6回
2025/03 訪問
Mon restaurant préféré
高良シェフの料理には、全幅の信頼を寄せている。
特に火入れ。食材によって精妙に使い分ける。命の雫を一滴たりともむだにしない。この日いただいた鴨のロティに湛えられたみずみずしい血の味わいはその最たるものだが、フォアグラは表面をカリッと焼きながら中はしっとりと仕上げ、金目鯛の皮目をパリッと焼き上げつつ、身はふっくらと、リッチに仕上げる。鴨はこちらでいただくのは3度目だけれど、それでも高良さんより巧く鴨を焼き切るシェフに出逢ったことがないので、新鮮な驚きとともに有難くいただくことができる。
3年前、初めて訪れてからというもの、飽きずに通い続けるのも、季節ごとに変わる食材と向き合い、その真髄を引き出す火入れの技術に毎度、驚かされ、唸らされ、フレンチの王道ならではの古典的なソースと主題の食材、ガルニチュールの組み合わせによって生み出されるシンプルな力強さに捻じ伏せられるからに他ならない。
また、シェフとソムリエールのコミュニケーションから生み出されるワイン・ペアリングもこのお店の欠かすことのできない魅力の一部。「ペアリングで提供するワインは、お店が推奨するもの」という思想から、高良シェフご自身もテイスティングを行い、料理のアレンジに関与している。ワインを得ることで料理がより陰影をはっきりとまとい、料理そのものの違った魅力が引き出される。模範的なペアリングが組み立てられている。
また、ランチは格段に「お得」。3年前に訪れた時に較べると値上げはされているものの、それでも今時、税サービス料込で11,000円(ペアリングは8,000円+サービス料)でこのレベルのフレンチがいただけるなんてあり得ないし、ディナーのほうがトリュフを使ったり、手の込んだものが多くはなるけれど、ある意味、「お化粧」が少なくなる分、高良シェフの料理の本質的な部分を体感したいと考えるのであれば、ランチのほうがむしろダイレクトに感じることができるかもしれない。
まあでも、年内もう一度、と考えている訪問については、夜、お伺いすることを考えているのだけど。
以下、不要に長い感想。
◇アミューズ① 菜の花のアイスクリーム
ペアリングは前菜からなので、いつもどおりシャンパーニュのグラスをセット。この日のシャンパーニュはAYALA, BRUT MAJEUR。いつものことながら、いいシャンパーニュ仕込んでるなぁ。
菜の花のアイスクリーム、爽やかで、菜の花の苦味もあって、春の季節に相応しい一品。(訪れた日は、少々寒かったけれどね…)
◇アミューズ② オニオンヌーボーのスープ
玉葱の甘さが引き立てられたスープ。バターや乳化したニュアンスがあるからか、シャンパーニュはこちらのほうが合う。
◇前菜① ホワイトアスパラガス、帆立貝のコンビネーション
vin: LOIRE, Domaine Thomas & Fils, Sancerre, Grand Chaille, Sauvignon Blanc, 2022(Blanc)
ホワイトアスパラガスに、ミキュイ状態で火入れのなされたホタテの貝柱が、蛤ダシの利いた白いソースの中で泳ぐ一皿。シェフの火入れ技術の完璧さ、そしてソースの揺るぎない魅力を雄弁に訴えて来る一皿。
ここに、まあ、貝に合わないはずのないワインが乗る。
◇前菜② フォアグラのポワレと熊本県産若筍のハーモニー
vin: MOSEL, MARKUS MOLITOR, Haus Klosterberg, Pinot Noir, 2019(Rouge)
よく数えてみると5回目なのだが、こちらでフォアグラを頂いたのは初めて。表面をカリッと焼きながら、中のしっとりした火入れの塩梅が絶妙で、過去食べたフォアグラの中で1, 2を争う。(言葉を濁してしまうのは、フォアグラの冷製スープなるこれまた素晴らしいメニューをいただいたことがあるからだが、あれと甲乙付け難いレベル)
添えてある筍のグリエがまたいい味。ほくほくしててね。
ドイツ、モーゼルのピノノワールがいい感じ。フォアグラにデザートワインを合わせたがるレストランも多い(それはそれで合うのでいいのだけど)中、ピノにしたのは、前後のワインの流れを考えたらピノだ、ということだろう。こういう、ワイン好きに対するさりげない配慮が見えるところも、この店から離れられない理由の一つ。
◇魚料理 サクサクに焼き上げた金目鯛と若摘む葡萄のヴェルジュソース
vin: PROVENCE, Chateau Virant, Famille Cheylan "Inspiration", 2023(Rose)
皮目を焼いた金目鯛に人参のピュレ、さやえんどう、あと独活?だったかな。が添えられた品。
魚の身の部分をもっとレアに仕上げる方法とかもあっただろうけれど、それだとソースが生きないだろう。若摘みの葡萄の酸を活かした、コク、旨味と酸が乗ったソースが、ふっくら焼かれた(皮目パリパリ)の金目鯛に上手く乗って、そこにプロヴァンスのロゼが絡んで、美味しい。
◇肉料理 京鴨胸肉のロースト、ビーツの香るソース
vin: BOURGOGNE, Dominique Laurent, Cote de Nuits-Villages, Pinot Noir, 2020(rouge)
外側はかっちり焼き固められ、中はロゼ色。ナイフで切れば柔らかく割ける。レアな仕上がり。鴨の血を感じながら、野生の鴨と違って居住まいの正しさというか、気品がある。重心軽めのソースが、鴨肉の旨さを倍加する。
ここにブルゴーニュのピノノワールを流し込めば、何をか言わん。肉厚で果実味もあって、華やかなピノノワール。
◇デセール イチゴとブランマンジェ、ハチミツのアイス
シェフの作るデセールは、きらびやかではないけれど、トラディショナルなデセールの延長にありつつ、ほどよく洗練されている感じが、銀座のフレンチらしい、と思うのは私だけだろうか。
ここで妙に洗練されたものが出てきてしまうと、それまでの印象が消えてしまうというか、軟着陸してくれないので、このバランス感は有難い。
2025/03/18 更新
2024/07 訪問
Mon restaurant préféré
東京のお気に入り(偏愛)のお店の挨拶まわり。どれも甲乙付け難い店なれど、前回の訪問から1年近くが経とうとしていたこともあり、まずはここから、と、キュイソン(加熱)の技術が方々から絶賛されている高良シェフのお店。
ここは、まずもって1皿ごとの料理の構成がシンプルで、素材(肉)の火入れの絶妙な加減にとにかく毎度毎度、シビレる。以前は肉料理がとにかくすごくて、魚は料理としては傑出していても、肉ほどではないかな、と思ったが、今回行ってみたら鮎のソテー、鮑のフリット、イサキのポワレ、全部凄かった。鴨も、ジューシーな肉汁が断面からこぼれそうなくらい潤っていて、前から凄かったけど、ここまで凄かったっけと思ってしまった。言わずもがな、ソースも手間暇かかっているし、どれも一滴もムダにしたくないくらいに美味しい。
そして、これがこのお店から離れられない一番の理由だけれど、ワインのセレクト。シェフご自身も「ペアリングはお店として料理に合わせてお勧めするもの」という考えのもと、深く関与して決めておられる。このお店のペアリングで失望したことは一度もなく、今回も驚きもあり、王道もあり、の絶妙なバランスで楽しませていただいた。今回、4回目だけれど、ここのソムリエールはシャルドネの使い方に拘りがあるというか、実際、上手く合わせている印象。あと、多分、ブルゴーニュがお好きだと思う。
このご時世でコース20,000円(税抜)、ペアリング9,000円(税抜)、サービス料10%のお値段据え置きという破格さも頭が下がる。一人で来ても、大切な人を連れて来ても、このお店は柔らかく受け止めてくれる。静かに食事を楽しんでいても孤独感が全く無い。その居心地のよさまで含めて、「ああ、このお店は、最後まで通い続けるお店の1つだな」と。今年、春先まで色々フレンチに行った後でもなお、この店は自分にとってスペシャルと確認。こういうフレンチが好きなんだよ私は、の最右翼として、偏愛補正付きで最高点を献上しようという覚悟も決まった。
また来るんだけど、次はどうだろう、年明け、2月ごろだろうかね。
以下、冗長な感想。
◇アミューズ①:岩手県の放牧牛の牛乳で作ったチーズ、胡椒、ハーブ、オリーブオイルで作った前菜
◇アミューズ②:トウモロコシの冷たいスープ
ワイン:Champagne, Collet brut, NV
アミューズ①は、この時期の、よく青草を食べた牛の乳で作ったチーズでないとダメなんだそうで、シャンパーニュを合わせることで胡椒やハーブの香りが解き放たれるような味わいに。
トウモロコシの冷製スープはシャンパーニュによってクリーミィさが際立つ味わいに。
味わってみて、そうだ、私はこのお店を愛していたんだったと思い出す感じ。
◇前菜①:ジュレを纏った甲州地鶏 鶏ムネ肉とモモ肉
ワイン:Loire, Joseph Mellot Destinea, Sauvignon Blanc, 2022(blanc)
鶏肉と根菜を使い、ゼラチンで固めた冷前菜。マヨネーズソース。蒸した?鶏の色合いが何とも言えないエロスを醸す。
なんでソーヴィニヨンブランなんだろう、とちょっと思ったのだが、ロワールの冷涼感と料理の冷たさ、そして、内に入っている根菜の味わいに、ソーヴィニヨンブランの草のニュアンスを合わせたのだなと理解。
◇前菜②:鮎のソテと花びら茸のリゾット
ワイン:Corse, Domaine Bvzzo Bunifazziu Roca Gianca, 2020(rose)
前菜でソース替わりにリゾットをお使いになるのは高良シェフが頻繁にお使いになる手法。今回は鮎の頭と骨で取ったダシを使って作った、鮎の肝、花びら茸のリゾットと、鮎の身のソテーが乗る。
コルシカのロゼで迎え撃つ。これ、肝のリゾットと合わせることで、ふわっとロゼワインの軽く赤い香りを感じる。
◇前菜③:ケシの実を纏った鮑のフリット ハーブソース
ワイン:Domaine Bersan St-Bris Fye Gris Bougogne, 2021(blanc)
ワインとの組み合わせという意味で最も驚きがあったのが、このペア。鮑を4時間蒸し、柔らかすぎず、ちょっと噛む感じを残した状態で、フリットにする。エスカルゴバターと同じ組み立てのハーブのソースが布かれる。料理自体がまず、とんでもなくおいしい。
これに合わせるのは、シャブリ地区で作られているSaugignon Blancの原種で作った白ワイン。まずシャルドネでもアリゴテでもないブルゴーニュというレア物。貝の土壌キンメリジャンで知られるシャブリ地区のワインを貝料理・ハーブを利かせたバターソースに合わせるという、聞けば納得、必然、運命を感じるペア。
◇魚料理:イサキのポワレ、軽やかなウニのソース
ワイン:Bourgogne, Domaine du Chalet Puilly, 2021, Puilly-Fuisse 1er Cru(blanc)
生臭くないウニのソース。その中に泳ぐイサキのポワレ。皮目の焼きの巧さ、白身魚の美味しさ。そこへ絡みついて来る質の高い樽の利いたふくよかなシャルドネ。
◇肉料理:京鴨胸肉のロースト、カルヴァドスの芳香
ワイン:Bourgogne, Robert Sirugue, Bourgogne Rouge, 2017(rouge)
この鴨、凄い。
身から一滴たりと肉汁がこぼしていないかのようなパンパンの身。ナイフを入れると解けるように切れていく。軟らかでありながら、噛むほどにほとばしる肉汁。ソースとまじりあうことでさらに旨味を増す。夏の鴨も美味いのだな。〈ラフィナージュ〉には、高良シェフの絶技の粋といっていい肉料理を食べに来るところがあるけれど、今回は今まで以上に凄みを感じる出来だった。
そして、SirugueのACブルゴーニュ。Vosne Romanee村に本拠を置くドメーヌだけあって、どことなくVosne Romanee的。合わないはずがあろうわけもなく。しかし、作り手がめちゃくちゃいいことはおいても、ここでACブルゴーニュで満足できるペアを演出してくれるのが、ここのソムリエールの巧いところだよな…。
◇デセール①:白桃のスープとコンポート、ハチミツのアイス
◇デセール②:パッションフルーツのスフレとココナッツのソルベ
クラシカルなものとはちょっと違うニュアンスのものだけど、味わってみるとクラシカルなほっとする味のデセール。
2024/07/29 更新
2023/09 訪問
王道フレンチと徹底的に磨きこまれたペアリング
お気に入りレストランの定例訪問。
ここは高良シェフの変に作りこまず、かといって豪快すぎもしない、ソースに惜しみなく手間をかけたクラシカルな料理と、練り込まれたペアリングコースに信頼。このお店は、ワインを飲むか飲まないかで、評価が大きく分かれる印象。
今回、シェフとゆっくりお話をする機会に恵まれたのだが、結構、シェフ自身もペアリングの組み立てには関わっているようだ。こういうお店は、ペアリングがブレない。
昨年との違いは、さすがにワインの高騰を受けてか、フランスワインで通すことはできず、一部、スペインやイタリアのワインがペアリングコースに入ってきたが、それでも勘所はブルゴーニュ、ボルドーで〆る。9,000円のペアリングで5杯。相当、ご苦労されていると思う。私は料理とぴたりと合っていればいいので、この辺りは今の世知辛い時勢を受けて生き残りをかけた工夫、知恵というところじゃないだろうか。
お勘定は、冒頭にシャンパーニュをグラスでいただき、料理+ペアリングでサービス料10%、税込35,000円弱。大満足。今回も大変楽しませていただいた。次は来年になりそうだが、また伺います。
◆アミューズ①:鶏レバーのパテ
◆アミューズ②:トマトのガスパチョ
◆前菜①:ズワイ蟹のエフィロッシェとパプリカのムース、トマトの雫
ワイン:Iria Otero Mazoy Mica Godello 2021 Espagnole
どこに照準を合わせるか迷う料理だが、うすしお的な個性に乏しい白ワインが、料理たちに足りないものを上手くなぞっていく感じで、流石なのです。
◆前菜②:ドンブ産ウズラとサマーセップ茸のマルミット
ワイン:Via Caritatis Ventoux Lux Foederis 2018 Cote du Rhone
本日の驚き①。食べるまでは「ウズラにローヌの赤かぁ…」と正直思っていたのだが、下に布かれたコンソメと全く同質の味わいを持っている。このコンソメが、絶妙に料理とワインを繋ぐ。
◆前菜③:子持ち鮎のポワレとリゾット
ワイン:Cantine Farro Depie Rose 2021 Campi Flegrei Italie
本日の驚き②。このロゼのチャーミングな香りが膨らみ、得も言われぬ。肝を使ったリゾットを、皮パリパリに仕上げた鮎のソース替わりに使う。鮎の身と身の間に細かく切ったキュウリで作った添え物が忍んでいる。
◆魚料理:鮃と松茸の香るブレゼ
ワイン:Domaine du Chalet Puilly 2020 Puilly-Fuisse 1er Cru
松茸の香りがアクセントになった、クリームのソースと白身魚(鮃)の優しい一皿。松茸もキノコととらえれば、樽の利いたシャルドネでもキッチリ討ち取れるということだな。
ここのソムリエはシャルドネに拘りがあるイメージだけど、ワインのクオリティは見事、料理との合わせ方も定番と言えば定番だが、盤石の安定感。
◆肉料理:ジビーフ フィレ肉のロースト、秋トリュフソース
ワイン:Confidences de Prieure-Lichine 2012 Margaux Bordeaux
この手の焼き目をつけた牛肉のローストには、やはりボルドーが輝く。そして、正しいトリュフの使い方。この堂に入った使い方は流石、王道・クラシックなフレンチのド真ん中を歩いて来た高良シェフならではという気がする。
2023/09/28 更新
2022/12 訪問
命の雫を味わう
2022年を締めるに当たり、もう一つ行っておかねば、な店がここ〈ラフィナージュ〉。
もとは〈東京最高のレストラン〉で知り、4月にランチでお邪魔したときに何とも私好みのクラシカルなフレンチと、シェフの料理と徹底的に打ち合わせをしたうえで組み合わせられるワインのペアリングが素晴らしく、年内に一度、ディナーで行かねばと思っていたお店。
お値段控えめなランチに対して、ディナーコースは20,000円税込と、ちゃんとした値段(それでも銀座のフレンチだと思えば値打ちだと思うが)。それゆえ食材も、ランチでいただいた時より全般に食材のグレードが高かったように思う。アワビ、クエ、蝦夷鹿、リ・ド・ヴォーetc。
絢爛路線に走らず、徹底して食材に向き合い、丁寧にソースも仕立てて、ワインを飲む人にはペアリングも用意してそのワインの味わいに添うように仕立てられる。
また、食材への火の通し方は、数あるフレンチのシェフの中でも極みに達している人の一人ではないか。この日、出された鹿などは、噛めば命を頂いていることの有難みを感じるような、柔らかさとよい意味で「血」を感じる肉汁がほとばしる。
ペアリングも凄い。高級路線で目くらましをさせることなく、しっかり楽しませてくれる。アワビのポワレでアワビの肝を使ったソースに、ブルゴーニュ・ルージュをしっかり合わせたのがこの日の驚きであり最優秀ペアリング。この店は、シェフの王道を行くスタイルの料理にきっちりワインのテンションを合わせてくれるのが、ワイン廃人としては嬉しい。これはシェフとソムリエに信頼関係が無いとできず、簡単なようで意外に的を外すレストランが少なくないのだ。
今年のフレンチの締め括りに、〈ラフィナージュ〉を訪れてよかった。なんてことを最後にシェフに言ったら、「それを初めに聞いていたらプレッシャーで手許が狂ったかもしれません」なんて笑ってたけど。
仕上がりはコース+ペアリング+シャンパーニュ+水でサービス料込36,000円弱。これからも、年に一度以上は来たい。
以下、いつもの不必要に長いコメント。
◆アミューズ 2品…①京鴨のパテ・ド・カンパーニュ、②オムレツの上に雲丹とムース(ムースの素材はなんだか忘れた)
ワイン…Bollinger, Special Cuvee, Brut
一杯目のシャンパーニュは、ペアリング外。だけど、ボランジェを飲むことを前提にしたかのようなアミューズ。しかも美味しい。この段階で、「今年の〆フレンチをここにしてよかった」と確信。
◆前菜①…ズワイ蟹のエフィロッシェとアヴォカド、キャビアのハーモニー
ワイン…Blanc Sec de Suduiraut 2019(ボルドー・ソーテルヌ辛口。セミヨン主体)
蟹の繊細な味わいとアヴォカドの優しい味わい、そしてキャビアが絶妙に絡み合う絶品。料理そのものの完成度も高いが、味わいが繊細なうえ、ワインの天敵といって差し支えないキャビアが乗る、ワインにとっては難しい品。
だがここに、単独ではややもったりとした味わいと香りで野暮った印象になりがちなセミヨン主体の白で合わせる。キャビアの魚卵臭を上手く取り込み、手を繋いでくれる。
◆前菜②…リ・ド・ヴォ―のムニエルと黒トリュフのクーリ
ワイン…Triennes Rose 2020(プロヴァンス・ロゼ)
ワインは、ドメーヌ・デュジャックとDRCのオペール・ド・ヴィレーヌがプロヴァンスで作るロゼワイン。さすが一流どころの生産者のロゼ。リ・ド・ヴォ―もテンションが中性的で、肉だから赤と安易に合わせるとワインの強さに飲み込まれてしまうので、ロゼ、という選択肢は完璧だったんじゃないだろうか。しかもムニエルだから脂はたっぷり乗っているので、タニックなニュアンスも欲しいし。
ところで料理は完璧。カリカリに焼いた外側と、なめらかな内側。トリュフとゴボウの土の香りの饗宴。
◆前菜③…蝦夷鮑のポワレと肝ソース
ワイン…Bourgogne Pinot Noir, 2019, Mongeard-Mugneret(ブルゴーニュ、ピノノワール)
鮑の肝でリゾットを作って下に敷き、鮑のポワレを乗せる。料理単体でも、何を言わなきゃいけないんだってくらい美味しい。軟らかく、弾力もある。絶妙なバランスの仕上げ。
で、ワインはブルゴーニュの赤。鮑の肝には赤だなと思うけれど、そこにブルゴーニュの赤を合わせに行けるのは、プロだと思う。素人の私は躊躇する。そしてこの「解」が、この料理のテンションに見事にマッチしている。
◆魚料理…クエのブレゼ、レモンの香るソース
ワイン…Montagny, 2020, Joseph Drouhin(ブルゴーニュ、シャルドネ)
どうしてもフレンチの白身魚というと舌平目のイメージがあるけれど、こうして食べてみるとクエも立派にフレンチに馴染む食材だなと思う。繊細な白身魚の味わいを引き出すのは、若いシャルドネ。鉄板。
◆肉料理…蝦夷鹿のロースト、ポワヴラードソース
ワイン…Gigondas, 2017, Saint Gayan(ローヌ)
シェフの真骨頂、肉料理。血の一滴も無駄にしないような、まるで命の雫のような肉汁に満ちた仕上がり。それと古典の傑作、ポワヴラードソースが完璧で、ゴエミヨとかでも高く評価されるシェフの技術の粋を体現するような逸品。
それに対して「文句ありますか」とばかりに堂々君臨するローヌの快作、ジゴンタス。料理の血の滴るニュアンスと、グルナッシュの相性がよく、加えて胡椒のスパイシーなニュアンスがあるこのワインはソースとも噛み合うので完璧。このペアを体験して文句なんてありようはずもございません。
◆デセール
りんご、イチゴを使った季節感と瑞々しさのある品。フレッシュな〆。
あまり甘味に興味の無い人間だからか、パリブレストやモンブランみたいなド古典のデセールが好みなのだが、こういう季節の果実を取り入れたデセールもいいなと思う。
ボランジェ
アミューズ①。京鴨のパテ・ド・カンパーニュ
クリスマス仕様
アミューズ②。オムレツ、雲丹、ムース状にしているのはなんだっけ。
パン・ド・カンパーニュとバゲット。バゲットが奇跡的に美味しい。
ズワイ蟹のエフィロッシェとアヴォカド、キャビアのハーモニー
リ・ド・ヴォーのムニエルと黒トリュフのクーリ。上に乗っているのはゴボウ。
内装もクリスマス仕様
蝦夷鮑のポワレと肝のソース(リゾット仕立て)
クエのブレゼ、レモンの香るソース
蝦夷鹿ロースのロースト、ポワヴラードソース
デセール①・りんごのタルトフィンとヴァニラアイス
イチゴのスープとソルベ
食後のコーヒー
プティフール
2022/12/19 更新
2022/04 訪問
王道の素晴らしさ
元々は〈東京最高のレストラン〉に掲載されているのを見て知ったのだが、1人の予約を受けてくれるという気軽さに訪れることにした。予約した後に、ミシュランで星を取っていたり、Dancyuでも絶賛されてたり、シェフは元々レカンでシェフをやっていたり、なんてことを後付けで知って(気付いて)、「思った以上に凄い店」だった。
地図の指し示すとおり行ってみると、入り口がわからない。目を凝らしてみてみると、KENZO ESTATEの「KE」の看板の横にこの店の看板がある。こういう店構えは、本当に食が好きな人を相手にしたいんだって感じがする。
予約したのはランチコース。サービス料込の8,800円に、ペアリング5,500円・チェイサーの水で、お勘定は15,000円ちょっと。銀座のフレンチでこのお値段なら十分ではないだろうか。
ペアリングにはシャンパーニュは無く、前菜から始まる4品に1杯ずつ。ワインはフランスの各地から、ツボを押さえたセレクション。最後に肉料理とブルゴーニュの村名アペラシオンってのも、個人的な好みに合致していてよかった。
ランチコースの分量自体は、大食いの人には少なく感じられるかもしれないが、ポーションが異常に少ないよくあるフレンチとは違い、それぞれちゃんとした分量がある。多くの人は満足できる量ではないだろうかと思う。
シェフも豪快なおっちゃんの雰囲気と、プロフェッショナルで繊細な感性を覗かせるバランスが絶妙な人柄。サービス面ではもう少しこなれるとなおよいと思ったが、基本は抑えられている。
付き合いのある生産者から旬の選り抜きの食材が「請求書付きで送り付けられてくるんです」というのは流石にシェフの冗談だろうが、日本の季節の移ろいを、食材と真摯に向き合って皿に表現しようとする姿勢は大変好ましく思ったし、こういう、真正面からフレンチに向き合った店というか、クラシカルなフレンチと伝統的なフランスワインを組み合わせて味わうのが、私はやはり好きなんだなと再確認。ランチの価格の手ごろさといい、季節ごとに来ても、なんて思うくらい気に入った。
以下、料理とペアリングの感想。
・アミューズ:白身魚のミニコロッケ、菜の花のアイスと生ハム
期待感が高まるアミューズ。特に2品目の〈菜の花のアイス〉は、緑茶アイスに似た感触はあるものの、菜の花でアイスを作るという発想が面白い。
・前菜①:仔ウサギモモ肉のジブロットのジュレ仕立てと新タマネギのクーリ
ワイン:Albert Boxeer/EDELZWICKER
リースリングのワインで煮込んだ仔ウサギのジュレをつかったテリーヌのような前菜。ソースは新タマネギ。
料理のルーツがアルザスの郷土料理なのでアルザスのワイン。しかし、複数品種を混ぜる、マルセル・ダイス以降広まったスタイルのワインを使うことでヒネリも利いてよい。ここにリースリングのワインじゃあ、当然合うんだろうけど、つまらないものね。
ワインがあることで料理の陰影がより引き立つという点で、よくできた組み合わせだと思う。
・前菜②:ホワイトアスパラガスのムースとクルヴェット、ボンタン
ワイン:Lucien Crochet/"Les Calcaires" Sancere, Sauvignion Blanc, 2018
料理のストラクチャーとワインの組み合わせという意味ではかなり精緻に計算されたペアリングだった。ワインの持つハーブ感、柑橘感と料理の備えている要素が呼応する。ワインを合わせることで料理の持つ滑らかでクリーミーなニュアンスが鮮やかに立ってくれる。ワインと料理の酸のトーンも同調しているので、相性の良さがより引き立つ。恐らく料理が先にあってワインを合わせにいったのだろうが、よく選んだものだと思う。
・魚料理:真鯛のポワレ、ヴェルデュレットソース
ワイン:Laballe/Chardonnay(Cotes de Gascogne), 2019
料理そのもののクオリティが高い。皮のパリ感と身のふっくら感、これぞポワレ。ワインの産地もマイナーながら、よく合っている。前後の組み合わせがほぼ完ぺきだったので若干見劣りがあるという贅沢な話だが、後で聞けば、この組み合わせはだいぶ苦労したそうだ。確かにフランスのシャルドネですんなり合ってくれるものは少ないかも。
・肉料理:京鴨ムネ肉のロースト、マデラソース
ワイン:Dominique Laurent/ Chorey-Les-Beaune Vieilles Vignes, 2017
メニューに掲載されていたペアリングのワインとは異なるものだが、仕入れがあったので急遽変えたそう。ワインはブルゴーニュらしいエレガンスに、コート・ド・ボーヌの村名アペラシオンならではの身の厚い果実感を伴ったもので、単体としても出来がよいし、マデラソースの低い重心ともテンションが合う。また、シェフの説明を考えるに、鴨に秋・冬の季節のジビエ鴨のような強さが無さそうなので、ローヌなどを合わせてしまうとワインが勝ち過ぎるだろう。この料理に対するかなり完璧に近い回答だろうと思う。
料理単体のクオリティという意味では、この料理が最もクオリティが高かった気がする。私が鴨好きなのはあるにせよ。他の肉料理も食べてみたいと率直に思う出来だった。
・デセール:バナナのスフレとヴァニラアイス
個人的には、デセールってこういうのでいいんだよ、って感じ。トラディショナルというか、クラシックというか。しっかり甘くて、武骨なのに品がある。
2022/04/13 更新
私がフランス料理のレストランに行くも最も大きな理由は、自分では及びもつかない手の込んだ料理と、卓越したワインのマリアージュを楽しむこと。
どちらかが欠けてしまうと、フレンチでなくてもいいよね、とか、自分の家でストックしているワインを空けたほうがいいよね、となってしまう。
そして好みがコンサバティブだから、品数が少なくともポーションは大き目なもの、何を食べたかはっきりと記憶に残るものがいいし、食材+ソース(+ガルニチュール)の古典的構成から成り立つ皿の、地に根を張った生命力のある魅力に心惹かれる。
その意味で、全幅の信頼を置いている高良シェフの作り出す料理と、その料理と組み合わせられる精度の高いワインの組み合わせを見せてくれる〈ラフィナージュ〉は、最もエッセンシャルな部分で常に私の期待に応えてくれる。特に、肉料理(だけじゃないけど)の火入れの精妙さは、追随を許さない。
この日の料理は、初めて出逢ったこちらのお店のスペシャリテ、”トラフグのマリネ”あり、フォアグラあり、古典料理代表の鹿のポワヴラードあり、高良シェフの料理の精髄を存分にいただける構成。
ワインのペアリングも、訪れ始めた頃はオーソドックスな組み合わせが目立ったけれど、今回は、白子のムニエルにブルゴーニュの赤(ニュイ・サン・ジョルジュ村名)を合わせるなど驚きのあるペアも織り交ぜながら、最後は鹿のポワヴラードにローヌを合わせるという伝統的な組み合わせもキッチリ使う。料理の展開を盛り立てるワイン選びについても一段と洗練された印象。
元々完成度の高かったお店が一段と熟成してしまったような感があるのだが、気に入ったお店に通う楽しみって、ここにあるよね、と。
来年も、仙台から通おう。
<いただいたもの>
◇アミューズ①:チーズ、胡椒、オリーブオイル
◇アミューズ②:マッシュルームのポタージュ
vin: Collet a Ay Brut, Brut
シャンパーニュはペアリングコースに含まれず、いつもどおりグラスで発注。
アミューズ2品。最近、北海道のチーズを粗く砕いて、オリーブオイルを絡め、胡椒とエシャロット? シャキシャキ感と鮮やかな辛みのあるタマネギ的な野菜のみじん切りを和えたような料理を1品めにお持ちいただく。食感と、チーズの酸味がおいしい料理。
マッシュルームのポタージュもオーセンティックというか、だいぶスタンダードな味わいで、これで胃を温める感じかな。
◇前菜①:トラフグのマリネ、ロックフォール風味
vin: Domaine Jean Thomas et Fils Sancerre Ultimus 2022, Loire
〈ラフィナージュ〉は好きで通ってきたけれど、スペシャリテだという〈トラフグのマリネ、ロックフォール風味〉と出逢ったことがなかった。ようやく出逢えましたね、と。
分厚くダイスカットされたトラフグは、何日間も熟成させ、フグと思えない食感。かむと身がほどけ、歯が身に「入って」いく。旨みがあふれ出す。ほんのりと香るロックフォールの刺激的な香りと味わいがそこに絡む。なるほど、これはスペシャリテを謳うに相応しい、感動的で、ヨソで出逢ったことのないフグ料理。
シェフいわく、修行時代、分厚く切ってしまったフグを食べた時に感じたフグの旨味が、てっさなどで頂くと、ポン酢の味わいが前面に出てきてしまい感じられない、という体験をもとに、フグの旨味を真正面から味わう方法を探究した結果なんだそう。
お伴をするのは、酸の高くきれいさ、純粋さも感じるロワールの白ワイン。スペシャリテに合わせるワインは流石に堂に入っている。やっぱり〈ラフィナージュ〉、好きだわ、と改めてハマるペア。
◇前菜②:白子のムニエルと白菜のブレゼ、焦がしバターのソース
vin: Laboure-Roi Nuits-St-Georges 2020, Bourgogne
白子のムニエルをベースに、トマトも使いながらちょっと南仏のニュアンスをまとった焦がしバターのソースでいただく皿。下に白菜が布かれている。
料理自体もとっても美味しい。のだが、敢えてここにブルゴーニュの赤ワインを持って来たところに、技あり、と思う。白子のムニエルに合わせるなら、ふつうは白ワインと考える。そこにブルゴーニュの赤を持って来る意外性と、それがまたピタリと合うという二重の意外性。ワインの流れで見ても、ここに赤ワインが入ることで起伏ができて、楽しい。
◇前菜③:フォアグラのポワレ、若摘みブドウ果汁のヴェルジュソース
vin: Chateau Virant Rose Syrah 2024, Provence
フォアグラの表面を(多分)小麦で固めてポワレして、カリッとした食感をまとわせつつ、若摘みブドウの酸味が楽しいソースを土台にした皿。
こういうザ・フレンチ、な素材を使うと、高良シェフの達人ぶりがよくわかる。わかりやすい高級食材だけど、フォアグラを真正面から皿の中で主役として使われることが意外にない。そこで堂々と、ポワレで勝負できてしまうのが、シェフの凄さなのだろうと思う。
そこにロゼ、というのがまた気が利いている。フォアグラの脂を受け止めるには、ちょっとタンニンがあったほうがいいけれど、ヴェルジュソースの酸味を受け止める意味ではあまりタニックすぎると浮いてしまう。絶妙なバランスのところを狙ったと思う。
◇魚料理:平目のブレゼのヴィエノワーズ、白ワインソース
vin: Domaine du Chalet Puilly 2023 Puilly-Fuisse, Bourgogne
こんなにブルゴーニュのシャルドネがにこやかに仲良くしてくれる白身魚料理って滅多にないよね、というくらい堂々たる料理。蒸しあげられた平目は感動的にやわらかく、味わいは優しく、身の上の部分を覆う焼かれたチーズのカリカリ感、香ばしさが香りのアクセント。チーズがシャルドネの樽の香りに、そして平目の優しさ、白ワインソースの酸が、ブルゴーニュのシャルドネのもつ要素と歩調を合わせている。
◇肉料理:蝦夷鹿のロティ ポワヴラードソース
vin: Anthony Paret 420 Nuits St-Joseph 2020, Cotes du Rhone
ポワヴラードソースで鹿をいただいたのは、こちらでは2回目。
精妙な火入れの鹿肉と、クラシカルな定番ソースで深みもあり、重心も低く、唸るしかない出来なのだが、どこかのびのびと作られた大らかさを感じる。高良シェフより鹿のポワヴラードを美味しく作れる人が日本に居るだろうかと思ってしまう。
これにローヌの赤ワイン、という組み合わせは、ベタ(王道)だけど、これがマリアージュだよね、と幸せも感じる。
◇デセール①:ほうじ茶のブランマンジェと塩アイス
◇デセール②:マロンのスフレとヴァニラアイス
いつも通りのオーソドックスでほっとするデセール。スフレとジェラートを合わせるのはこちらの定番。