食べログが「あなたがお勧めする『うなぎ』の名店」というイベントをやっています。どんなお店がピックアップされるのか気になります。一方で、ニホンウナギが絶滅危惧種になってヤバイ!という記事をよく見ます。一体どうなっているのか、実は本当にヤバくて絶滅しそうなのでまとめてみます。
・ウナギという生物 ウナギはなかなか面白い生態をしてまして、まず海洋で卵を産んで、そこで卵が孵ってある程度大きくなります。その後、一部が川を登って大きく成長します。なので川沿いの町でウナギが名物になるわけですね(海無県埼玉の川越とか)。大きく成長してから海に戻って卵を産むらしいです。
そうそう、日光の中禅寺湖周辺にもウナギの店があって、つまり天然のウナギがいたわけですね。しかし中禅寺湖と海をつなげる川の間には、観光名所の華厳の滝があるのです。海からどうやって移動して中禅寺湖で大きくなるのだろう、不思議だなあ、と思っていたのですが、なんの事はない、頑張って滝を登るらしいです。ウナギが。ロッククライミングとか駆使して(皮膚呼吸が発達しているので意外といけるようです)。
・養殖ウナギについて 野生ウナギが絶滅しそうだったら養殖ウナギを食べれば良いじゃない、と言ったのはかのマリーアントワネットなんですがこれは嘘ですし絶滅は免れません。嘘というのはマリーアントワネットが言ったってところですね。養殖ウナギを食べ続けても絶滅するというのは正しいです。この養殖ウナギですが、天然のウナギの稚魚(シラスウナギ)を大きく育てたものです。なんと養殖ウナギも天然ウナギなのです(完全養殖というのは今の所市場に無いわけです)。
なぜ養殖できないかというと卵から孵った直後の幼生が水槽ですぐ死んじゃうみたいです(様々な海洋学者がこの謎に取り組んでいて、産卵場所は特定できたという話を聞いたことがあります。これから卵がどうやって孵ってどうやって育つか調べるわけです)。
・ウナギが取れない! そのシラスウナギがもう全然取れない。昔は網を投げれば山盛り取れたらしいですが、今では金魚をすくうような
小さな網を構えて、水面を凝視し、エイやっと入れてどうにか取れるらしいです。知り合いの鰻屋さんに聞くと両手一杯のシラスウナギで250万とのこと(うひゃー高価!)。
水産庁のデータでは(
http://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/attach/pdf/unagi-83.pdf)、昭和の後半で30トンの採捕量が今では15トンと出ています。半分になったけどまだまだ取れてるじゃん、と思いますが、正確に調査したらもっと少ない値になるだろう、という話はよく聞きます。
実際、岡山県沿岸のウナギ漁獲量は低下していることが学術的に示されています(
https://link.springer.com/article/10.1007/s12562-018-1225-2 この論文のFig4です。この減り具合はやばい、と思わせるグラフですね)。国がちゃんと漁獲高等の方向性を決めて保全すれば良いと思うのですが、それがない状態です。
・なぜ取れないか なぜウナギの個体数が減少したのでしょうか。諸説あるのですがとにかく日本人が食べ過ぎた取り過ぎた、というのが一番大きいと思います(それと生育環境の悪化もあるでしょう)。
日本人は北海道のニシンをほぼとり尽くした、という前科があります。北海道におけるニシンの豊漁は有名です。日本の伝統文化であるおせちには子持ち昆布がありますが、元来これはニシンが昆布に卵を産みつけたやつなんですね。それくらいニシンと日本人は切っても切れない関係だったわけです(大量に取れたからおせちになったのかもしれません)。
しかし今じゃほとんどが輸入品です。日本ではほとんど取れないので(後で触れます)、ノルウエーやカナダのニシンの卵が使われているようです。ノルウェーではニシンはほとんど日本に出荷されるようですが、ちゃんと漁獲量を設定して、取り過ぎないように調整しているようです。こうありたいですね。あ、数の子もニシンですね。これも同様です。
閑話休題
とにかく日本人として海の幸は無限、っといった感覚があるんじゃないでしょうか。しかし生態系はありますし、数が減れば壊れます。
・絶滅危惧種ニホンウナギ 2000年あたり、生態学者あたりが頑張って声をあげ、Twitterが流行り始めたあたりでは大学食堂でうなぎを出すな!と言ったウナ禁運動もあり、そして続いています。その甲斐あって2013年、環境省のレッドリストにおいてニホンウナギが絶滅危惧IB類(EN)に指定されました(「IA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの」と定義されます)。2014年にはIUCN(国際自然保護連合)にもニホンウナギが「絶滅危惧1B類」に指定されました。国際的にもヤバさが認められたわけです。
つまり2013年あたりからウナギがやばいと言っているのですが、市場では未だに改善されないようです。
・シラスウナギの密輸 シラスウナギが密輸されるという記事も読みますし、そういうこともあるでしょう。となると水産庁の出した国内採捕量の数値も怪しくなります。「採捕量は、池入数量から輸入量を差し引いて算出」とありますので、養殖池の数を日本で取れた量としているわけですが、海外から密輸したもので水増しされている可能性もあり、日本のシラスウナギは実際の数値よりも少ないかもです(2015年に日本で採捕されたウナギのうち、6割以上が密漁や無報告の漁獲という報告もあります)。とにかく個体数が少ない上に需要があるわけで密漁がやまず、ブラックマネーが生まれて行く状態なわけです。
・今後の展望 生態系における個体数というのは、何もしなくても増減します。そして、たまたま数が減っているときに、環境変動が重なると絶滅します。たまたま今がウナギが少なくなっている時期かもしれませんが、それでも人間(特に日本人)はウナギの数を減らしているわけで、ここになんらかの環境変動が加わると(例えば卵を生む海域の温度が上がって卵が孵らないとか)、絶滅してしまうわけです。
実は最初に話題に出した、食い尽くされた北海道のニシンですが、人工的な放流等で結構な漁獲まで回復したみたいです(自然回復は見込めなかったのでしょう。ウナギでは育て方が不明なため、この手は使えません)。食わなきゃ戻るわけですね。ウナギも食べなきゃ戻ると思います。
実はウナギは辛うじて表に出ているケースでこれに終わらず次はホッケがやばい、という生態学者の話も聞きます。最近ではサンマが不漁ですね。個体数が減っているんだと思われます。
・個人的な理想 いわゆるウナギ問題ですが、ざっくりいうと、食べなきゃ良いと思うのです。しかしウナギ食は日本の文化なので、ウナギ専門店は飲食可としたいですね。知り合いの鰻屋さんに聞くと養殖の2割くらいが専門店に回るようです。つまり8割を占めるスーパーやチェーン店の低価格帯を頑張ってウナ禁すれば良いと思います(うーん、寿司屋はOKで)。あとはイリーガルな闇ウナギが跋扈していることを理解することでしょうかね(あなたがいま食べているウナギ、本当にクリーンですか?と耳元で囁く。うわー感じ悪いですね)。というのを繰り返して国の耳を傾けさせるわけです。食の問題ですから食べログが火種になって良い気がするので、レビューで一言さりげなく書くとか(うわー雰囲気悪くなりそ)。
ソーシャルジャスティスウォーリアー(ネット上でお手軽な正義感に基づいて、他人を糾弾したり弾劾したりする人達)化するのは良くないので正しい知識を持ってウナ禁したいと思います。
・ウナギは絶滅するのか? 何を持って絶滅というのかが難しいのですが、このまま何もしなければ、いつかはニホンウナギは食卓から消えると思います。それがいつになるのか。。
参考資料・中央大学法学部 ウナギ保全研究ユニットHP
http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/blog/kaifu/ウナギの基礎知識/
・水産庁 ウナギに関する情報
http://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/unagi.html・Kaifu, K., Yokouchi, K., Higuchi, T. et al. Fish Sci (2018).
https://doi.org/10.1007/s12562-018-1225-2