2回
2024/09 訪問
本物の大人の宿がここに
以前から気になっていた板室温泉にある宿の1つです。
那須町の中心街から少し離れた山あいの温泉街。宿は4、5軒があるだけですが、お料理のレベルは高いという噂。湯治もかねて、平日に1泊してみることにしました。
到着してすぐに提供されるのは、冷えた抹茶に葛きり。黒蜜が上品な甘さで美味。抹茶も冷えていながら、きちんと香りがある。ここはいい宿だぞ、とピンときます。宿は調度・内装ともにこざっぱりと控えめながら、上品にまとめられていると思います。湯に浸かってしばらく休み、18時半から楽しい夕餉の始まり始まり。
前菜類はどれも豪勢ですね。秋ながら中秋の名月に見立てた万頭が面白い。ススキをあしらったディスプレーも季節感あって素敵です。
ハートランドの生を大ジョッキでいただきながら、1つ1つをつまんでみる。どの前菜も小さいながら、丁寧に作られているのがわかります。万頭のしっとりとした食感と、中の餡のだしのうまさ。胡桃の塩キャラメルがけも酒を呼ぶお味。蛸旨煮なんて一見なんの変哲もないのですが、上品な蛸の旨味とだしの完成度が、凡百のお料理ではないことを物語っている。
お椀もすばらしいですね。完璧なだし。一見、田舎料理のような素朴さだが、料亭と同レベルの和食です。素材もいいし、豚の脂がたまらない。
大岩魚の洗いもなかなかの逸品。川魚とは思えないほど臭みがなく、上品な脂と締まりのよい身にただただ恍惚を覚える。このあたりで地元の栃木の酒に切り替えて、しっぽりと料理を楽しむことにする。
焼き物は日光高原牛の朴葉焼き。脂身ではなく、蒸し焼きにされてほろほろになった肉そのものの味を楽しむことができる。肉の旨味、脂の甘みが酒に溶け合い、至福の瞬間です。
終盤もクオリティの高いお皿が続きます。秋鮭を使った冷し鉢も、あまりお目にかかったことのないひと皿。鮭の風味に上品なタルタルが合わさり、そこにトマトやオクラなどの夏野菜の味が絡んで絶妙のコンビネーション。
最後は4種の飯友に那須産コシヒカリ、赤出汁で〆。コシヒカリは飯の粒立ちがよく、米どころ福島のものと遜色ないですね。ついつい大盛りでお代わりをもらってしまう。
デザートの飲む梅ゼリーに、なぜか白いコーヒーのブラマンジェも大変結構なお味でいうことなし。多種多様なおかずが楽しめる朝食も含め、大変クオリティの高いお料理を味わうことができる。
こちらは基本は小さな子どもお断りの宿のようですね。本質を求める大人こそが、しばしの喧噪を離れて湯と料理に向き合う場所なのでしょう。これまで泊まった宿の中で料理の味は確かに一級品ですし、ここは間違いなく和食版オーベルジュ。本物の大人の宿がここにある。本質を味わいたいあなたに。ごちそうさまでした。
(参考:お品書き)
火樹銀花
食前酒 自家製果実酒
前菜 薯蕷万頭 自家製生ハム
雲丹衣 蛸旨煮
胡桃塩キャラメル 落ち鮎オイル干し
蓮根明太射込み 新秋刀魚寿司
チーズ豆腐
南瓜すり流し
御椀 沢煮椀
人参 笹がき牛房
椎茸 えのき 三つ葉
郡司豚 黒胡椒
御造 大田原市高桑漁業産大岩魚洗い
芽物一色
焼物 日光高原牛朴葉焼
小玉葱 色パプリカ 椎茸
朴葉味噌
煮物 冷し鉢
秋鮭の焼タルタルとトロ茄子の油煮
刻み茗荷 大葉 トマト
オクラ 自家製胡麻ダレ
飯友 戻り鰹時雨煮
那須和牛塩麹煮
葉玉葱味噌
栃木県産干瓢のサラダ
御食事 那須産コシヒカリ
赤出汁
水菓子 飲む梅ゼリー
コーヒーのブラマンジェ
ONSEN RYOKAN 山喜
料理長 山口 哲人
九月吉日
2024/09/21 更新
9月に訪問し、お料理のクオリティがとてもよかったので再訪です。
前回お邪魔したのはまだ暑さも厳しい9月中旬、季節が一巡りし、晩秋の料理はどんなものかを確かめたくて、ほぼ2か月空けて予約してみました。
お湯は相変わらずいいですね。
湯上がりもしばらくは体がぽかぽか。暑がりの人間だと、熱すぎるくらいかもしれません。
夕餉は18時半から。生のグラスをサクッと飲って、まずは先付から。先鋒的位置づけの先付のクオリティから違いますね。林檎白和えに雲丹が載った羊羹的なもの。味のバランス、料理としての見た目の良さ、器との調和。心をつかまれます。
日本酒に切り替えて、先付をちびちびやっていると、土瓶蒸しが登場。ちたけという、あまり見ないきのこの香りがよく、風味によいアクセントを与えている。きのこの旨味が凝縮されたスープ。じんわりと体に染み渡るような旨味が酒を呼ぶ。
お造りは以前と同じ、日光のイワナ。初めての味ではないものの、川魚がここまでうまいというのは本当に驚きです。臭みもまったくなく、ちょうどいい塩梅の脂と旨味をまとった身を酒で洗い流してく。
焼き物の甘鯛の杉板焼き。プレゼンテーションが楽しい。実った稲をそのまま揚げて、ポンポン菓子のようにあしらい、屋良武器屋根風の民家をかたどった器の中にはおこわ。里山に訪れた実りの秋を表現しているんでしょうけど、こういう細かな演出が楽しいですね。ジオラマのようで気分が上がる。
メインの2つ目は牛すき鍋。すき焼きはべったりした味であまり好みではないのですが、さすがにこちらは別格。那須和牛の上品な脂がまったくくどくない。割り下も甘さ控えめ、だしの旨味とキレがあって、ワタクシが嫌いな凡百のすき焼きとは一線を画すお味。あっという間にお肉2切れが胃袋に消える。〆のご飯は、那須産のコシヒカリに赤出汁、大葉味噌におしんこ。白飯が安定のうまさで、お代わりするのは前回と同じ。
栗を使った最中アイスと、プルーンのグラッセ的な甘露煮でフィニッシュ。
朝食も豆皿に多品種の充実した豪華版で、堪能させていただきました。
こちらはお料理も季節によって細かく変えているようです。改めて味わってみても、大変クオリティが高いお宿。四季折々を楽しむ日本版オーベルジュといったところでしょうね。どの季節に来ても、一定以上のレベルの味が約束されていると思います。次に来るなら、春がいいですかね。ごちそうさまでした。
(参考)※原文ママ
深秋霜降
食前酒 自家製果実酒
先付 林檎白和え
クコの実
養老滑子羹
雲丹 山葵 旨出汁
白菜すり流し
蟹 青身
御椀 茸土瓶蒸し
ちたけ 舞茸 椎茸
銀杏 鳥つみれ
百合根 三つ葉
御造 日光神山水産大岩魚洗い
芽物一色
焼八寸 甘鯛杉板焼
海老 イクラ卸し
里芋田楽 渋皮団栗
鮪昆布巻 紅葉麩酢浸し
南瓜公孫樹カステラ
十六穀豊年おこわ
穴子 稲穂
鍋物 那須和牛鋤鍋
白菜 春菊 小車麩
長葱 マロニー
御食事 那須産コシヒカリ
赤出汁
大葉味噌
自家製おしんこ
水菓子 自家製栗最中アイス
プルーン甲州煮
ONSEN RYOKAN 山喜
料理長 山口 哲人
十一月吉日