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待ちに待った移転再オープン。幸いに緊急事態宣言も解除され、オープンしてから3日目の11月18日に伺った。
お店は低層マンションの一階にある。一部屋を丸々お店として使っているのだと思うが、それにしても広々としたスペースだ。
暖簾を潜って引き戸を引いて店内に足を踏み入れると広々とした玄関口(ウェイティングスペースも兼ねているのだろうか)。廊下を奥に進むと、すぐ左手にテーブル個室、その隣にカウンター個室、廊下の右手には床があって掛け物や花入などが飾られる。お手洗いは広々としたものが二つ。
店内の奥にメインのカウンター席。大きく開放的な窓の向こうには坪庭。京都であれば日本料理のお店に限らずイタリアンやフレンチのお店でも店内から和風の坪庭を鑑賞しながら食事をするというパターンはよくあるが、東京では珍しい。実に京都的な雰囲気である。カウンターは奥行きもあるし席間もゆったりとしている・・・なんと6席しかないようだ。それでいて1回転しかさせないのだから、予約も今まで以上に難しくなるのだろうか。
まず驚いたのはお料理の写真撮影が可能となったこと。SNS全盛の昨今、当たり前といえば当たり前だし、宮坂さんのお料理はとても美しいので、誠に朗報である。
席につくとまずは汲み出しが供されるところは移転前と同様。
一品目はお椀。白味噌と胡麻豆腐。美しい輪島塗りのお椀。しみじみと旨い。
鮪と白身魚のお造りに、昆布醤油、酢橘果汁に塩を一振りしたものが山葵とともに供されるところも移転前と同じ。この日の鯛は明石から、鮪は八戸の131kgもの。
煮物椀は蟹身と蟹真薯のお椀。研ぎ澄まされたように見事な塩梅の出汁もいつも通りであった。蟹は兵庫県浜坂から。知らない産地であったが実は美味しい蟹が採れるところらしい。
焼物で驚かされた。今までは(秋の時期の鴨を除けば)必ずお魚の焼き物であったが、この日はなんと牛肉。兵庫県の高級牛として有名な但馬牛。カブリという肩ロースとサーロインに挟まれた部位のもの。塩だけで時間を掛けて焼かれていて、実山椒のソースが添えられていた。肉々しくてとてもジューシー。ご友人のちゅんしんさん(東京肉しゃぶ家のオーナーさんとして有名ですね)に紹介されたところから仕入れたらしい。下に丹波篠山の無農薬野菜が敷かれていたところは移転前と同じ。
移転前は(いかにも京都らしい)照り葉などで美しく華やかに彩られた八寸が楽しみの一つだったのだが、この日は八寸がわりということなのか、鯖寿司、雲子のポン酢掛け、丹波篠山の黒豆を炊いたものの三品。
そして小蕪、蕪菜、人参の炊き合わせ。これもギリギリまでシンプルに研ぎ澄まされた絶妙な塩梅。
魯山人の割山椒の器に入れられた強肴は伊勢海老の炙り。菊菜と大黒シメジが添えられ、伊勢海老のミソのソースで頂く。
〆のご飯。移転前にやっておられた揚げ物はやめられたそうだ。好きだったのに残念である。とはいえ、今までとは違う趣向が一つ・・・いつも通りに白米を煮えばなで頂いたのち、松葉蟹のほぐし身を土鍋に入れてしばらく蒸して蟹ご飯に仕立てたのである。もちろん特別なことではないが、自分たちの知る限り、宮坂さんでは初めてのスタイルである。
甘味は蕎麦粉をワッフルのように仕立て、中にこし餡。
そして最後はいつものとおりフルーツのデザート。
新天地での宮坂さんの今後が楽しみである。
下記は移転前のお店についてのベース投稿。移転先を何度か訪問してから書き改めたいと思う。
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初訪は2016年1月、まだオープンして数か月ころというタイミングで伺い、それ以来2か月弱に一度くらいの割合でお邪魔している。SNS全盛のこのご時世に写真NGにしているからか、高級食材を前面に出したり松葉蟹やオマール海老や松茸を見せつけるというプレゼンをすることがないからかは分からないが、比較的予約が取りやすいのも魅力だ。
根津美術館のお隣という立地の良い場所にあるものの、小さなビルの地下にあり、通り沿いには紋だけをあしらった白い看板があるのみで、普通だったら見つけにくい場所にあるが、白衣を着たスタッフがお店へと繋がる階段前で必ず待っていてくれるので、すぐに分かるであろう。
地下に降りると殺風景な鉄扉が迎えてくれるが、店員さんに誘導されつつ暖簾をくぐると漆喰が施された黒くてモダンな和の世界が視界に飛び込んでくる。
茶道も嗜まれる大将は、未在でのご修行時代から、日本文化全般にご興味を持たれ精通するようになったようだ。カウンターの向こう側にある床には季節を意識した花が生けられ、やはり季節を意識した掛軸やお道具などが飾られている。詳しいことが分からずとも遠慮なくお尋ねすると良い。とても丁寧に教えてくれるはずだし、とても勉強になる。
お料理はまずは汲出しからスタートする。茶懐石を基本とする未在(自分は未訪)でご修行されたからであろうか、あるいはご本人が茶道を嗜まれる方だからなのか、茶懐石でいえばまずは寄付(よりつき)で白湯をいただく、そんな感じだ。冬であれば柚子香煎、春であれば梅香煎や桜湯、夏であれば梅酒オンザロックなどが供される。
先付・・・大抵は少々手の込んだ小さな一品からスタート。冬だと湯葉を使ったもの、春だと胡麻ダレと和えた山菜、夏だと土佐酢を使ったジュレを蛸や鳥貝などの魚介と夏野菜に掛けたものとか。魚と時季の野菜を何かしらをベースに作ったソースで和えたものが多い印象である。
向付・・・白身魚(鯛、鰈、平目のどれか)と鮪。昆布醤油、酢橘果汁に塩を一振りしたものが山葵とともに。昆布醤油は白身と鮪の双方に、酢橘塩は白身魚に使うことが予定されている。鮪は「やま幸」さんから仕入れていて、余り大振りでないのものがお好みのようだ(ちなみに青空さんも同じことを言っていた)。
椀物・・・出汁はもちろんしっかりとっているものの吸地はどちらかというと薄味で、まさに引き算の美学。秀逸なのは4月頃の蛤のお碗で、蛤の風味しっかりな出汁の中に胡麻豆腐、その上に旨味たっぷりな蛤真薯。夏の白甘鯛と冬瓜のお碗(煮麺仕立て)も自分の好み。
焼き物・・・カウンター内にあるスペースで炭焼きにする。太刀魚、喉黒、鰆、鮎魚女、真魚鰹、桜鱒など。単に炭焼きにしているのではなく、実山椒のタレで焼いたものだったり、西京焼きだったり、真魚鰹や桜鱒や時鮭だと幽庵焼きだったり。しっかりした苦味のある丹波篠山の無農薬野菜の上に載せて供される。稀にではあるが秋に尾長鴨が出てくることがあり、これは鴨の肝をベースにしたソースを使うという野趣に溢れていながらも上品な仕上がりの逸品。
そして箸休めをいただいて八寸に。その八寸がいかにも「最近の京都」という感じで、まさに華やかな八寸。東京の人気店でいうと銀座「しのはら」と同じ感じといえばいいだろうか。東京で修行されたお料理人のなかでも最近だと大門「くろぎ」が似た感じでやられているが、あんな感じで、季節感を視覚に訴えてくるスタイル。祇園祭の時期であれば「蘇民将来子孫也」と書かれた札のようなものが置かれたり、七夕の時期であれば笹寿司が出たりと。また、この八寸をいただくと仕込みの大変さが伝わってくる・・・それぞれの料理が尋常ではない手間暇を掛けて作られてあることは間違いない。
その後は炊合せ(夏の賀茂茄子、秋から冬にかけての聖護院大根などが記憶に残る)、そして強肴・・・松葉蟹だったり鮑だったりといった高級食材がここで使われることが多いかな。4月頃になると京都・塚原の朝堀筍の焼き物が強肴の前に頂けたりするが、これが絶品。前述の蛤椀のことも考えると4月上旬の宮坂を外すことは絶対に出来ない。
お食事は土鍋で炊いた白米である。ここでも茶懐石スタイルが顔を覗かせていて、まずは煮えばな(アルデンテ状態)を1杯いただき、余熱で徐々に炊き上がっていくものを2杯、3杯と頂く。ご飯のお供としてはお新香だけでなく何かしらのおかずもやってくるが、ここ数年(これを書いているのは2020年夏)は鮪の漬けと魚のフライだ。穴子のフライなんてフワフワに仕上げられていて悶絶級だ。添えられるお味噌汁は常に赤出汁、その具材は揚げたお芋と決まっている。
食後・・・まずは上生菓子が供され、その後に大将みずから点ててくださる薄茶をいただく。たっぷりと抹茶を使った濃いめの仕立てで、高速シェイクでカプチーノのようにクリーミーに泡を立てたもの。その後に水菓子をいただく。大抵はフルーツとアイスクリームの組み合わせ。グレープフルーツのゼリーの上に無花果や木の芽から作られたアイス、それにシャインマスカットなどなどの美味なフルーツが散らばる。
最後に、残った白米を塩結びにしてもらったものをお土産として受け取り、階段の上で待つ大将のお見送りを受けつつお店を離れる。
上記の流れはいつ行っても変わることがないし、季節のお決まりが必ずある。行くたびに新しいお料理が出てくるということはないので、ワンパターンなように思えるかもしれないが、今日はあれが食べられると分かってお店に伺い、毎度そのレベルの高さに満足できる、その意味では自分のなかではカンテサンスと双璧である。
内装の素晴らしさは前述の通りだが、器の素晴らしさもお見事。楽家の焼き物、妙全や保全などの器、中国・明代の器、ラリックのガラス皿などが惜しげもなく使われていて、大将に色々とお聞きしながら教えてもらえば実に勉強になる。
大将は、物腰はとても柔らかいが、常連客と極端に馴れ合いになるようなことはなく適度な距離を置きつつ、でも気さくにお話しすることが出来る方。斉藤さんをはじめとするサービス陣もそのような感じ。そういった雰囲気とか、客数と比較すると多めのスタッフとか、器や道具への造詣の深さと情熱とか、美意識の高さとか、そのあたりが僕の中では銀座・青空に通ずるところがあって、故にこのお店も好きなのかもしれない。