『店主と客の立場とは』須藤塔士さんの日記

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塔士の食い道楽日記

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須藤塔士 (男性・東京都) 認証済

日記詳細

 むかしむかしある国に、洋服を自慢することが大好きな王様がいた。ある日、国に一人の仕立て屋がやって来て、「愚か者には見えない布で、この世で一番珍しい服を作ることができる」と言う。王様は、それがあれば部下が愚か者かどうか判断できる、と喜んで服を作ってもらうことにした。
 王様は、二人の部下に仕立て屋の作業を見に行かせるが、二人にはまったく布地が見えない。二人とも失職させられるのが怖くて王様には嘘をついてしまう。しまいには王様自身も完成した洋服を「見えない」と言えなくなってしまった。城中の人々も褒めたたえるので、王様はすっかり有頂天になって「立派な洋服」を着てパレードを決行する。
 王様のパレードを見た一人の子どもが「あの王様は何も着てないよ」と大声で言い、みんなの目を覚まさせる。威張っていた王様は顔を真っ赤にして、「パレードをやめる」と言うが、家来に「途中では止められない」と言われ、しぶしぶ「服を着たまま」城までパレードを続けるのだった。
 世の中は多くのレストランで溢れている。店の雰囲気作りについては、もちろんそれぞれの店によって決められ、すべての作業がマニュアル化されている店もあれば、客数を絞って心温まる対応を心掛けている店もあるだろう。その反対に、ぶっきら棒だったり、客なんて来なければいい、とすら思っているレストランもあるかもしれない。
 レストランに行くと、顧客と店主とのいざこざはしばしば見受けられる。それは料理が不味いというよりも、サービスがその人に「合わない」ことが理由な場合が多い。話がこじれると、場合よっては、そのまま退店させられたり、出禁を申し付けられたりするかもしれない。こういう対応は安い店で起こると思われがちだが、意外と高級店の方が多い。自分の料理やサービスにバリューがあり、それによって店が成り立っている、と勘違いした店主が、美味しい、素晴らしい、と客に褒めたたえられることで増長していく。その中で、「あなたは服を着てない」と正直に感想を述べた客に制裁を加える。こういうシーンを見かけると、気分が悪いし、その時間がぶち壊しになるが、裸の王様には、「それだと寒くないですか?」と言うくらいの”優しさ”は持ち合わせてもいいのではないだろうか。
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