2回
2023/06 訪問
連続かき氷小説『アイツはゴーラー』2
不定期連載『アイツはゴーラー』
「暑い…」
パルコから歩くこと10分。途中急な坂があり汗ばむ2人。
「はい、サカノウエカフェに到着!どうですかタテルさん、またかき氷食べたくなってきたでしょ?」
「それほどでもねぇって」
「こんな暑い中歩いてきたのに?」
「マリモちゃんが異常なだけだよ」
「もう!いいから入りますよ」
かき氷の人気店ではあるが、平日の15時で空席がちらほらあった。待たずに入れた2人はまず端末を操作し好きなかき氷を注文する。
「マリモちゃんから頼んでいいよ」
「ありがとうございます!わぁ、メニューがいっぱい…何にしようかな」
期間限定、この機会を逃すと二度とありつけないという商品が多いとのこと。これまで数多のかき氷を食べてきたマリモは、ピスタチオクリームを特に好むという自分なりの傾向をわかっていた。
「じゃあピスタチオチェリーにします」
「俺もそれにする」
「えっ?いいんですか?」
「同じもの食べた方が感想を共有できて思い出に残る。アヤとフレンチ行ったときも、前菜からメインまで同じ料理頼んで楽しかったもん」
「そうなんですね。勉強になります」
「俺もマリモちゃんからかき氷のこと、勉強させてもらうね」
【会計も済ませ席につく。
「それにしてもマリモちゃん、何でゴーラーになったの?」
「マナモさんがかき氷好きでいらして、一緒に食べに行ったらすごく美味しかったんです!そこからもうハマっちゃって」
「マナモさんきっかけか」
「タテルさんもマナモさんなんですね」
「どういうこと?」
「『さん』づけで呼ぶんですね。タテルさんの方が1つ上なのに」
「まあね。ほら、マナモさんって風格があるじゃん?『ちゃん』づけだと違和感あるんだよね」
「本人は『ちゃん』づけで呼んでほしい、っていうけど、難しいですよね…」】
そんな他愛もない話をしている内にかき氷がやってきた。
「いただきます…えっ、何この氷!すぐ消えていく」
「ホントだ。こんな口溶けいい氷はそうそうないです」百戦錬磨のゴーラー・マリモも驚く削りの妙。
「これならペロッといけちゃうね。ピスタチオの味も濃厚だし、チェリーは…ん?不思議な味だ」
「そんな不思議ですか?」
「フローラルというか何というか…地味に強烈で面白いんだ」
その時両者のかき氷に雪崩が発生した。タテルは中に落とし込むように食べていたため被害はなかったが、マリモは相変わらず派手に崩してしまった。
「まただ…何でこうなるの⁈」
「さすがマリモ。フランス仕込みだね」
「どういうことですか?」
「そのかき氷の食べ方。奥から手前に掬ってるよね」
「言われてみればそうですけど」
「フランス料理のスープの作法だよね」
「なるほど!私そうやって躾けられていました」
「フランスにいた頃の癖が出てるなぁ、って思ってた。かき氷は真ん中を開けて内側に雪崩れさせるのが正解だと思うよ」
「そうですね…」
「でも派手に雪崩れさせるマリモも面白いし可愛いけどね」
「やだぁ、照れますわ」
氷はやがて溶け形がなくなっていたが、ピスタチオの味は薄まらなかった。それだけクリームが濃厚にできているということだ。
【「なんかもう1杯食べれそうな気がしてきた。でも怖いな」
「私も流石に3杯目は無理です」
「そりゃそうよね」
「お金がなくなっちゃうから」
「金銭ネックかーい!」
「食べようと思えばいくらでも食べたいです。私の胃、バカなので」
「自分で言ってるし。やっぱ只者じゃないなコイツ」
「『コイツ』とか『アイツ』とか呼ぶの、やめてください」
「ごめんって」】
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2023/07/23 更新
不定期連載『アイツはゴーラーでコイツはジェラ』
アイドルグループ「綱の手引き坂46」の特別アンバサダーを務めるタテル(25、俗称「コイツ」)は、メンバー随一のゴーラー(かき氷好き)・マリモ(19、俗称「アイツ」「天才」)を誘い出し、美味しい氷菓探しの旅をしている。
☆これまでのあゆみ
1.伊太利亜のじぇらぁとや(浅草)
https://s.tabelog.com/smartphone/reviewer/014810282/review/detail/B471829054/
2.壽々喜園
https://s.tabelog.com/smartphone/reviewer/014810282/review/detail/B472060216/
3.天野屋
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【神田明神でお参りをする2人。
「タテルさん、何を願っているのですか」
「そりゃもちろん、綱の手引き坂がもっと大きな国民的グループになることさ。マリモこそ何願ったんだ」
「当ててみてください」
「年齢聞いてるんじゃないから…あれだ、メイに『世界で一番可愛い』と言ってもらいたい」
「ぶっぶー。正解は『お金持ちになりたい』でした」
「戯けたこと言うな!十分金持ちなくせに」
「戯けてるのはどちらですか、『コイツ』さん」
「何だと、『アイツ』」
軽く小競り合いした後、清水坂を登る2人。そこへ同じ綱の手引き坂46メンバー・京子がやってきた。
「京子さん、お疲れ様です!」
「マリモちゃんじゃん。タテルくん、マリモちゃん連れて何してんの?変なこと教えないでよ」
「変なことって…かき氷食べに行くだけだよ」
「私もついていっていい?」
「もちろんですとも」】
夏の終わり、気温も低めだったため待つことなく店内に入ることができた。先にタブレットで商品を選び会計する。
【「京子ってかき氷食べるの?」
「めっちゃ食べる」
「私と1回一緒に食べに行って、そこからハマられたみたいです」
「そうなんだ。全然かき氷のイメージないもん京子」
「何よかき氷のイメージって。タテルくんの方こそないって」
「俺はスイーツマッドだからな。何でも食う…」
「私はマスカットだな。マリモちゃんは?」
「いちじくにします」
「聞け!俺もいちじくにする!」】
「2人はここ来たことあるの?」京子が問う。
「もちろん。マリモが見つけてくれたんだけど、ここの氷の口溶けは日本一綺麗なんだ」
「そんなにすごいの?」
「すごいんですよこれが。味の作り方も上手いくてびっくりしちゃいました」
「マリモちゃんが言うくらいだから相当なんだろうな」
「あまりにも好きすぎて、カゲさんも連れて来ました」
「おい、いつの間にカゲと…」表情が少し曇るタテル。
「カゲさんも『うまぁい』って唸っておられました。それにしても京子さん、さっきまで何してたんですか?」
「ラーメン食べに行ってた」
「俺抜きで?」またもや表情を曇らすタテル。
「タテルくんがあまり好きそうじゃない店だったからさ」
「この辺だともしかして、大至?」
「当たり。タテルくんには物足りなさすぎるかなって」
「タテルさんは派手さがないとダメですもんね」
「だとしたらさっき食べた天野屋の甘酒氷もダメでしょ。オーソドックスでも美味しいものはいっぱいある」
今回アイツコイツコンビが戴くいちじくワイン煮は、オーソドックスに見えて奥が深い。言葉で語るのが酷なほど複雑で華やかな味。超一流パティシエでさえこの味を出すことは難しいと思う。一方でいちじくらしい果実感もあり素材にも寄り添っている。
極めつけはブルーチーズのソース。青黴のクセが赤ワイン煮に対するアクセントとして働きまた違った味わいを引き出す。
「一流のカウンターデザートとかフレンチコースのデザートとかにはこういう品質を求めている」
「タテルさん、またなんか訳わからないこと言ってます」
「タテルくん、もうちょっと私達に合わせたコメントしてくれる?」
「そうだな…かき氷界初のミシュラン掲載店になってもおかしくないね」
「そうそう、そういうことです!」
「えマリモちゃん理解できた?私全くわからないんだけど」
「京子はミシュランなんか知らんっしょ」
「バカにしないで!ミシュランってあれでしょ、アメリカかなんかの…」
「京子さん違います。ミシュランはフランスです」
「あフランスね!」
「アホ丸出しじゃないか…そこが京子のいいとこなんだけどね」
「恥ずかしいって…」
【タテルはもう1杯食べるか悩んだが、さすがに腹を壊しそうだと考え泣く泣く諦めた。するとマリモと京子がそそくさと2杯目を注文した。
「マジかよ…2人とも胃袋が男子高校生」
「これくらい余裕ですよね」
「余裕じゃないだろ」
「タテルくんは体動かさないもんね。今度一緒にダンスレッスンしよう」
「やってもいいけどさ…」
「京子さん、私ラーメン食べたいです」
「じゃあ阿吽行く?」
「まだ食うのかよ」
「あでも営業時間外だ。夕方は振り入れがあるし、今日のところは諦めよう」
「そんな…」
「マリモちゃん、食べすぎは良くないぞ。ほどほどにな」
「タテルくんには言われたくないよね、こんな大きい体して」
「どういうことだよそれ」
「『コイツ』さん、というわけで一緒にレッスン行きましょう」
「本当に行くのかよ…」
「イテテテ!体硬いんだって俺」
「これくらい朝飯前にして。じゃあ次は腕立てと腹筋100回ずつ!」
「ムリ!」
「ずべこべ言わずやる!」
「何でこんなことに…」】
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