1回
2025/12 訪問
山形牛の真髄を思い知る、銀座の雅な鉄板焼き
鉄板焼 雅 銀座
2025/12/15
この度はご来店いただき、また情景が目に浮かぶほど丁寧で美しいご感想をお寄せいただき、心より御礼申し上げます。冬の銀座の空気感から一皿一皿の余韻まで、私どもが大切にしている“時間ごと味わう鉄板焼”を深く受け取っていただけたこと、料理人・スタッフ一同大きな励みとなりました。季節や素材の声に耳を澄ませ、その日限りの一瞬を形にすることが私どもの務めです。次回もまた、変わらぬ静けさと高揚をお届けできるよう精進してまいります。再びお迎えできる日を心よりお待ちしております。ありがとうございました。
2025/12/13 更新
夜の銀座は、冬を迎えた都市の静かな昂りに満ちていた。十二月特有の凛とした冷気が、ショーウィンドウの光をさらに研ぎ澄ませている。街を照らす電飾は雪のない雪景色のようで、通りを進む人たちの表情までも染め上げていた。クリスマス目前のざわめきを感じながら、イルミネーションの海へ歩みを進めた。
「鉄板焼 雅」そこは、銀座と新橋の街のざわめきが遠のくような静けさの中で、鉄板の熱だけが確かな存在感を放つ場所だった。
カウンターに腰を下ろせば、目の前の鉄板で繰り広げられる一瞬の判断と火の扱いが、まるで舞台の緊張感のように伝わってきた。
A5山形牛の旨み、大伊勢海老や旬の魚介の瑞々しさ。いずれも素材そのものが語りかけてくるようで、シェフはその声を拾い上げるように焼きの加減を見極めるという。
ワインや日本酒もまた、料理との関係を綿密に計算した一冊の物語のように揃えられている。
柔らかな照明の下、今宵は鉄板の音に耳を澄ませながら一皿を迎える夜を過ごす。
●雅コース
◇A5ランク黒毛和牛湯引き 胡麻柚七味の香り
A5黒毛和牛を湯引きにするという贅沢は、肉の素顔をそっと覗かせる行為だ。繊細な弾力に胡麻柚七味の香りがすっと重なり、味わいに軽やかな奥行きを与える。わさび菜の辛味が最後に輪郭を整え、一皿が静かに完成する。
◇牛の生ハムと果実を添えて
◇季の魚介の香味マリネ
ブレザオラの塩気を柿の甘みが柔らかく受け止め、秋らしい陰影を描く。サーモンは赤大根の清冽さと甘味噌の温度が輪郭を整え、二品は静かに響き合う。
◇鮪赤身の炙り アヴォカドのピュレと共に
炙られた鮪の赤身は、香りの羽をまとって旨みをひと段階引き上げる。そこへ滑らかなアヴォカドのピュレが寄り添い、海と大地の輪郭が一口で重なる。余計な力みのない調和が、静かに舌を奪う。
◇大伊勢海老の鉄板焼き
三重県産の大伊勢海老は、鉄板の熱で殻の奥に潜む香りを呼び覚まされ、身は弾むように甘い。卵黄とみたらし餡のソースは濃厚で艶があり、海老の力強さに柔らかな陰影を与える。一方、アメリケーヌは旨みを鋭く際立たせ、二つの味が海老の存在をまるで別の章へと書き換えていく。
◇フォアグラのソテー 香辛の甘味と金箔ソースを添えて
鉄板で焼かれたハンガリー産のフォアグラは、表面に薄い膜のような香ばしさを纏いながら、内部は驚くほど滑らか。フランベの炎が一瞬だけ甘い香りを立ち上げ、その後でパンドエピスのスパイスが奥行きを与える。金箔を溶かし込んだゴールドバルサミコ酢は気品と鋭いコントラストを添え、ひと皿の中に幾つもの物語が立ち上がる。
◇季の野菜の炙り仕立て
◇最高ランクA5山形牛サーロイン+フィレステーキの盛り合わせ
鉄板の上で静かに火を入れられたA5山形牛は、サーロインの艶やかな脂とフィレの研ぎ澄まされた旨みが、まるで別々の旋律でありながら同じ楽章を奏でるようだ。ハーブガーリックの香りは肉の力強さを押し出し、茎わさび入りのわさびは清涼感で輪郭を締める。鬼おろしの大根は温度を整える調停役、岩塩は素材の本質を露わにする最小の仕掛けだ。インカのめざめの甘みとナスの柔らかな質感が寄り添い、皿全体が山形牛の存在を中心に美しく整えられている。
◇お食事
・黒毛和牛しぐれ煮とご飯
・ガーリックライス
黒毛和牛のしぐれ煮は、甘辛の余韻の中に牛の芯の旨みがそっと潜み、白米の一粒一粒を引き立てる。対して目の前の鉄板で作られたガーリックライスは、香りの立ち上がりが心地よく、混ぜ込まれたしぐれ煮が奥行きを添える。どちらも主張しすぎず、締めにふさわしい穏やかな説得力を持った一杯。
◇しじみの味噌汁
しじみの出汁が静かに広がり、味噌の香りと重なって体の芯をほどく。過度な装飾を排した透明感があり、一杯で夜の流れを整えてくれる。
◇デザート
・フレンチトーストとバニラアイス
鉄板の上で焼き色を纏ったフレンチトーストは外側が薄く香ばしく、内側はとろりと甘い。そこへ冷たいバニラアイスが寄り添い、ベリーソースの酸味が全体を軽やかに締める。温度と食感が交差し、締めの一皿に小さな高揚を残してくれる。
店を出た瞬間、鉄板の熱がまだ体のどこかに残っているのを感じた。十二月の銀座は夜気が澄み、街灯の光が路面に静かに伸びている。満ち足りた胃袋と、落ち着いた心だけを連れて歩き出すと、さっきまでの香りがふと記憶の奥で揺れた。人の流れに紛れながら、夜の銀座へとゆっくり溶け込んでいく。
是非また伺わせていただきます。
ご馳走様でした。