3回
2018/06 訪問
定点立ち去りがたし、早春...「レフェルヴェソンス(L’Effervescence)」、早春の蕪の端麗な瑞々しさに胸打たれる
新しい章~鰹、筍、茴香、トマト、紫蘇、コンプシト
うららか~甘鯛の乳清ポシェ、さまざまな春の豆たち、骨の出汁と柚子
定点~蕪とパセリ、キントアハム、ブリオッシュ
海の神 山の神~ほろほろ鳥のロティ、ムール貝のピュレとブールブラン、新玉ねぎ、アスパラガス
レフェルヴェソンス(L’Effervescence)
歳時記~桜海老、白海老、ホワイトアスパラガス/生姜蜂蜜酒
アップルパイのように#33~穴子、牛蒡、アオサ
新しい章~鰹、筍、茴香、トマト、紫蘇、コンプシト
北新地のル・シュクレクールの岩永さんのラミジャン
定点~蕪とパセリ、キントアハム、ブリオッシュ
うららか~甘鯛の乳清ポシェ、さまざまな春の豆たち、骨の出汁と柚子
海の神 山の神~ほろほろ鳥のロティ、ムール貝のピュレとブールブラン、新玉ねぎ、アスパラガス
ビタースイート~ショコラのムースとクリスプ、トンカ豆、赤ワイン
小菓子、お薄
アンリオ ブラン・ド・ブラン
キュヴェ・デ・ゼトゥルノー
フリーダム・オブ・ピーチ
福井の黒龍
シュペート・ブルグンダー・トロッケン・バーデン
バローロ・キナート
2018/08/22 更新
2017/02 訪問
定点、立ち去りがたし...「レフェルヴェソンス(L’Effervescence)」、枯淡な渋みと落ち着きがコースを貫く主調低音となって響く
"額縁庭園(がくぶちていえん)"というものをご存知だろうか...現在でも、京都の宝泉院(ほうせんいん)や、"雪の庭"として名高い妙満寺(みょうまんじ)といった名刹(めいさつ)には、その古式ゆかしい庭園様式が国の保護のもと維持管理されているのだけれど、要は、客殿から眺められる柱と柱の空間を額に見たて、お庭の四季の移ろいを観賞する、平安時代から存続するわが国固有の庭園形式のひとつが"額縁庭園"である。
...もし仮に、お庭に向けて1年間、ローアングルの固定キャメラを据え続け、そのショットの連なりを春夏秋冬の移ろいを意識してつなぎ合わせたなら、変わらぬお庭の形相を通じて、艶(つや)やかに移りゆく日本の四季を愉しむことができるだろう...
「レフェルヴェソンス(L’Effervescence)」の蕪のスペシャリテ(定点)は、この"額縁庭園"を彷彿とさせるものがある。お庭は、まさに蕪。それが1年を通じて、表情を変えながらその季節季節の味わいを移ろっていく...蕪の薄皮の柔らかな身質の下に瑞々しい淡麗な甘さを感じるならば、ひとはそこに夏の訪れを認めるだろうし、シャキシャキとしたしっかりとした身質の下に慎ましやかな甘みの増幅を感じるのなら、ひとはそこに秋への移ろいを聞き分けるに違いない...
生江シェフが、通年収穫できる野菜を色々と吟味した結果、最も美しい"額縁庭園"として選んだ野菜がこの"蕪"というふうに理解しても、当たらずといえども遠からずといったところではないだろうか...2017年2月11日(土)。この日にいただいた蕪のスペシャリテは、1年で最高の糖度の高まりをその丸根に抜かりなく張り巡らせ、冬の輝きを輝いていた。
...宝泉院の"額縁庭園"は、別名、盤桓園(ばんかんえん)という。意味は「立ち去りがたいお庭」というくらいの意味だそうだ。定点、立ち去りがたし...以下、この日の素晴らしいディナーについて出来るだけ詳細に書き綴っていきたい。
18:00。本日のお連れ様さまと直接レストランで落ち合う。今日のお連れさまは、しっかり自分の嗜好を持たれている方なので、色々のお料理の感想を伺えるのが、今から愉しみである。本日のお連れさまは、辛いものがあまりお得意でないので、本日はあらかじめ予約のときにそのことをお店に伝えてある。ボックス席に通されるとテーブルに本日のメニューが載っている。本日のお料理のタイトルは、
Terroir~Quand la terre rencontre la mer(テロワール~海と大地が出会う場所で)
とのことだ。...ところで"Terroir(テロワール)"とは何だろうか?後で調べてみたのだけれど、正確にこれに合致する日本語はないようである。無理やり近似した言葉をあてれば、「環境」ということになるようだけれど、「環境」よりもう少し大地の恵みと直結した有機的な意味合いを含んだ言葉のようだ。
たとえば、魚沼産コシヒカリは、単に魚沼という「環境」=場所が育むのではない。それは、魚沼の夏季の昼夜の温度差や豪雪地帯の豊富な雪解け水といったものによって育まれる。テロワールとは、単なる「環境」というより、そういった山の恵み、海の恵みを育む生育地の特徴に重心がおかれた言葉のようである。
ほどなく、ホール係の方から本日のコースの説明がある。
「辛子やわさびなどがお苦手ということで、少しお口直しの茶碗蒸しにわさびを使っているのですが、そこは外してご用意しております。今日のお食事ですが、食前のアミューズブーシュから食後のお茶菓子まで12品の構成。冬の旬の食材を使ったお食事をご用意させていただきます。今日はお魚料理には佐渡の甘鯛、メインコースには、京都の七谷(ななたに)鴨、まるまる1羽フレッシュでとどいておりますので、胸肉ともも肉の盛り合わせでご用意させていただきます」
...まず最初、コースメニューに載っていない1品が饗される。
「香川県産の国産のオリーブ。串に刺さっているのが塩漬けにしたプレーンと、もうひとつがクロモジの木の香りをうつしたものになります。少し香りが違いますので、味覚の準備運動にお召し上がりください」とのご案内がある。塩漬けにしたものと比較して、クロモジの香りを移したものは、どことなく丸みがあるように感じる。
1.厳冬の候~ぼたんえび、ビーツ、みかん、にごり酒
「まずは背の高いグラスからお愉しみください。彩(いろどり)も鮮やかで、すべて冬の食材。下には真っ赤なビーツですね、お野菜のビーツのピューレを沈め、ハーブのジュレの香りの中には、北海道のぼたんえびを食感よく仕上げています。縦長のスプーンで下から掬ってお愉しみください。シャーベットはみかんと日本酒。爽やかなシャーベットをご用意しておりますので、まずは左側から、このあとは右へとお愉しみください」
まずは左のグラス。真っ赤なビーツを下から掬(すく)って泡ごといただく。ビーツは見た目の鮮烈さとは裏腹に質朴な味わいだ。ぼたんえびのプリプリの食感に好感が持てる。右のグラスは小さなシャーベットだ。アラレ大のシャーベットが涼(すず)やかに口の中を遊ぶ。
2.アップルパイのように#26~あん肝、柿、菊芋
「26代目になったアップルパイです。食材は今回は、あん肝、菊芋、フルーツの柿...りんごは入っておりません...お召し上がり方はカジュアルに箱でパイを摘んで手でお召し上がりください。すごく熱いのでお気をつけてください」
柿は甘みはあるけれど、どこかしら和の慎ましさを感じる果物だ。その華美さを排した落ち着いた甘味のトーンと、あん肝のネットリとしたテクスチャが絶妙のマリアージュを演じたてる。ここで、自家製のサワークリームと少しのオリーブオイルがパンと一緒に饗される。
〇北海道らんこし町 松原農園の白ワイン
「北海道らんこし町 松原農園 ミュラー・トゥルガという品種の白ワインになります。日本のワインというのは、ヨーロッパと比較すると、アロマティックな力強さというよりは、柔らかさのでてくる繊細なものが多いです。これもまさにそのカテゴリにはまる"ザ・日本"というワインになります。すこしだけ白いお花とか黄色いお花の香りがあって、グリーンのフルーツの香りがでてくる、基本的には日本の土地の持っている旨味、少しばかりしょっぱい香りがあります...そのイメージと次のイカの味わいを一緒にあわせていただければと思います」とソムリエさんからご案内がある。華やかな香りを抑えた、ひたすら品性を感じる白ワインだ。
3.白から~アオリイカの羽衣、酒粕発酵乳と伊予柑、コールラビ、菊の花
「周りの"羽衣(はごろも)"は、アオリイカを昆布だしと一緒に真空調理して柔らかく仕上げています。中には食感を持たせたコールラビという根菜類と菊の花、伊予柑、それに乳酸発酵させた酒粕のおソースでお愉しみください」とのご案内。
これが絶品であった!薄く薄くスライスされたアオリイカを一口口に含むが、アオリイカ独特のねっとりとした舌触りに、力強い風味が鼻腔をくすぐり、甘味もあって申し分ない。酒粕のソースでまとめているあたり、和を強くイメージさせる逸品である。松原農園のワインとの相性も滅法よい。
〇ピノ・グリ・キュヴェ・オンクル・レオン・マグナム
「マグナムボトル、2本分の量があります。アルザスという地方がこんなふうにボトルを大きくしてしまうんですね。もともと山岳地帯で流通するボトルは大きいものが多いんです。こちら、2008年ビンテージのピノ・グリというブドウ品種を使っているオンクル・レオンになります。ほんのりと甘みのある口当たりの柔らかさの中に、ちょっと苦味があるのが特徴で、これと蕪のもっている瑞々しさや苦味を一緒に感じていただければと思います」とソムリエさんからご案内がある。
フランスワインであるが、これもアロマティックな際立つような主張はない。控えめな個性のため和食などに合いそうだ。ここで、蕪の皮とミルク、それに中に少し出汁を入れたカクテルがお猪口にいれられて饗される。出汁の香りが、ふわりと食卓に舞う。
お連れさまは、アルコールを飲まれないので、ジュースのペアリングのコースを選ばれる。「ジュースのイメージとは違って、お野菜のだし汁とかコンソメとかを使ったちょっと不思議なジュースのペアリングです」とのご案内に、「これ、このあいだもすごくよかったんですよね」とお連れさま。
4.定点~蕪とパセリ、キントアハム、ブリオッシュ
「お店の定番です。蕪です。蕪はこの時期が一番甘いとされています。確かに甘いです。4時間かけてゆっくりと調理されています」と簡潔なご案内。
前回伺ったときも旨いと思ったけれど、今回はさらに深い深い感動を覚える。焦しバターで丹念にソテーされた香ばしい表面の中から、圧倒するような凝縮感をもった蕪の旨味が溢れ出す。蕪というのはこんな食材であったろうか...思わずそうひとりごちたくなるような逸品である。
...ところでひとは料理を食べることによって、何を学ぶのだろうか?...そんなとりとめもないことを時折ぼんやり考えてみる。
ひょっとすると、味わうということがどれほど困難であるか...というより味覚がどれほど味わうことを回避し、味わうことを抹殺しているかということを、ひとは食べることを通して学んでいるんじゃなかろうか...レフェルのこんな蕪をいただくとそんなふうな思いが、ふとよぎったりする。
だれもが蕪という食材を知っていて、蕪のお料理と言われれば、肉料理をさっぱりさせるための少しも感動的でない添え物としての蕪であったり、お新香のような箸休めとしての蕪を容易くイメージする。でもそれは、そのとき決して蕪など味わっていないから可能なイメージなのだ。そうした蕪のイメージ喚起は、味覚が味わうことを抹殺した後で可能になる味わうこととは無縁の遊戯に過ぎない。
レフェルヴェソンスの蕪はそうした蕪のイメージには決して似てくれない。だからこそ感動的なのだ。わたしが素材に対して持つ安易なイメージに程よく媚びるのではなく、素材の抜き身の現存を突きつけてくるからドキリとするのだ。そしてそのときわたしは普段如何に安易なイメージの中で生活しているかを思い知らされるのである...
〇ヴァン・ド・フランス "ラシーヌ" ブラン
果実の香りと言うよりはシェリー酒のような妖艶で少しばかり大人の香りを感じる白だ。今までの控えめな白とは異なり、チャーミングな表情をもった白である。
5.雪見~甘鯛の乳清ポシェ、根セロリ、オリーブオイル
「では、お魚です。佐渡から届きました甘鯛となります。甘鯛といいますと鱗まで食べられるお魚なので、鱗をつけたまま鱗焼きにすることが多いのですが、今回は全てとってしまいました。身の食感のみでお愉しみいただきます。...乳清(ホエー)で低温でゆっくりとゆがいています、そうしますと本当に半生に近い状態で火が入ってすごく柔らかく仕上がります。下に敷いてあります根セロリをピューレとマリネにいたしました、すごくシンプルなんですが、甘鯛の美味しさと根セロリの美味しさを一緒にお愉しみください」とのご案内がある。
これも素晴らしい出来栄えであった。いささかの抵抗感もなく口の中でホロホロとほどける甘鯛の身肉(みしし)と根菜の質朴な組み合わせに、日本海にしんしんと降り募る冷たい雪景色が脳裏をよぎる。
〇醍醐のしずく
「日本酒をご用意しました。"醍醐のしずく"という千葉の寺田本家という酒屋さんで造ったものをご用意しました。全くお米を削らない、江戸初期のつくり方にならった柑橘系のトーンが特徴的なお酒になります。これをさつまいものスープにあわせてください」とのご案内である。
6.寒さとともに~毛蟹とさつまいものスープ、鱈の白子と猪のキャラメル、塩漬けレモン
「ここ最近結構評判がいい一品です。さつまいもの暖かいスープの中には、白子のフリットと毛蟹、白子も毛蟹も北海道から入荷しています。下のスープには、猪のキャラメルを流しています。この猪のキャラメルを作るのが大変なんです。猪のスネ肉をどんどん煮込んで、そこに黒糖を加えて作るのですが、最初は大量の猪のすね肉をずんどうに投入するんですが、最後はホンのちょっとになるくらいに煮詰めるんです。猪のキャラメルとレモンの塩漬けで変化を愉しみながらお召し上がりください」とのご案内だ。
さつまいものスープの甘味と日本酒のマリアージュが素晴らしい。
...一通りいただいた後に「さつまいものスープと猪のキャラメルだけでよかったかな~」と、お連れさま...しかし、こんな感想を聞くと、味覚というものは実に面白いものだと改めて思う。わたしは、その方の好みをお伺いして、その感覚が自分の中に存在しないような場合、いつも身を乗り出すようにその感覚を理解してみたいという気持ちになる。
なるほど、言われてみれば、さつまいものスープと猪のキャラメルはそれだけで十分に存在感があり主張がある。その主張をシンプルに直截に愉しみたいという想いは、大変よく理解できる。
ただ、わたしはこの一品をいただいたときに白子と毛蟹にそんなに違和感を感じなかった。スープに焦点をあわせるのではなく、白子(鱈の白子)のフリットと毛蟹をメインに考えて、それにスープという名の濃厚なおソースに絡めるという感じにいただいた場合、そんなに違和感を感じなかったのだ。焦点の合わせ方によって、壺にも人の顔にもみえる"ルビンの壺"のようなものかなと、ちょっと面白かった。
7.おばあちゃんの味~ちいさな茶碗蒸し、しじみとシャンピニオンのコンソメ、おろし立て山葵
「茶碗蒸しになります。上にしじみとマッシュルームの美味しいスープが載っています。スプーンの上には山葵が添えられています。山葵をなかに落としてお召し上がりください」とのご案内だ。
しっかりとシジミの滋味が感じ取れる。里山の寒空を彷彿とさせる味わいである。...ここまでいただいてきて、レフェルヴェソンスは2年前より全体的に和のイメージが強くなっているように感じる。
ここで、肉料理のためのラギオールのカトラリの選択。本日はローズウッドでいくことにする。
〇カードトリームのバルベーラ品種の赤ワイン
「カードトリームというイタリアのワインメーカーのバルベーラという葡萄を使ったワイン。鉄っぽい感じの中にも果実のボリューム感がある逸品です。この人くらいですね、こんなボリュームのあるバルベーラを作る人は。このイメージと肉厚な鴨を一緒にお愉しみください」とのご案内である。
8.囲炉裏の暖~七谷鴨を薪で、ソース・アバ、ホタテと焼き海苔のジュ、椎茸、縮みほうれん草
「京都の七谷鴨という鴨をご用意しました。手前の赤身が胸肉、ロゼ色がよく動くもも肉になります、食感があってお味がございます。内蔵をソースに仕立てています。オーブンで焼いたあとに最後に薪で炙ってちょっと香ばしくしてあります。この香ばしさと、あともうひとつクリアなおソースが流れておりまして、これが焼き海苔と干し貝柱の香ばしいお出汁。大地の旨みに海の旨みを加えてまいります。どうぞ温かいうちにお召し上がりください」
これは前回感動した一品である。やはりため息が出るほどに素晴らしい。丹念に丹念に火入れしているのが伝わってくる。なにより素晴らしいのは、鴨肉そのものの旨味と香りがダイレクトに伝わってくる点だ。二級品と圧倒的に違うのはこの旨味と香りの有無である。飾り包丁を入れてどんなに見た目綺麗に仕上げられていても、肉の存在感、旨味を感じさせないヴィヤンドは、何とも貧しさを感じさせるものだ。
9.西と東と~チーズたち あるいは お野菜たち
わたしはチーズ、お連れさまはサラダを選択する。
「今日はお野菜は55種類です。チーズの方は盛り合わせで4種類ご用意しました。左手前は"りんどう"というチーズなんですが、新政さんの酒粕に漬け込んでいます。対角線上の青いチーズが北海道の江丹別(えたんべつ)の"青いチーズ"というブルーチーズ、右手前はイタリアのセミハードのテストゥン・アル・バローロ。バローロというワインを絞ったあとに余った葡萄の皮で周りを包んで熟成させています。独特の風味が移っています。最後に左奥のスイスのエティバ、生乳からからお作りする非常にコクのあるハードタイプ。ハチミツと一緒に...」とのご案内。
〇新政 貴醸酒 陽乃鳥(ひのとり)
日本酒の方がチーズに合うとソムリエさんが一押しの一品。貴醸酒ならではの、蜜のような濃厚な甘味を感じる。日本酒とチーズを合わせるのはこれが初めてだけれど、中々によい。
"りんどう"は、クセが少なくコク深い味わいを楽しめる一品。"青いチーズ"はカビのピリリとした辛味が刺激的。"テストゥン・アル・バローロ"からは、芳醇な甘みと酸味、旨みがたっぷり感じられる。"エティバ"。しなやかなハードチーズ。これにハチミツをあせるのだけれど、わたしはこれが一番好みだった。
10.溶け合う~熟成栗と山ぶどうのモンブラン、ブルーチーズのメレンゲ、ラムアイスクリーム
「茨城の栗を1ヶ月間粘土で熟成させて、甘くなった栗で作ったモンブランです。中には山ぶどうのソルベ、ちょっと酸味があるんですが...あとまわりにはブルーチーズのメレンゲがございます。甘味と酸味と塩味が愉しめます。どうぞラム酒と一緒にお召し上がりください」とのご案内。
〇ヘレス・イスパニョーラ
「フィニッシュは、シェリーでキメてもらおうかなと思います。ヘレス・イスパニョーラというシェリーで、ヘレスという有名なシェリーの産地でつくる(ただ、一般にシェリーの作り方とは違う作り方をする)シェリーです。一般的にシェリーは通常のアルコール発酵するタイミングでグレート・スピリッツというブランデーを使って強制的に詰めちゃいます。でも、この一品に関しては一切それをやらないで、自発的にアルコール発酵の規定の度数以上に発酵させるんですね。その状態で、樽の中で時間をかけて熟成させ、独特な風味を加えてます。ブランデーを入れて熟成を止めているわけではないので、独特な甘みが残っているんです。ほんのりとした甘味とシェリーの独特な産地っぽい塩味とか苦味が出てきてそこから樽の香りが感じ取れてそのバランスが絶妙なんです...シェリーというと食前酒のイメージがありますが、今日は食後にご用意しました」と食後酒のご案内がある。
このモンブランからも和の佇まいを感じる。ヘレス・イスパニョーラの樽の風味を感じる独特な甘味との相性は文句がない。
11.一座建立~酒粕のリ・オ・レ、サルナシ、甘酒アイス
「フランスのお菓子、リ・オ・レといいます。リ・オ・レというのは、ヨーロッパではお米を甘く炊き上げて作るのが定番なんですが、今回は酒粕を使って炊き上げました。上には甘酒のアイスクリーム、真ん中にはキウイの原型といわれる日本原産のサルナシの実をジュレにしたものをご用意しました。なのでお米の甘さと少しの青さをお愉しみください」とのご案内。
酒粕を甘く煮たデザート。そこにサルナシと甘酒のアイスクリームが添えられている。まさにこれも和を感じさせる一品であった。
12.ミニャルディーズ&お薄
小菓子とお薄で一通りとなる。"ドンパッチ"が口の中で小気味よく弾けるのを愉しみながら、レフェルの素晴らしさをゆっくりと反芻する...やはりここはわたしにとってNo.1フレンチだ!誰がなんと言おうとレフェルは止められない!
囲炉裏の暖~七谷鴨を薪で、ソース・アバ、ホタテと焼き海苔のジュ、椎茸、縮みほうれん草
定点~蕪とパセリ、キントアハム、ブリオッシュ
白から~アオリイカの羽衣、酒粕発酵乳と伊予柑、コールラビ、菊の花
西と東と~チーズたち あるいは お野菜たちの55種類のお野菜たち
溶け合う~熟成栗と山ぶどうのモンブラン、ブルーチーズのメレンゲ、ラムアイスクリーム
雪見~甘鯛の乳清ポシェ、根セロリ、オリーブオイル
寒さとともに~毛蟹とさつまいものスープ、鱈の白子と猪のキャラメル、塩漬けレモン
お薄
香川県産の国産のオリーブ。串に刺さっているのが塩漬けにしたプレーンのもの、刺さっていないのがクロモジの木の香りをうつしたもの
厳冬の候~ぼたんえび、ビーツ、みかん、にごり酒
厳冬の候~ぼたんえび、ビーツ、みかん、にごり酒
アップルパイのように#26~あん肝、柿、菊芋
自家製のサワークリームと少しのオリーブオイル
パン
白から~アオリイカの羽衣、酒粕発酵乳と伊予柑、コールラビ、菊の花
定点~蕪とパセリ、キントアハム、ブリオッシュ
雪見~甘鯛の乳清ポシェ、根セロリ、オリーブオイル
寒さとともに~毛蟹とさつまいものスープ、鱈の白子と猪のキャラメル、塩漬けレモン
おばあちゃんの味~ちいさな茶碗蒸し、しじみとシャンピニオンのコンソメ、おろし立て山葵
囲炉裏の暖~七谷鴨を薪で、ソース・アバ、ホタテと焼き海苔のジュ、椎茸、縮みほうれん草
西と東と~チーズたち あるいは お野菜たちのチーズ、左手前はあらまささんの酒粕に漬け込んだ"りんどう"というチーズ、対角線上の青いチーズが北海道の江丹別(えたんべつ)の"青いチーズ"というブルーチーズ、右手前はイタリアのセミハードのテストゥン・アル・バローロ、最後に左奥のスイスのエティバ、ハチミツと一緒に...
西と東と~チーズたち あるいは お野菜たちの55種類のお野菜たち
溶け合う~熟成栗と山ぶどうのモンブラン、ブルーチーズのメレンゲ、ラムアイスクリーム
一座建立~酒粕のリ・オ・レ、サルナシ、甘酒アイス
ミニャルディーズ
お薄
ハーブティ
北海道らんこし町 松原農園 ミュラー・トゥルガという品種の白ワイン
ピノ・グリ・キュヴェ・オンクル・レオン・マグナム
ヴァン・ド・フランス "ラシーヌ" ブラン
千葉の寺田本家の"醍醐のしずく"
カードトリーム、バルベーラ品種
新政 貴醸酒 陽乃鳥(ひのとり)
ヘレス・イスパニョーラ
レフェルヴェソンス(L’Effervescence)
レフェルヴェソンス(L’Effervescence)
2018/08/22 更新
2015/02 訪問
美味なる"泡"の輪舞(ロンド)に酔いしれる...「レフェルヴェソンス(L’Effervescence)」、この店舗を本年度フレンチのベスト1として推奨したい!
ベスト10とかベスト3とか、はたまたベスト1とか...本来わたしはレストランの格付け・ランク付けにはそんなに興味があるほうではない。(もちろん否定はしないけれど)そもそも料理を食べるという行為自体ご大層な行事でもなんでもなく、誰もが日々行っている人間の営為のほんのひとつにすぎない。
お店でお料理が饗されたならば、みな、この上ない自然さで肩の力を抜き、普段の生活そのままに、あるがままの振る舞いでそれに接し、いささか無責任に、この店はおいしいとか、そうでもないとか述べ立てていれば、それで充分というものだろう。そしてまた、お料理をいただきつつ、客観的な分析からは限りなく遠く離れ、五感の世界をたゆたいながら、自分の嗜好と合意形成できるか味覚をまさぐるのもまた、食べ歩きの愉しみの1つにちがいない。
それが、ベスト10とかベスト3とか、はてまたベスト1を選出するといったパースペクティブを強いられた途端、本来フォーカスされることのないそれら日常の人間的営為がいささか自然さを欠いた形でライトアップされ、日々繰り返してきた何でもない営みに対して、改めてよそよそしく襟を正して向き合い、言葉であれやこれやの理由を紡ぎあげながら選別を進めていくその作業に、どうしても鈍色(にびいろ)の憂鬱を覚えてしまうのだ。
...ところでのっけからベストXを選出することの憂鬱について語り始めたのは、これからそんな気乗りしない作業に手を染めようとしているからでは勿論ない。いや、事態は全く逆といってよい。というのはほかでもない、そんな気の乗らない作業に手を染めるまでもなく、問答無用で自分をベスト1といわずしてどうする、といった抜き身の迫力で己を突きつけてくるフレンチ...言い換えれば、ベスト1選出の鈍色の憂鬱を瞬時に吹き飛ばしてしまうようなフレンチの名店との例外的な出会いがあり、本来健全なベスト1決定のプロセスとはこういうものだといわんばかりの、その名店の胸のすくような出現ぶりにすっかり打ちのめされてしまったからなのだ。
しかしでも、もしベスト1を語るというのであれば、この興奮こそ不可欠であろう...客観的な分析など介在する余地などなく、食べた瞬間、もうここに行くほかないという焦燥感で、ひとを途端にいたたまれない気分に追いやってしまう店舗...そういった店舗が実在してしまうからこそ、ベストXを選出するかのごとき弛(たる)みきった時間を過ごすくらいなら、身仕舞いを整え、今すぐその店舗に駆けつけ、ひたすら打ちのめされる方が、ひととして決定的に正しいあり方だと、いささか粗暴に断定し切ってしまいたくもなるのだ...では、そのフレンチレストランとはどこか。
そのフレンチの名店の名前は、「レフェルヴェソンス(L’Effervescence)」。
この店舗が本年度のベスト1というのは、ほとんど神の摂理にかなったことだとさえいえると思う...思い返してみれば、なるほど、「ラ・ブランシュ」は良いお店だった。「銀座レカン」も感動的であった。「マダム・トキ」も甘美であった。そして「ガストロノミー ジョエル・ロブション」はどこまでも絢爛(けんらん)で贅沢であった。だがそうした例外的なフレンチレストランでも「レフェルヴェソンス」の前では色褪せてみえる。こちらでいただいたフランス・シャラン鴨のロティは、現代風フレンチの最大の傑作ではなかろうかとさえ思うくらいの素晴らしい出来栄えであった。以下その訪問記をできるだけ詳細に書きつけていこうと思うが、今回は、より現場の臨場感を感じていただくために、メートル・ド・テル(給仕長)からご説明いただいた内容を骨子に文章を組み立ててみようかと思う。※以下メートル・ド・テルは、(M)で表現する。
2015年2月14日(土)、11:36日比谷線広尾駅3番出口に降り立ち、タクシーを拾って西麻布交差点で下ろしてもらう。「焼鳥浜の家」から路地に入り西に直進すると、ほどなく曹洞宗大本山永平寺別院長谷寺とぶつかるので左折する。ゆるやかな坂道を数メートル登ると、「レフェルヴェソンス」のあの淡い矩形のタイルを積み上げた外観が現れる。
中からホール係の女性が出てきてにこやかに微笑んでくれる。予約名を告げると、まだ12:00前ということで、まずは待合室に通される。他に客はいない。いったん待合室に通されたもののさほど待たされることなく、直ぐにテーブル席へのご案内となる。本日は半個室のテーブル席である。半個室からは店内の様子と緑したたるお庭の光景がみえる。
まずは、せっかく"発泡"を意味する「レフェルヴェソンス」に来たのだから、シャンパンをオーダーすることにする。複数選択肢からチョイスしたのは、ベルナール・ブレモン。フランス、アンボネイ村の生産者の手になるシャンパーニュである。輝きのある淡いペールイエローで、明るく澄んだ外観である。そしてその泡立ちはどこまでも肌理細かい。一口含むが、アタックはやや強くなめらかである。辛口でコクとキレのバランスがよい。優雅に広がる果実のフレーヴァーが素晴らしい。
本日は、おでかけ(Une promenade)(7,800円)のコースでいくことにする。
1.あん肝、根セロリ、セロリを2口で~
まず1品目のアミューズが饗される。メートル・ド・テルが背筋を伸ばしてテーブルの傍らに立ち、滔々(とうとう)たる淀みない弁舌でお料理の説明をはじめる。
(M)「まずはアミューズブーシュをお愉しみください。並んだグラスの背の高い方は泡のグラス。泡というのが当店の一つのコンセプト...なので使う器もグラスも、そして食材のスタートも泡から...グラスの中は季節ごとに食材を変えていくのですが、今日は、寒い冬に美味しくなる鮟鱇(あんこう)。下関で獲れたものです。身の部分は後ほどご用意しますが、これはあん肝になります。背の高いグラスの方に入れてあり、根セロリのピューレを下に敷いて上にはセロリの泡がのっています。スプーンで下から掬って召し上がってください...右のグラスは、お口休め。シャーベットですね。同じセロリのジュース、オレンジの果汁を液体窒素で仕上げたものです。非常に清廉さを持っています。左手を召し上がった後に右手と、順番に召し上がってみてください」
メートルの口から発される淀みない言葉の連なりを心地よく耳朶で受け止めた後、まずは背の高い泡のグラスの方をいただく。泡を少し掬い舌先にのせると、あのセロリの清涼感のある風味が漂い、うたかたの儚さで消えてなくなる。今度はセロリのピューレが敷かれている下の方までスプーンを入れ、泡と鮟鱇とピュレを掬いあげて一緒にいただく。セロリの爽やかな風味の中から、海のフォアグラの旨みの凝縮した脂質が舌にまとわりついてくるのが感じられる。続いて右の器のソルベ。果実の甘みをもっていて、口の中を清涼感で満たしてくれる。これも何かパチパチと弾けるような気泡の軽快感を感じさせる1品である。
ここで、パンが饗される。ペティ・バケット(小さいバケット)とライ麦のパン。香ばしい麦の風味が直截に感じ取れる一級品のパンである。バターをつけていただくのだけれど、このバターも素晴らしい。バターの存在感を秘めているにもかかわらず、いささかもしつこくないため、いくらでも食べることができる。
2.ふきよせ~鮟鱇のロティ&大根、ムール貝、白味噌、辛子水菜、百合根、柚子
ここで2品目が饗される。"ふきよせ"と題された魚料理である。
(M)「先ほどアミューズブーシュであん肝をお出ししましたが、これは鮟鱇の身の部分です。鮟鱇はもともと大きなお魚ですので、旨みだけ残すのはもったいない。厚めにカットして食感、ジューシーさを残して、火を加えていきます。付け合せは大根なんですが、鮟鱇の骨からとったお出汁で炊いているので組み合わせは間違いない。香りは柚子、ほかには辛子水菜、あとは、ソースの中に味噌が入っています。かなり和のテイストが強い仕上がりになっています。ムール貝のソースがポイントになっています。貝の産地は宮城ですが、もともとムール貝自体は日本の食材ではありません...では、もともとどこからきたのか、というと、フランスのモンサンミシェルだそうです。小ぶりな貝ですが旨みはしっかりしています。ソースをからめてお召し上がりください」
まず驚かされるのは、鮟鱇の身肉(みしし)の強い弾力である。その力強い存在感が、極寒の下関海峡を生きる精悍(せいかん)な生命力そのものに感じられてならない。鮟鱇の下に敷かれた大根は鮟鱇の骨からとった出汁で煮込まれているので、ほぼ鮟鱇の身肉の味わいと一体化しており、この組み合わせには一抹のささくれもない。モンサンミシェルの系譜を引く宮城のムール貝は、なるほど、その小ぶりのアピアランスからしてモンサンミシェル産を彷彿とさせるものがある。小ぶりの身の中に、しっかりと旨みが蓄えられている。とはいえ、強く個性を主張してくるようなインパクトはない。味わいあっさりした鮟鱇の一品に、ひと刷毛、水彩画のようなムール貝の淡い旨みをまとわせたような全体の仕上がりが殊のほか感動的だ。
ここで、次のパンが饗される。向日葵の種を混ぜた雑穀パンとプレーンバケット。このパンも素晴らしい。思わず2回ほどおかわりしてしまう。新しいパンになったところで、白のグラスがいただきたくなる。いくつか選択肢の中から選んだのは、サンディ、シャルドネ・サンタ・バーバラ2012。カリフォルニアワインである。シャルドネ100%。グラスに注がれれば、輝くような黄色の色合いをグラスに映し出す。(ソムリエさんからスワリングして、酸素をいれたほうがまろやかに美味しくいただける旨、ご指導がある)
一口含んでみて、心地よいナッツの香り、フレッシュで爽快でありながら、しっかりとした余韻が感じ取れる。まさに食事と共に楽しめるワインという印象だ。
3.定点~丸ごと火入れした蕪とイタリアンパセリのエミュルション、バスク黒豚のジャンボンセック&ブリオッシュ
3品目が饗される。スペシャリテ...まずはメートルさんの口上に耳を傾けてみようではないか...
(M)「いろんなお店に、そのお店を代表する定番、スペシャリテというものがございます。これがうちの定番、スペシャリテです。蕪だけですね。火入れに4時間かけておりますが、4時間火を加えたとは思えない見た目のよさと食感を残しています。お客さまの中には、本当に4時間火をいれたのかと疑う方もいらっしゃいますが、ちゃんと火を入れた美味しさ、旨味というものがでております。これは通年同じものを出し続けます。同じ火入れ、同じおソース、盛り付け、付け合せ、なにも変えません。そうすることでこのスペシャリテの味が季節ごとに純粋に変ってきます。つまり季節の蕪の味わいというものがお皿の表面に浮かび上がってきます。今日のものは冬に採れたのものですので純粋に冬の味がする...これが夏や春にきていただきますと、夏や春の蕪の味わいがします。季節の蕪の味をお愉しみください」
ナイフで蕪を切り取り一口口に含む。途轍もなく柔らかいが、それも存在感を喪失してしまうほどではない。しっかりとした個体性を感じ取ることができる。弱火で4時間火入れし、個体性を損なわぬ直前まで柔らかく加熱して蕪本来の旨みを引き出している。瞳を閉じれば、霜柱の立った土の中に眠る仄かな仄かな蕪の苦味を的確にイメージすることができる。また、下のおソースも蕪との相性が抜群であった。"エミュルション"とは"乳化させたもの"という意味で、イタリアンパセリの濃厚なピュレである。ただ、それも蕪の繊細な風味を殺すことなく実に慎ましやかにこの1品に点睛を施していることに感動する。
これはどちらの蕪ですか?とメートルさんにお伺いしてみる。
(M)「千葉県産です...千葉の東庄(とうのしょう)、利根川の河口水域にすごく大きな生産地あるのでそちらと契約させていただいていて、基本的に1年中とれる環境を作っているんですが、とはいえ、猛暑の際はどうしてもコンディションが落ちるときがあります...そのときの2ヶ月間は、青森県、野辺地(のへじ)から入荷できるようにしています。さらに、不測の事態に配慮して第3契約地として北海道の農家さんとも契約させていただいていて、通年蕪を切らさない配慮をしているんです。北海道は、冷涼な地なので作っているところは1年を通して必ず作っています。そんな形で絶対に蕪を切らさない契約体制を組んでいるんです...当店では、蕪が登場しない日はございません」
(M)「蕪の季節の味わいの違いを感じていただくためにタイトルも"定点"とさせていただいています。これは、"定番"と"定点観測"という2つの想いをを込めた命名になっておりまして、"定番"はともかく、"定点観測"には、"中心は蕪にしてあとは季節に回ってもらいますよ"との想いが込められているんです」
ここまでこだわっている蕪の味わいは最高。あの苦味、仄かな蕪の癖、香る大地の風味...その存在感を存分に堪能しながらも、しかしでも、なぜ蕪にここまでここまでこだわるか?...そこは次回の訪問でぜひお伺いしてみたいところだ。
4.フォアグラのナチュレルと金柑のコンポート、生姜、フロマージュブラン、菊芋のピュレとクリュ、春菊の葉
4品目。清楚感すら感じる素晴らしいアピアランスだ。フォアグラと甘味の相性は申し分ない。メインディッシュの晴れ舞台へと続く花道に、滋味と甘味のマリアージュが華を添える。
(M)「フレンチで召し上がるフォアグラといえば、だいたいポワレになるかテリーヌか、ローストするか...どれも美味しいんですが、どれも少し重たいようなイメージがあるかと思います。われわれ、この後にすぐにメインディッシュをご用意させていただきますので、ここは重厚さから少し離れて、軽やかに、どこまでも軽やかに味わっていただきたい...華やかな火入れ自体はオリジナルで、フォアグラのもともとの旨みや甘味を残して仕上げていく方法で仕立てています...で、見た目も鮮やかです。季節感のあるフルーツは、金柑を合わせています。コンポートにした甘味と酸味をベースにしてフレッシュの春菊で、ほろ苦さと清涼感を...シェフも自分で結構面白い使い方をしたといっております」
(M)「さらにお皿の上に散らされているのは菊芋です。これはすりおろしただけなんですね。生のまま。菊芋の場合、そういう使い方を普通しないんですが、このように調理いたしますととてもジューシー感がでてまいります。僕たちもお料理説明させていただくので、必ずお料理の試食は行うのですが、これはまるでデザートのような甘味と清涼感があってびっくりしました。でもフォワグラなんですね。あえてスプーンをご用意しているのは、単体ではなくて、その組み合わせを楽しんでいただきたいとの思いです」
まさにデザートのような一品である。華やかな組み合わせの妙とでもいおうか...金柑のコンポートはどこまでも甘い言葉でささやきかけてくる。さらに濃厚なフロマージュブランのミルクの味わいの中に、滋味あふるるフォアグラの良質な脂質が顔をのぞかせる。フォアグラは重厚さから限りなく遠く、花の周辺を舞う胡蝶の舞のように軽やかだ。そこに通り雨のように春菊の苦みが走り抜け、さらに甘みのないシャリリとした噛みごたえの菊芋が冷たい食感を残して涼やかに口中を彩る。
5.炎~フランス・シャラン産鴨胸肉のロティ、ビーツのピュレ&日本酒に漬けた干し柿、カーボロネロ、シャントレル茸、黒胡椒
メートルさんが、銀のトレーを携えて半個室に入ってこられる...トレーの上には10本のラギオールのカトラリが几帳面に並べられている。
(M)「このあとのメインディッシュをお好きなナイフで愉しんでいただきたいと思います。お好みのものをお選びください...切れ味は同じですので、お好きなものをお選びください。..どうも、お選びいただきますと、そこにお客さまのご性格がでるといいますか、傾向のようなものがでるようです」とのこと。ざっと概観して、わたしは、中央の1本を選択する。と、(M)「こちら、ジュニパーベリーという針葉樹を使った1本になります。ジンの香り付けに使われるの樹木で、お酒が好きな方が選ばれる傾向があるようです」とのことである。連れのAmyさんはしばらく2本うちどちらか悩んでいたけれど、最終的に選んだのは、オリーブウッドの1本。木目調の綺麗な一品である。(M)「明るいウッディな感じの1品です。悩まれていたもう1本の方は、ローズウッドです。またのお越しの際にお試しください」と言葉を残して下がられる。
ここで、シャラン鴨を見据えて、赤をグラスでいただくことにする。いくつかの選択肢の中から選んだのは、ニュイ・サン・ジョルジュ プルミエ・クリュ クロ・デ・フォレ・サン・ジョルジュ2010赤。濃緋色(こきひいろ)の、深さを感じるアピアランス。一口口に含むが、想定通りかなりしっかりしたストラクチャだ。カシスやブラックベリーの黒系果実の香りに黒胡椒のようなスパイスの風味が漂う。しなやかなタンニンやスパイスのニュアンスがアクセントとなっており、ワインをより深い印象へと導いてくれる。
ここで、待望のメインディッシュが運ばれてくる...
(M)「ロゼ色を保ちながら焼き上げて、皮目は備長炭を使ってカリカリに焼き上げてあります。おソースはビーツを使った鮮やかなピュレ。タイトルは、ずばり"炎"です。説明は以上です。お召し上がりください...」
ラギオールのカトラリを使って切り取った身肉(みしし)を一口口に入れると、そのあまりの素晴らしさに、体に電流が走りぬけたような衝撃を受ける。鴨肉はどこまでも柔らかく、身肉の中に、驚くほどの肉の旨みが詰めこまれている。慈しむように丹念に丹念に火入れされているのが手に取るように伝わってくる。口に含んだ際の身肉の艶ややかな肉感性を前にすれば、誰もがその比類のない美しさにあられもなくうろたえるほかなかろう。また、皮目はパリパリの焼き上がりとなっており、絶妙に水分を飛ばしたその皮目の香ばしさを全身で受け止めれば、「やられた」とひとりごちて絶句するよりほかなかろう。完璧、そう完璧なのだ。これは傑作と呼ぶのが惜しいくらいの途轍もない名作である。
鴨くらい誰でも1度は食べたことがあるだろう。しかし知っているつもりでいながらそのつど知っているつもりの自分を不意撃ちするのが名作というものである。そんな作品がそうやたらに存在しうるわけもない。しかしでも、紛れもなくいえるのは、この"炎~フランス・シャラン産鴨胸肉のロティ"は、そのやたらに存在しない途轍もない名作なのである。この料理は、食するものを不意撃ちする痛い料理である。おそらく、その痛みを耐えるところから「レフェルヴェソンス」への"愛"ははじまるのだろう...
メートルさんにお声がけし、率直に料理の感想を申し上げる...と、たいへん嬉しそうに相好を崩して以下のようにお応えいただく。
(M)「本日、お客さまは、本当にいい季節にいらっしゃっていただいたんです。もう少し季節がずれてしまうと鴨を食べるのに1年待っていただく必要があります。逆に12月~2月のこの時期は鴨の季節なので、僕らはこの料理がご提供できて強いんです。このシャラン鴨は、多くのお客さまのハートを強く掴んでいる鴨で、これを味わうと、鴨の季節でなくとも、その季節の旬のお料理も食べてみたいと、お客さまの足を当店に向けてくれる魅力をそなえた鴨なんです。この1品は、丹念に丹念に火入れして仕上げていまして、これだけに5種類の異なった火入れを施しているんです。フライパン、オーブン、サラマンダー、温蔵庫(おんぞうこ)、備長炭...最後は炭と団扇で仕上げてあるんです。団扇と言っても炭を仰ぐための団扇ではなく、炭であてた表面から瞬間的に温度を落としたいので、炙って取り出した際、皮面を扇ぐためだけにスタッフを1名つけているんです。急激に温度を下げるので、皮目から水分が逃げてパリパリに仕上がる。僕も普段は厨房には入らないんですが、このくらい説明できるくらいみんな想い入れがあるお料理なんです。ゆっくりゆっくり火を入れられて、最高の状態で出てきて直ぐに食べられる。そのくらいちゃんと火を入れているのが伝わるんですよね」
話を聞いてみると、自分の味覚が感じ取った調理の工程が瞼の裏に再現されていくようで、既視感(デ・ジャ・ヴ)すら感じる。
6.熟成和栗のクリームと竹炭プララン、ブールノワゼットのアイスクリーム、黒オリーブ、タカラ牧場の「小さなトム」のムース
デセールが饗される。柔らかい初雪の面のやうに、ふつくらと光線を吸ひ取っているかのような優しい佇まいの1品。お皿の周辺に散らされた竹炭を使ったカラメリゼが淑(しと)やかに甘味を主張し、マロンペーストの優しい甘味が焦がしバターソースのアイスクリームの冷涼な甘みと相俟って慎ましやかに自己主張している。これまでの美味の連なりを優しく包み込んでくれるかのようだ...
7.おしゃべりのひととき
コースの締めくくりである。ハーブティを選択する。運ばれてきたそれは、美しいブルーの色調に染まった1品。ブルーマローというハーブが入っており、まるで朝日が昇るまえの空色のような美しい水色の輝きをもっている。ブルーマロウが「夜明けのハーブ」とロマンティックな別名を持つのもうなずけるというものだ。味わいはフローラル系の香りで、癖がない。2杯目からは黄色の色調に変化していく。またティとともに小菓子も饗される。メートルさんが1品1品説明してくれる。
(M)「葛を使ったキャラメル。葛で固めていきますのでゼリーのような感覚とキャラルの食感の両方を愉しめます。周りはオブラートでくるんでありますので、そのまま召し上がっていただいて結構です。山形から届いた西洋カリンを使ったゼリー菓子。なかはクリーム、必ずチョコレートと一緒に一口でお召し上がりください。最後チュパティップスのチョコレートは仕掛けをしています。説明はいたしません」
チュパティップスを最後にいただくが、その仕掛けにふつふつと笑いがこみあげてくる。これこそ「レフェルヴェソンス」でいただく最後の1品にふさわしい。まだ未訪の方は、ぜひ「レフェルヴェソンス」に駆けつけてご賞味いただきたい!ここでは仕掛けの詳細を語るのは、控えておくが、ひとこと"ドンパッチ"とだけヒントを書き添えておきたい。
これで「レフェルヴェソンス」でのコースが一通りとなる。「レフェルヴェソンス」の美しさはやたらな美しさとはわけが違う。その素晴らしさを受け止めたものは、ただひたすら言葉を失い続けるしかないほかなかろう。そしてただ芸もなく「レフェルヴェソンス」、「レフェルヴェソンス」と連呼し続けるしかあるまい。今一度いおう!「レフェルヴェソンス」は、他の追随を許さぬ本年度のベスト1のフレンチレストランである!
炎~フランス・シャラン産鴨胸肉のロティ、ビーツのピュレ&日本酒に漬けた干し柿、カーボロネロ、シャントレル茸、黒胡椒
フォアグラのナチュレルと金柑のコンポート、生姜、フロマージュブラン、菊芋のピュレとクリュ、春菊の葉
ふきよせ~鮟鱇のロティ&大根、ムール貝、白味噌、辛子水菜、百合根、柚子
定点~丸ごと火入れした蕪とイタリアンパセリのエミュルション、バスク黒豚のジャンボンセック&ブリオッシュ
花
ベルナール・ブレモン シャンパン
ベルナール・ブレモン シャンパン
あん肝、根セロリ、セロリを2口で~
ペティ・バケット(左)、ライ麦のパン(右)
バター
ふきよせ~鮟鱇のロティ&大根、ムール貝、白味噌、辛子水菜、百合根、柚子
向日葵の種を混ぜた雑穀パン(左)、プレーンバケット(右)
定点~丸ごと火入れした蕪とイタリアンパセリのエミュルション、バスク黒豚のジャンボンセック&ブリオッシュ
サンディ、シャルドネ・サンタ・バーバラ2012 白
サンディ、シャルドネ・サンタ・バーバラ2012 白
フォアグラのナチュレルと金柑のコンポート、生姜、フロマージュブラン、菊芋のピュレとクリュ、春菊の葉
ラギオールのカトラリ
ラギオールのカトラリ
ニュイ・サン・ジョルジュ プルミエ・クリュ クロ・デ・フォレ・サン・ジョルジュ2010赤
ニュイ・サン・ジョルジュ プルミエ・クリュ クロ・デ・フォレ・サン・ジョルジュ2010赤
ニュイ・サン・ジョルジュ プルミエ・クリュ クロ・デ・フォレ・サン・ジョルジュ2010赤
炎~フランス・シャラン産鴨胸肉のロティ、ビーツのピュレ&日本酒に漬けた干し柿、カーボロネロ、シャントレル茸、黒胡椒
熟成和栗のクリームと竹炭プララン、ブールノワゼットのアイスクリーム、黒オリーブ、タカラ牧場の「小さなトム」のムース
おしゃべりのひととき
おしゃべりのひととき
定点~丸ごと火入れした蕪とイタリアンパセリのエミュルション、バスク黒豚のジャンボンセック&ブリオッシュ
フォアグラのナチュレルと金柑のコンポート、生姜、フロマージュブラン、菊芋のピュレとクリュ、春菊の葉
炎~フランス・シャラン産鴨胸肉のロティ、ビーツのピュレ&日本酒に漬けた干し柿、カーボロネロ、シャントレル茸、黒胡椒
熟成和栗のクリームと竹炭プララン、ブールノワゼットのアイスクリーム、黒オリーブ、タカラ牧場の「小さなトム」のムース
半個室のテーブル席
L’Effervescence
L’Effervescence
L’Effervescence
花
2015/03/01 更新
レフェルヴェソンスは旨い。...しかし、その旨さを(ときどき見かけて残念な気分になるのだけれど)、"モラキュラー・キュイジーヌ(分子料理法)"のようなものと受け止めるのは差し控えるべきだと思う。その手のイノヴェーションに夢中な連中は、化学実験のような創作料理で、見た目と異なる味覚の意外性の純粋培養にかまけきって、四季を通じて食材たちが奏でる、繊細な旨みの移ろいに一向に鈍感だからだ。
...蕪が、そのシャキシャキとした身質の奥底に、慎ましやかに甘みを蓄え始めたなら、ひとはそこに秋への移ろいを聞き分けるだろうし、またあるいは、蕪が、1年で最高の糖度の高まりをその丸根に抜かりなく張り巡らせてきたならば、人はそこに冬の輝きを感じるだろう。...「旨み」というものが、四季の移ろいの中にあるレフェルの料理は、自然の移ろいに乏しい、膠着しきった人工的な「旨み」の対極にあるとさえ思う。
2018年5月19日(土)。早春のこの日、レフェルの蕪は、薄皮の柔らかな身質の下に瑞々しいまでの淡麗な透明感を蓄えていた。以下、「レフェルヴェソンス」の素晴らしいランチについて、詳細に書き綴っていきたい。
本日はいつもお世話になっている超有名レビュアさん仕切りの昼食会である。地下のテーブル席に着座すると、メニューに"ルネサンス「再興」"とある。
最初は、シャンパーニュ。アンリオ ブラン・ド・ブラン。きめ細やかで滑らか。どこかしらお花のフレーバーを感じる。
1.歳時記~桜海老、白海老、ホワイトアスパラガス/生姜蜂蜜酒
左に背の高いグラス、右に背の低いグラスが並べられる。
左側のグラスは、一番底にホワイトアスパラと、"茶臼岳(ちゃうすだけ)"という那須高原のシェーブルチーズ(やぎのチーズ)をあわせたクリームをピューレにして沈め、その上に、富山の白海老と、刻んだホワイトアスパラを合わせて食感のアクセントを出している。そして、一番上には静岡県産の桜海老を使った泡が添えられている。
右側のグラスは、左のグラスの口直しとして添えられたシャーベットである。液体窒素で固めた自家製のMEAD(ミード)=蜂蜜酒に生姜のしぼり汁を合わせて作ったシャーベットだ。
これを左、右の順で愉しむ。シェーブルチーズの濃密過ぎない佇まいと、富山の宝石、白海老の甘みがよくあっている。シャーベットとの温度差もなかなか面白い。
2.アップルパイのように#33~穴子、牛蒡、アオサ
ここで、レフェルのアップルパイが饗される。なんでも、今回のパイは今日の夜からスタート予定のパイだそうだが、常連の今日の幹事さまのお昼の会ということで、お店側も、ややフライング気味でご案内することにしたそうだ。幹事さまに感謝である!
パイは、1番下にはリンゴが敷かれていて、その上に炊いた穴子が載っている。そこにさらに赤ワインビネガーを煮詰めた、いわゆる"ヴィネーグルレデュイ"を入れて、アオサ海苔と柳川牛蒡を合わせてある。熱いので火傷しないようにとのご案内がある。
最初はリンゴの甘みが来るが、そのあとに穴子、アオサ海苔の香りがふわりと漂う。このアオサ海苔がパイ全体を包み込むように、海苔の香ばしい存在感を示していたのが殊のほか素晴らしかった。そして一番最後に慎ましやかに牛蒡の土の香りが広がる。
3.新しい章~鰹、筍、茴香、トマト、紫蘇、コンプシト
これは、今回レフェルではじめていただく一品である。
...初鰹を昆布締めにして、さらに鰹節で作ったキャラメルで軽く漬けにしてある。その下にさっぱりとした、トマト、ケッパー、大葉、キュウリ、また、茴香(ういきょう)=フェンネルを忍ばせてある。
そして、この料理のポイントは、メニューにある"コンプシト"だとご案内がある。なんでもこの料理名はアイヌの料理からとったそうだ。"コンプ"というのは、アイヌ語で"昆布"を意味していて、"シト"というのは、"お餅や団子"を意味する言葉だそうで、アイヌ地方では、"コンプシト"というと、"お餅やお団子を昆布の漬けタレでいただく"という料理を意味するそうだ。
レフェルのこの料理では、初鰹を昆布締めしたときの昆布を捨てず、油の中で煎餅のように素揚げしてパリパリに仕上げ、醤油や味醂で風味をつけて、それを少し砕いて鰹の真下に忍ばせてある。"コンプシト"の"シト"にあたる"団子や餅"は、特段料理の中には見当たらないが、なんとこの鰹のモチモチの食感を餅と見なして、レフェルヴェソンス風の"コンプシト"に仕立て上げた料理だとのご案内がある。洒落ていて面白い。鰹は、紀州の"餅鰹"が有名だけれど、もともとその食感が似ていることでよく"餅"に譬えられる。
しかし、このレフェル風"コンプシト"が素晴らしかった。味わいは艶めかしいけれど、舌に媚びてくるほどしつこさがないところが鰹本来の素晴らしさを、その旨みの最高の一点で捉えている逸品と感じた。
ここで、パンが饗される。パンは、北新地のル・シュクレクールの岩永さんのラミジャンである。これに、自家製のサワークリームと千葉県の"月の豆腐"という豆腐屋の絹ごし豆腐をミックスし、塩で味を調えた後にオリーブオイルを合わせたバター代わりの一品と一緒に饗される。
キュヴェ・デ・ゼトゥルノー。ガメイ品種。骨格しっかりとした力強いワインだ。でもふくよかな広がりを感じる。
フリーダム・オブ・ピーチ。カベルネ・ソーヴィニヨン。ややオレンジがかった濁りのある桜色。名前の通り、優しい果実の香りが続く。
4.定点~蕪とパセリ、キントアハム、ブリオッシュ
オープンから8年目にして唯一レシピを変えていないレフェルヴェソンスのスペシャリテ。
今回は蕪の早春の瑞々しい素晴らしさに深く胸打たれた。端麗で仄かな辛みがあって、でもどこまでも澄み切った透明なキレイな味わいである。冬場の甘みが増したものも素晴らしいけれど、季節の違いでまた全く異なる旨みがあることに驚きを禁じ得ない。
蕪は、4時間火を入れて瑞々しさを十分に引き出して、さらに歯ごたえが残るよう抜群の調理技法で仕立ててある。
5.うららか~甘鯛の乳清ポシェ、さまざまな春の豆たち、骨の出汁と柚子
山口県で獲れた甘鯛。それを乳清で一晩漬けて、今度はそれを温めた乳清の中でポシェ(茹でる調理法)で仕上げてある。甘鯛の周囲のスープは、甘鯛の骨はよく焼いてから、水から火にかけてじっくりととったものだそうだ。そこに、そら豆やスナップエンドウを散らしてある。面白いのは、さらに実山椒を油の中で素揚げにして、その油をつかって自家製の山椒オイルを作り、それをスープの上に数滴浮かべているところだ。
一口スープをいただくが、この山椒のピリッとしたアクセントが素晴らしい。これに合わせるのが、福井の黒龍。このふくよかな黒龍の旨みが山椒の香りを引き立てる!
鱗はすべて取ってあるが、鯛もその身の質感と甘さが抜群である。真鯛が白身魚の王者の風格を備えているとしたら、甘鯛は紛れもなく貴婦人のおおらかで豪奢な雰囲気をまとっている。
6.海の神 山の神~ほろほろ鳥のロティ、ムール貝のピュレとブールブラン、新玉ねぎ、アスパラガス
岩手県の花巻の石黒農場のホロホロ鳥。真ん中にむね肉がズシリと座っている。奥には玉ねぎともも肉が添えられている。ソースは3種類。周りにぐるぐるっとかかっているソースが、沖縄のアグーと玉ねぎを使ったキャラメルソースで、真ん中のベースのソースがブールブラン・ソースで、白ワイン、エシャロット、バター、レモン汁を加えたとてもクラシックなソースとなっている。3番目のソースがアスパラの下に添えてあるソースで、燻製したムール貝を裏ごししたものだ。
この一皿を堪能する。お肉というとももが旨みがあって、むね肉はそのサポート役というイメージがあるけれど、このホロホロ鳥だけは全く逆である。主役は胸で、ももはそのわき役だ。食鳥の女王といわれるだけあって、むね肉のしっとりとした質感がため息が出るほど素晴らしい。
これに合わせるのが、シュペート・ブルグンダー・トロッケン・バーデン。このくらいの軽快なタンニンがこのホロホロ鳥にはちょうど良い。
7.ビタースイート~ショコラのムースとクリスプ、トンカ豆、赤ワイン
チョコレートの香りを愉しんでほしいとご案内がある。チョコレートの板状のものはコロンビアの原住民のアルアコ族の"アルアコ"というカカオを板状にして作ったものだそうだ。最初はさほどでないけれど、なめているほどに不思議なことに、マスカットやレモングラスの香りがふわっと香ってくる。下のムース状のチョコレートは"エリザベス"というカカオで作ったチョコレート。こっちのチョコレートは、"アルアコ"とは違って、口に含むとすぐにラズベリーの香りがふわりと広がる。その下にトンカ豆。桜の葉っぱや杏仁豆腐のような味わいがする。素晴らしいデセールである!
ネッビオーロに薬草を漬け込んだリキュール、バローロ・キナートでいただく。
8.小菓子、お薄
いつもの"チュッパチャップス"とお薄で一通りとなる。...誰が何と言おうとレフェルは凄い!次ぎの訪問は、7月下旬、鮎の季節である。もう今から愉しみでしかたない!