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予約の取れないお店、という以外あまり情報がなく、「満足度高し!」という
口コミだけを頼りに、やや手探り感のある中での予約。
ダメ元でしたが、この日しかないというピンポイントで上手く予約が取れました。
何気なく歩いているだけでは見逃してしまいそうな外観。
狭い階段を上ると入り口です。
引き戸を開けると、そこにはお寿司屋さんと見紛う白木のカウンター、席はこの
カウンターだけ、6-7席というところでしょうか。
Lefierのワインセラーを横目に、指定された席に着席して、シェフに向き合います。
いわゆる料理メニューなし。これは"手強そう"だというのが第一印象。
飲み物に関しては、リストが渡され、グラスワイン、ソフトドリンク等の品揃えが
確認出来るものの、ボトルに関してはしては、シェフがアルザスに深い思い入れがある
ことを述べた一節が記載されているのみ。いわゆるワインリストもなし。
シェフの挨拶とともに料理スタート。
■小さな前菜(アミューズ)
「茄子、椎茸、筍の煮物に豆腐とマスカルポーネチーズのムース」
初っ端から面食らいました。豆腐とマスカルポーネの組み合わせは初体験です。
しかも特有のミルキーなコクとほんのりした甘さを、豆腐が中和して抑え気味
な風味となっている為、茄子や椎茸の出汁の風味を一層引き立てています。
■前菜(肉と魚を一皿に)
「肉:薩摩豚を使用したパテ・ド・カンパーニュ、フォアグラ、ピスタチオとレモン風味」
「魚:炙りイトヨリのマリネ、ディルを添えて」
これも驚きを感じさせる組み合わせ。
濃厚でありながらクセを抑えたピスタチオ入りのパテ・ド・カンパーニュには、
アニス風味で煮詰めたフォアグラが乗せられており、さらに削ったレモンがミモザ風に散らされています。
この組み合わせ、今まで想像したことがありませんでしたが、実に見事な調和です。
フォアグラをアニス風味で煮詰める点が秀逸です。
■スープ
「新玉葱のポタージュ、ベーコンのブランマンジェにローストしたヘーゼルナッツ」
妻は、これを今日の逸品に挙げていました。
私も同感。旬の新玉葱に含まれている水分だけを使ったポタージュは、新玉葱
ならではの甘さが十分に引き出されており、これに玉葱のフリットでも乗せれば、
これだけで十分な一皿になりますが、それだけにとどまらず、ベーコンのブランマンジェ
で塩気と濃厚な味わいを加え、さらにローストしたヘーゼルナッツを加えて香ばしさ
を演出、五感全体への”攻撃”でダメを押すという念の入れようです。
■魚料理
「帆立と海老の真薯の鯛包み、ほうれん草のソース」
前のお料理までで既に十分な満足感でしたが、ここからメインです。
私は、強いて言うならばこれが本日の逸品と思いました。
帆立と海老の真薯だけでも魚介の旨味が十分に凝縮されていますが、
これを炙った鯛の身で包むことで、口内に広がる”出汁感”は確実にランクアップ。
さらに、ほうれん草のソースが控え目にメイン素材の風味を引き立てることで、
"上質な和食"が"上質なフレンチ"に衣替えした印象を受けました。
これは秀逸。
■肉料理
「諫早の銘醸豚の角煮風に長崎の地の野菜を添えて」
長崎の代表食の一つである"豚の角煮風"に極限まで柔らかく煮詰めたもの。
程よい甘さ加減と、八角スパイスの風味にホッとします。
既にメインまででかなりの満足感でしたが、脂っこさのない一皿だけに、
これならもう少し食べられそうだと感じました。
■パン
「プレーン」と「フランボア-ズと赤ワインを練り込んだ」パンの二種類。
どちらのパンもかなりの水準ですが、フランボワーズの方は、肉にも魚にも
よく合っていました。お替りをしたいくらいですね。
パンには塩、オリーブ油、砕いたナッツの三種類のスパイスが添えられていますが、
ナッツには、ちょっとした"カレースパイシー風味"が感じられ、程よいアクセント。
妻はこれをクミンと一発で見破って、シェフからお褒めをいただいておりました。
スパイスはどれもパンに良く合っていて、さりげない工夫を随所に感じます。
■デセール
「ココナッツアイスを添えたホワイトチョコのチーズケーキ」
「仏リヨン名物の赤いプラリネを削ってまぶしたフィナンシェ」
仏の美食の街として有名なリヨン名物の赤いプラリネのお菓子をまぶしている点が斬新。
これだけでフィナンシェの風味が格段に上がります。
赤いプラリネはアーモンド等のナッツ類に加熱した砂糖をまぶしてコーティングした
もので、砂糖が焦げて茶色をしていて香ばしいお菓子です。すりつぶしてお菓子の中身に
したり、そのまま食べるのが定番ですが、これをフィナンシェに振りかけるという発想。
フィナンシェにプラリネの風味が加わわることで、奥行きが増しますね。
この後、エスプレッソが供されて〆。
■ワイン
さて、ワインはリストがないので、シェフにボトルを所望したところ、リーズリング種、
ゲブルツトラミネール種、オーセロワ種の三種類のアルザスワインを提示されました。
今回は飲んだことがないオーセロワ種のワインを選択。
Jean Marc DREYER / Alsace Auxerrois Triaux
(ジャン・マルク・ドレイヤー アルザス・オーセロワ トリ・オー)
美味しかった・・・。
仏アルザスのワインなら、そこそこ知っているという自惚れが完全にへし折られました・・・。
これは今まで飲んだことが無い味。
まず、カラーが印象的。まるで熟成したゲブルツトラミネール。
テイストの第一印象は「シードラ(林檎ワイン)のような締まりのある蜜の余韻」。
和食テイストの強い創作フレンチにはドンピシャでした。
ワンオペの合間を縫って、シェフのお話を聞いたところ、やはりアルザスのテュルクアイムで
修行をされたということ。アルザスへの思い入れがあることも納得です。
ご主人のお話では「自分の料理を突き詰めて考えると、やはりアルザスワインへ行き着く」。
フレンチを追求するシェフならではの”哲学”ですね~。でも、もの凄く共感できます!
やはり、フレンチとワインは切っても切り離せない。
私たちにとってもアルザスは思い入れがある地域。この上ない親近感を覚えたことは言うまでも
ありません。
ちなみにこのお店で供される器は全て有田焼。それもシェフの拘りが表現されたデザインも多く、
長崎や近隣地域のブランドを最大限に生かしている点にも深い共感を覚えました。
コース全体を通して素晴らしい構成、お味でした。東京であれば、この価格帯ではまず不可能。
コスパの面でも最強。また必ずお伺いしたいと思います。