3回
2025/03 訪問
じんわり、滲みるようにわからせられる
今回の秋田ツアーのメイン。秋田から大曲へ逆戻りしての訪問。
前回訪れた時に、料理のクオリティの高さ(秋田の食材をふんだんに使い、秋田をじんわり味わえる仕立てを含む)とワインセレクションの見事さ、主にフロアで接客に当るマダムが醸す何とも言えない柔らかく温かい雰囲気が気に入り、次は夜に訪れよう、と心に誓い、半年近く経っての再訪。
ランチの時よりも品数は当然に多く、それぞれに手の込んだ料理。海産物、肉は秋田の素材を使い(中にはツキノワグマのミンチ肉なんてものも)、野菜は自家栽培や当地の契約農家から仕入れたものを使う、「地産地消」スタイル。
インパクトで攻めるのではなく、食べてみて、かみしめて、じんわりおいしさを感じる。食べているうちに身体に沁みておいしさをわからせられる料理。〈フィオッキ〉で修行なさったみたいだけど、あのシェフからこういう料理が出て来るんだ…とちょっと思う。(あちらのスペシャリテ、羊の藁焼きは、希望を出せば作ってくれるみたい…)
料理を盛り立てるペアリングも磨きがかかる。今回はイタリアワインだけでなく、見事なとしか言いようのないポイントで秋田県の日本酒が配されていた。このピンポイントな使い方が冴えている。
お世辞抜きで、今のところ東北地方で最も好きなレストランであることを確認。聞けば山菜の充実した5月、キノコの充実した10月が自慢の季節だということらしいから、とりあえずは、何が何でも10月訪れなきゃ。
<いただいたもの>
◇アミューズ:蟹のカクテル(キャビアのせ)ほか
◇冷前菜:秋田のあんこう、八朔のチップ、菜の花のピュレ、あんきものクリーム
お酒:DE STEFANI, VENIS, 2022, Sauvignon Blanc(白ワイン)
→ソーヴィニヨンブランの草の香り、柑橘のニュアンスで合わせたものと思われる。狙い通り。あんこうは、冷たいけれど刺し身というわけでもなく。ただ、身の詰まり方、弾力の強さ、そして味は格別。
◇温前菜①:ふきのとうといわしのポルペッティ、とうやとノヴェッロのソース
お酒:飛良泉 燕鳥 山廃(日本酒)
→ふきのとうといわしのポルペッティは、日本酒で。ヘンに白ワインを持って来るといわしの臭みが立ってしまうだろうし、気が利いているのは事実だが、実は素直なチョイスかも。
◇温前菜②:ツキノワグマ、原木しいたけ、リコッタチーズ
お酒:新政 涅槃亀10周年記念酒(日本酒)
→しいたけのエキス、ダシに似た旨さと熊肉を日本酒で受け留める気の利いたアプローチ。しいたけのダシ感にまともに合わせようとすると、ブルゴーニュなどのワインを引っ張って来ないと難しいので、このお店のコンセプト的には秋田のお酒で受ける判断、大正解と思う。また、熊肉としいたけが味の濃さで真っ向勝負しているところにリコッタチーズも旨味を添えるので、料理そのものは噛むと肉汁としいたけのエキスとチーズが渾然とまざって弾ける旨味爆弾みたいな感じ。
◇リゾット:カメノオ玄米、ホタルイカ、フキノトウのリゾット、イチゴの泡を添えて
お酒:CORVA GIALLA, CEREZA 2019 (赤ワイン)
→ワインにあるイチゴのようなニュアンスを、リゾットに添えたイチゴの泡に合わせたアプローチ。毎度このリゾットの旨味をたっぷりたくわえる感じに感動する。
◇パスタ:ひろっこ うさぎ ピーチ カステルマーニョ
お酒:①T's Farm, YOKOTE AKITA, Syrah 2021(赤ワイン)、②Colle san Massimo meno Rosso, Vino Rosato, 2021(ロゼ)
→ロゼが1杯分しか無かったからか、ほんとはこっちを合わせたいんです、とこっそり持って来てくれた。
でもこの、日本のシラーというチョイスが、ジビエうさぎの味わいにテンションぴったり。というかこの、細かく刻んだうさぎの肉とひろっこ(野蒜)、チーズをまとって滋味たっぷりの手打ちパスタ・ピーチがとんでもなくおいしい。この日のNo.1。
◇魚料理:石鯛の焼き物(ポワレみたいな感じ) ふくたち 白菜
お酒:Di Lenardo, Father's Eyes, Chardonnay(白ワイン)
◇口直し:紅玉とトマトのグラニテ
◇肉料理:かづの牛(短角種)のレアロースト 赤ワインソース
お酒:DE STEFANI, SOLE, 2020(赤ワイン)
→赤身肉で柔らかく焼き上げられている。噛んでも噛んでも旨味が出て来る。料理に対するワインのアプローチは素直、だけど、感動的においしい。
◇デザート、コーヒー、プチフール
あんこう、菜の花のピュレ、はっさくのチップ、あんきもクリーム
ふきのとうといわしのポルペッティ
しいたけ、熊肉のミンチ、リコッタチーズ
カメノオの玄米、ホタルイカ、フキノトウのリゾット、イチゴの泡を添えて
ひろっこ、うさぎを使ったピーチ(生パスタ)、カステルマーニョ
石鯛
紅玉リンゴとトマトのグラニテ
かづの牛
2025/03/31 更新
2024/09 訪問
幸福に満ちたレストラン
初秋の秋田旅行3日め、最後に訪れることを選んだのは大曲の〈ジュエーメ〉さん。
少し前めに予約を取ったのだが、訪れる一週間くらい前にお電話をいただき、事前に教えておいていただくことが有難いとある事情を丁寧に教えていただいた(ここに書ける内容ではないけど)。
その時点で何とも丁寧というか、ゲストをもてなそうという意思に満ちたお店なのだなと好感を持って訪れたのだが、予約の15分前に着いてみれば早々に中へ入れて頂けるし、真っ白い内装の感じも、何だかイタリアの農村部に来たような錯覚に陥る感じでステキ。
飲み物は、食前酒として強く勧められたビール、その後はワイン・ペアリング。
<いただいたもの>
①アンティパスト1 盛り合わせ(核となるのは①鱧のフリット、②穴子の「まきまき」、③荘内鴨の燻製、④秋田の鱸のカルパッチョ、⑤秋刀魚のミンチで作ったカクテル、の5品だが、周りを囲む自家菜園中心の野菜たちがまことに賑やか)
②アンティパスト2 鰆のコトレット
③プリモピアット1 リゾット(多分、鮎)
④プリモピアット2 ラムと野菜のラグー ペンネ
⑤セコンドピアット 十文字のブランド豚のロースト
⑥デザート、茶菓子、コーヒー
飲み物…①ビールROCOCOTOKYO, ②LVNAE, CAVAGINO, VERMENTINO, 2021, ③CA'BRIONE, ALPI RETICHE, 2021, ④UMANI RONCHI, CENTOVIE, COLLI APRUTINI, ROSATO, 2022, ⑤L'ATTO, 2022
この日出て来た中でいえば①は北海道水揚げの秋刀魚、荘内鴨、岩手県水揚げの穴子があったほかは、聞く限り秋田の素材ばっかり。リゾットに混ざっていた鮎とかチーズ類は違うか。でも、野菜はほとんど秋田県産。自家菜園で取っている野菜もあれば、懇意にしている農家さんから仕入れているものも。
料理は徹頭徹尾、説得力の塊。わかりやすさを備えながら、素材の良さをあまりゴテゴテ作りこまずに引き出し、しみじみおいしくいただけるような優しい仕立ての皿が並ぶ。東京で一番好きだった〈mondo〉(閉店しちゃった…涙)を彷彿。私、こういう路線のイタリアンが好きなんだな。
全編一分の隙もなく、賑やかな前菜からして完璧だったが、その中でも圧巻は、2品めのプリモピアットとして出された、仔羊と野菜のラグーソース・ペンネ。野菜の旨味とラムの旨味が渾然とダシに融け合って、ペンネに浸みこみ、これでもかと素材の滋味を味わえる感じ。合わせて出されたロゼワインがすばらしい相性で、料理の旨味を下からグッと押し上げるような味わい。
ワインとの相性という意味では、ブランド豚をローストにして、細い大根(これまた味が濃縮されたような感じで美味しい)を添えたセコンドピアット(メイン料理)と赤ワインL'ATTOも秀逸。
イタリアワインに特化した構成で、シェフの繰り出す完成度の高い料理に適切な一杯を選び出してくるソムリエール(シェフの奥様?)のセンスは素晴らしい。奥様?のキャラクターがとにかく柔らかくて素敵だし、ホスピタリティの塊。シェフの料理にこの接客、素敵な内装、窓の外は田園風景。おまけにお勘定まで、この内容で15,000円でお釣りが来るなんて。完璧。いただいている間も、そして食べ終えた後の余韻も、ずっと幸せ。相性は当然にあるにせよ、中々ないよ、こんなレストラン。
ということで、まだまだ秋田は行ってみたいお店が沢山ある中で、ここは早くも「通いたい」店に。東京からでもわざわざ時間をかけてでも来る価値が十二分にあると思う。次は何とか、夜に訪れる方法を模索したい。
2024/09/21 更新
熊は怖いが、こうなるなんて思いもせずに予約を取ったお店その2。秋田旅2日めのデスティネーション、〈ジュエーメ〉。
大曲からタクシーで訪店。大曲駅はタクシーが多数待機しているのがいいですね。
この時期にわざわざ来たのは、前回こちらを訪れた時、おすすめの季節として「キノコと山菜の季節がいいです。キノコは10月、山菜は5月ですね」とシェフから教えていただいたので、ほんとは10月に来たかったのだが、諸般の事情で仙台を離れられなかったりで秋田に来る隙が無く、辛うじて11月の頭なら滑り込めるか、と予約を入れたのが2ヶ月前。
ちょっと早めに着いたけれど、中に入れてもらって、待つことしばし。18:30にはお客さんも揃い、満席でのスタート。今回も、お酒はペアリング。
<いただいたもの> 黒抜き数字はお酒(ROCOCOは食前酒でペアリングとは別注)
①アミューズ:里芋と水蛸のクロケット、シャインマスカット、冬瓜、雲丹のサラダ
❶ROCOCO
②前菜:甘エビのタルタル カリフラワーとゴーヤ、かぶ
❷CAMBRUGIANO, VERDICCHIO DI MATELICA RISERVA, BELISARIO, 2021
③前菜:菊のスフォルマート、ハモのフリット、松茸、ハモの骨で取ったダシのソース
❸飛良泉/HITEN HAKUCHO
④前菜:真鱈と舞茸、たらきく、新じゃがのロール白菜 白ワインクリームソース
❹ANSELMI, CAPITEL CROCE, 2022
⑤パスタ:ポルチーニ茸とかわ蟹のタヤリン
❺COLLINE NOVARESI, IL MMIMO, NEBBIOLO, 2022(ロゼ)
⑥リゾット:万願寺とうがらし、八郎潟のうなぎ、亀の尾の発芽玄米を使ったリゾット
❻FATTORIA, MONTEPESCINI, Chianti Colli Penesi, 2023
⑦魚料理:イシナギの焼きもの 無花果 とうもろこしのポレンタ
❼CAREMA CLASSICO, 2021
⑧口直し:セロリと和梨のグラニテ
⑨肉料理:岩手の経産牛のリブロースのロースト、きんたけ、曲がり大根添え しょっつるとにんにくのソース
❽IRPINIA, CAMPI TAURASINI, 2015
⑩デザート:栗のジェラート
⑪お茶菓子:紅玉のストゥルーデル、カントゥッチ、南瓜の焼かないクレムブリュレ+コーヒー
相変わらず、料理がとても美味しいことは前提として、マダムがお酒をビタビタに合わせてくれる。
こちらも秋田の食材を全面的に使いながら、食材自体に一工夫(酒米として使われている亀の尾を発芽玄米にしてみたり)して、ハモを使えば当然のようにその骨でダシを取ってソースに使うなど、手間がかけられている。
秋田の食材、もっと大仰に言えばテロワールを全面に活かした郷土料理イタリアンなのだが、その「手間」によって滋味深くなり、かみ締めるほどに秋田の滋味を味わえる、そんな料理になっている。(この日の牛は岩手だったケド、まあ隣県だし)
そして外の景色とは隔絶したお店の空気感。夜は夜で特別な空間になるし、昼も昼で、外の光が差し込んで、ちょっといい雰囲気。
また、何気に望んでも中々得られないものとして、客すじのよさ。この日もそれぞれのテーブルで、めいめいに食事を楽しんでいる感じ。接客に当っているマダムのお人柄が引き寄せたところは多分にあると思う…。
お勘定も25,000円でお釣りが来る秋田プライス。脱帽。
なんだかんだそれっぽく理屈は言うんだけど、このお店、私の感性に合うんだろうなぁ…。ここは東京に戻ってからも、年に1度でいいから通い続けたいと思っている。