2回
2025/09 訪問
しみぺディア 上野・御徒町
上野の灯りが闇を躱すころ、焼肉乃 富士吉 別館の扉をくぐる。
“毎月来る焼肉屋”として背筋がすっと伸びる場所。
まずは 恒例のミノ刺し。
厚みがあって舌に触れた瞬間に弾むような弾力。
脂の甘みとほんのりした血の旨み。
串肉屋では味わえない内蔵に宿る真実。
コウネの焼きしゃぶ。
薄く広がるコウネを軽く炙れば脂が溶けて滴る。
上タン。
厚切りで存在感があり、焼き加減が腕で決まる。
焦げと肉の境がくっきりして、それでいて噛み込むたびに旨みが滲む。
上ロース。
脂と赤身のグラデーションが美しく、タレが絡む度にご飯を誘う。
夜風の匂いと、鉄板の香りを共に運んでくる。
最後は 〆のかきバタービビンバ。
熱した器にバターが溶け、牡蠣がぷりんと顔を出す。
飯に混ぜれば、海のコクと肉の余韻が輪唱となって口の中に残る。
しみる田の一言
ミノの弾け、コウネの甘み、焼きの答え。
別館の夜も、肉の詩を刻む灯りがある。
2025/09/29 更新
平日の夜、エレベーターの扉が開くと、
いつもの“富士吉 別館”の空気が胸の奥にすっと入ってくる。
何度も通ううちに、この店の匂いは、妙に落ち着く匂いになった。
常連――そんな言葉を自分に当てはめるには照れくさいが、
席に通される時の、店員のほんの小さな笑みが、それを肯定してくれる。
じゅう…と肉の声がひとつ落ちる。
今日は特上攻めだ。
ロースは赤身の筋が艶やかで、
タンはこの店らしい“噛む喜び”を持っている。
そして恒例のミノ刺し。
この皿だけは、初めて食べた日の衝撃がずっと薄れない。
歯ざわりの快感と、旨みの芯が、毎回こちらの気持ちを正す。
焼ける音、煙、脂の跳ね。
無骨で、飾らなくて、うまさが全てで。
平日の夜だというのに、疲れがどこかへ消えていく。
焼肉は理屈じゃない。
人間のいちばん原始的な部分を、まっすぐ満たしてくれる。
富士吉の夜は、そのことをいつも思い出させてくれる。