幸徳春水さんが投稿した福ちゃん寿し（兵庫/稲野）の口コミ詳細

その日は昼ごはんに食べた物がイマイチ口に合わず納得が行かないまま自宅に戻っていた。本当は仕事をしなければならないのだが、どうにもやる気が出てこない。しかたなくグダグダしているうちに時刻は夕方になっていた。と、その時携帯が鳴った。画面を見ると、珍しいことに『福ちゃん寿し』の大将の携帯からであった。
電話に出てどうしたのかと尋ねる。大将によると、別に用事は無いのだが、どないしてるのかと思っただけだと言う。なんでも、今朝僕の家の近所にある僕行きつけの喫茶店にモーニングをしに行ったのだが、喫茶店の駐車場が埋まっていてあきらめたらしい。
最近は店にもすっかりご無沙汰していて、普段は連絡も取り合ったりしていない大将がわざわざ近所の喫茶店まで顔を見に来てくれたとは、非常にうれしかった！昼ごはんに納得が行かなかったこともあり、それならいっそ…ということで、大将に「これから店に行くから、ゆっくりしゃべりましょ！」と告げて電話を切り、やおら自転車で稲野の『福ちゃん寿し』に向かうことになったのである。

勢いよく自転車を漕ぎ出したものの、さすがに遠い⁉︎夕方になって暑さは幾分マシになってはいたものの、20分以上かかる道のりを一気に走るのはしんどい。店まであともう少しというところで、尼崎の北の端、五合橋線沿いにあるたこ焼き屋『たこ楽』が開いているのを見つけ、ちょっとだけ寄ってみることにした。この店も塚口に住んでいた頃は毎日のように顔を出していた馴染みの店だ。久々に店に入ると、まっちゃん・けいちゃんの二人組が以前と変わらぬ様子でたこ焼きを焼いていた。長らく顔を見せていなかった僕が突然入ってきたのでびっくりされたようだ。これから『福ちゃん寿し』へ行く途中にちょっと寄っただけだと言って挨拶だけして出ようとしたら、けいちゃんがこれ、と言って紙を差し出した。見るという７月いっぱいで閉店するとのごあいさつの文章が…。まったく知らなかったので心底驚いた。僕にも知らせなきゃと二人で言っていたところに僕がひょっこり現れたので、さっきはあんなにびっくりしたらしい。
それにしても開店からもう10年。たこ焼きに関してまったくの素人だった二人が、気がつくとこれだけ長い期間お店を立派に営業してきたんだなぁと思う。僕が一時期はほぼ毎日通った店が閉店するなんて…、寂しいかぎりである。
それにしても何という偶然だろう。『福ちゃん寿し』の大将が何の気なしに電話をくれたおかげで、『たこ楽』の閉店を知ることができた。まっちゃん・けいちゃんとはやはり縁があるのだろう。
予定を変更してとりあえず持ち帰りで10個入り(¥300)だけ買って『福ちゃん寿し』の大将に持って行くことにした。他にもお客さんがいたのであまりゆっくり話をすることもできなかったが、店は23日までは営業して、それから片付けたり引っ越したりして月末には完全に出ていくとのこと。なんとか都合をつけて23日までにもう一度顔を出すことを約束して店を出た。

思わぬことで時間を食ったので、『福ちゃん寿し』に着くまでに結局一時間以上かかってしまった。店の前に自転車を停めて店内に入ると、大将とお姐さん待ち構えていた。先客はおらず、カウンターには僕の分の席がすでに設えてある。遅くなったことを詫びながら『たこ楽』の閉店を告げると、大将も寂しそうな表情を浮かべた。大将も一時期は買い物ついでによく行ったらしい。

さて、ようやく食事である。久々の訪店だが、近年は来るとしても昼のランチばかりで、夜に来るのは何年か振りのことになる。
暑い中自転車を漕いできたので喉がカラカラである。とりあえずビールが飲みたい！腎臓を悪くしてからアルコールは極力避けてきたが、先日塚口駅前の『東陽閣』で飲んだ一杯の生ビール以来、ビールを飲みたいと思うようになってしまった。調子に乗ると危険だ。自戒せねば！
生ビールの小を注文して大将とお姐さんにも飲んでくれるよう勧めたところ、僕が最近酒を飲んでいなかったことを把握している大将から、瓶ビール１本にしてみんなで一杯ずつ乾杯したらええがな、とのお言葉。こちらの体調や出費を気遣ってくれる大将のありがたい提案に従い、瓶ビールを注文することにした。

ビールを三つのコップに注いで三人で乾杯する。美味い！夏場のビールの一口目はやはり最高である。
ビールと一緒に出てきたのが枝豆とお通しの「ズイキとしめじの和え物」である。このズイキが美味しかったこと！よく冷えていて、口中がさわやかになった。
いよいよ寿司である。ランチの時は一人前のランチセットをまず注文して、それで足りなければ追加を頼むようにしていたが、今日は夜なので初めからおまかせで行くことにする。色々な種類を食べたいと言うと、通常は二貫ずつの握りを一貫ずつ出してもらえる。このあたりの柔軟な対応は本当はありがたい。
出てきた寿司は順に、生鰯、カンパチ、天然鯛、シマアジ、鮪中トロ、鱧の梅たたき。ここで一旦休んで鱧と豆腐としめじの吸い物。さらにホタテ貝柱の炙り、甘海老の軍艦巻きとウニ軍艦巻き、以上の九貫である。

この店は一人前の握りが並で¥1,200で、上が確か¥2,000、特上が¥3,000ぐらいだったと思うが、これらはあくまで一人前いくらのセットの値段。かつて東京で一軒だけよく通った店でその店の大将に教わったのは寿司の値段なんてあってないようなものだということ。実際、例えば同じ鮪でも一人前の並に入れる鮪とお好みで握る鮪ではネタの厚みからして違うし、良い部分を選んで握るから、握り手の匙加減一つで全然味が違う。だから、寿司屋だけは本当に信頼できる店に通って食べるのにかぎるのだと。

その点ではこの『福ちゃん寿し』は僕が両親に連れられて来始めた時はまだ小学生、先々代のお父さんの頃だから、もう45年近い付き合いになる。今の三代目の大将とは他所の店に一緒に飲みに行ったりもした仲で、僕にとってこれ以上に信頼できる料理人はいない。
今日の寿司もまた最高だった。
関西で寿司を覚えた僕としては、ちょっぴり甘めで関西風のこの店のシャリがやはり一番美味しい。
ネタも、おまかせで握ってもらってもシマアジや鰯、鯛といった僕の大好きなネタはきっちり把握して入っている。カンパチは捌きたてだと身が固く食べづらいことも多いし、腹の部分の脂がキツイと感じることもあるが、このカンパチは一晩置いて適度に柔らかくなってから客に出すようにしていて脂のノリもほどよい加減。鮪も中トロのような脂の乗った部分が僕は本来苦手なのだが、大将がこれなら行けるやろから試してみいと言う。実際食べてみるとこの中トロは脂が実に上品。鮪はミナミマグロ(インドマグロ)を使っているそうで、本鮪と変わらない質の良い脂であった。鱧は握りと吸い物で夏らしさを味わうことができる。炙ったホタテは香ばしさと甘みが倍加したよう。そしてトドメに甘海老とウニの軍艦巻きである。甘海老はこうして食べると甘さがさらに引き立つことをこの店で覚えた。その甘海老の甘さを超える濃厚な甘みと旨味を味わえるのはバフンウニ以外にはありえないだろう。まさに一点の曇りもない美味しさとはこのことか。
寿司は最初から最後まで隙の無い絶品の美味しさであった。

これが回転寿司やごく普通の安い寿司屋なら、量的にもうちょっと食べたくなるかもしれないが、『福ちゃん寿し』の味ならばこれだけ食べればもう大満足！圧倒的な美味である。

そして、最後にお会計。最初にビールも1本飲んでるし、寿司ネタのグレードの高さから想像して¥6〜7,000あたりを予想していたが、大将はニッコリ「四万円！(¥4,000の意味)」
えっ、安い⁉︎ありえない金額設定だろう。
「ちょっと安過ぎるんちゃう？」と聞くと
「そない思ったらまた来てや！」と笑う大将。
もちろん来ますとも!!

引っ越してから距離が遠くなり、移動手段は自転車という僕はそう簡単に来られないが、これからも月に一度ぐらいはタクシーを使ってでも行きたいと思う。あらためてそれだけの価値がこの店にはあると実感した。

◎再投稿 2016.11.07
久々に『福ちゃん寿し』へ友人二人を連れてランチを食べに行きました。。三年前に引っ越してからも何度かは来たけれど、車を持っていない僕にはさすがに距離的に遠く、この一年ほど完全にご無沙汰状態でした。今回はありがたいことに友人が車を運転して連れて行ってくれるということで、それならば僕の四十年以上の付き合いの店を紹介しますと言って引っ張って、三人で訪店しました。
店からちょっと北の駐車場に四台分のスペースを『福ちゃん寿し』が借りていて、そこに車を停めます。

店に入ると変わらぬ笑顔で大将が迎えてくれました。
「どないしてたんや？元気やったんかいな？」
子供の頃から四十年以上の付き合いですから、ほとんど親戚のおじさんと会話している気分になります。連れて行った二人の友人を紹介して席に着きます。お客さんは僕たちだけでした。

「飲み物はあがり(お茶)でよろしいですか？」
と友人たちに尋ねる一方で
「〇〇ちゃん(僕の名前)は冷たい方がええんやろ。」
と目の前に氷の入った大きなコップと2ℓの緑茶のペットボトルが置かれます。さすがにお見通しで、フランクな感じが心地よいです。
注文しようとすると、
「ランチ(¥1,200)でええんかいな？昼間っから贅沢したらあかんで。」
と声をかけてくれました。
「足りんかったら好きなもん注文してや。」
そう言うと友人たちに苦手なネタは無いか確認して握り始めます。

今日は全部を握ってから一気に出すのではなく、握った順にネタが出てくるやり方です。
出てきた順にネタは、鮪赤身・アオリイカ・真鯛・天然ハマチ・鮪中トロ・サヨリ・茹で蛸・帆立貝柱・〆鯖の９貫。これにしめじのお吸い物と食後のコーヒーが付いて¥1,200。相変わらずの素晴らしいCPです。
ネタケースには近頃人気のサーモンもありましたが、僕がどちらかと言うとサーモンは苦手なのを大将が知っていて、通常の一人前には入っているのをさりげなくはずしてくれてました。こうした気遣いも馴染みの店ならではです。
特に気に入ったのがサヨリと〆鯖。サヨリは上に乗った大根おろしにポン酢がかけてあって、その酸味が直前に食べた中トロの脂を洗い流して口の中をさっぱりさせてくれます。あっさりしているけれど独特の風味のあるサヨリの味を堪能しました。〆鯖は以前書いた松前寿司同様塩気はやや強めですが酢はあまり強くなく、生の鯖に近い味わいを楽しめます。
他のネタも中トロは他の店なら大トロでも通用しかねない蕩け方で、明石産の茹で蛸は弾力はしっかりあるものの柔らかく、どのネタも本当に美味しい！大満足の内容でしたが、大将曰く今日はあまりネタが豊富でなくて申しわけないとのことでした。
連れの友人二人が女性だからなのか、僕が一人で行った時より気持ちシャリは小さめだったと思いますが、ここまででけっこうお腹いっぱいになってます。それでも、美味しさの誘惑に負けて、あまり多くは無いと言うその他のネタからお好みでウニの軍艦巻きを注文。この店は一貫ずつでも握ってからくれます。余計な雑味は一切無く、バフンウニ特有の甘みを満喫しました。ウニは日によっては軍艦ではなく握りで出してくれることもあります。その方が海苔の味に邪魔されずウニの味を純粋に味わえるからで、そうしなかったのは大将的には今日のウニはそこまでのレベルになかったのかもしれませんが、僕的には文句なしの味でした。
さらに僕は亡母の大好物だったイカゲソを炙りで、そして友人二人はその日の朝にテレビで見たばかりだという足赤海老の炙りを注文。僕はゲソの食感に、友人たちは足赤海老の身の甘さに大喜びです。足赤海老は握るだけでなく、頭部も別に焼いて出してくれました。
女性二人が完全にお腹いっぱいだと言って箸を置こうとしたところ、大将が
「もうあとこれぐらいは食べられるでしょ？」と最後に出してくれたのが、トロたたきの軍艦巻き。このトロの脂の美味しいこと！
以上で、今度こそお寿司は終了。あとは食後にコーヒーを飲んで、大満足のランチでした。

以前からそうでしたが、お昼は大将一人でやっています。だから、限られた知り合いを除いて出前も今はやっていません。
チェーンの回転寿司店がたくさん出来る一方で、こうした個人経営の「回らないお寿司屋さん」は経営が厳しく、この近辺でも近年多くの店が閉店しました。寿司という料理の性質上、仕入れにロスが出ることは避け難く、そこに職人等の人件費もかかることから、どうしても値段設定が高くなります。回転寿司は回転レーンの導入だけでなく、チェーン店ならではの一括大量仕入れと、セントラルキッチン方式とマニュアル化によって職人を不要にすることで人件費を徹底的に削減して価格を下げています。
それに対して、こうした小さなお店が価格的に対抗することは不可能。ネタの質を落とさないためには、職人だけでなくその他の店員も含めた人件費を削らざるをえないのです。価格以外でも、他店と違う特色を打ち出して対抗する努力は各店が続けているでしょうが、寿司には生の魚と酢飯を使うという制約がある以上工夫するにしても限界があります。ごく一部の高級店を除けば、寿司屋という職種自体が非常に難しい時代になっていると言えるでしょう。
それでも、回転寿司では味わえない味と人とのふれあいを、高級店とは違う庶民的な価格で提供してくれる、こうした「回らない寿司屋」には頑張ってほしいものです。
この『福ちゃん寿し』には見たところ跡を継いでくれる人がいない様子。ひょっとしたら今の大将が引退されたら店は無くなってしまうかもしれません。だから、大将にはいつまでも元気で、できるだけ長くお店を続けてほしいです。そして僕ももう少し頑張って通う回数を増やしたい。本当にそう思います。
昔からの想い出も含めて、『福ちゃん寿し』は僕にとってやっぱり特別なお店です。

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◎初回投稿
両親に連れられて小学校4年生の時に初めて来店して以来、もう40年以上の付き合いになります。大学生になって東京に行き十数年は東京に住んでいました。その間築地の名店と呼ばれる店に足を運んだこともありましたが、この店以上に美味しい寿司には出会えなかったし、関西に帰ってきてからも北新地やミナミのけっこうな高級店を含めて数多く行きましたが、未だにこの店以上に美味しいと言い切れる店とは出会っていません。この店の味をスタンダードにしていたせいで友人たちからは「寿司にはうるさい奴」という烙印を押されてしまいました(笑)

店主は三代目。親父さんが創業し、長男さんが二代目。今の大将は次男さんで、僕が店にも通い始めた当初は曽根崎新地の他店で修業していたそうです。
江戸前寿司ではありますが、関西の寿司屋として押し寿司や箱寿司も作るためもあって、シャリは正しく関西風に甘めの味です。その寿司はネタは新鮮かつ味のバランス的にギリギリまで厚く切って豪快そのもの。ウニの軍艦巻きなど溢れんばかりです。客のわがままも聞いてくれて、お好みの注文は一貫からでもOK。前述のウニなどは、ネタが大粒で新鮮ならばこそできる贅沢で海苔なしの握りもやってくれます。また、季節ごとのメニューも楽しみで、春先の生トリ貝や真つぶ貝、秋以降の鯖の松前寿司など毎年の楽しみです。この松前寿司はわざわざ京都から毎年買いにくるお客さんがいるほどの逸品です。（昨年までは一本が￥1.500でした）
また、寿司以外にも夏には鮎の塩焼きや土用丑の日のひつまぶし、秋には松茸一本丸々入った土瓶蒸し、冬はてっちりやクエ鍋など美味しい物ならなんでもござれ状態です。
それでいて値段も決して高くなく、僕のような下戸なら5千円もあれば腹一杯美味しい寿司が食べられます。けっこうお酒を飲む方でも、酒と肴に寿司を食って1万円も出せば、よほど贅沢をしないかぎりお釣りが来ます。
お昼はさらにお得で、握り一人前に味噌汁、コーヒーにデザートまでついて￥1.100です。

一階はカウンターで二階には座敷もあり宴会が可能ですが、今は職人さんは大将一人なので、冬場の鍋での宴会以外は少人数でカウンター、が向いている店ではあるかもしれません。

大将には今のところ跡を継いでくれる人がいないようですが、できれば跡継ぎを見つけて店はいつまでも続けてほしいし、それ以前に大将にはいつまでも元気で寿司を握ってもらいたい。そんな思いを持たされる、隠れた名店であると確信しています。