2回
2024/04 訪問
第三章、開幕。最先端ではなく、そこには未来があった。
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『CAINOYA (カイノヤ)』、第三章開幕。
鹿児島に「CAINOYA (カイノヤ)」が誕生したのは2005年のこと。ガストロバックを武器に、全国から食通が押し寄せるお店として話題に。満を持して京都のホテル内のレストランへと移転を果たし、ミシュランを獲得するなど世界的な評価を獲得。そして、舞台を京都の右京区花園に変えて、第三章を迎えております。
閑静な住宅街に佇む一軒家レストランで、意志の強さを表現するような黒塀で迎えてくれます。カウンターからは京都らしい庭を望むことができる落ち着いた古き良きな雰囲気なのだが、実はシェフの元にはいくつもの最先端のシステムが集まっている。いや、最先端というよりももはや未来と言ってもいい。
もともとガストロバックという減圧加熱の調理方法も未来的だったが、厨房施設はさらに進化。その1つが、熱源。一見すると作業台に見えるカウンターの中にIHが組み込まれている。ただ、鍋や石を置いたようにしか見えないが、そこから湯気が立っているのです。脳がついついバグります。笑 特殊な冷凍技術、タッチパネルのコンベクションなども導入し、調理のオペレーションを向上。例えば、今回は20皿以上の料理のコースだったが、これをワンオペで実現することに大きく貢献しております。
さっそく、未来の技術と厨房で作ったコース内容をご覧にいれましょう。
「アスパラソバージュ」
山形産。河豚の出汁でポッシェ。花山椒のアクセントが効いているが、緑の料理を緑でアクセントをつけるのが美しい。
「ヴィシソワーズ」
バターののジェラートと胡椒の泡を重ねて。カイノヤ流のじゃがバターを完成。お酒のペアリングも芋焼酎だったりで、芋と芋のペアリングも秀逸。
「アスパラグリル」
これぞカイノヤの真骨頂、ガストロバックのアスパラガス。10年かけてとり続けたアスパラの出汁をアスパラに戻す。つまり、何本分ものアスパラの旨味が一本に詰まっているのだ。
「カイノヤの椀」
もちろんただの椀ではない。昆布やポルチーニの旨味、柑橘の酸味などを重ねたスープに、海と山の恵をラビオリに包む。前者は蛤、後者は仔羊が担当しとります。
「鰆」
これもガストロバックだからこそできるアウトプット。いわゆる西京焼き的なことなのだが、その食感は絶対に西京焼きでは実現できない。鰆の中に味噌自体をガストロバックしており、焦げ目の一切ないしっとりした西京焼きになっております。なんてこった。
「牛」
普通は積極的に活用しないとされる経産牛。低温調理でじっくりと火入れし、オーク樽の使わなくなった廃材を焼いて薫りを纏わせます。カイノヤの技術の前では、どんな食材も美味しく調理してしまうのか。
「八寸」
かつてミネラルウォーターをガストロバックして驚かせたクリスタルサラダは、昆布やレモンも加えてさらにパワーアップ。皿自体も進化し、野菜を20種以上も使った八寸仕立てに。野菜を食べさせるのに、調味料自体も野菜なのが面白い。
お椀や八寸など、第三章ではカイノヤの世界観に和の参加が目立ち始めたが、その象徴となるのが寿司でしょう。だが、個人的にはこれを単純な”寿司”と表現したくない。こ寿司と呼んでしまうと、創作寿司の1つと捉えられてしまいそうだからだ。だが、カイノヤの寿司は、寿司の文化を見事に踏襲しつつも、現代的に、いや未来的に表現したものである。
例えば、寿司の技術の1つに”寝かせる”という手法がある。ネタの旨味を引き出す伝統的な手法なのだが、カイノヤの技術の前では旨味を中に入れ込むことができるのだから、全く必要としない。ネタにみずみずしさが欲しければ、旨味のある水分を入れてしまえばいい。寿司に必要だった仕事を技術で追いつくどころか、凌駕してしまおうという試みなのだ。これは、江戸前も九州前でもない、未来のお寿司なのです。未来前?甲斐乃家前?ネーミングセンスがなくてすいません、、、笑
右から「平目」「鮪の漬け」「首折れ鯖」「海老のカリフォルニアロール仕立て」。まるで錦鯉のように表現された平目は美しく、平目の出汁と昆布の旨味をガストロバック。いわゆる昆布締めを実現しながら、平目自体もアップデートしたという訳です。鮪にはラルドを重ねたり、鯖には熟鮓的なエッセンスを加えたりと、ユニークなアプローチのネタが並びます。
「鰯」
鰯の出汁をガストロバック。シチリアの鰯の魚醤を合わせるのがお見事。鰯の香草パン粉焼きを寿司で表現したようなアウトプット。球体だからか、旨味がぐるぐると回ります。
「ソデイカ」
浅利のブロードと野菜出汁をガストロバック。
「白カジキの握り」「イクラの軍艦仕立て」
発酵をテーマにした二貫。
「鰹」
鰹のタタキの上位版。ニンニク、玉ねぎ、生姜をガストロバック。海苔も形もオシャレだが、前述の薬味たちを中に入れちゃってるもんだから、そのビジュアルが必然的にすっきりと洒落たものに。
「村沢牛」
牛タンの押し寿司。雲丹のソースで。
「雲丹」
いちご煮を表現したような一皿。何より驚くの雲丹のジューシーさ。おそらくガストロバックの前段がなければ、水分を補完していることなど気づかず、超絶新鮮な雲丹という印象を持つことでしょう。しかもこれ、一度冷凍をかけてると言うから驚きには2倍。やっぱ、未来だわぁ。
「穴子」
10年間も継ぎ足ししたと言う穴子の出汁をガストロバック。アスパラの時もそうだが、その出汁は使うたびに冷凍をかけているんだとか。その技術たるや、、、
「玉」
しっとりとしたカステラ。
寿司タイムを終えて、最後は蛍烏賊の米料理。そのアプローチはパエリアでもなく、炊き込みご飯でもありません。蛍烏賊が浅利の出汁でパンパンになっており、その旨味にきっと驚くことでしょう。お椀、八寸などに続いて、やはり和のエッセンスながら、全く違う未来的なアウトプットになっております。
「デセール」 ラッドオレンジ、カンパリ、ベルモットゼリー、オレンジのソルベのせ。
鹿児島は、西郷隆盛、大久保利通、東郷平八郎など維新の志士達の生誕の地。彼らが日本の未来の礎となったわけだが、カイノヤのシェフ塩澤という鹿児島出身の志士が今度は日本の料理界の未来の礎となるかもしれません。それほどまでに最先端の、いや未来を感じさせる料理とキッチンでございました。さぁ、カイノヤの新しい幕があがった。
2024/05/11 更新
〈ミトミえもん、インスタもやってるよ!「@mitomi_emon」〉
京都・右京区の静寂の中に潜む『CAINOYA(カイノヤ)』。扉を開けた瞬間、ここが現代のレストランという概念を越えた食の研究所であることを悟る。厨房の中心に立つのは塩澤隆由氏。感性と理性、そして圧倒的な技術をもって、旨味という概念そのものを再構築する料理人だ。科学を使いこなしながら、どこまでも人間的で、情緒的な味を残す。塩澤氏の皿には、論理と感動という二つのベクトルが、美しく交わる瞬間がある。
幕開けを飾る「銀杏 落花生とブッラータ」。倍濃度昆布出汁に鱧の骨、ドライポルチーニ、青唐辛子。そこへ燻した銀杏の香りを重ね、GVP含浸調理で旨味を銀杏の中心へと閉じ込める。香ばしさとまろやかさが重なり合い、秋という季節が凝縮された一口。これが塩澤シェフによる土瓶蒸しの再定義。
「バショウカジキ“秋太郎”のサルティンボッカ」は、分厚く、そして繊細。身の中心には、昆布と白味噌の浸透した旨味の層。九条ネギとジロール茸のソースが深い余韻を描く。丹波黒豆枝豆の皮を乾燥させて取った出汁まで使う執念。技術と思想の両輪が見事に回っている。
「本藤さんのワタリガニとサドルバックトルテッリ」では、塩澤の“挑戦”が顔を出す。海水でスープを引くという、常識を軽々と破ってくる。海と陸、塩と旨味、その境界を越えるような一皿。蟹と豚の組み合わせが、塩の中で柔らかく溶け合う。
「秋刀魚のミルフィーユと超ポルチーニ 秋茄子」。移転前の鹿児島時代から続くCAINOYAの象徴的な皿であり、塩澤の精密な構築力が際立つ。秋刀魚の骨と肝、身を全て再構成し、ゼラチン質で固める。火入れ、酸化、香り、など分子レベルの制御。その結果、秋刀魚という大衆魚が、まるで高貴な素材のように生まれ変わる。
「秋鮭と栗きんとん 乳酸発酵麹バターソース」。この一皿は、旨味が内側から滲み出す構造を持っている。秋鮭の身の中に、ブロードと発酵バターのコクがじんわりと潜り込み、食材そのものが出汁を抱きしめているよう。脂の甘みとバターの芳香が混じり合い、栗きんとんの優しい甘さが秋のぬくもりを添える。静かなのに力強い、旨味の呼吸を感じるような味わいだ。——ここに白いご飯があれば、完璧な“未来の鮭定食”が出来上がるだろう。笑
そして「村沢牛ハラミ」。熾火で焼かれた肉に、倍濃度昆布出汁とハラミの脂から引いたブロードが纏う。肉の奥に海の旨味を感じるという、あり得ない体験。火の強弱、油の香、塩の粒度。すべてが制御され、完璧に構築されている。体が自然と反応してしまう、そんな旨さ。
中盤に置かれた「GARDEN 野菜の八寸」は、塩澤氏の感性がもっとも詩的に現れる皿。昆布とトマトウォーターのエッセンスを浸透させた野菜は、透明な味を纏いながらも、生命の鼓動を感じさせる。動物性の旨味をベースに、野菜が主役に立ち上がる。これは料理ではなく光合成の再現だ。
そして終盤、“CAINOYAのSUSHI”。シャリはトマトのエキスで炊き上げ、13種のヴィネガーで調える。酸味ではなく、調和。スジアラ、マグロ、ヒカリモノ、タカエビ、ウニ——いずれもショックフリーズによって旨味を固定化。伝統的な寿司の枠を超え、構造そのものが再設計されている。握りではなく、概念としての寿司。もはやジャンルの壁は存在しない。
ラストの「洋梨とピスタチオとカカオ」。乳酸発酵した洋梨の穏やかな酸が、ピスタチオの甘みを引き締め、控えめなカカオが香りの陰影をつくる。甘さはあくまで静かに、余韻はすっと消えていく。ここに至るまでのすべての工程を思えば思うほど、この静けさが胸に沁みる。
CAINOYA・塩澤隆由氏の凄みはその先にある。彼が救おうとしているのは、単なる料理ではなく“文化”そのものだ。ショックフリーズという冷凍技術は、フードロスを抑え、食材の命を延ばすだけでなく、労働力不足という社会課題までも射程に入れる。さらに、寿司の世界に受け継がれてきた昆布締めや漬けのような伝統技法を、科学と言語で分解し、再現可能な知として後世へ残そうとしている。感性だけでなく、理論として料理を継承する。それはまさに、“食文化のアップデート”。この場所で生まれているのは、きっと料理だけでなく未来そのものだ。
ご馳走様でした。