3回
2024/11 訪問
やっぱり、徹底しているって素晴らしい…
記憶とかスキルとか、どんどん磨滅していく中で、昨年の冬にラ・シャッスで食べた蝦夷鹿のステーキの味わいは、かなり鮮明に覚えています。それくらいのインパクトがありました。
休日のコンサートの後、ほぼ一年振りの再訪です。
ちょうど11月の初めに、今年の蝦夷鹿猟を終えて戻ってこられたそうです。当然メインは蝦夷鹿のTボーンステーキで決まりです。。
冷菜にカルガモ、フォアグラ、胡桃のバロティーヌ。家内は真鴨ささみのセッシュ。
バロティーヌを一口。最初に心に浮かんだ言葉は「野太い…」です。カルガモの肉は結構、噛みごたえがありますが、咀嚼するたびに繊維やフォアグラの脂分が口内でほぐれていって、野趣に富んだ旨味が染み出してきます。またガルニチュールが素晴らしい。見た目や彩りだけではなく、マリネされた野菜とキノコの酸味が味蕾を洗ってくれるので、濃厚なバロティーヌの旨味を新たに愉しむことができる。シェフの力量を感じます。
温菜に仔ヒグマとキョンを網脂で包んだカイエット。家内はキジ、キノコを山栗のブルーテソースでまとめた一皿。
カイエットも一言では言い表せない、とても重奏的な業深い味わい。トロ茄子と伺ったと思いますが、そのピューレとインゲンが濃厚一辺倒になりがちな羆料理に絶妙のコントラストを与えていて、唸るしかありません。
メインの蝦夷鹿のステーキ。去年は雌でしたが、今回は牡鹿。雌鹿の肉質のきめ細やかさと柔らかさとはまったく異なった、旨味の太さ、肉質の逞しさを堪能。去年も感じましたが、鹿からとったフォンのハーブソースの鹿肉との相性が抜群。肉の旨味を邪魔せず、向上させます。
少し脂味を残してあるのですが、この脂がとんでもなく美味い。家畜の肉の脂では絶対に感じることのない、濁りのない澄んだ後味…
食後に少しシェフにお話を伺いました。
「毎年、蝦夷鹿猟は雪が降る前に行います。雪が降ると、鹿は降雪の少ない海岸線に移動するので、食餌が変わり味が変わってしまう。また発情期が始まるので、雄は食欲が削がれ、やはり味が変わる」とのこと…。まさに唯一無二の、貴重な頂き物ですね。
この後には野禽の解禁が続くとのこと。できれば、春までにもう一度、伺いたいものです。
2024/11/19 更新
2023/12 訪問
徹底しているって、素晴らしい
初訪です。遅めの20:00スタートで無理に
お願いしましたが、快く受け入れて
いただきました。
この時期は日によって、早朝に猟に出るため、
早めに店仕舞いをされたい時もあるそうです。
店内の非常に抑えられた照明、卓上で揺らめく
蝋燭の灯りが六本木にいることを忘れさせます。
ワイオミングのグランドティートンで泊まった
山小屋を思い出しました。
すべての料理、ガルニやパンやプティフール、
カトラリー、内装、に至るまで、
妥協のない徹底的なこだわりを感じます。
メインを決めかねて相談すると、笑顔で、
蝦夷鹿と即答いただきました。標茶町で
先月に仕留められた個体とのこと。
処理場から30分以内の場所で仕留め、
個体ごとに迅速に血抜き処理をすることを
ご方針とされているそうです。
しかも解体も人に任せないので、ジビエの
鹿としては珍しいそうですが、Tボーンで
提供される…。なんとサービスご担当の
女性の方がライフルで仕留めた、雌の3才。
もう食事が始まる前から、濃度の濃い情報が
氾濫して、圧倒されます…
そしてこの鹿が、ホントに、息を呑むほどに
美味しかった。
臭みがないとか、そういうレヴェルの話ではなく、
赤身の肉のグリル料理として、圧倒的な存在感を
備えて、完結してます。
フィレを噛み締めた時に、口内に鮮やかに
広がる力強い滋味…
ロースに少し残してある脂身の口当たりの
軽さとコク…
肉自体の凄さに加えて特筆すべきは、ソースの
素晴らしさ。見た目からサルミかと思いましたが、
もっとフレッシュな香りのする軽めのソース。
鹿のフォンにバジルを加えた物だそうです。
これが鹿の旨味を邪魔せず、引き立たせます。
美味い、という以外に言葉が出ません。
私はメインの前の温菜に、小鴨1羽のローストを
いただきましたが、これも衝撃的に美味かった。
肉の一片、内臓の一片のどれもが力強い…
こちらもソースに一工夫がなされていて、
一目見るだけではわからないのですが、
2種類のソースを使って、味のグラデーションが
添えられています。
大満足です。ここまで徹底していると、
禁猟期はどうされているのか、気になります。
尋ねると夏はなんと天然鰻を手に入れて、
提供されているそうです。店内に生簀が
あるとのこと…。絶句しました。
とにかく万事徹底しています。しかし、ここが
一番すごいところだと思うのですが、お店の
雰囲気に独善や不遜が微塵も感じられず、
穏やかな自信と充足感が漂っている…。
なんだか訪れたこちらを、とても肯定的な
心持ちに変えてくれる素敵な店です。
徹底しているって素晴らしい。
2024/01/27 更新
Thanksgivingの時期にラ シャッスを訪れることが、ここ3年ほど続いています。お目当てはもちろん、蝦夷鹿のTボーンステーキ。鹿肉を美味しく頂くことのできるレストランは、数多とあるのかもしれませんが、当店のロースの美味さ、特に脂の澄んだ味わいは唯一無二。
最初の年は雌の3歳。去年は雄のやはり3歳。今年は雌の2歳だそうです。そしてこの雌鹿のステーキが、衝撃的に美味かった…
私、ずっと、うまいうまい、うまいなぁと言いながら、一気に頂いてしまいました。3度目にして、さらに記録を更新してくる地力の強さに、圧倒される思いです。
きめ細かい滑らかな繊維質の中に肉汁と脂をたっぷりと含んだ鹿肉は、噛み締めるたびに惜し気もなく、旨味と香りを放出。ため息しか出ません。ノックアウトです。
あと、なんと言ってもソースが素晴らしい。鹿肉というと赤ワインソースやベリーソースで食べることが多いわけですが、この特別な鹿肉の繊細さを受け止めるには夾雑物が多いような気がします。鹿の骨のフォンを活かしたバジルソースの相性のよいこと。これで3回目ですが、毎回、感動するレベルです。
さらにステーキの前に頂いたサルセル。肉もレバーも、一羽のすべてをいただきます。小ぶりな鳥の肉とは思えない、これもエネルギーに満ちた太い味わいです。こちらはサルミソースと桑の実の赤ワインソースとのコンビネーションになっていて、鉄分を感じる肉や肝の濃厚な味に、赤ワインの酸とコクが爽やかなアクセントを与えます。圧巻です。
サービス、雰囲気ともに申し分なく、ジビエを楽しむフレンチレストランとして、まるで外界から遮蔽されたような内観と相まって、特別な経験を与えてくれる素晴らしいお店です。
今年もありがとうございました。とても美味しかったです。