8回
2024/02 訪問
誠実とは
「Cattolica」に定期訪問。
今回もいつも通り、食事系PizzaとドルチェPizzaをそれぞれ1枚ずつ頂いた。
食事系からは「和風のPizza」。
具材は、モッツァレラ・自家製マヨネーズ・干し海老・ネギ・胡麻・海苔・おかか・卵。グラナパダーノ。
頂いたのは2度目だが、今回は扱う食材の良質さをより感じた。
当店の生地にはイタリアの比較的高い標高で栽培される収穫量の少ない高価な小麦を扱っている。
その味わいは、素朴ながらに雑味のない良質な甘味が感じられ、食感はふっくらとして口溶けは滑らか。
いくら食べても身体に負担のかからない優しさがある。
卵は信頼の置ける取引先による平飼い鶏のものを使う。
良質な餌を食べて、伸び伸びと育った卵は生命を感じさせる躍動感のある味わいだ。
卵黄のコクと甘味は、漬け卵かと勘違いしてしまうほどに濃密で尾を引く。
上品な自家製マヨネーズの酸味とチーズの甘味が抱き合う中で、干しエビの香ばしさ、ネギの切れ味の良さ、海苔の心地よい磯の風味、おかかの淡い滋味、全てがはっきりとした輪郭を保ちながら渾然一体となる。
この味わいは唯一無二であり、他店では真似できないものであろう。
ドルチェは、毎回頼む「紅茶のPizza」。
この1枚は、私的ドルチェピッツァの頂点である。
むやみに甘いのではなく、生地の旨味を残しつつ、されど食事を締め括ってくれる絶妙な仕上がりだ。
甘党は勿論、歳を取って重たい甘味が食べられなくなった御人でも美味しくいただけるであろう。
「こんな辺鄙な店で食材にこだわるから儲からない。」
「息子にはいつも馬鹿にされているよ。」
「でも、お金をいただく以上変なものは食べさせられない。」
とご主人はおっしゃる。
誠実な店とはこのことである。
2024/03/21 更新
2024/02 訪問
愛しのカトリカ
「わざわざいつも遠くからありがとうございます。」
ご主人はいつもそう仰るが、「Cattolica」で食事をするためなら片道1時間など全くの苦ではない。
寧ろ片道1時間で通えていることに感謝をしているぐらいである。
この日もいつも通り食事系PizzaとドルチェPizzaの2枚をいただいた。
1枚目は今週のPizzaから「蛍烏賊のPizza」。
具材は、蛍烏賊・モッツァレラ・菜の花・葱・胡麻・ケッパー・マヨネーズ。
蛍烏賊と菜の花を同時にいただける今の旬を堪能できる1枚だ。
毎度の如くイカ墨を練り込んだ生地でお願いする。
イカ墨を練り込んだことで、粉の香りに奥行きが生まれ、食感も一層フワッとするのが私好みで、具材関係なく必ずこれで作っていただいている。
蛍烏賊は肝がクリーミーで濃厚。
丸みのある甘味とほんのりとした苦味は、大人になると分かる得も言われぬ美味しさである。
マヨネーズの酸味やケッパー、葱のアクセントがさりげなく優しく響き、トロンとしたコクのある半熟卵が全体を包み込む。
優しく朴訥とした自然体でありながら、迷いの無い味わいだ。
それは、イタリア人では作れない、食べて和む和食の様な趣であり、じんわりじんわりと美味の深みへと私を沈ませていく。
ドルチェは「紅茶のPizza」。
こちらは通常メニューのそれとは違う、私様に作ってもらっている。
クリームチーズフロスティングを加え、シナモンを振りかけたシナモンロールに近しいものだ。
アメリカはシアトルのシナモンロール専門店Cinnabonが堪らなく好きな私にとって、この1枚は毎回楽しみで仕方なく、ドルチェはいつもこれを頼んでいる。
たっぷりと注がれる濃密なチーズフロスティングの甘味と、茶葉とシナモンの芳香、レーズンの果実味をふかふかの生地で抱き込んで、口いっぱいに頬張れば、顔がぐしゃぐしゃに崩れてしまう。
皿に残るフロスティングはコルニチョーネで綺麗さっぱり拭ってやる。
カロリーのことなど忘れて、只只この甘美を堪能するのだ。
あぁ、堪らなく美味しかった。
帰りの電車で余韻に浸りながらうとうとする。
私にとって、家に着くまでが「Cattolicaで食事をする」ということなのだ。
2024/02/29 更新
2024/01 訪問
食べる名建築と貴婦人
此処のご主人は一体幾つ引き出しを持っているのだろうか。
24年初の訪問となった今回は、昨年特に好みだった「アンチョビのPizza」と「紅茶のPizza」を注文。
どちらも抜群で全く同じ構成でも良かったが、折角ならとご提案を受け、どちらもアレンジを加えた裏メニューの様な形でいただいた。
結果として、ご主人のご提案に乗って大正解。
むしろアレンジを加えた今回は過去一だったと言える素晴らしいものだった。
「アンチョビのPizza(裏メニュー)」の具材は、トマトソース・アンチョビ・茹で卵・モッツァレラ・カマンベール・マヨネーズ・木耳・ほうれん草・セロリ・フェンネル・ケッパー。
通常はチーズベースだが、今回はトマトソースベースへと変更。
トマトに合わせるようにマヨネーズが加えられ、酸味を主軸にフェンネルやケッパーのアクセントがキックし、コリコリとした木耳とシャキシャキとしたほうれん草が食感に華を咲かせる。
また、ピッツァでは珍しいカマンベールも堪らない。
アンチョビ特有の風味がより一層深みを増し、塩気も膨らみ食欲がググッと掻き立てられる。
多種多様な食材を使い、ブレずに味わいをまとめ上げる設計が為されたこの1枚は、正しく「食べる名建築」である。
「紅茶のPizza(裏メニュー)」の具材は、茶葉・ミルクソース・キャラメルソース・胡麻・シナモン・粉糖。
通常は茶葉本来の引き締まった渋みと深いコクを引き立てたものだが、今回は全く違う表情になった。
牛乳で煮出した様なコク深いミルクティーの甘味とシナモンの妖艶な香りが口腔を満たし、ジェントルな英国紳士だったこの1枚は男を骨抜きにする貴婦人へと変貌を遂げて、胸が射止められる。
同じメニューでもこれほどに違いを見せ、楽しませてくれる「Cattolica」。
今年も沢山お世話になりそうだ。
2024/01/28 更新
2023/12 訪問
東向島の実家
寡黙だったご主人ともすっかり打ち解け、東向島の実家の様な存在になった「Cattolica」。
片道1時間かかるが、唯一無二のPizzaを食べられるのなら安いものである。
この日の1枚目は「今週のPizza」。
具材は、牡蠣・チーズ・アーティチョーク・セミドライトマト・フェンネル。
生地を覆いつく爆量の牡蠣にまず驚く。
生でも食べられる新鮮な牡蠣は、妖艶な肉体から濃密な乳汁を吐き出し、口の中で磯の旨味が飛沫を上げる。
アーティチョークは、味に主張を感じないが、その食感をもって牡蠣の色艶に満ちた肌を一層引き立ててくれる。
他方セミドライトマトは、濃縮した旨味をもって牡蠣のエキスに奥行きを生み出す。
冬になると食べたくなる牡蠣を、これでもかと堪能できる贅沢な1枚だ。
2枚目は「ココナッツのPizza」。
前回もいただいたこともあり、ご主人が気を利かせてくれ、ココナッツパウダーの粒度を細かい仕様にアレンジしてもらった。
細かくしたことでザクザクとした痛快な食感は無くなったものの、良い意味でココナッツ特有の風味が優しくなり、全体の調和が前回以上に美しくなった。
同じものでも変化を加えて楽しませてくれるご主人の優しさに、冷めきった身体も心もすっかりと温まった。
2024/01/01 更新
2023/12 訪問
我が愛しのCattolica
この日の1枚目は「和風のPizza」。
具材は、干し海老・おかか・海苔・モッツァレラ・胡麻・マヨネーズ・ネギ・半熟卵。
生地は、イカ墨を練り込んだものに変えてもらった。
イカ墨の独特が加わった粉の甘味がふんわりと香る柔らかく弾む生地は、何度食べても顔が崩れる。
干し海老は釜の炎によって香ばしさを増し、磯の旨味が、生地のイカ墨やおかか、海苔と手を取り合って、噛むほどに深くなっていく。
マヨネーズは他の具材を持ち上げるかの様に謙虚な姿勢。
お好み焼きの様な味わいだが、まろやかな半熟卵が全てを包み込むことでPizzaとして成立している。
前回、前々回でも感じたが、主人の味のまとめ方は素晴らしいものがある。
2枚目は「ココナッツのPizza」。
たっぷりと散らされたココナッツから立ち昇る豊かな香りに、思わずクラッとする。
ココナッツのサクサクと痛快な食感に加え、甘過ぎず、拗過ぎない味のチューニングは匠の技。
2枚目でも気づけば、ペロリと食べられてしまう軽さがある。
片道1時間の長旅だが、全く苦にならない。
2時間、3時間でも行き続けたい大好きな「Cattolica」。
2023/12/22 更新
2023/11 訪問
寡黙な男は今日も料理で雄弁に語る。
寡黙な男は、今日も料理で雄弁に語る。
長時間発酵させてイカ墨を練り込んだ生地は、粉の甘みの後にやってくる磯の名残が、豊かな余韻をたなびかせていく。
ツナとタマゴのPizzaは、モッツァレラ、パプリカ、ブロッコリー、玉葱、ケッパー、胡麻と多種多様な食材たちが、ツナとタマゴを華やかに化粧している。
程よい塩気のツナ、パプリカ、ケッパー、胡麻のアクセントを円やかなタマゴが包み込み、混沌した旨味が舌を渦巻く。
ブロッコリーとパプリカ、玉ねぎの食感の妙も楽しく、顎が喜ぶ。
食材がこれだけ使われながら、無駄は無く、それぞれが持ち味を光らせて渾然一体となっている所に目が丸くなる。
紅茶のPizzaは、アールグレイの茶葉を敷いた上にキャラメル、レーズン、生姜チップス、粉糖を散らし、黒いカラメルソースで染め上げる。
紳士なアールグレイが、キャラメルとレーズン、粉糖の甘みで色気を醸し、生姜チップスと苦いカラメルの妖艶が、顔を崩れさせる。
くしゃくしゃになりながら『美味しすぎます。』と思わず声が漏れる。
そんな私を見て、表情を崩さない主人が一瞬だけ満遍の笑みを返してくれた。
その瞬間、初めて寡黙な主人と、どこか繋がれた様な気がした。
2023/11/24 更新
2023/10 訪問
寡黙な主人の雄弁な料理。
都心から離れた下町情緒が色濃く残る東向島に知る人ぞ知るイタリアンの名店がある。
店名は「Cattolica」。オーナーの修行先イタリアのカトリカに由来する。
当店のピッツァは、ナポリのそれとは遠くかけ離れている。マリナーラやマルゲリータといった定番は無く、納豆や和風といった創作的なメニューが並ぶ。
ここでは敢えてピッツァではなく、ピザと呼ぼう。
「アンチョビのPizza」は、イカ墨を練り込んだ黒い生地に、アンチョビ、モッツァレラ、セミドライトマト、ケッパー、インゲン豆、ネギ、胡麻を乗せ、グラナパダーノをたっぷりと振りかける。
生地はふわりと歯に優しく、小麦の素朴な風味が穏やかに香り、練り込んだイカ墨がアンチョビの風味と見事に調和する。
多種多様な薬味は、アンチョビの輪郭を際立たせながら、青さの中にある甘み、滋味、酸味、辛味が渾然一体となって得も言われぬ旨味と余韻を作り出す。
洋と和を巧みに融合させながら、あくまで自然体。
「どうだっ!」という力強さではなく、しなやかであるが、ダイナミズムが味の奥に潜んでいる。
「チョコレートのPizza」は、濃密なチョコレートの後に、忍ばせた生姜がさりげなく薫り、見た目よりも軽やかだ。
主人は寡黙だが、料理は雄弁。
東向島に行く理由が、ここにある。
2023/11/07 更新
「Cattolica」では同じメニューを食べがちだ。
というのも、季節に応じて食材に変化があるからだ。
訪問したこの日は3月下旬。
長い冬が終わりに近づき、様々な命が芽吹く春が始まる時期である。
この日はツナと卵のPizza。
具材は、チリトマトソース・モッツァレラ・ツナ・卵・ロマネスコ・芽キャベツ・ネギ・フェンネル・グラナパダーノ。
ロマネスコに芽キャベツと初春を感じさせる野菜が登場だ。
ピリ辛に仕上げたトマトソースによってツナと卵の丸い旨味が引き立てられ、ロマネスコと芽キャベツが春の息吹を口に吹きこむ。
ポリポリ、シャキシャキとした食感と生地の柔らかさの対比も楽しく、彩があって楽しくなる。
この取り合わせは、ピッツェリアかつイタリアンレストランである「Cattolica」ならではであり、いつ行っても驚きと新鮮味がある。
だから飽きないし、通いたくなるのだ。
「Cattolica」の紅茶のPizzaが大好きだ。
具材は、紅茶パウダー・キャラメルソース・シナモン・レーズン・生姜チップス・チーズフロスティング・粉糖。
上品な紅茶とシナモンの芳香を漂わせ、甘さ控えめなキャラメルソースとまろやかなコクを作るチーズフロスティングが絡み合う。
ふかふかの生地も相まって、シナモンロールの様な仕上がりだ。
レストランのデザートに相応しい、やたらめったらと甘くない絶妙なチューニングである。
某番組の影響で納豆のPizzaと辛いPastaが注目を浴びがちだが、私はこの1枚に夢中である。