7回
2018/08 訪問
(再訪)香りと火入れの魔術師が繰り出す最高の美味しさ
中華料理の特徴とは何でしょうか?
もちろんいろいろあるかとは思いますが、卓越した素材の処理と調理技法により素材のポテンシャルを最大限に引き出すこと、というのがその一つとして挙げられるのではないかと思っています。
例えば乾物です。素材をそのまま使えばいいものを、時間と手間ひまかけて、わざわざ干して、そして戻して、とはなんて無駄なことをしているのだろう、と思えなくもありません。
しかし、そういった乾物のきちんとした料理をいただくと、そういう手間ひまがあるからこそ、この美味しさになっているのだ、ということが実感できると思います。
さてそれでは、中華料理ならではの乾物の料理とは何か?
「鮑参翅肚」の4種類が代表格になりますが、日本で多くの方が馴染みがあるのは3番目の「フカヒレ」ぐらいではないでしょうか。
1番目のアワビ、2番目のナマコはいずれもそれなりに馴染みのある海産物であるものの、「干しアワビ」「干しナマコ」さらに4番目の浮袋となると、召し上がられたことのある方はそう多くはないかと思われます。
その理由はいろいろあるかとは思いまして、お値段がそれなりにする、ということもありますが、手間ひまかかる割に需要がないから、ということも大きいのではないかと思われます。だからメニューに掲載されることも少なくなり、ますます食べる機会が減ってくるのでしょう。
しかし、香港の高級レストランでは干しアワビや干しナマコはまず間違いなくラインナップされており、これらがもう驚くほどの美味しさなのです。
では干しアワビの美味しさとはどういうことか、わたくしは次の2点と考えています。まずは食感、生のものでもアワビは独特の食感がありますが、干しアワビになりますと、歯を跳ね返す弾力のメリハリがより強くなる、そんな印象です。次に味、干しアワビでこそ感じられる独特の奥深いうまみが生まれてくるのと、丹念に煮込まれたソースとの組み合わせが圧巻の美味しさを感じさせてくれるのです。こういった料理をいただくと、まさに中華料理の素晴らしさを体験しているのだなあ、と感じます。なお、干しナマコや浮袋も魅力は異なるもののやはり圧巻の美味しさです。
さて、今回は、予約の最終確認時に「干しアワビはいかがですか?」というお話をいただきました。二つ返事で「是非とも」とお願いしましたが、その理由は、干しアワビを日本でいただける貴重な機会であることと、茶禅華さんなら本場に遜色ない美味しさで提供していただけるだろうと思ったからです。
ということで、いつも以上に楽しみにお伺いしました。
今回いただいたコースの内容は以下のとおりです。なお、干しアワビをいただいたこともあり、税サ抜きで30,000円となりました。飲み物はアルコールとお茶のミックスペアリングで9,000円でした。
・爽口冬瓜(冬瓜、貝柱、じゅんさい)
・紹興香魚(鮎の紹興酒漬け)
・五粮香魚(鮎の白酒揚げ)
・紫蘇海蜇(大連の海月、大葉)
・開水雉湯(雉のスープ)
・三杯鶏腿(三杯鶏の香りのみをまとわせる鶏腿肉、バジル)
・豆豉鯧魚(マナガツオの炭火焼き、仕上げに藁焼き)
・鳳尾茄子(蒸し茄子)
・吉浜干鮑(大船渡、吉浜産の干しアワビ)
・大原鮮鮑(大原産アワビ、フカヒレ、毛蟹)
他に、フルーツトマトと八角、魚香茄子、杏仁豆腐等を出していただきました。
コースの流れとしては、前半は鮎の料理で和の要素がかなり強い感じもしつつも、茄子の料理の仕上げなど、やはり茶禅華さんらしい繊細な中華料理のコースとなっています。メインの干しアワビは見た目は寂しさを感じるかもしれませんが、やはり茶禅華さん、圧巻の美味しさでした。
今回は、個々の料理の印象は干しアワビのみとさせていただきます。まずは食感についてです。供された際に「半分に切って召し上がってください」と言われまして、「干しアワビの食感を楽しむなら細かく刻む方がいいよなあ」と思いながらも半信半疑で半分をぱくっといただきます。なるほどなるほど、一言で言うと本場より柔らかでして、この柔らかさなら半分でいただく理由がわかります。なお、本場より柔らかと言っても単純に柔らかいのではなく、歯を跳ね返す弾力はきちんと残っているのです。これは実に素晴らしく、本場でいただく干しアワビとは異なる魅力です。ではうまみの方はどうかと言いますと、やや薄く感じるものの、濃厚な味付けをしているわけではないので、やはりちょうどいい感じです。というわけで、このシンプルな干しアワビ、まさに本場に遜色のない絶品でして実に美味しくいただきました。
ということで、本場の中華料理の王道中の王道とも言える干しアワビでも茶禅華さんは圧倒的な美味しさを実現してくださいました。なんとまあ、どこまで進化を続けるのでしょうか。
ペアリングのアルコール
爽口冬瓜(冬瓜、貝柱、じゅんさい)
紹興香魚(鮎の紹興酒漬け)
ペアリングのお茶
ペアリングのお茶
五粮香魚(鮎の白酒揚げ)
ペアリングのアルコール
紫蘇海蜇(大連の海月、大葉)
開水雉湯(雉のスープ)
ペアリングのアルコール
三杯鶏腿(三杯鶏の香りのみをまとわせる鶏腿肉、バジル)
フルーツトマトと八角
豆豉鯧魚(マナガツオの炭火焼き、仕上げに藁焼き)
ペアリングのアルコール
ペアリングのお茶
鳳尾茄子(蒸し茄子)
戻す前の干しアワビ
吉浜干鮑(大船渡、吉浜産の干しアワビ)
ペアリングのアルコール
大原鮮鮑(大原産アワビ、フカヒレ、毛蟹)
ペアリングのお茶
魚香茄子
杏仁豆腐
お茶
素敵な茶器
アイス
小菓子
2018/09/10 更新
2018/03 訪問
(再訪)香りと火入れの魔術師が繰り出す最高の美味しさ
昨年の上海蟹コースはなんとか予約できたものの、ミシュランの2つ☆を獲得したこともあり、それ以降すっかり予約が取れなくなってしまいました。それでもなんとか訪問したいとオンライン予約の状況を日々チェックし、ショートコースながらもなんとか予約が取れました。約3ヶ月ぶりの訪問です。
ショートコース12,000円にお茶とアルコールのミックスペアリング(結果的に8,500円)を組み合わせました。コースの内容は以下のとおりです。なお、メニュー表には漢字四文字の記載のみで、()内は料理内容です。
・青豆豆富(スナップエンドウと豆腐)
・韮黄扇貝(帆立、黄韮、もやし)
・桜蝦春捲(蟹と蕗の薹の春巻き)
・銀耳海蜇(木耳とクラゲの足)
・雉雲呑湯(雉のスープ、広東白菜入り)
・塩焗鶏腿(鶏の腿肉)
・香港烤魚(金目鯛の炭火焼き)
・炒油麦菜(A菜の炒め)
・脆皮鴿子(小鳩の胸肉と腿肉)
・春雷驚龍(毛蟹と菜の花、おこげ)
・今日点心(あまおう、杏仁)
全体的には、やはりとても繊細と感じました。前半はその繊細さを丁寧に紡いでいく流れ、中盤のスペシャリテの雉のスープから後半の小鳩の焼きものと、個々が絶品ながらもその繊細な流れを崩さない、全体的にとても素晴らしい構成でした。
個人的には、初めてこちらを訪問したときと似たような内容だったため、初めて訪問した際の感動を思い起こされました。しかもそのときいただいた料理と同じもの(雉のスープ、金目鯛の炭火焼き、鳩の焼きもの)はパワーアップしているのが素晴らしいです。
以下はいくつかの料理の内容や印象です。
☆青豆豆富(スナップエンドウと豆腐)
スナップエンドウがこのように中身だけで供されるのはあまりないと思います。この食感が絶妙でとても心地よく、素晴らしいスタートです。
☆韮黄扇貝(帆立、黄韮、もやし)
帆立の食感は硬めでして、柔らかい方が美味しいのでは?という先入感を覆してくれました。何かの香辛料でしょうか、ほのかな中華っぽい香りがします。
☆桜蝦春捲(蟹と蕗の薹の春巻き)
中身は均一にしておらず、味わっていくうちに蕗の薹の苦さが感じられるように工夫されています。
☆銀耳海蜇(木耳とクラゲの足)
クラゲの足は中華料理でよくあるクラゲとは食感は異なり、表面がざらざらしているのとさくっとした歯応えが心地よいです。
☆雉雲呑湯(雉のスープ、広東白菜入り)
ふたを開けたときに感じる素晴らしい香り、なんだかこれまで以上にはっきりと感じられました。本当に滋味深くて素晴らしいスープです。
☆塩焗鶏腿(鶏の腿肉)
葱と香菜が真ん中に仕込まれています。なんてことない料理のように想像されるのですが、うまみがぎゅっと閉じ込められていてとても美味しいのです。もちろん火入れも素晴らしいです。
☆香港烤魚(金目鯛の炭火焼き)
2.3kgの金目鯛を12日熟成させたものとのことです。火入れが圧倒的に素晴らしく、もう言うことなしです。初回にもいただいて火入れの素晴らしさに驚かされましたが、どこまでも進化していくようです。
☆脆皮鴿子(小鳩の胸肉と腿肉)
こちらも素晴らしいスペシャリテ、今はベストの火入れを狙って胸肉と腿肉が別に供されます。特に噛むと肉汁が飛び出してくるような腿肉はやはり絶品です。食べていてよだれがどんどん出てくるような美味しさを感じていました。
☆春雷驚龍(毛蟹と菜の花、おこげ)
この料理の四文字メニュー「春雷驚龍」は熱々の毛蟹と菜の花をおこげの上にかける音を漢字で表しているわけです。味はさっぱりとしていて〆として最適と思います。
青豆豆富(スナップエンドウと豆腐)
韮黄扇貝(帆立、黄韮、もやし)
ペアリングのワイン
桜蝦春捲(蟹と蕗の薹の春巻き)
ペアリングのお茶
銀耳海蜇(木耳とクラゲの足)
雉雲呑湯(雉のスープ、広東白菜入り)
ペアリングのワイン
塩焗鶏腿(鶏の腿肉)
ペアリングのお茶
口直し
ペアリングのワイン
香港烤魚(金目鯛の炭火焼き)
炒油麦菜(A菜の炒め)
ペアリングのワイン
脆皮鴿子(小鳩の腿肉)
脆皮鴿子(小鳩の胸肉)
春雷驚龍(毛蟹と菜の花、おこげ)
あまおう
最後のお茶
杏仁
2018/04/01 更新
2017/11 訪問
(再訪)香りと火入れの魔術師が繰り出す最高の美味しさ
これまで何度か訪問させていただいた茶禅華さん、今回は11,12月限定の上海蟹コースということで、いつになく楽しみにお伺いしました。
個人的な話で恐縮ですが、上海蟹を初めていただいたのは十数年前でしょうか、香港の上海料理店で上海蟹尽くしのコースをいただき、特に蒸し上海蟹にほっぺたが落ちるかの美味しさを感じました。それからしばらくは毎年のようにそのお店でいただいていたものの、香港を訪問できるほどの連続した休暇を冬季に取得することが難しくなってからは日本で上海蟹をいただいています。
日本での上海蟹の印象については、漬けはそれなりに美味しいお店もありますが、韓国料理のカンジャンケジャンの方がコスパがいいなあと思ったり、蒸しは残念ながら日本では美味しいと感じたことがあまりありません。さて、こちらではいかがでしょうか。
今回いただいた上海蟹コースは税サ抜きで23,000円です。内容は以下のとおりです。なお、これまでは日本語メニューが記載されたメニュー表をお渡しいただいていましたが、今回は漢字の記載しかありませんので、記憶しているメニュー内容となります。
・岩茶奇蘭(岩茶入り素麺)
・酔大閘蟹(紹興酒漬け酔っ払い上海蟹)
・雪菜百頁(干し豆腐)
・雉雲呑湯(雉のスープ)
・脆皮魚捲(?の北京ダック風)
・醋椒活魚(確か尾長鯛の焼き物)
・鴛鴦蒸蟹(オスメス蒸し上海蟹)
・毛蟹魚翅(フカヒレの煮込み上海蟹入り)
・炒青江菜(青梗菜の炒め)
・茶禅烤鴨(鴨の焼き物)
・清湯蟹麺(上海蟹入り麺)
・普洱布蕾(プーアール茶味クレームブリュレ)
・柚子杏仁(柚子と杏仁のアイス)
・普洱湯圓(生姜プーアール茶と白玉)
全体的には、これまで以上に素晴らしい内容と感じました。全てのお皿で調理も味付けも理想のように思えます。コースの流れとしては、上海蟹を主役に据えるのではなくあくまでメインは別のもの(今回は鴨)でして、随所に登場する上海蟹は主役にされても十分の美味しさであっても他も美味しいので傑出することはなく、コースの流れが実にスムーズに感じました。
下の方に詳細は書きますが、漬けだけでなく蒸し上海蟹は適切な蒸し状態で、これまで日本でいただいてきた蒸し上海蟹よりはるかに美味しくいただくことができました。
それにしてもたいそうな人気店になってしまっています。今回はなんとか予約が取れましたが、ミシュランガイドの2つ星を獲得した影響もあるのか、もう予約がとても取れそうにない状況になってしまっています。今年は何度か訪問できましたが、来年は訪問できるのかどうか、心配ではあります。
以下はいくつかの料理の印象です。
☆酔大閘蟹(紹興酒漬け酔っ払い上海蟹)
これは他店もなかなかなので傑出した美味しさとまではいきませんが、さすが茶禅華さん、きちんと美味しいです。
☆雉雲呑湯(雉のスープ)
スペシャリテの雉のスープの雲呑に上海蟹が入っています。上海蟹を感じたのはスープの方でして、ごくごくほのかな感じ、たまりません。
☆鴛鴦蒸蟹(オスメス蒸し上海蟹)
これは素晴らしいです。日本でこのレベルの蒸し上海蟹に出会ったことはありませんし、香港の上海料理店にも負けない美味しさです。味噌や白子の美味しさを損なわない適切な蒸し状態、オスとメスを組み合わせて美味しさを重層的に堪能させるという工夫、絶品です。
☆毛蟹魚翅(フカヒレの煮込み上海蟹入り)
フカヒレの煮込みが強い味だと上海蟹が入るとくどくなると思うのですが、バランスは秀逸です。もしかしたら煮込みの味を調節しているのかもしれません。
☆茶禅烤鴨(鴨の焼き物)
これは新作とのことで、抜群な火入れより味付けを重視しているように思える、茶禅華さんとしてはやや冒険的なお皿です。ソースは腐乳、奥には確か里芋が添えられています。一つずつ味を加えながら食べて欲しいとのことですのでそうしてみます。正直言いますと、鴨だけ、鴨プラス腐乳ではぴんと来なかったのですが、芋まで混ぜると絶妙の美味しさです。ただ、このお皿が茶禅華さんらしいかと言うと、ちょっとまだ消化できていません。ただ、来年の茶禅華さんの進化を予測させるお皿だなとは感じました。
☆清湯蟹麺(上海蟹入り麺)
これも上海蟹はほのかに香るだけですが、それがいいのです。
☆普洱湯圓(生姜プーアール茶と白玉)
香港で上海蟹をいただくと、いつも生姜と白玉が入っているお茶が出てきて、なんだろうこれはと思っていたのですが、上海蟹は体を冷やす食材であるので、生姜で温めて相殺する、という効果だそうです。いやあ、よく研究されていますね。
岩茶奇蘭(岩茶入り素麺)
酔大閘蟹(紹興酒漬け酔っ払い上海蟹)
酔大閘蟹(紹興酒漬け酔っ払い上海蟹)
雪菜百頁(干し豆腐)
雉雲呑湯(雉のスープ)
脆皮魚捲(?の北京ダック風)
箸休め
醋椒活魚(確か尾長鯛の焼き物)
鴛鴦蒸蟹(オスメス蒸し上海蟹)
毛蟹魚翅(フカヒレの煮込み上海蟹入り)
炒青江菜(青梗菜の炒め)
茶禅烤鴨(鴨の焼き物)
清湯蟹麺(上海蟹入り麺)
普洱布蕾(プーアール茶味クレームブリュレ)
柚子杏仁(柚子と杏仁のアイス)
普洱湯圓(生姜プーアール茶と白玉)
2017/12/12 更新
2017/08 訪問
(再訪)香りと火入れの魔術師が繰り出す最高の美味しさ
3回目のこちら、どのお皿も素晴らしいことはもうわかっています。今回は特にメインの前の3皿が怒涛の素晴らしさでした。いずれも創造性が感じられ、香港のような中華料理の本場のレストランに出てきたらかなり話題になりそうなお皿かな、と個人的には感じました。味は濃厚で、ぐいぐいと引き込まれていく、そんな感じがしました。前回の全体的に包み込むような感じとは対照的です。以下がその3皿の印象です。
☆スッポンをつめた南部鶏
見た目ではわかりませんが、中には刻んだスッポンとか野菜とかいろいろ入っています。食感的にはあえて例えるならハンバーグとか餃子とかそういった感じでしょうか。味はうまみたっぷりながら調和している感じもありとても美味しいです。香りもいかにも中華、という感じで食欲をそそられます。
☆ふかひれと黒鮑の煮込み
これはどちらかと言うと黒鮑が主人公と感じました。前回いただいたふかひれの姿煮も素晴らしかったのですが、こちらも鮑のうまみと濃厚なスープがぴったり合っています。
☆赤むつ(のどぐろ)の焼き物 発酵トマト
火入れはいつものように完璧です。味付けはかなり濃厚かつ少々辛めです。のどぐろとしては淡白に仕上げてあるようで、味付けと戦わずに上手く調和しています。
なお、今回もドリンクはアルコールとお茶のミックスペアリングをいただきまして、特にこれら3皿の濃厚さに合わせてくださった飲み物はかなりのぴったり感でした。飲み物単独でいただくとちょっと違うかなと感じても、お皿をいただいてからもう一度飲むとぴったりと来る、この感覚を生み出すペアリングが板についてきているような気がします。
茶油素麺
白イカ青紫蘇炒め
くらげとほうずき
小鳩レバー重ね焼き
松茸の春巻き
雉の極上スープ 雲呑添え
スッポンをつめた南部鶏
ふかひれと黒鮑の煮込み
赤むつの焼き物 発酵トマト
紅ひゆ菜の瞬間炒め
小鳩胸肉 台湾香辛料《馬告》焼き、腿肉五香脆皮仕立て
冷やし担々麺
桃の台湾かき氷
杏仁豆腐 二つの温度で
2017/08/15 更新
2017/07 訪問
(再訪)香りと火入れの魔術師が繰り出す最高の美味しさ
1ヶ月ほど前に初訪問したこちら、その際はショートコースをいただきましたが、最高に美味しかったのでフルコースをいただきたく、再訪しました。予約は公式HPからです。
コースは税サ抜き18,000円、これにアルコールとお茶のミックスペアリング(結果的には9,000円)を組み合わせました。コースの内容は以下のとおりです。
・アオリイカの翡翠和え
・毛蟹を絹笠茸に詰めて
・アカザエビ紹興酒漬け
・車海老真丈の春巻
・雉の極上スープ 雲呑添え とうもろこしの香り
・鶏腿肉の黒胡椒焼き
・ふかひれ姿煮
・マナガツオの焼き物 葱と生姜
・千葉 中台菜園 広東白菜の瞬間炒め
・小鳩 胸肉 台湾香辛料《馬告》焼き 腿肉 五香脆皮仕立て
・担々麺
・青梅のシロップ煮
・杏仁豆腐 二つの温度で
全体的には、前回同様、圧倒されるレベルの美味しさでした。昼のショートコースより品数が多いこともあり、どのお皿も素晴らしい中での緩急が楽しめました。
雉のスープや小鳩の焼き物は前回と同じ(スープはクレソンの代わりにとうもろこし)で極上の美味しさを再び堪能し、こちらでは初めていただくアカザエビ、マナガツオや鶏腿肉も同様に極上の美味しさと感じました。
ドリンクのペアリングもアルコール、お茶ともに素晴らしいです。個人的には毎日中国茶を飲んでいることから、どんな中国茶をいただけるかについては特に気になるところでして、熟成が進んだ鉄観音(だったかな)の深い香り、デザートのタイミングで供される甘い烏龍茶(確か)には感動しました。
サービスも極上ですが、常連になると少し変わって来るのではないか、という気もするので、(常連になれるかどうかは別として)今後も楽しみです。
食べログの点数が4点をはるかに超えていると、予約困難であったり紹介制であったりで訪問の機会がなかなかありませんが、こちらはこの文章を書いている時点で4.44点の高得点であっても今のところ予約を取りやすいのがありがたいことです。
以下、いくつかの料理の印象です。
☆毛蟹を絹笠茸に詰めて
絹笠茸は香港なんかでいただくとかなり柔らかめですが、これはシャキシャキに仕上げてあります。なかなか新鮮に感じながら美味しくいただきました。
☆アカザエビ紹興酒漬け
実に繊細です。アカザエビのプリプリの仕上げも最高に素晴らしく、紹興酒の味付けも甘すぎたりせずに絶妙なバランスです。このメニュー名から想像する美味しさを上回っています。
☆雉の極上スープ 雲呑添え とうもろこしの香り
滋味深い、という言葉がこれほど適切に感じられるスープはなかなかありません。前回はクレソンが加えてあったのがとうもろこしに代わり、やや印象は変わりましたが、とにかく美味しいです。
☆鶏腿肉の黒胡椒焼き
これはありがちなお皿かと思いましたが、いただいてみると美味しいのなんのって、やはり火入れが最高で歯ごたえがとても心地よいのと、旨味がぎゅっと閉じ込められているのを感じました。
☆ふかひれ姿煮
これは一般的な中華料理のメニューですので、もしかしたら何かひねりを入れてくるかと勝手に想像しましたが、そんなことはなく直球勝負です。かなり濃厚なソースでして、このタイプですと「臥龍居」や「華都飯店」の味が気に入っているのですが、甲乙付け難い美味しさでした。こうやって一般的なメニューをいただいても料理長の実力をはっきりと認識することができます。
☆マナガツオの焼き物 葱と生姜
前回は金目鯛をいただきまして最高の火入れに圧倒されたのですが、今回はマナガツオ、異なる種類ですので前回程の美味しさではないかもな、とあまり期待はしませんでしたが、見事に美味しく仕上げています。やはり火入れはびっくりするほどの素晴らしさ、信じられないほどの極上の食感に大満足です。
☆小鳩 胸肉 台湾香辛料《馬告》焼き 腿肉 五香脆皮仕立て
数あるスペシャリテ的な存在のメニューの中、このメニューはこちらのレストランの看板メニューと言ってもいいのではないでしょうか。とにかく火入れが素晴らしく、肉のジューシー感、皮のパリパリ感、ともに最高で、口の中でお祭りでも開かれているのではないかと思える華やかさも感じます。
アオリイカの翡翠和え
毛蟹を絹笠茸に詰めて
アカザエビ紹興酒漬け
小休止
車海老真丈の春巻
雉の極上スープ 雲呑添え とうもろこしの香り
ふかひれ姿煮
鶏腿肉の黒胡椒焼き(取り分け前)
鶏腿肉の黒胡椒焼き
小休止
マナガツオの焼き物 葱と生姜
千葉 中台菜園 広東白菜の瞬間炒め
小鳩 胸肉 台湾香辛料《馬告》焼き 腿肉 五香脆皮仕立て
担担麺
青梅のシロップ煮
杏仁豆腐 二つの温度で
お茶ペアリングの一部
2017/07/12 更新
2017/06 訪問
香りと火入れの魔術師が繰り出す最高の美味しさ
中華料理のレストランでは最近メディアに登場することが多いこちら、食べ友が是非行ってみたいとのことで、食べログのページからWeb予約(残念ながら今はできないようですが、公式HPではWeb予約が可能になっています)しました。
いただいたのは、土曜日ランチの税サ抜き12,000円のショートコースです。内容は以下のとおりです。なお、写真にはありませんが一緒に5,500円のお茶ペアリングをいただいています。
☆くらげ
アオサやとろろ昆布が和えられていて、くらげの食感もよく、最初から美味しいです。
☆叉焼
甘い味付けです。
☆雉の極上スープ 雲呑添え
雉の出汁を使っているとのことでして、滋味深くとても美味しかったです。クレソンもいい具合のアクセントになっています。香港でいただく極上の広東料理のスープと比較してもまったく遜色ないレベルでして、日本の中華料理のレストランでこのレベルのスープに出会えるとはなんと嬉しいことでしょう。
☆梅山豚 四川の香り炒め
香り付けと味付けで2種類の唐辛子と山椒が使われています。そのことを聞いて「複雑な味かな」と想像しましたが、いずれもがお互い相反しない、かつ協奏的な役割を果たしていて、ちょうど完成品と感じました。普段は広東料理を好んでいただいていますが、四川料理も奥深いなと感じました。
☆青梅のシロップ煮
爽やかな一品
☆金目鯛の炭火焼き 葱生姜風味
とても美味しくて感動しました。これまで私がいただいてきた中では最高レベルの料理です。火入れの素晴らしさは口に入れなくても色のグラデーションでわかります。写真では向こう側になってしまいましたが、皮のパリパリ感もたまりません。果たして食感は素晴らしく、金目鯛の概念を超えているとまで感じました。味付けも、雑味がなく透き通った奥深さと言うのでしょうか、崇高な感じさえ抱きました。
☆油麦菜の瞬間炒め
シャキシャキ感がたまりません。
☆小鳩胸肉 台湾香辛料《馬告》焼き、小鳩腿肉 五香脆皮仕立て
これも素晴らしいです。これまで鳩は中華料理としては香港でミンチのものしかいただいたことがありませんが、紛れもなく鳩だとわかりました。火入れはもちろん素晴らしく、肉のジューシー感、皮のパリパリ感、ともに最高です。
なお「馬告」は、雑誌「専門料理」2017年6月号でこのレストランが3ページにわたって取り上げられている記事の中で紹介されており、野鳥の臭みを和らげる役割があるそうです。なお、この記事では、上記雉のスープと梅山豚の炒めも取り上げられており、かなり凝った下ごしらえと調理がなされていることがわかります。
☆担々麺
辛さは後味として残る程度、ミルキーで美味しいです。
☆台湾式ライチ紅茶とパール
デザートもかなりいいです。これは紅茶の香りが気に入りました。
☆杏仁豆富 二つの温度で
冷たいのはシンプル、暖かいのは豆腐花に似ていると感じました。
☆お茶のペアリング
聞いたこともないお茶が次から次へと供されます。基本的には料理の香りに近いものがセレクトされているようです。出し方(水出しとか)も凝っています。やや辛い料理のあとに洗い流す、という役目のお茶が「実は苦いのですよ」ともう一度供されたのはなかなか興味深かったです。
全体的には、圧倒されるレベルの美味しさでした。特筆すべきお皿だけを挙げても、雉のスープ、金目鯛の炭火焼き、小鳩の焼き物と、どれか一つでも話題を呼ぶスペシャリテになり得るクオリティです。中華料理というカテゴリーになってはいますが、何料理とかを超越した奥深さを感じました。
香りはどれも素晴らしいです。嗅覚と味覚が大きく関連していることは数々の学術論文でも示唆されていることから、香りは味の一要素とも考えられるわけでして、そういう意味では香りを使いこなすことで味覚という範疇を大きく広げている、とも言えると思います。
サービスもとてもよかったです。説明はとても適切で、質問したくなるような興味をそそられます。その質問にも的確に答えてもらえて、舌だけでなく知的好奇心も満たされます。
店内の雰囲気も文句なし、落ち着いていて心が安らぎます。
今回はショートコースだったことが少々もったいなかったなあと感じたので、フルコースで再訪することにしました。月をまたいでの予約なのでメニューも変更があるでしょうか。いずれにしても次回がとても楽しみです。
くらげ
叉焼
雉の極上スープ 雲呑添え
梅山豚 四川の香り炒め
青梅のシロップ煮
金目鯛の炭火焼き 葱生姜風味
油麦菜の瞬間炒め
小鳩胸肉 台湾香辛料《馬告》焼き、小鳩腿肉 五香脆皮仕立て
担々麺
台湾式ライチ紅茶とパール
杏仁豆富 二つの温度で
2017/07/12 更新
訪問日の数日前に予約確認の電話をいただくのですが、その際にメニューを提案していただくことがあります。前々回は干し鮑のご提案をいただきまして、今回は「佛跳牆」のご提案をいただき、二つ返事でお願いしました。
とは言え、お電話いただいた際には中国語の読み(確か広東語のファッティウチョン)でこのスープ名を言われていたため、すぐにこのスープだとわかったわけではありませんでした。「様々な種類の乾物を使って・・・」という説明でやっとわかりました。わたくしは「ぶっ飛びスープ」と呼んでいますが、日本では呼び方が定まっていないようです。
茶禅華さんの凄いところの一つとして、中国本場の料理を次々と本場に遜色のない自身のスペシャリテにしてしまうことが挙げられると思います。開店当初からのスペシャリテである雉のスープや鳩の焼き物は、とびきりの美味しさながらも伝統的な中華料理というよりも創作的なイメージがありました。しかし、開店した年の終わり頃に供された上海蟹は、どこでもそれなりに美味しい紹興酒漬けだけでなく、日本では本場ほどの美味しさを感じることが少ない蒸しものでも本場レベルの美味しさを提供してくれました。そして先に挙げた干し鮑、これも香港でいただく干し鮑にまったく遜色のない美味しさであるどころか、食感やうまみの出し方には個性さえ感じられます。今や茶禅華さんのスペシャリテとなっているのも納得です。
そして今回は「佛跳牆」、直訳すると「仏が壁を飛び越える」でしょうか、名前の由来は「修行僧でさえ美味しそうな香りに壁を乗り越えてくる」と言われています。乾物などを長い時間かけて調理するスープなので今回のコースは税サ抜き36,000円と比較的高額となりましたが、中華料理の奥深い魅力を堪能するには最適の一品ですので、迷いなくお願いすることとしました。
とは言え、わたくしは佛跳牆をいただいた経験がそう多いわけではありません。一応日本と香港でいただいたことはありますが、ほんの数回だけですので上海蟹や干し鮑のように本場との比較はできませんが、感じたことを書かせていただこうかと思います。
なお、今回のコース構成は以下のとおりでして、終盤にパンチのある麻婆豆腐が出てきたものの、全体的には比較的穏やかな内容となっていたかと思います。前回は上海蟹が含まれていながらも後半には豪快な四川料理もいただいたりして、コース全体の流れも毎回変えていただいているようです。今回は佛跳牆以外の料理については特にコメントしませんが、コース全体、そして個々のお皿の満足度が申し分なかったことを申し添えておきたいと思います。
・西施細麺
・酒酔大蝦
・鮟肝皮蛋
・蜜汁叉焼
・柚子海蜇
・香佛跳牆
・清蒸鮑魚
・酸辣肉圓
・葱焼魚翅
・塩炒豆苗
・茶禅鹿肉
このメニュー表の中では6番目に供される佛跳牆、コースの中では前菜の終盤からメインに向けて盛り上げていくアクセルのような位置付けかと思われます。今回はメニュー表以外にも紙を渡されまして、この紙に佛跳牆に使われている素材が記載されています。それら素材は以下のとおりです。
鶏手羽先、キジ腿肉、ヒグマ腿肉、豚肩肉、鹿アキレス腱、干し貝柱、金華ハム、干しワニ肉、生姜、カソウカ、中国モリーユ茸、干し鮑、魚 浮き袋、干しナマコ、フカヒレ、朝鮮人参、干し山芋、干しリュウガン
約20種類、様々な獣肉や代表的な魚介類の乾物が用いられています。土に生える生き物、特に茸類は意外と少ないですね。
写真をご覧いただくとわかりますが、具材がてんこもりです。まずはスープのみをいただいてみましょう。写真ではわかりにくいですが実にクリアなスープです。そのイメージは、極上の和食のお椀の吸い地でしょうか。この段階で感想を聞かれ、上述のとおり答えたところ「シェフとしては和食の炊き合せのイメージです」とのこと、ふむ、ということは、具材と一緒にいただいてみるとより美味しさを感じることができるかと思いそうしてみます。なるほどなるほど、よくわかります。使用されている具材のうまみがうまく絡み合いながらも、それぞれのうまみが抜け切っているわけではなく素材の美味しさは残されています。特に鶏手羽先をいただいた時には、この馴染みのある食材だからこそ様々な乾物のうまみの絡み合いの凄さが感じられ、まさに和食の出汁が効いた炊き合せの絶品の一皿のような美味しさを堪能することができました。
ところで、茶禅華さんは「和魂漢才」といコンセプトを掲げておられます。文字でとらえますと、中国の知恵をツールとして日本の魂をもってして何かを成し遂げる、ということでしょうか。今回いただいた「佛跳牆」はまさにこのコンセプトを体現しているのではないでしょうか。調理技法も使う素材も中華料理そのものですが、いただいて感じるのは極上の中華料理をいただいた際に感じる奥深さと言うより和食をいただいた際に感じる滋味深さです。あるいは、ずしんと押してくる豪快さよりも針の穴を通してくる繊細さ、という感じでしょうか。どうしてそう感じられるのかはわかりませんが、思い返してみると干し鮑をいただいた際に感じたことも同様です。
ということで、この「佛跳牆」、茶禅華さんを代表する一品がまた誕生した、と言えるのではないでしょうか。茶禅華さん、どこまで進化していかれるのでしょうか。