2回
2018/07 訪問
藍は藍、青は青き碧なり。
「青は藍より出でて藍よりも青し」
中国、戦国時代の儒学者、荀子の言葉です。
藍から、青い色が生まれ藍よりもその色は鮮やかである。
弟子が師匠を越えた時に使われる例えです。今回お邪魔したお店は、どんな感動が待っているのでしょうか。
向かったのは、目黒の名店『鳥しき』さんで6年間修行をされた大将が独立され、押上に構えた『おみ乃』さん。
のんびりとした押上の街を駅から3分程行けば、見覚えがある灯りが胸を高ぶらせます。
コの字のカウンターの右の端の席に通して頂きました。焼き場が一番見える特等席です。
今回、心から感謝したいのはひたすら目を閉じながら食べる、大食いの怪しい女1人の予約を受け付けて頂き、本当にありがとうございます(笑)
印象的な串を何本か挙げます。
*さびと血肝
最初に出されたのは、さびと血肝でした。さびをパクリと頬張れば、塩の味が感じられます。表面は少し火の通りが良すぎるかなぁと印象でした。
二口目の柔らかな口当たりに、期待しつつも感動とは行かない所でしょうか。
山葵の風味に拘りを感じます。
しかし血肝を一口頂いた瞬間、今まで食べたレバーの常識が頭の中で串が槍に変わったように鋭く突かれ、音を立てて崩れて行くのが分かります。
本当に、焼かれているの?
『焼鳥屋さん』でまさかの出来事です。
ヤカレテイナイ。。。?
改めて血肝の表面が生では無い事、ちゃんと焼き色が付いている事を確認しました。
確かに大将がさっきまで焼き場で焼いていた。この衝撃で鈍くなった頭からつい先ほどの記憶を引っ張り、もう一度血肝を頬張りました。
確かに焼かれた血肝。
しかしその口当たりは、刺しで頂くと同じ、舌を滑るような滑らかさ、臭みはむしろ刺しで頂く時よりも消え、レバーが持つ全ての魅力を引き出していると言えます。
レバー界の全知全能の神、ゼウスだ、このレバーは。
*はつもと
しゃきした歯応えから想像出来ないほど溢れる旨味たっぷりの脂は串のどこにそんな容量があったのかと疑問におもいます。
上に乗せられた山葵は脂によって甘味しか感じません。
*せせり
最初はそのままで、次に添えられたレモンを絞ると味の違いが良くわかります。何本かの串でもレモンが添えられていましたが、ブラックペッパーと塩と絶妙なレモンの酸味が今回頂いた中では一番マッチしていました。
*厚揚げ
外をカリッと炙られた皮からすぐにホロホロと滑らかに崩れるお豆腐は爽やかな茗荷と二種のネギが添えられています。大根おろしを乗せて味の変化を楽しむのも良いですね。お醤油の追加はお豆腐の味が濃いので必要無いかなぁ。
*しいたけ
焼き立てをふぅーふぅーと息を掛け、野球ボールほどありそうな椎茸に、かぶりつくと飛び出す旨味たっぷりの汁。
えっと、この椎茸は小籠包ですか?笑
椎茸の独特な香りは無く、と言うよりも旨味が口一杯に溢れ、香りを感じる暇さえも無かったのかもしれません。食べ進めて少し冷めると、椎茸の味がはっきりとして来ました。
*かしわ
炭と脂が焦げるの香りが良く感じます。
じつはこの香りを感じたのは、かしわのみでした。
さっくりと切れるお肉と繊維からあふれ旨味を日本酒で流し込めば、何も言える事なんてありません。
*つくね
口に入れた瞬間からほどけるつくねは、噛んでいると飲み込んでいないのに消えて行きます。と、比例して細かく刻まれた軟骨のコリコリした食感が絶妙です。
卓上の山椒を少し付けると味が爽やかに引き締まります。
*ちょうちん
頬張ると、弾け広がる濃厚な黄身が焼かれたお肉に絡み付きます。
どうしたら、ここまで焼鳥を芸術的に焼くことが出来るのでしょうか。
とろける黄身、しっかりとした肉。これが焼けるまでにどれだけの日々を費やし、その険しい道を歩んで来たのでしょうか。
まるでオリンピックのメダリストの演技を見るような感動すらも覚えます。
私が総理大臣ならば、国民栄誉賞を贈らせて頂きたい。
そんな、一品でした。
もう、お腹が限界。
ストップと言うまで出るおまかせコースに合わせたお酒はビールと、スッキリとした鳥しきさんにもあった日高見、そしてメニューに載っていなかった福岡県の「綾花」の夏酒はキリッと辛口ながら消える後味が焼鳥に良く合っていました。
『鳥しき』さんと同じ、ねじり鉢巻と背中に差した団扇がだんだん武士の刀のように見えてくるから不思議です。
一度では全て食べきれない、だからまた来たい。串を鱈腹食べたいから今回諦めた一品料理と、満腹で食べられなかった親子丼に思いを馳せ、次回の予約を押さえます。
さて、『おみ乃』さんは『鳥しき』さんよりも青かったのか。
その答えは「鳥しきさんのお弟子のお店」という枠では無く、おみ乃さんにはおみ乃さんにしか無い味が。
鳥しきさんには、他には追随出来ない味が。
比べる事がもう、不粋に感じます。
色で例えるならば私が大好きな「碧」。
藍色を含み光輝くその色が『おみ乃』さんであると私は思います。
満腹と幸福で一杯のかえりみち、見事なまでの三日月と、青く光るスカイツリーに向かって
「ジャックと豆の木かよ。」
と、1人呟く酔っ払いは地下鉄の駅を軽やかに掛け降りるのでした。
2018/07/25 更新
何だかんだで4回目の訪問です。
味はもちろんですが何より感動したのは
四人でお邪魔させて頂きましたが
初めてはカウンターで横並びでした。
角の席が空いたので
「宜しければ角席の方が話しやすいので。」
と、ご案内して下さいました。
女子会で喧しかっただろうにも関わらず、
心遣いに感謝しかありません。