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夜の点数:4.0
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¥4,000~¥4,999 / 1人
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料理・味 4.0
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|サービス 3.5
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|雰囲気 4.0
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|CP 4.0
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|酒・ドリンク 4.5
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[ 料理・味4.0
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| サービス3.5
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| 雰囲気4.0
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| CP4.0
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| 酒・ドリンク4.5 ]
紫檀の夜
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2025/12/09 更新
卓上の小鍋から、ため息のような湯気が立ち昇る。
その向こうに横たわるのは、艶やかな翡翠色と、透き通るような白磁の肌。宮の沢「紫檀」で対面したのは、秋田・三関(みつせき)セリのお浸しである。
それは、ただの野菜ではない。鍋の中で妖しく揺らめくその白い根は、まるで洗い髪のように長く、あるいは無防備に投げ出された乙女の肢体のようだ。極寒の雪解け水の中で磨き抜かれたその「根」こそが、今宵の主役である。
受け止めるのは、黄金色の出汁ではない。漆黒にも似た、深い色の蕎麦出汁だ。
鰹の香りが立った、かえしの効いた濃密な液体。それが、清廉潔白なセリの肌に容赦なく絡みつく。白い根が褐色の汁を吸い、しっとりと濡れていく様は、どこか背徳的な美しさを帯びていた。
熱を帯び、くたりと身を任せたところを箸で持ち上げる。滴る汁もそのままに、唇へと運ぶ。
熱い。
口に含んだ瞬間、驚くべきは、その見た目のしなやかさを裏切る強靭な弾力だ。
シャキッ、シャキッ。
奥歯で噛みしめるたびに、脳髄を震わせるような快音が響く。繊維が断ち切られる刹那、溢れ出すのは土と水のあえかな香り。そして、根が隠し持っていた濃密な甘みだ。
蕎麦出汁の塩気と旨味が、セリの清冽な体液と口の中で混じり合う。舌の上で踊る繊維の感触、鼻腔をくすぐる野生の香気。噛めば噛むほどに甘美な汁が溢れ、喉の奥へと滑り込んでいく。それは食事というよりも、もっと本能的で、濃密な行為に似ている。
鍋の中の白き肢体を貪り尽くす頃には、身体の芯から熱いものが込み上げ、恍惚とした余韻だけが残っていた。
冬の夜、蕎麦屋の片隅で味わう、秘め事のような一皿である。