2回
2025/04 訪問
伊東の名物鮮魚店。知らない人はモグリ、ってくらい有名。
伊東に来たら必ず立ち寄る「山常鮮魚店」さん。地元では知らない人はいないと言っても過言ではないレベルの有名店です。私も何度も予約して通っていますが、今回はふらっと予約なしで訪問。
予約ありのときと比べると、やはり多少選べる種類は少なめになりますが、それでもこのクオリティ、このコストパフォーマンスは驚異的。味は一切妥協なし。
この日は店頭で実物を見ながら品定め。選んだのは、ほうぼうとぶりの刺身、かれいの唐揚げ、そしてサワラのマリネ。これでお会計は1500円程度。え?これで宴会できるの?ってくらいの満足感です。
刺身はどれも新鮮そのもの。とろけるようなぶり、上品な旨みのほうぼう。唐揚げにしたかれいはカリッと揚がっていて、骨までいけるやつ。そしてサワラのマリネは、程よい酸味と香りで、箸が止まりません。
店の雰囲気はまさに“魚屋”。気取らず、地元の人と観光客が混ざり合うような感じ。店員さんの手際も良く、見ていて楽しいです。
観光で来た人にはもちろん、地元の人も日常使いしているお店。とにかく「うまい魚を安く食べたい」人は迷わずここへ。できれば予約して、豪華ラインナップを楽しんでほしいですが、ふらっと寄っても十分感動できますよ。
2025/05/03 更新
すこし肌寒い秋の夕方だった。
湯の町・伊東。
湯治宿には夜ご飯の用意がない。そうなると外食というのが常であるが、毎晩となるといささか味気ない。
そんな時に頼りになるのが、いつもの山常鮮魚店だ。
通りに漂う潮の匂い、魚の銀色の光沢。
「今日は何にしようか」と店先を覗く。
目に飛び込んでくるのは、堂々と「伊東港」と書かれた札。
その文字だけで、心が動く。
刺身の盛りは厚切りで、二人前以上はあろうかという豪快さ。
本来なら一皿で十分なのだが
いや、そこは旅の勢いだ。
鯵とカマスのふた皿
その横で、妻がじっと見つめている。
鯵の南蛮漬け。
「これ、好きなのよね」
そう言われては、もう抗う術などない。
南蛮漬けは、もはや彼女の伊東での定番だ。
当然のように追加。
「よし、帰ろうか」と声をかけると、
妻がまだショーケースの奥をのぞいている。
どうやら、なにやら珍しいものが気になったらしい。
店員さんが包みを手に取り、説明してくれる。
青唐辛子味噌に、タコやイカ、刺身の切れ端を混ぜたもの。
伊東の伝統的な味だという。
聞いた瞬間、もう分かる。
これは絶対に日本酒のやつだ。
旅の理屈など、そんなときはどうでもいい。
「じゃあ、それもください」
不可抗力のような笑いで注文。
宿に帰ると、冷蔵庫にそれらを入れ、温泉で冷えた身体を温め直す。
温泉から帰り、畳の上にそれぞれの皿を並べた。
ガラス戸の向こうには、夜風と虫の声。
湯上がりの頬に少し残る火照り。
グラスに注いだ冷酒が、すべてをまとめてくれる。
伊東の夜は、こうして静かに、幸福に、更けていく。