(クロスズメバチ)の子の佃煮(ヘボ)
蜂(クロスズメバチ)の子の佃煮(ヘボ)
馬瀬川天然雨子塩焼き
囲炉裏
馬瀬川天然雨子塩焼き
馬瀬川天然雨子塩焼き
ルイ・ロデレール (Champagne Louis Roederer)
ルイ・ロデレール (Champagne Louis Roederer)
山菜天婦羅(はりぎり、やまうど、もみじがさ、こごみ)
長良川五月鱒造り
付知川(つけちがわ)天然鮎
付知川(つけちがわ)天然鮎塩焼き
行者葫(ぎょうじゃにんにく)のおひたし
コンドリュー(Condrieu)
コンドリュー(Condrieu)
コンドリュー(Condrieu)
揚げ物(雨子の稚魚、鮎、川海老)
付知川(つけちがわ)天然鮎
付知川(つけちがわ)天然鮎塩焼き
付知川(つけちがわ)天然鮎塩焼き
仔鹿ヒレ焼き
バローロ(Barolo)
仔鹿ヒレ焼き
うるいのおひたし
山菜天婦羅(はりぎり、やまうど、もみじがさ、こごみ)
行者葫(ぎょうじゃにんにく)のおひたし
仔鹿ヒレ焼き
バローロ(Barolo)
仔鹿ロース焼き
仔鹿ロース焼き
行者葫(ぎょうじゃにんにく)のおひたし
やまうど皮きんぴら
矢作川天然鰻蒲焼
矢作川天然鰻蒲焼
天然鰻用のちいさなご飯
自然薯ご飯
メロン
箸置き
外観(晴れてうれし~い!)
外観(晴れてうれし~い!)
外観(晴れてうれし~い!)
外観(晴れてうれし~い!)
わたしの母
左より、わたしの弟、父、母、わたし
左より、わたしの弟、母、父
左より、わたし、母、父
2016/12/27 更新
食べ歩きに目が眩んでもう何年にもなるけれど、わたしにとってその原点になったのが、ほかならぬこの「柳屋」さんである。最初に訪問したのは、8月第1週の1番鮎がよい時期で、20代の若い子たちを伴って4名でお伺いした。あの日、陶町猿爪(ましずめ)の高台に降り立ち、快晴の真夏の澄み切った空気を肺一杯に吸い込んだときに感じた胸の高鳴りは、いまだに忘れられない。
そのときいただいた天然鮎は見事なばかりであったけれど、しかしあの日、なんといっても忘れられない思い出となったのは、その鮎を頬張りながら、囲炉裏を囲む連れの彼女彼らの表情に浮かび上がるこぼれるような上機嫌な笑顔であった。
かれらの口元から漏れる深いため息にも似た吐息が、それぞれの舌の震えをどんな饒舌もおよぶまい簡潔さで雄弁に物語っていたことが思い出される。それはひたすら感動的な映像としてわたしの記憶に刻まれている。そして、わたしの食べ歩きは、あの数時間の体験から始まったようなものである。
2018年4月21日(土)17:40。今回の柳家さん春の山菜の会は、参加者が12名と、かなりの大所帯の会となった。みなさん素晴らしい食通の方たちばかりである。いつものようにJR瑞浪駅で落ち合って、30分かけて「柳屋」へと向かう。この30分がいつもあっという間に過ぎ去るから不思議だ。
「柳屋」さんに到着して、大きな囲炉裏部屋へ入ると、立派な天然あまごが串に刺されてぱちぱちと爆ぜている。あまごは17:35くらいから、40分くらいかけてじっくりと焼き上げるそうで、部屋に入った途端、まさにここしかないという食べごろのあまごの刺激的なアピアランスに思わず感嘆の声が漏れる。
本日の焼き担当は、弟の剛之さんである。また、いつものようにお料理に合わせて、ワインを見繕っていただく。
1.天然のあまごの炭焼き
まず、先陣を切るのは、じっくり焼き上げた天然あまご。剛之さんの鮎釣りの師匠が釣ったあまごだそうだ。これは、頭から行くが、なんとも身質が柔らかく上品だ。鱒科の魚は、鮎などと比べ骨が柔らかい。
2.九頭竜川のサクラマスのお造り(70cmくらい)
河口で釣ったもの。上流に行けば行くほどおいしくなくなるのだそうだ。上流のものは産卵で身が痩せているとのことだ。これをいただくと、「柳屋」さんに訪問した、という感覚になる。
3.山菜の天ぷら
(左から)たらのめ、たら、こごみ、やまうど、やまぶきの葉の並びである。「柳屋」さんでは、山菜を市場から仕入れるようなことはない。山野に自生したものを摘み取り饗される。たらのめがなんとも素晴らしい。切土や盛土により作られる人工的な法面(のりめん)に自生するたらのめが、一番良いそうで、しかも、「一番目の芽(新芽)はとっていいけど、脇芽はとっちゃいけない」というルールがあるそうだ。これが白ワインとよく合う。
4.大ぶりな鳥
この時期が最後だそうだ。わたしは、これの脳みそがたまらなく好きである。身も脂ののり具合がよい。脂肪という鎧をまとっている感覚である。ここで赤をあわせる。
5.ふきのとうの天ぷら
さらに蕗のとうの天麩羅をいただく。
"春の皿には苦味を盛れ"
この格言通り、これは春の膳に欠かせない逸品である。
6.鹿のヒレ
わたしは、「柳屋」さんでいただくこの鹿のヒレに目がない。赤身の美しさが実に軽やかで、一片のいやらしさもない。
7.尾長鴨
今日はここで、鴨が饗される。張りきった筋肉に凝縮される鴨の旨みにやられてしまう。
8.イノシシ肉
ひょっとすると、この時期ウリ坊かとも思ったけれど、イノシシ。野趣あふれる味わいが大好きだ。
9.お鍋
春の山菜、行者ニンニク、しめじ、ごぼう、こんにゃく、わらびのお鍋。春の「柳屋」さんは総じて優しい。それを締めくくるにふさわしいお鍋のやさしさに癒される。
「柳屋」さんというと、真夏の鮎の時期であったり、秋口の落ち鮎と、鹿、イノシシ、熊系のジビエの醍醐味でうならせるイメージがあるけれど、どうしてどうして、春はまた違った優し気な佇まいに癒された。ぜひ、この時期の「柳屋」さんにも足を運ばれることをお勧めしたい!