1回
2025/08 訪問
静けさの非対称性=和食の技と美意識をフレンチで表現する"Installation"
2025/09/05 更新
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英語・日本語・フランス語が混ざった長い店名は、読み解き深読みしたくなる。”ENSO”とは日本料理の調理法との説明もあったが、禅の書画のモチーフである「円相」も意識しているのでは。そう考えると、鈴木大拙の故郷・金沢らしい店名だなと勝手ながら得心していた。いずれにしても、和食の背景も持つシェフのお店に対する強いフィロソフィーを感じさせる店名。
店内はフルオープンキッチン、調理空間をゲストが共有している感覚。窓からの光が明るく、インテリアも無駄がない。シェフ土井さんのご挨拶をいただいた後、まずはビールで喉を潤し、キッチンでの調理の様子を眺めながら一皿目を待つ。
まずは、本日のコースに用いるそれぞれの「食材」の断片をイラストで紹介。どんな料理が出されるのかイラストを見て想像しながら待つという趣向。こういうもてなしは始めてなので、自然と期待が高まる。
コースの流れは以下のとおり。
◯落花生
・落花生のムース・能登あおさ・ウニ・シカの心臓の出汁
・落花生の形のもなか・肉味噌と薪火で炙った落花生
◯すっぽん
・すっぽんのスープ・葱オイル
・すっぽんコロッケ（竹炭パン粉）・ポークハム・ナスタチウム
・ブーダンノワール（スッポンの血）・ビーツでサンド
◯スイカ
・スイカとトマトのガスパチョ・バジルオイル・トマトジュレとじゅんさいを乗せて
◯ほおずき
・ほおずきとキャビア
・タルトにフォアグラムース・スライスほおずき・山椒のジェル・花紫蘇
◯岩牡蠣
・岩牡蠣・牡蠣のムース・人参のグラニテ添え
・牡蠣のテリーヌ・揚げた大葉と蕎麦の実添え
◯卵
卵のフラン・リードヴォー・エビのフリット・焼き茄子をカレーソースで・パセリとライム
◯能登牛
エノキ、ごぼう、うずら卵を能登牛で巻いて
和芥子・卵黄・パプリカのソース、ごぼうのムースに乗せて
◯牡丹海老
富山大門そーめんトマト和え・ボタンエビの卵とエビのジュレ
◯ます
・ます・ケークサレ・サワークリーム・ハーブとエディブルフラワー
・ますのリエット・ほうれん草のパートブリゼ
◯アスパラ
アスパラのフリット・ミル貝のコンフィ・エビのソース・黒トリュフ
◯ノドグロ（赤ムツ）
ノドグロのソテー・ツルムラサキ・コンソメオジャンボン
◯鳩
・ロースとささみ・黒米発酵ソースとグリーンピースピュレ・ジロール茸・甘長唐辛子・花韮のソテー
・腿肉のロースト・ポートワインのソース
◯紫蘇
フロマージュブラン・ワイルドベリー・紫蘇のゼリー・オレンジのシャーベット
◯蜂蜜
いちじくのテリーヌ・能登塩のアイス・蜂蜜（スイカ）・キャラメリゼアーモンド
◯コーヒー・デザート
・ロッシュチョコ
・琥珀糖・レモンソース
・タルトタタン
●お酒
・Gargery Wheat（ヴァイツェン）
・黒帯 堂々 山廃純米
個々の食材の産地までメモができなかったが、基本は石川・北陸の地の物が中心。一つひとつの食材の可能性を探るような、前衛的で大胆な料理も多く、視覚・味覚ともに大いに刺激された。
特に記憶に残ったのは、岩牡蠣と鳩。
・今が旬の大ぶりな能登の「岩牡蠣」。食感や舌触りは限りなく生に近いが、低温調理にて熱を入れることで牡蠣特有の旨味を引き出している。そこに牡蠣を使った柔らかな泡のソースを纏わせ、仕上げに添えられた人参のグラニテが温冷のコントラストを演出。フレッシュタラゴンの甘い香りが華を添え、緻密に計算された官能的な一皿に仕上がっていた。一方の牡蠣のリエットは、牡蠣のねっとりと濃厚な味を前面に、揚げた大葉と蕎麦の実の食感と香りを一緒に楽しむ、和を感じる一品。
・「鳩」はロース・ささみ・腿、3部位の特徴を活かした調理法で提供。ロースはシンプルなミディアムソテー、皮目の食感と赤身のストレートな野生味を前面に。黒米を発酵させた濃厚なソースと素晴らしい相性。ささみは低温調理で生のようなしっとり滑らかな仕上げ、爽やかなグリーンピースピュレとぴったり。行者ニンニクと共にソテーされたジロール茸と甘長唐辛子、花韮の付け合わせも、鳩肉の風味を際立たせる。
一方、腿は脚を丸ごとじっくりとロースト、腿肉の野性味のある味をポートワインを使った甘いソースが引き立てていた。
最後のスイーツまで緻密で抜かりない見事なコースで、心身ともに満たされた。”Installation”と銘打つほどの感性を刺激する料理の演出に、終始心を動かされた。