2回
2018/02 訪問
豊前裏打会の総本山と 強面な大将の謎
この食べログをやり始めてから、いつの日か取り上げなきゃならないと覚悟してた『豊前裏打会』の個人的な特集に、ようやく取り掛からせていただきます。
ってまあ、勝手にしろ!でしょうし、それ以上に、たぶん福岡県民や隣県の一部の方以外は、
〝豊前裏打会って何?〟
でしょうから、簡単に説明しますと、今回レビューする『津田屋官兵衛』の大将『横山和弘』さんを筆頭に、後出する店々と共に始めたグループです。
讃岐うどんを『表』とするなら、普通じゃ行わない独特な製法で作られた、いわば『裏』の麺を編み出し、ご当地『豊前』に因んで名付けられました。
やがて、その独自性から話題となり、学びたいという料理人も続出、今では福岡県はおろか九州5県、東京や大阪にもお弟子さんの店々が40店近くある一大グループとなっています。
といっても、別にフランチャイズではありませんから、お間違えなく。
その総本山であり、最も多くのお弟子さんを出してるであろう同店『津田屋官兵衛』さん、大将『横山和弘』さんの風貌を見るなり、
〝ウワっ! 怖そうなオッサンやな?〟
なんて思われ、であるからこそ立派なお弟子さんが育つように思われるかもしれませんし、ワタシもそう感じてたんですが、実は奥様が厳しかったと、あるローカルTVで知りました。
横山さん自体は職人タイプな寡黙な方らしく、ここ数年とみに好々爺っぽくなられましたが、代わりに奥様が中々の方だったらしく、お弟子さんなどの指導にも熱心だったそう。
とはいえ、奥様お身体を崩されたようですが、その気質を現在では娘さんが自然と引き継がれてるみたいです。
つまり、横山さんは体躯もご立派で、ひどく失礼ながら形相も鋭いものの、あくまでもフロント・マンに過ぎず、手綱を握ってるのは女性陣ということですね。
って、そういう方が大抵うまくゆき、逆の男が主導権を握ってて長く続いてる例は、あまり見たことありません。
一般家庭だって、そういうもんでしょう?
もっとも黙々とうどんと向き合ってる横山さんのお姿は、まさに豊前裏打会そのものに見えますし、おそらく現存する福岡県内のうどん職人さんの頂点に君臨されてるでしょうから、そんな神がかった方から紡ぎ出される麺が、そりゃ不味かろうはずがありません。
その色は麦秋を思わせる黄金色、透き通った細麺で、コシはもちろん粘りや弾力もあり、それでいて表面はもっちりしています。
「タピオカでも入れてんじゃね?」
同グループの一店を紹介し、実食したらしい友人はそう評しており、ワタシ以上のバカ舌だと首を垂れましたが、そう思うのも分からんでもないほど、強力なコシと粘りがある一方、ご当地らしい柔らかさも兼ね備えてる、半ば人工的にさえ思える至極の麺です。
以前からレビューしとりますように、福岡県には博多うどんと筑後うどんという両翼がありますが、個人的にこの豊前、周防灘を囲んだ北九州や山口県などで好んで食べられてる独特の細麺もあると声高に叫びたいものの、残念ながら殆んど陽の目が当たっていないのが現状。
ですが、この豊前裏打会のおかげで、多少なりとも脚光を浴び、認識されてるような気もします(といって、その本来の麺、ほぼコシはないんだけど)
博多うどんより細く、筑後うどんより表面はヤワい、独特の食感を持つ豊前を始め周防灘沿岸のうどん。
それに強いコシと粘りを与えたのが、この豊前裏打会の麺のような気がしてるんですが、どうなんでしょう?
『菅助ぶっかけ 680円』
今回は悩んで同メニューをポチっとなしましたが、ちなみに昔は券売機じゃなかったような気もします。
店内はカウンター10席強、4人掛けのテーブル席が2卓のみのコンパクトな造りで、お弟子さんなど含め、結構な人数があくせく働いてらっしゃるものの、それでも間に合わないほどの人気ぶりです。
ですからワタシは、だいたい終了間際に行くんですが、それでも空席なんて数えるほどしかありません。
ですから、もし行かれるなら予め覚悟しといてください。
場所は県道25号門司行橋線が国道10号と交わる津田西交差点の一つ門司側、津田新町交差点を西に曲がった月極Pの奥で、ちょっぴり分かりにくいかもしれませんが、たぶん行列が出来てるから目につくでしょう。
専用駐車場は、その月極Pに20台近く間借りされてますが、それでもお昼時などは足りないほどです。
間違える人もいるからか、いつからか色分けされましたから、まあ、それで間違えちゃマズいでしょうね。
ちなみに暖簾に書かれてる豊前裏打会の紋章みたいな印しは、今は亡きプロレスラー『三沢光晴』さんに由来してるそうです。
で、先のメニューに話を戻すと、やや豚しゃぶがワイルドぽかったものの、さすが豊前裏打会の総本山、麺は最高で、ぶっかけの汁もカツオがしっかり効いてて、九州人が好む甘さも存分に感じられました。
おかしかったのは、その天ぷらを横山さんが揚げてたら、ご常連でしょうか隣席のダミ声のおばちゃんが、
「大将も天ぷら揚げるんやね? アンタが揚げとーの初めて見たわ」
と言われたことです。
なるほどワタシも大将が揚げてるのを見るの初めてだったかもしれず、普段なら麺ばかり扱ってるイメージだったもんで、まあ、珍しいっちゃ珍しい。
すると、そう言われた横山さん、別に言い返すわけでもなく、ただ
〝ムフフっ ♡〟
と言わんばかりに軽く微笑まれた顔が何とも優しく、とはいえ、モンスターが笑ったみたいで、ちょっぴり不気味でした。
● 個人的 食べログ 評価点・・・4.4
2022/01/06 更新
続けてきました個人的な豊前裏打会の特集、最後にまたもや総本山『津田屋官兵衛』さんをレビューしたいと存じます。
というのも、前回のレビューの日時を見るに2018年4月と、はや3年半以上伺ってないと思うと、いても立ってもいられなくなった次第です。
『ごぼう うどん 560円』
実は同店で、豊前裏打会の定番たる同メニューを食べたことがない気もしたからでもあります。
といって、とにかく人気店なのは前のレビューで記載済みですから、
〝ううむ、どうでしょう?〟
と『長嶋茂雄』さんばりな口調で、土曜日でしたが14時半ぐらいに行くと、
〝ああっ、大丈夫そうやね〟
と、黄色く塗られてる同店の専用Pの空きは、まだ空いてる方。
降車してお店に行くと、さすがに写真のように店外の長椅子に3名ほど先客さんがいたものの、
〝まあ、こんぐらいなら?〟
と寒風吹き荒ぶ中でも、まあ、待てる人数かな?と。
ですからスマホ観ながら待ってたら、その先客さんに店内から手招きする姿が?
〝あっ、そっか! ここって、店内にも待合席があるんやった ⤵︎〟
そうなんです、たった3人かと思ったら、店内も含めると、10名近い待ちとなる計算。
〝まあ、そんなもんやろね〟
もっとも、すでに並んでるし、店内のグループ含め、店外の先客さんも同じグループなら、案外お独り様のワタシが優先される可能性も大かもしれないから、今更待つのヤメるはずもない。
〝って、おいおい!〟
そして先客さんが店内へ入り、店外で独りぼっちで待っていたら、いきおい後ろから何も言わずに男がやってきて店内へ入ってく。
〝割り込むんじゃねえよ!〟
以前、他の人気店で、同じような感じで追い抜かされたことがあったんで、ちょっと一喝しようとワタシも入店したら、どうやら両替しに来たようで、一安心したものの、とはいえ、それで先に券売機で買われても割り込みにゃ違いないんで、先に上記のメニューを購入し、店内にいることにしました。
すると、先に入った先客さんが詰めて座り直してくれ、一人分のスペースが出来たから、軽く会釈して着席、で、見ると両替し終わった男は、なるほど食券を買い、立って待ってる。
〝馬鹿め! そう易々と割り込みなんかさせるかいな〟
そう思った矢先、先客さんの前、同じグループかと思った方々が招ばれ席が空いたら、
〝こっちこっち〟
と、その割り込み男を何故か先客さんが手招きしてる。
〝あっ、そっか!〟
そうなんです、先客さんは3人だったはずなのに、見たら2人しかおらず、その割り込み男は実は先客さん、要は入店する前にお金でも取りに車へでも戻ってたようで、つまるところ、割り込んだのはどちらかと言うとワタシの方だったんですよね?
とはいえ、むろん知らない方々だから一人々々の顔を憶えてる筈もないし、急に列を抜ける方も悪いから、ワタシが責められる理由は毛頭ないものの、それにしても要らんことで神経を擦り減らしちゃいました。
それというのも、店内の待合席へ招ぶのも確か従業員さんがやっていたはずなのに、お客さん同志でやってたのが元凶なんでしょう。
いや、時間も時間だから従業員さんも余りチェックしてないようで、それも問題っちゃ問題でしょうね?
で、席に着けたのは10分後でしたが、まあ、同店にしちゃ早い方でしょう。
店内はL字型カウンター10席、4人掛けテーブル席が2卓と、あまり変わっちゃいませんが、さすがに1〜2席は間引かれてるような気もしました。
相変わらず男性従業員さん2名、女性従業員3名と、お弟子さんっぽい若い方々もおられ、その中で一人だけ高齢の大将『横山和弘』さんは、変わらず黙々とうどん麺と向き合われてます。
〝ありゃ? なんか大将だけ違う??〟
そこで気付いたんですが、他の従業員さんは、お揃いの豊前裏打会の紋章、今は亡き『三沢光晴』さんのマークが入った黒いTシャツを着てるものの、大将『横山和弘』さんだけ、一見すると黒いシャツだから同じように見えるんだけど、書いてる模様が違う。
〝うむ? 『ク・モ・ノ・ウ・エ』? あの『クモノウエ』やん〟
書いてある字を読むと、以前レビューした昨年9月にオープンしたラーメン屋さん『クモノウエ』さんのTシャツを、なぜか大将だけ着てる。
その『クモノウエ』さん、レビュー内でも書いてるように同系列店『うどん満月』さんプロデュースだから、花輪にも『津田屋官兵衛』さんのお名前があり、要は関係があるからTシャツを贈られたんでしょうし、むろん着てるだけで宣伝効果もあるでしょうけど、なんせ文字が、、、。
〝クモノウエって、そりゃ大将だきゃ
『雲の上』みたいな存在だよなあ?〟
お弟子さんたちからすると、まさしく大将『横山和弘』さんなんて雲の上の存在、伝説のうどん職人さんでしょうし、ワタシたち客にとってもある意味『神』ですよね?
よく想うんだけど、こんな横山大将にこそ勲章をあげてほしい。
黄綬褒章ってありますよね、主に職人さんに贈られる勲章です。
例えば泣く子も黙る名店『すきやばし次郎』の大将『小野二郎』さんは叙勲されてますが、お寿司みたいな高級食だけじゃなく、こうしたB級グルメ、うどんの職人さんも、できれば公平に判断していただきたい。
すなわち、豊前裏打会というグループを一代で作り、幾人もの後進を育てた横山大将は、決して叙勲されてもおかしくないような気がするんですよね。
他にも広島お好み焼き、青八昌『小川弘喜』さんも、個人的には相応しいと想いますが、間違ってるでしょうか?
だって、そんなクモノウエのTシャツを着てる横山大将を見てたら、
〝下手すると、そろそろホントの雲の上に逝っちゃうかもしんないな?〟
なんて、縁起でもないことを思っちゃったりするからでもあります。
いくら『生きる伝説』だからと言っても、やっぱり生きてるうちに報われてほしいと思うのが人情でしょう?
〝おっ、やっと来た〟
そんな妄想をしてたら、ようやく提供され、時計を見たら7〜8分でした。
〝ああっ、意外とイリコなんやな?〟
今回、久し振りにかけタイプでスメを飲んだら、違う節系かもしれないけどイリコっぽい旨味を強く感じました。
麺にしてもエッジなど無く、あくまで昔ながらの丸みがあり、この裏打会の特有な透明感は程々、それより小麦色を強く感じられました。
むろん香りや味もそうです。
結局、実は古くから伝わる豊前うどんらしさ、以前から書いとります周防灘沿岸で見かけるタイプと、さほど相違ないような気もしましたね。
ほのかな小麦の香りと、もちっとした跳ね返りがある麺だし、さざなみの音を感じられるような潮っぽい旨味豊かなスメなもんで、決して令和、いや、平成らしさもない、結局は昭和です。
その辺が、ワタシみたいな昭和のドブ育ちをも首肯かさせるんでしょう。
ごぼう天は隙間があるものの、その辺が総本山たる由縁か、ある程度の迫力があります。
カリっと感は勿論、割と厚みもある方でしょう。
それらも含め、意外に古いタイプとも言え、裏打会よりも、あくまで基本は豊前由来なような気もしました。
そうした素朴な伝統が継承されれば、個人的には嬉しいんですけどね。
● 個人的 食べログ 評価点・・・4.5