2回
2024/06 訪問
当分、シェア厳禁!
外観から受ける予想を遥かに上回る、とても
本質的かつユニークなお店でした。一度、
訪れたくらいでは、とてもその真価は
掴みきれないと思われます。
ベースは北イタリア料理。オッソブーコが載った
サフランのリゾットや、ミラノ風仔牛のカツが
楽しめる。外観様式はあくまで北イタリア。
ただしこれを捌くシェフのバックボーンには、
色濃くフレンチのスキルやロジックが反映されて
いるようです。
アラカルトでお願いしました。前菜で頂いた、
牛ハツのカルパッチョの美味いこと。特筆物です。
シェリーヴィネガーの酸味、トマトと玉ねぎの
爽味、トリッパに付いたほんのわずかな甘味、
薄焼きの野菜が吸った微かな油分、ハーブの香り…
こういう重層的な味の混合体が、低温調理した
牛ハツの野性味が少し感じられる旨味と
組んず解れつとなって、いや〜、絶妙に美味い。
息子とシェアなんかするんじゃなかった…。
鳩も美味い。サルミのようなソースや、脚の爪を
高く掲げる盛り付けなど、フレンチのスタイルを
強く感じさせます。
鳩はフランス産。皮目の脂!ホントに美味いなぁ。
しつこくないのに、後を引く旨味が残ります。
因みにランド産ではなく、全然反対のアルザスの
方が産地でした。
これ以外の皿もとても素晴らしかったのですが、
デザートの完成度が高いことにも驚きました。
パッションフルーツの酸味の効いたブリュレに、
マンゴーのソルベが載って、ココナッツと
フルーツのスープに浸って、ピンクペッパーが
キリっと味覚を引き締める…
とにかくすべての皿に驚きと楽しさがありました。
惜しむらくは、サービスの方の優しいご対応に
甘えてしまい、全皿シェアにしてしまったこと。
食いしん坊な我々がいけないのですが、ここまで
完成度の高い料理を頂くのだから、やはり
シェフの考えられたポーションを頂くべきだなと
痛感しました。
いくら好きだからといって、モーツァルトと
ハイドンの交響曲の各楽章を半分づつ繋げて
聴いても、感動するわけないのと同じだと、
改めて気がつきました。
今後、シェア厳禁を当家の家訓とします!
ビステッカにも、相当なこだわりと自信をお持ちで
あることがよくわかるご連絡も頂戴しました。
ぜひ一度、食べてみたい。再訪します。
2024/06/09 更新
前回うかがった後、松本シェフよりビステッカの
美味しそうな写真を何枚か送っていただきました。
これがテロリストの爆破予告のように、破壊力が
満載で…。
お勧めと言われたアイルランド産のTボーンの
赤身の深い赤褐色や、熟成の進んだ脂身の
燻したような黄色を見ていると、肉と脂の焼けた
あまい香りがしてくるような気がして、早々に
予約してしまいました。
ビステッカをメインとしたアラカルト。前回の
教訓を活かし、今回は各自、アンティパストと
プリモを一皿づつ注文して、シェアは厳禁!
アミューズが素晴らしい。じゃがいもとりんごの
冷製のクリーム状のスープを重ねた上に、刻んだ
ソーセージ。匙で瓶状の器の底から、ジャガイモの
スープを掘り起こして口に入れると、ジャガイモの
塩味、林檎の甘味と果実味の混合体に、
ソーセージの塩味と肉の脂がほのかに加わって、
絶妙に美味いです。かき混ぜて均一にしないで
食べ進めると、ひと匙ごとに配分が変わるので、
味の変化も楽しめます。
私の前菜はイトヨリ鯛。これも味がとても重層的。
炙り目をつけたイトヨリが載っているのは、那須の
ピューレ。イトヨリの上のダイスされたきゅうりに
加えられたカレー風味と合わさって、どこか
オリエンタルな薫りを醸し出します。
パスタはマグロの頬肉。魚の匂いを消すのではく、
ケッパーやディルの香りや酸味にぶつけて
止揚させている力強い味わいです。
シェフの多彩な引き出しに、圧倒される思いです。
酸味一つとっても、ヴィネグレットもあれば、
柑橘も使う。果実の甘味もあれば、蜂蜜の甘味も
ある。なによりも料理として美しいし、美味しい。
しかもメインのビステッカでは、一転して手数を
抑え、豪快なストレート一本でグイグイと力業で
押してきます。味付けはこれ以上ないくらい
シンプルに、塩とオリーブオイル。強火の炭火で
アイルランド産の3センチの厚さのTボーンを
一気に焼き上げるそうです。
頬張ると、まず最初に表面の焼き味の香ばしさを
感じますが、噛み締めると赤身肉の繊維の間から
染み出してくる肉の旨味が押し寄せます。サシが
入っていないので、脂分の邪魔がありません。
赤身肉のジュが口腔内を満たします…
文句なしに美味いです。
大量のルッコラと、絶妙な揚げ加減のポテト。
Beefeaterの泣きどころを、憎いほどに抑えた
理想のビステッカと言ってもよいと思います。
値段はそれなりにしますが、十分にそれに
値します。「◯◯◯ッチャ」のパッサパサの
ビステッカの数倍は価値があると断言します。