2回
2024/03 訪問
料理も誂えも高次元
平日の午後8時に伺った。三田のマンションでやってらっしゃった頃に一度訪問したことがあるが、移転先のこちらに訪問するのは初めて。
麻布十番駅6番出口から徒歩6〜7分、PhilPark HigashiAzabuという(なんだか立体駐車場のような見ための)ビルの1階にある。
引き戸を開けて店内に入ると、右手に床があって掛け物と花が飾られており、左手に待合い(茶道でいうと外腰掛のような感じの場所)があって円座が置いてある。さすが、茶道のご指導もされている方のお店だけある。
店内はカウンター8席と個室。カウンター内は三層構造という感じ。一番奥の厨房はこちらからは見えず、二番目の厨房は焼き場になっていて扉を開け放つことによってこちらからも調理の様子を見ることができるようになっている。そして一番手前のスペースでお料理を盛り付けたりなどするという感じ。カウンター左手は茶室でいうところの水屋のようになっていて、IH電熱器で茶釜の湯を沸かしているし、二重棚も設置されてるし、銅羅もぶら下がっている。カウンター席に座った我々の背後にも床があり、掛け物が掛けられ、煙草盆が設置され、喚鐘もぶら下がっていた。個室も拝見させていただいたのだが、6人用のテーブル席になっていつつも、まるでステージのように小間仕立ての茶道スペースがあり、外から出入りするための貴人口もある。茶道を軸に据えたこだわりの内装である。
この日頂いたお料理は以下のとおり。テーマは桃の節句。
◯汲出し(桜香煎)
◯甘酒
◯向付は親王飾りの器に。①殿の器には三重県の生のシラウオ(土佐酢で和えた大根おろしを乗せたもの)、②姫の器にはボイルしたホタルイカ、ウド、そして蕗の薹の葉(というのだろうか)を揚げたものに酢味噌、そして③雪洞の器のなかには菜種、タラの芽、こごみ、その上に胡麻クリーム
◯煮物椀はハマグリの潮仕立て。「あえて鰹節も調味料も使わず昆布出汁と貝汁だけ」とのこと。具材は、軽く湯引きしたハマグリ、春若芋(初めて耳にする言葉だったが要するに長芋)を擦りおろして豆腐に仕立てたもの、ウルイ、バチコ。天然の岩海苔が一緒に提供されていて、それを「お汁の中に沈めたりして味変を楽しんで」とのことであった。実に塩梅の良いお味のお椀であった。
◯お造り。魯山人が作ったと伝わる「絵の具皿」、それをご修行先の嵐山吉兆がリメイクした器での提供。三種盛りになっていて、長崎のアオリイカ(ワラビと海苔寄せ)、千葉の鴨川のマダイ(少しだけ昆布締めにして寝かしたもので防風とワサビが一緒に)、境港のマグロ(藤田水産とのこと)。調味料(漬けダレ)も三種類で、魚醤と塩と胡麻を合わせたもの、鯛の子を使った醤油、そして普通の合わせ醤油。
◯ノドグロの炙り寿司。ノドグロは島根からで、酢〆したものを皮だけ炙ってある。シャリは焼いた胡麻と和えてあって、油で揚げた桜の葉が下に。ワサビの生削りが振りかけてある。海苔で手巻きにしていただく。桜の葉、胡麻、ワサビなどの香ばしさ、そしてノドグロの上品な脂がとても美味。
◯焼きタケノコ。北九州市合馬(おうま)から。焼いた昆布を使った「焼き昆布醤油」なるものと、乾燥した木の芽と塩を合わせた「木の芽塩」なるものが添えられていた。甘くて、渋みなどはもちろんないし、瑞々しさをきちんと残す焼き加減(というか、朝堀りのものを仮死状態で届けさせているので、しっかり焼いても瑞々しさを残している、とご説明されていた)
◯茶碗蒸し。中には北海道の「月光」というブランド百合根、上から掛かっていたのは春菊のソース。茶碗蒸し自体の塩梅が良く、これまた美味。こういうさりげないものが美味しいところはさすが。
◯タケノコの天ぷらと焼き白子の一皿。ギョウジャニンニクを使ったソース。この一品も良かった。タケノコが揚げられたことによってさらに甘味を増していた。
◯牛頬肉を山椒と新玉葱で炊いたもの。玉葱が溶けてなくなるまで頬肉と共に煮込んだもの。丹沢の天然クレソンと共に
◯八寸。嵐山吉兆らしいというか、京都らしいというか、とても華やかな仕立て。3月下旬に吹く季節風「貝寄席」に因んでということもあるだろうし、お雛様の時期だから「貝合わせ」に因んでということあるのでしょう、貝類多めの盛り込み。①アンキモの時雨煮、②花山葵と松の実の和え物、③蛤と子持ちの飯蛸(上から飯蛸の肝ダレ)、④蒸し鮑と車海老と天豆、⑥鴨ロースの蒸し煮と厚焼き玉子。
◯〆のご飯は色々と楽しむことができる。
①炊き込みご飯は鯛ご飯。鯛は塩焼きとおかき揚げをまぶしたもの、その他の具材は錦糸卵と三つ葉と木の芽とタケノコ。こちらは意外にも「お代わり要りませんか?」とは訊かれなかった。その後にまだまだご飯ものが続くからであろう。
②カラスミご飯。煮えばなにカラスミのスライスを乗せたもの。カラスミはもちろん自家製だが、2年熟成させたものとのこと、少しチーズや乾物のニュアンスがあり、とても濃厚である。
③最後に色々なオカズをネタに白米を何杯も食べる。オカズのラインナップは、牛肉時雨煮、桜エビ、ジャコ、イクラ、生卵、鰹節、醤油代わりに使う2年熟成の一休寺納豆、そして先ほどのカラスミ。これを好きなように組み合わせて楽しむ。お茶漬けにすることも可能。自分は、1杯目にイクラとジャコを盛り合わせ、2枚目は時雨煮、鰹節、そして生卵(黄身だけ)を盛り合わせてすき焼き丼風にしてみた。最後の3杯目はジャコに鰹節と一休寺納豆を振りかけて全卵を乗せた卵かけご飯。ちなみにご飯は湯炊きとのこと(こういうところも茶懐石風である)
◯デザートは2品。一つめは三宝柑ブランマンジェ。果肉をくり抜いたあとの残りの皮にブランマンジェを流し込み、その上に果汁を煮詰めたもの、メロンとラズベリーが添えられていた。
◯デザート二つめは焼き蓬餅。中には丹波の大納言小豆を使った粒餡。
◯最後にはもちろんお抹茶。
飲み物はビール1本、日本酒は「義侠」と新政「亜麻猫」を1合ずつ。どちらも1合2,500円。
盛りだくさんだったがお会計をしたのは9時45分ころだったので、2時間もかけずにこれだけのお料理を出し切ったことになる。かなりのオペレーションの良さである。お値段は〆て98,100円と実にまっとう。
ちなみに一斉スタート。スタート時刻が4時半(早過ぎる)と8時(少し遅い)であるということが唯一の難点かな。
2024/03/14 更新
2024年3月に訪問してすっかり気に入ってしまい、その後、数か月に一度は訪問させていただいているこちらのお店。この日の主役はもちろん竹の子、そしてハマグリ。
華やかでキャッチーなお料理だけど、だけどやり過ぎたり浮ついてたりはしない、そんなイメージ。
スタートの桜茶はちょっと塩味が強く感じたけれど、その後は完璧。
しゃぶしゃぶ鍋に大振りなハマグリを投入して出汁を取り、そこに但馬玄(牛肉)を潜らせてしゃぶしゃぶし、筍の姫皮の細切りを乗せて花山椒を掛けたものをいただく。そしてその残りの出汁にハマグリを戻してから麺(素麺だったかな?)を軽く煮たもの(煮麺)をいただく。いかにもキャッチーだが、嫌らしくはまったくなく、そしてとても美味。
スペシャリテとして位置付けておられるであろう棒寿司は、この日はノドグロを炙ったもの。いつもどおり生ワサビをチーズ削り器を使って削ったものを掛ける。しっかりと脂の乗ったノドグロをワサビの爽やかな薫りと適度な甘さと一緒にいただくのだが、これまたキャッチーで絶品。
一方、メインの竹の子は実にシンプルに提供。一度炊いた後で時間を掛けてじっくりと焼いて水を抜いたもの。木の芽塩、昆布醤油をペースト様にしたもの、そして薄くスライスされた鰹節とともにいただく。
お椀もまた絶品。調味料を一切使わないのは当然として、アサリやハマグリを使った出汁、竹の子、蛤真薯、そしてバチコなどで構成されたお椀は実に滋味に富む。
そして〆にはいつもどおりの「ごはんドリル」である。この日の炊き込みご飯は鯛ご飯。竹の子、フキ、ワラビなどのふんだんな春野菜が土鍋の全面を覆い、その上にドンと鯛が鎮座する。もちろん、龍の瞳を使った白米と豊富なオカズもいただき、年齢のわりに大食いな自分でもさすがにお腹いっぱい(自分は炊き込みご飯を2杯と白米を3杯いただいた)。
デザートには蕗の薹アイス、桜餅、そしてお抹茶。最後まで一切の手抜きなしである。
本日も大満足でございました。