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夜の点数:4.0
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¥1,000~¥1,999 / 1人
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料理・味 4.0
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|サービス 4.0
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|雰囲気 4.0
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|CP 4.0
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|酒・ドリンク 4.0
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[ 料理・味4.0
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| サービス4.0
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| 雰囲気4.0
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| CP4.0
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| 酒・ドリンク4.0 ]
右手にスプーン、左手にししとう
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2025/11/16 更新
その日、僕は堺筋本町のビル街を歩いていた。
昼の熱気とアスファルトの匂いに混ざって、
ふと鼻先をかすめたスパイスの香りが、僕の足を止めた。
「コロンビアエイト」。
看板の小さな文字を確かめるように扉を開けると、
街の喧噪がすっと遠ざかり、空気が香辛料の音で満たされた。
店内はカウンター五席、壁際に五席。
照明は低く、BGMは静かなギターのアルペジオ。
バーのように落ち着いていて、
その中でただ一人、キャップをかぶったマスターが黙々と鍋をかき混ぜていた。
まるで自分の中だけにリズムを持つミュージシャンのように。
「初来店ですか?」
女性店員の明るい声が、その沈黙をやわらかく切り裂いた。
「はい」と答えると、彼女は軽やかに笑い、
「右手にスプーン、左手にししとうですよ」と言った。
僕はカウンターに座り、
キーマカレー(レモネード付き)に、トッピングでゆで卵を追加して注文した。
やがて、皿とレモネードが並んで運ばれてくる。
氷がカランと鳴り、その音がスパイスの香りに混ざった。
黄金色のターメリックライスのまわりを、サラサラのルーが囲む。
ナッツ、ゴマ、ハーブ、そして白いゆで卵。
中央のししとうは、まるで指揮棒のように皿の上に横たわっていた。
僕は左手でししとうをかじり、右手のスプーンでカレーをすくった。
瞬間、香りが爆発した。
クミン、カルダモン、ナツメグ、そしてフェンネル。
スパイスが舌の上で音を奏で、
それぞれの香りが旋律のように重なり合う。
辛さよりも、香りが熱い。
和風だしのような優しさが奥に潜み、
ゆで卵の黄身が一瞬、静寂を与える。
そしてレモネードを一口。
酸味が残り香を洗い流し、
また新しい一拍目のようにカレーの味が蘇る。
マスターは終始、無言のままだった。
ただ、キャップのつばの下からこちらを一瞬だけ見て、
「スパイスは音楽ですよ」
──そう言っているように感じた。
その言葉は空気に溶けて、BGMと一緒に店の中を漂った。
店を出ると、堺筋本町の風が少し冷たかった。
だが僕の舌の上では、まだスパイスのリズムが鳴り続けていた。
──右手にスプーン、左手にししとう。
それは、音楽のように味わうカレーの世界への、最初の一拍だった。