15回
2024/09 訪問
ネパステとは幸福であり、幸福とはネパステである
平日のネパールステーション(略して"ネパステ")の混雑具合を見てみたいという好奇心に突き動かされ、有休を取得していた火曜日の12時半頃に訪問した。予測していた通りだった。クールビズの男性やオフィスカジュアルの女性などで大変賑わっている。店内ではポップな洋楽がいつものように流れている。隅の一席がかろうじて空いていた。
この混雑っぷりをネパール人お兄さんたちはものともしない。「いらっしゃいませー!!」「ありがとうございましたー!!またよろしくお願いしまーす!!」威勢の良い挨拶が店の奥から入口まで通り抜ける。にこやかに笑顔を絶やさず、忙しい素振りを微塵も見せない。料理が来るまでの時間は10分もかからなかった。名古屋"駅"に匹敵する利用者数であっても(ネパール"ステーション"だけに)、ネパステは余裕を見せてくれるようである。
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★タカリセット 1280円
ネパールの一民族である"タカリ族”のダルバート(ネパール定食)である。ライス、ダル(豆のスープ)、チキンorマトンカレー、ミックスアチャール(漬物)、ライス。それらに加えて、タルカリ(野菜炒め)、サーグ(青菜炒め)、グンドゥルックのアチャール、チャトニ(スパイスソース)、生野菜スライス(きゅうりと人参)、パパド(豆せんべい)がついてくる。これらのおかずが真鍮色のプレートの上でライスを取り囲んでいる光景は、なんとも芸術的である。
ダルとマトンカレーの他店との違いは、高級感である。ダルはクリームシチューのようで、マトンカレーはビーフシチューのようだと表現したくなる。どちらも刺激的なスパイスの深い味わいがあり、手間ひまかけて作られたのだろうと想像する。一度ライスにかけて口に運べば、スプーンを動かす手が止まらなくなる。
野菜のおかずは美徳のあるレストランらしく、少しずつ盛りつけされている。タルカリのジャガイモはホクホクで、サーグはシャキシャキで、ミックスアチャールの大根や人参はコリコリしている。食感一つとっても、バラエティ豊かである。珍しいのは乾燥発酵野菜であるグンドゥルックのアチャールで、酸味を効かせてあるため、少量でもインパクトが強い。
ライスは日本米とバスマティライスのミックスで、最適な炊き加減でパラパラになっている。ダルやマトンカレーをかけたりおかずを混ぜたりして食べていれば、あっという間に一周目は終わる。二周目というのはすなわち、おかわりである。ライスとダルとカレースープはおかわり自由なのである。私はライスを少し追加していただいた。元が芸術的なタカリセットであるだけに、プレート上で印象派絵画を描いているような気分になってくる。完食。
私は+100円で、食後のホットチャイを追加注文した。つけてくださったスティックシュガー2本で甘くして飲んだ。カルダモン・クローブ系の爽やかな風味が心地よい。自然と喜怒哀楽の楽へと表情が緩んだ。
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似たような人口密度だとしても、東京に行って気が病んだという知人は私の周囲に何人もいるが、ネパステに行って気を悪くしたという知人やレビューは見聞きしたことがない。料理も接客も雰囲気も、エスニック料理店の中で何もかもハイクオリティなのである。
J.S.ミル的な功利主義の考えに従えば、レストランでの食事というのは身体的欲求を満たすだけの低次の快楽に分類されるのかもしれない。しかし、ネパステのネパール料理までそう貶めるのは明らかに不適切だと思われる。快楽ではない。ネパールの伝統的な食文化や雰囲気に包まれ、心の奥から身体全体に広がってきて何日も消えないもの、これが幸福でなければ何であるというのだろうか。
そして、ネパステが幸福であると同時に、幸福とはネパステなのである。古代ギリシャのアリストテレス、イギリスのバートランド・ラッセル、日本の三木清など、古今東西の哲学者たちがいかにして幸福になれるかという問いを論じてきたが、私の考えからすれば、ネパステを訪れることが幸福の十分条件である。すなわち私はシンプルにこう主張する。「幸福になりたければ、ネパステに行きたまえ」と。
ダンネバード。ごちそうさまでした。
タカリセット 1280円
ダル
マトンカレー
タルカリ、サーグ
ミックスアチャール、グンドゥルックのアチャール
パパド、生野菜、チャトニ
ライス(日本米とバスマティライスのミックス)
タカリセット 1280円
ライスを少しおかわり
ホットチャイ
サラダ
2024/10/07 更新
2024/07 訪問
リッチで無限の880円ダルバート
ビルが立ち並ぶ日曜の名古屋丸の内で、私はネパールステーションへと突き進んでいた。7月の太陽がアスファルトを照りつけ、足の裏が火傷してしまうのではないかという暑さだった。悠々と歩を運んでいたが、店に続く2階への階段をいざ目の前にすると、やはりどういうわけか緊張した。
スライド式のドアを開けると、いつもの親切なネパール人お兄さんがいらっしゃった。その隣には前回訪問時初日だった若いネパール人女性(女の子と呼んでもよいかもしれない)が立っていた。初日はさすがに不安そうな様子を見せていたが、約1ヶ月経ち、お兄さんの眼差しを受けながら料理を運んだり片づけたりしていた。マスクを外したその端正で少しあどけない微笑みは、フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』のように、絵画にしたら素敵な作品になるだろうと私は思った。
それでも私はまだ緊張していたのか、サラダを持った左手が震えていた。
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★ダルバットセット 880円
幾度も食しているネパステのダルバート(ネパール定食)。その特徴はリッチさにある。
ダル(豆のスープ)はクリーム色をしており、その通りにクリーミーである。一般的な香辛料やニンニク、生姜に加え、ジンブーまで入っている。その濃厚な味わいはシチューのようだと言っても過言ではない。このダルが小腸から吸収され自分の身体の一部になるのだと考えると、私は無類の喜びを感じる。
チキンカレーはトマトとみじん切り玉ねぎがベースになっており、さらっとした舌ざわりを感じられるほど香辛料がふんだんに、かつ巧みに入れられている。さっぱりしつつ、味に深みがある。鶏むね肉は小さめのサイズでいくつも浸っている。上にパラリとふりかけられた僅かなパクチーも、なんだか芸術に見えてくる。
アチャール(漬物)は大根や人参、きゅうり、豆がコリコリとした食感と酸味を与えてくれる。ライスはバスマティライスと日本米のミックスで、もちっと感とパラパラ感が共存している(この日のライスの硬さ柔らかさ加減は申し分なかった)。
つまりネパステのダルバートは、高級感があるのだ。多くの人が口をそろえるように、当然美味い。見た目からもそれが明々白々である。そのクオリティの高さにもかかわらず、880円で、ダル、カレースープ、ライスはおかわり自由である。スプーンを取った瞬間、終わりのない無限が始まるのだ。財布がリッチでなくても、舌とお腹をリッチに満たすことができるのである。
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私はダルやカレーをライスにかけ、アチャールも混ぜたりしながら、ライスを口に運んでいった。香辛料の刺激が喉を超え、食道を波打たせているかのように感じた。そして私の脳に命令が伝達されるのだろう。身体の内側からどんどん食べろと言われているかのように、私はライスの追加をお願いした。
食事の最中、BGMでレディー・ガガの"Born This Way"が背後から流れてきた(カバーのようだが)。"I'm beautiful in my way, 'Cause God makes no mistakes, I'm on the right track, baby I was born this way". というサビが耳に入ってくると、ネパール料理を追求する私の姿勢は、時に揶揄されることがあれど、間違っていない道なのだと思えてきた。妙な自信がついた私は、一滴のダルも一粒のお米も残さないように真鍮色の食器をきれいに平らげた。残っていたのは気持ちのよい汗と、心と身体のぽかぽかした感じだけだった。
ダンネバード。ごちそうさまでした。
2024/07/23 更新
2024/06 訪問
ネパステクオリティ、サモサチャットとキーマパラタ
6/8・6/9の2日間、名古屋栄でネパールフェスティバルが開催された。ステージでの歌や踊りだけでなく、ネパール料理店10店舗ほどが屋台を出していた。その中で"ネパールステーション"の前には常に10人程度の列ができていた。調理・接客をするネパール人お兄さんたちが忙しそうにしていた。
それから一週間後の土曜日、私は栄での用事のついてに、丸の内の店舗にやってきた。2階へと続く階段を目の前にすると、私はなぜか毎回緊張する。ドアを開け入店すると、お兄さんたちの「いらっしゃいませー!!」という威勢の良い声が響き渡った。
私は厨房に近いテーブル席に腰かけた。店員さんたちと近い距離でお話がしやすいからである。11時過ぎだったが、すでに先客が2組いた。BGMでは女性歌手がエド・シーラン『Shape of you』を始めとする洋楽を歌っていた。
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グランドメニューから2品注文をさせていただいた。
★サモサチャット 700円
★キーマパラタ 580円
「キーマパラタは15分くらい時間がかかりますが、大丈夫ですか?」と店をまとめるお兄さんが尋ねてきた。「ノープロブレム」と私は間髪入れず返答した。今日は土曜日なのだ。日本もネパールも休日である。単品注文時でもサラダはサービスで提供された。
先にやってきたのはサモサチャットだった。インネパ版コロッケのサモサを砕いて、野菜やヨーグルトなどと和える独特の料理である(頑張って作ったサモサを砕いてしまうところが面白いなと思う)。
ネパールステーションのサモサチャットはさらに面白い見た目をしていた。サモサや野菜を和えた後、上から包み込むようにチョウチョウ(ネパールのインスタートラーメン)がふりかけられ、その上を縦断するようにヨーグルトがかけられ、トマトが少しばかり乗せられている。スプーンで中からサモサをすくって混ぜるようにして食べていった。揚げたサモサの生地とチョウチョウにより、サクサクした食感が特徴的になっている。塩味は強めにつけられており、それをヨーグルトでほんのりまろやかにしたような味だった。
キーマパラタはピザのように6等分されてやってきた。以前ここのジャガイモのパラタを食べてとても美味しかったので、今回はキーマを選んだ。お兄さんによると、ナンが砂糖やら何やらいろいろ入れるのに対して、パラタはそういったものをほとんど入れないらしい。つまり、パラタのほうがシンプルなパンなのである。
手で持つと熱々だったので、ちぎって口に運んでいった。薄い生地の裏面がパリッとしており、それと同時に生地自体は非常にもっちりしている。ナンよりもチヂミを食べている感覚に近い。中にはひき肉がニンニクや香辛料と一緒に挟まれている。スパイシーな赤いアチャール(漬物的ソース)をつけて満足度が増す。
サモサチャットもキーマパラタも一人分には多かったので満腹になった。
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お店の赤いユニフォームを着た見慣れない女性の方がいた。新しいスタッフの方で今日が初日のようである。その女性スタッフさんはオリマーにおともする可愛らしいピクミンのように、お兄さんの後をついて行動していた。お兄さんが料理のことから言葉遣い、片付けの方法まで、詳しく教えていらっしゃった。私はそんな姿を目で追い、「頑張ってください」と女性スタッフさんに言った。お兄さんが「こういう時は、"頑張ります"って返せばいいよ」と女性スタッフさんにおっしゃっていて、微笑ましかった。
思い返せば、朗らかにホール業務を担当されている別のスタッフの方も、今年の1月に新しく加入したのであり、当時お兄さんから丁寧に指導を受けていた。それが今では違和感なく慣れた接客をされている。
こうしてネパステクオリティは維持されていくのだろう、と私は思った。スタッフが変わっても、料理の味、そしてきちんとした接客が連綿と受け継がれていく。ネパールステーションはネパールステーションのままであり続ける。日本人もネパール人も常連として来店し続ける。
お兄さん曰く、ネパールフェスティバルでネパステを知り、レビューサイトでの高評価を目にし、実際に店舗まで足を運んでくれたお客さんもいるらしい。平日のネパステの混雑は(オフィス街ということもあり)筆舌に尽くしがたいほどすごいらしいが、そのうち休日まで同様になってしまうのではないだろうか。次回のネパールフェスティバルで、ネパールステーションの行列は10人程度では済まないのかもしれない。
ダンネバード。ごちそうさまでした。
2024/06/30 更新
2024/04 訪問
絶対的な満足感、ぼんじりセクワとフライドライス
約2か月ぶりにNepalSTATIONを訪問した。友好関係の構築のためには、定期的に顔を出すことが欠かせない。仕事でもプライベートでもそうである。
休日の12時頃で、私の後ろの席では若いネパール人男性客2人がトーンを抑えたネパール語で話していた。BGMではMaroon5の『Sugar』を女性アーティストがカバーで歌っていた。お店を回しているのは4人のネパール人お兄さんたちで、左胸にお店のマーク、背中に白抜きで"Nepal STATION"と書かれた黒いポロシャツを統一して着ていらっしゃる。あれ欲しい。
いつものお兄さんは今日はいないようである。その代わり1月に入った別のお兄さんがいらっしゃった。にこやかな表情を常に浮かべていて、クラスにいたら女子から人気を得そうだと私は思う。もうここでのホール業務にも慣れきっている様子である。「サンチャイ フヌフンチャ?(元気ですか?)"」お兄さんがそう尋ねて私の前にサラダを置いたので、私は身体の力を抜いた。
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私はグランドメニューを開いた。セクワが食べたい。ポークセクワが美味しそうである。その下に同じ値段で"ぼんじりセクワ"...? ぼんじりって何だっけ?"だんじり祭り"のように"ぼんじり祭り"があるのか、"ボンジュール"と"ぼんじり"の違いは何なのか。そういった疑問を抱くレベルで私は世間知らずなのである。ささっとスマホを取り出し検索してみた。とりあえず鶏の部位だということはわかった。
「ぼんじり...セクワ?ってできますか?それとベジフライドライスも」お兄さんは笑顔で私の注文を厨房に伝えられた。
★ぼんじりセクワ 600円
セクワはネパール風炭火串焼きである。チキンでもポークでもマトンでもないぼんじりのセクワ。サラダとアチャールと一緒に6個お皿に乗ってやってきた。
小さめだな、という第一印象だったが、魔法のランプから巨大な魔神が飛び出したかのように、香ばしい匂いが大きくふわーっと眼前で広がった。フォークで刺して口に運んでみて、私は目を見開いた。これは美味い。脂身があってとてつもなくジューシーである。コリっという食感からジュワーっと肉汁が口内に流れ出る。
一緒についてきた赤いアチャールは、ソース状のトマトベースの漬物である。辛味と酸味がついていて、セクワにつけると一層香辛料の風味が増す。ぼんじりの実際のサイズよりも大きな満足を味わえた。侮ってはいけない。
★ペジタブルフライドライス 680円
ネパール風野菜チャーハンである。シンプルな料理がゆえお店によって多少の当たりハズレがあるが、Nepal STATIONのフライドライスはこれまで食べたフライドライスの中で一番だと感じた。
こんもりと盛りつけられたフライドライスは、日本米とバスマティライスのミックス米、そしてミックスベジタブルから作られている。味つけが美味い。少しもっちりしたお米の中に、なんといえばいいだろう、うまみがぎゅっと詰まっている。噛めばそのうまみが口の中で広がる。
食べていくと首から汗がしたたり始め、私は上着を脱ぐ。胡椒を中心とした香辛料が効いていて、なかなか刺激的に仕上がっているのである。スライスされた人参・きゅうりに加えて、こちらにもアチャールが添えられているのが嬉しい。
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レストランにとってお客さんからの信頼の維持というのは容易ではないはずである。しかしNepal STATIONの信頼は揺るがない。何を注文しても味が期待を上回ってくる。裏切られることがない。
店員さんの中に体格が良く背の高いお兄さんがいらっしゃり、ちょっと怖い人かもしれないという歪んだ偏見を私は持っていた。しかしそのお兄さんはにこやかなお兄さんから私の話を聞き、「サンガイ ネパール ジャオウン!サンガイ ラマイロ ガルネ!(一緒にネパールに行こう!一緒に楽しもう!)」とおっしゃった。気さくな方だとわかり、私の表情も緩んだ。「サンガイ ジャオウン!ティケット キニディノスナ!(一緒に行きましょう!チケットを買ってくださいな!)」と私は返しておいた。
こうして私はいつものように絶対的な満足感に浸る。気分は高揚する。帰路の途中で、ぼんじりセクワの歌を作詞作曲し、唇が破裂しそうな勢いで口ずさみだしていた。もし次回NepalSTATIONでぼんじりセクワをつまみにお酒を飲むことになったら、周囲を気にせず振り付けと一緒に曲を披露しているのかもしれない。
ダンネバード。ごちそうさまでした。
2024/05/18 更新
2024/03 訪問
絶対的な満足感、美しきふわふわビリヤニに埋もれたい
最近Nepal STATIONに来る頻度が上がっている。私の舌も心もNepal STATIONを求めているからだろう。この日も前日の酒による気怠さと、なんとなくビートルズの『Yesterday』を口ずさまずにはいられないセンチメンタルな気分に浸りながら、2階への細い階段を上がった。
ドアを開けた瞬間、いつものお兄さんがいらっしゃった。私は反射的に「ナマステ~」と両手を合わせて挨拶し、それにより自然に笑顔になれた。日曜日で四方八方のテーブルにお客さんがいらっしゃり、その間を歩いてお店中央の席についた。スタッフ一丸となった「いらっしゃいませー!!」「ありがとうございましたー!!」という声が、ホームランの快音のように響いていた。
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「アージャ ケ カヌフンチャ?」(今日は何を食べますか?)
事前に決めていた。
★ビリヤニセット 1080円
チキンか野菜かラムか選べたので、ラムビリヤニにした。辛さは中辛でお願いし、ドリンクは食後にホットチャイをお願いした。料理を待っている間、私は参考文献に目を通す研究者のように、グランドメニューをじっくり一つ一つ眺めた。待ち時間のこれが地味に楽しい。他では食べられない珍しいものばかりである。全部食べて、すべてのネパール料理が私の身体の一部になればいいのにと思った。
お兄さんがラムビリヤニを持ってきてくださった。手にはライタ、そしてダル(豆のスープ)まで。「サービスです」とお兄さん。思わぬ僥倖に私は「デレイデレイダンネバード」(本当に本当にありがとうございます)と口にした。
すごく爽やかな香りがする。「美しい」、私は思わずそう声を漏らした。丘のような盛りつけの下のほうは茶色めのお米、上に行くにつれてオレンジや黄色のお米になっている。紫玉ねぎとトマト、レモンが上から乗せられ、てっぺんには緑のパクチーがひとつまみふりかけられている。画家であればすぐに絵具とキャンバスを取り出したくなる景色である。
ビリヤニはもちろんバスマティライスで作られていた。ふわっと軽く柔らかい。スプーンで口に入れると、口当たりの良さを感じる。でも味は辛味や芳香が渾然一体となっていて、刺激的で華やかである。お兄さん曰く、あらゆる香辛料を入れているらしい。ラム肉(私にはマトン肉との違いがわからないが)は大きくお米に混じっていた。
ダルスープは言うまでもなく、ポタージュのように濃厚で豊かな味わいがあった。ライタはただのヨーグルトよりも、甘味と酸味のあるさらっとした作りになっていた。これらをビリヤニにかけながら、ささやかな味変を楽しんだ。
あぁ、このふわふわビリヤニに埋もれたい。夏が来るまで、優しくも厳しいビリヤニに包まれていたい。それができたらなんと幸せだろう。よだれが出てくる。英語の仮定法的な空想にふけっているうちに、あっという間にビリヤニを完食してしまっていた。
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パソコンを使って作業をしていいかお兄さんに尋ね、食後のホットチャイに砂糖を入れてゆっくり飲みながら一仕事した。飲み終えると私はパソコンを閉じて席を立った。「ダンネバード。ごちそうさまでした~」とお兄さんを呼んだ。
前々から気になっていたことが私にはあった。「ここって、ネワール文化(ネパールの一民族)と関係しているんですか?店内の装飾もネワールっぽいし、ネワリカザセットやチャタマリ、バラなど他では手に入らないネワール料理がありますよね?」
お兄さんは笑顔を浮かべ、そうだと応えられた。そして私はそれまで知らなかったのだが、お兄さん自身がネワール民族出身とのことだった。つまり、お兄さんはネパールに根づく伝統文化を名古屋の中心で体現しようと努めているわけである。ネワール出身ということは、お兄さんの第一言語はネワール語で、ネパール語は第二言語とのことだった。
お兄さん、そしてNepal STATIONと距離を縮められた気がして、私は嬉しかった。「次ネパールに行ったら、トリブバン大学のネパール語コースに入学して、長くネパールに住んでみたいと思っているんです。でも、ネワール語のコースでも面白そうですね。お兄さんしか理解してくれないかもしれないけど」お兄さんはまた笑顔をこぼした。
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料理の味も雰囲気も接客も揺るぎない信頼と安心感がある。どんな時も絶対的な満足感を提供してくれるネパールレストラン、それがNepal STATIONなのだと毎回のように私は肯いた。
ダンネバード。ごちそうさまでした。
2024/03/08 更新
2024/01 訪問
完成されたネパールレストラン、美しきタカリディドセット
赤いネパールの旗が2本青空に突き出していた。エスニックな世界へと誘う細い階段を上る。「いらっしゃいませー!!」というネパール人(ネパリ)お兄さんたちの威勢の良い声に迎えられる。幻想的な明かりが灯る店内を進んで、奥のテーブル席に座る。
また来てしまった、名古屋丸の内のNepal STATION。私は休日にどこのネパール料理屋に行こうか激しく迷うのだが、親近感の湧くところで、ネパリ店員さんと話して美味しいものを食べるのが一番だ、という結論に至り、やっぱりここに来た。
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いつものネパリお兄さんが私の前にサラダを置く。何を注文するかは事前に決めていた。
★タカリディド&ライスセット 1380円
辛さは中辛、カレーはマトンでお願いした。パクチーの有無を尋ねられたので、もちろんありと応えた。
お兄さんが片手にライス、片手に大皿をもってやってきた。整った料理の並びを見るだけで、私の顔もほころびを抑えられなかった。自然にテンションが上がる。
中央の紫茶色の物体が"ディド"である。お湯に粉を入れて火力を加えながら練って作り、日本のそばがきに似ているとも言われる。お兄さん曰く、お米に劣らずネパリはディドが好きらしい。特に山村での主食として食べられ、ミルクと一緒に食べたりもするとのこと。ディドは腹持ちがよく、体力仕事のエネルギー源になるのである。
ディド、よく見たら可愛いではないか。ぐでたまのように中央に寝そべっているディドをスプーンで取って口にしてみる。柔らかくて口当たりがよく、お餅のようである。
これをダル(豆のスープ)につけて食べる。Nepal STATIONはこのダルが美味しすぎるのである。ジンブーやギー(インネパバターオイル)の風味がリッチ感を生み出している。少しとろみがあってクリーミーで、たまらなく濃厚である。ダルというより、ダルを超えた何かのように感じる。
次はディドをマトンカレーにつけて食べる。こっちはマトンカレーを超えて、ビーフシチューのようなのである。香辛料が舌を包み込み、味わい深さを与えてくれる。
おかずとして、パパド(豆せんべい)、生野菜、トマトのアチャール(漬物)、グンドゥルックのアチャール、ミックスアチャール、サーグ(ほうれん草炒め)、タルカリ(ジャガイモとカリフラワー炒め)が並んでいる。乾燥発酵野菜のグンドゥルックが出されるとは、本格的である。どのおかずも少しずつ盛られており、欲張らない美徳のようなものを感じた。
ディドをほぼ食べ終え、シメとしてライスを大皿に移した(日本米とバスマティライスのミックス!)。ダルを少しおかわりした(ライス、ダル、カレースープはおかわり自由!)。大皿上に一粒のお米も、一切れの野菜も、一タレのカレーも残さないよう、綺麗に味わい終えた。
なんというか、美しいディドセットだった。見た目も端正なのだが、料理の味にも心を掴む美しさがある。「お腹いっぱいです。ディドを食べると休みたくなりますね、仕事をしたくなくなりませんか?」と私は冗談を述べた。お兄さんはマスクの下で笑みを浮かべた。ディドを他の店でも3回食べたことがあるとお兄さんに伝えると、そっちとこっちと比べてどう?と訊かれた。もちろんここが一番美味しいと伝えた。
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この日は新しいスタッフさんが入っていたようである。お兄さんが後ろについて、こういう時はこう声をかけるというように指導をされていた。お客さんが入ると、全員で「いらっしゃいませー!!」と明るく声を発していた。徹底されている。
初めて私がここに来たのは1年半前だった。その際と同じ感想を再び抱いた。Nepal STATIONは"完成されたネパールレストラン"である。料理も雰囲気も接客も完全無欠で、まさにレストランという響きにふさわしい。絶対的な安心感があり、絶対的な信頼を置くことができる。
"不完全なものこそ美しい"という芸術家気取りの自論を私は持っているが、Nepal STATIONは例外だと感じる。料理の美しさだけではなく、あらゆる面で完成されている美しさがある。表面的にではなく、心の奥底を捉えるような美しさである。その美しさは、日本人かネパリかを問わず、ネパール料理好きかそうでないかを問わず、すでに多くの人を魅了しているのだろうと思う。
ダンネバード。ごちそうさまでした。
タカリディド&ライスセット 1380円
ディド
ダル
ディドをダルにつけて食べる
マトンカレー
マトンカレーのマトン
パパド、生野菜、トマトのアチャール
グンドゥルックのアチャール、ミックスアチャール
タルカリ、サーグ
ライス
タカリディド&ライスセット 1380円
ダルを少しおかわり
サラダ
メニュー
内観
店への階段
外観
2024/02/10 更新
2024/01 訪問
ネパールマッコリを飲んで、ネワールお好み焼きを食す
買い物を終えた17時30分頃、"ネパールのお酒を飲んで、ネワール料理を食す"という目的を掲げて、丸の内のネパール料理店"Nepal STATION"に入店した。2階への細い階段が異世界への道のようで、夜は特に緊張する。店内のエスニックな明かりも、夜だと一層温かさを増している。
ネパール人(ネパリ)のお兄さん2人がスタッフとしていらっしゃった。ランチにいつもいるお兄さんはいらっしゃらないようだった。ネパリのお客さん2組が先に食事をしていた。
ネパリは洋楽をあまり聴かないと友人から聞いたが、BGMとしてジャスティン・ビーバーの"Love Yourself"が思いっきりかかっていた。金曜の晩のミュージックステーションならぬ土曜の晩のネパールステーションとして、私はこの選曲は悪くないと思った。
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★チャン 600円
★ミックスバラ 780円
チャンはネパールのマッコリ、あるいはどぶろくのようなお酒らしい。これを愛してやまないネパール在住ユーチューバーの方がいらっしゃって、私も飲もうと思い入店したわけである。
ロックのグラスがテーブルに置かれた。少しとろみがあるような白い見た目である。一口飲んでみると、クセが少なく飲みやすい味だと感じる。度数は正確にはわからないけどビールくらいかなぁ、と店員さん。
メニューをじっくり眺め回しながら、チャンを一口、また一口と、口に含んで喉に流す。そうしているうちに、ミックスバラもやってきた。"バラ"はネパール料理の中でもネワール族の伝統料理に位置づけられる。ネワール風お好み焼きと言われることがあるが、日本のお好み焼きと異なり、ペースト状の豆くずで生地が作られている。
なかなか分厚いバラである。パンケーキのように見えなくもない。表面がパリッとしているのに対して、中はしっとりふんわりしている。少し刻み青唐辛子が混じっている程度で、辛さは控えめである。"ミックス"なので、ひき肉と玉子も乗せられており一緒に美味しくなっている。
カレースープまでついてくるのが喜ばしい。マトンカレーのスープだと思われる。みじん切り玉ねぎとトマトをベースに奥深い味わいがある。バラにつけながら食べた。
「どうですか?」と店員さんに訊かれたので、「美味しいです。ネパールに行った時に食べたのと同じ味です」と写真を見せた。珍しいネパール料理をネパールの味のままで名古屋の真ん中で体現しているのは、簡単なことではないだろうと思った。
バラを食べている途中で、2杯目のチャンも注文した。止まらなくなるから注意しなくてはならない。2杯目は1杯目よりも量が多かった。私はチャンのように色白だが、そんな私の顔も少し赤らんでいたかもしれない。チャンは後味がすっきりしており、頭が錯乱することもなかった。むしろキリっとしたように感じた。
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ネパール人のお客さん2組が去った後は、日本人のお客さんが2組入られた。横のテーブルでは男性と女性が初めてパニプリに挑戦するようで、店員さんから丁寧に食べ方を教わっていた。私は目線を逸らしつつも、その話を聞いているだけでなんかいいなぁと軽く微笑んだ。独り飲みのつまみには十分だった(耳をそばだてていたわけではない。聞こえてきただけだ。)
いや、独りではない。ネパリ店員さんは私のことを覚えてくださっていたし、お話をする中で親近感を得られた。「フェリ ベトゥンラ」(また会いましょう)
以前ここで食べたネワリサマエバジやチャタマリもそうだが、かなり珍しいネワール料理までNepal STATIONには揃っている。ネパール文化を身体いっぱいで満喫できる。ネパールのお酒もあるので、異文化飲みにぜひどうぞ。
ダンネバード。ごちそうさまでした。
2024/01/23 更新
2023/11 訪問
ネパリ店員さんの温かみ、絶品ダルバートの温かみ
地下鉄から地上に出ると、空はどんより雲に覆われていた。寒さに思わず首をパーカーに引っ込めた。なんだか疲れているし気分も落ち込み元気が出ない。そんな時私は名古屋丸の内のネパール料理店"Nepal STATION"に向かう。
日曜のランチタイムに細い階段を上りドアを開ける。ネパール人(ネパリ)男性店員さんが「いらっしゃいませー!!!」と威勢のよい声で迎えてくださる。そのストレートな声に導かれるように、私は奥へと歩を運び4人掛けテーブル席に座る。サラダが無条件で置かれる。「久しぶり!」とネパリ店員さんがおっしゃり、覚えていてくださったことに私は安堵した。
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★ダルバットセット 880円
ランチメニューからネパール定食であるダルバートのランチを注文した。初訪問時以来、ここのダルバートを食べていなかった。
シンプルな見た目のダルバートが運ばれてくる。ダル(豆カレー)、チキンカレー(マトンカレーも選べる)、アチャール(漬物)、ライス。それらが真鍮色の円形プレートに乗せられている。
ダルはとろっとしている。スプーンで一口。なんと味わい深いダルであることか。豆の風味が溶け込んだ濃厚なシチューのようである。店員さんによると、基本的な香辛料やショウガ、ニンニクに加え、ジンブーやギーが入っているらしい。芳醇な香りでリッチな気分にしてくれる。私をダルの一部にしてくれ、と気づいたら願っている。
チキンカレーはさらっとスープ状で、ネパールスタイルに仕上がっている。上にはパラリとパクチー。ベースはみじん切り玉ねぎとトマトで、舌触りがざらざらするほど香辛料が巧みに入れられている。チキンは食べやすいサイズで柔らかい。中辛にしたが、それ以上のピリッとしたスパイシーさがある。
アチャールは人参、きゅうり、豆が具材になっている。ネパール版漬け物と称するにふさわしく、酸味と辛味がある。ポリポリという音が快感を生む。
そして、それらをライスが一身に受ける。日本米とバスマティライスのミックス米で、パラパラ感がある。私はダルをスプーンでライスにかけて口に運び、チキンカレーをライスにかけて口に運び、アチャールも混ぜて口に運んだ。みるみるライスがなくなっていく。
ネパリ店員さんに少しおかわりをお願いする。手の込んだ高級感があるのに、ライス、ダル、カレースープがおかわり自由だというのが素晴らしい。当然すべておかわりした。追加のカレースープがマトンカレーのスープらしきものだったことが私を一層喜ばせた。チキンカレーとはまた違ったうまみが存分に溶け込んでいた。
私のスプーンは走り続けた。あっという間に残りのライスも平らげた。思う存分限界まで味わい尽くした。絶品だ。事前にわかっていても目を丸くする美味しさだ。ネパール料理を知らない知人にも勧めたくなる。
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ネパリ男性店員さんに「なぜこんなにも美味しく作ることができるのか?」と率直に質問してみた。彼は微笑みを見せ、父母から教わる伝統的な方法で作っているからだと返答した。そこに調理の丁寧さや店員さんたちの誠実さ、エスニックな雰囲気が加わり、唯一無二の味を創り出しているのだと私は思った。
「ダンネバード」というお礼とともに支払いを終え、私は出口へと身体を向けた。店員さんの「ありがとうございましたー!!!」という声が私の背中を包んだ。私は完璧さより不完全さのほうが魅力的に感じるが、"Nepal STATION"に関しては例外である。非の打ち所がない。それが絶対的な満足感を与えてくれる。
外に出ると、心も身体もぽかぽかしているのがわかった。身体の中に何かが宿ったかのようなぬくもりだった。それはネパリ店員さんの温かみであり、絶品ダルバートの温かみだろうと思った。一瞬曇り空から日が差したような気がした。
ダンネバード。ごちそうさまでした。
ダルバットセット 880円
ダルバットセット 880円
ダル
チキンカレー
アチャール
ライス(日本米とバスマティライスのミックス)
ダルおかわり、カレースープおかわり
ライスおかわり
サラダ
メニュー
2023/12/02 更新
2023/09 訪問
絶対的な満足感、刺激的なクワティモモ
「名古屋で一番のネパール料理屋に行くけど来る?」と母親を誘ってみた。「行くわ」と返答があった。
以前別のインドネパール料理屋にて食事を終えた帰りの車内で、ナンとカレーが美味しくなかったと母親が不平を漏らしたことがあった。母親にとって2回連続はずれになってしまったら、もうインネパ料理と絶縁してしまうかもしれない。そうなったら私も心苦しいし面目ない。
しかし、Nepal STATIONであれば、失敗するはずがない。それは確信できる。「ここはぜーーーったい大丈夫。」と自信をあふれかえらせて、私は母を案内した。
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土曜日の11時台に入店し、先客は3組いらっしゃった。母は野菜カレー・ライス・漬物のセットを注文した。私はまだ食べたことのない"クワティ"に興味をもっていた。
★クワティモモ 1280円
"じっくり煮たいろんな種類の豆入りカレースープと食べる餃子"とメニューには説明書きがされている。他の店のメニューでは見たことがない。15分くらいかかるのを承知で注文した。サラダはいつも通りのサービスだった。
クワティモモは深くて大きい器でやってきた。ネパール風蒸し餃子モモが赤茶色のスープに浸かっている。
クワティを一口飲んでみると、香辛料の刺激が思ったより強かった。心地よい刺激である。熱さの中にピリリとした辛さがある。そして、思ったより具材も入っていた。柔らかい豆や玉ねぎがざらっとした口当たりを与えてくれる。
チキンモモはスープをたっぷりかけて食べた。食べ進めるうちに自然と汗が出てきた。冬であれば体の内部から温まることができそうである。
モモ一個と引き換えに、母親からライスを少しもらった。スープに浸して具材と一緒に食べた。この店のライスはバスマティライスとのミックスだから、最高の組み合わせだと感じたのはいうまでもない。
スープは完飲完食した。ネパール人男性店員さんに「とても美味しかったです。」と伝えた。その「とても美味しかったです」は私の本音と一致したものだった。
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母親も大満足だった。名古屋でこの値段でこの味、と驚いていた。期待通りの結果になり、私も得意げな顔になっていたに違いない。
一人で訪れるのもよし、誰かと一緒に訪れるのもよし、味にも接客にも雰囲気にも不満の影を見せさせない。誰もに絶対的な満足感を与えてくれるネパール料理店、それが"Nepal STATION"である。また来よっと。
ダンネバード。ごちそうさまでした。
2023/09/28 更新
2023/08 訪問
絶対的な満足感、アルタマカレーランチ650円
休日は苦痛になるほど私を迷わせる。最大限の充実感を得るために貴重な48時間をいかに過ごすか、気づいたら熟考を始めている。
未知の地や店に行くのも一案だが、既知の慣れた場所に行けば失敗しない可能性が高い。名古屋市丸の内の"Nepal STATION"は私にとって後者に該当する。揺るぎない安心感を与えてくれるとわかっているのである。日曜日の正午前に訪問した。
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入店するや否や、「いらっしゃいませー!!!」(あともう2つ"!"を加えてもよいかもしれない)と威勢の良い声が奥から響いてきた。私も両手を合わせ、"ナマステ~"と挨拶した。この日は3名のネパール人男性の方々でお店を回していらっしゃった。赤や黒のお店のシャツを着ていらっしゃる。
ガッツリ食べる気分ではなかったので、ランチメニューからあっさりしていそうなセットを注文した。
★野菜カレーセット 650円
この店のランチセット最安値だと思われる。サラダがいつも通り速攻で置かれ、メインのプレートも注文して10分も経たないうちにやってきた。
野菜カレーはいわゆる"アルタマ"。"アル"はじゃがいも、"タマ"はタケノコを意味する。れっきとしたネパールカレーである。トマト風味のさらっとしたスープカレーで、タケノコとジャガイモはもちろん、豆や大根も入っている。
これをライスにかけて食べる。日本米とバスマティライスのミックスでパラパラしているため、スープ状のカレーとの相性が抜群である。
アルタマの隣にはアチャールが盛りつけられている。大根、きゅうり、人参、豆をミックスした漬物である。塩味と酸味が強く、ポリポリという音と食感でおかずとしての存在感がある。これ、自分の冷蔵庫に常備しておきたくなる。
油が少なく肉も使用していないので、低カロリーだと思われる。それでも、香辛料が口内をピリリとさせ、身体の温度を上げてくれるように感じる。ヘルシーだが刺激的な味、とでも言える。お値打ちで美味しい。さらっと瞬く間に平らげた。
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食後にセットドリンクとしてホットチャイ(+100円)を追加した。これは私にとって、あと1時間居座りますね、という宣言に等しい。薄暗い店内を優しい照明が照らしているエキゾチックな雰囲気は、何時間でもくつろいでいたくなる。
ネパール人店員さんたちは、お客さんと(文字通り)同じ目線で話してくださる。優しく丁寧な口調で接してくださる。柔らかい笑みが表情に浮かんでおり、いい人ばかりである。自分がお客さんとして明るく迎え入れられていると感じられる。
総合的な観点で、料理も雰囲気も店員さんも非常に素敵である。店を出た後はいつも、こぼれそうなくらい満たされた気持ちになっている。月曜からの活力も湧いている。有意義な時間だったなぁと絶対的な満足感に浸れるネパール料理店、それがNepal STATIONである。
休日に迷ったらここに来ればいいのだ。再確認の意を込めて私は深く肯いた。
ダンネバード。ごちそうさまでした。
2023/09/06 更新
2023/07 訪問
待ってよかった、パリッパリアルパラタと冷や酸っぱいスープモモ
セミがわんわん鳴いている日曜日、名古屋丸の内駅近くの"Nepal STATION"へ。名古屋ネパールの中心的存在のネパール料理店である。「いらっしゃいませー!!!」と今日の店員さんはすごく威勢がよい。
ここに来たからには、他では食べられないものを。グランドメニューを開きスープモモとアルパラタと私が言うと、ネパール人男性店員さんは申し訳なさそうな表情を浮かべた。「スープモモは20分くらい、パラタは30分~40分くらい時間がかかります。。。」うーん、どうしようっかなぁ。。。考えぬいた末、待つことにした。
ものすごく熟慮した末の決断は人を迷わせる。「普通のランチにしたほうがよかったかなぁ...いや、そんなことは考えるな。待とう。」サービスのサラダを食べながら、脳内は激しく葛藤した。
ありがたいことに、20分くらいでアルパラタ、その後スープモモもやってきた。そしてありがたいことに、どちらも待ってよかったなぁと安心できる味だった。
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★アルパラタ 500円
メニューには"全粒粉の焼きパン"、"ジャガイモ入り焼きパン"と記載されている。注文した理由は、ネパール旅行中にローカルレストランで食べたパラタを思い出したから。
非常によい香り。ピザのように6等分されている。薄めの生地の間にジャガイモや玉ねぎが挟まっている。
一口かじってみると、パリッパリ。本当にパリッと音を出すので、録音したくなるほどである。ナンのような重さもなく、トマトベースのチャトニ(スパイスソース)をつけながら、おやつのように食べていける。とても美味い。
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★スープモモ 700円
ネパール風餃子や小籠包と言われる"モモ”をスープに入れた料理。温かいスープではなく、メニューには"ごま入り冷製スープ"と書かれている。その点を確認して注文。
まずスープを一口飲んでみた。おぉ、確かに冷ため。そして酸味が効いており酸っぱい。一般的なピリ辛スープとは異なる。緑のパクチーもエスニックな風味を出している。
モモの中身は細かい挽肉、ネギや玉ねぎ、ニンニクなどで、ピリッとする程度に香辛料が混じっている。後からふと思ったのだが、ひょっとすると肉は鶏肉ではなく水牛の肉だったのかもしれない(味オンチなのでまったく確信はもてない)。
さっぱりした味は暑い季節でも食べやすく、疲労回復にもなりそうだと感じた。モモをかじった時、スープの混じった肉汁がパラタのほうへと勢いよく飛んでいった。
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土日のNepal STATIONは比較的ゆっくり過ごせると思っていたが、この日12時頃には7~8割の席が埋まった。私はお会計に立ち、時間をとって作ってくださった感謝を述べた。店員さんは笑顔で「デレイ デレイ ダンネバード!」(とてもとてもありがとう!)と言ってくださった。
料理の珍しさやハイクオリティさ、そして温かい接客により、店を出る時には一切の後悔はなく、気持ちのよい満足感に浸れるのがNepal STATIONなのだと改めて実感した。待つのも苦ではない。
ダンネバード。ごちそうさまでした。
2023/07/23 更新
2023/05 訪問
バックトゥネパール、ネワール族のピザ
ゴールデンウィーク中のネパール旅行を終え、ネパールへの寂しさを抑えきれず、名古屋で最も名を馳せているネパール料理屋Nepal STATION を訪問。
いつものように幻想的エスニックな雰囲気とネパールソング、着席後の速攻サラダシステム。食べ物のメニューは変わっていないが、メニューブックのデザインが綺麗に変わったようである。
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★マサラチャイ 300円
砂糖を1スティック分入れで飲んだ。カルダモンやクローブ系のスーッとする芳香が気持ちいい。他の店より"マサラ"(香辛料)を強く感じられる。
インドネパール系の紅茶はやっぱうまいし、気持ちが落ち着くわと旅行後認識した。これからは毎朝毎昼飲むぜ。
★ミックスチャターマリ 680円
ネパールで食べ損ねたチャタマリ。ネパールで独自の文化を築いているネワール族の伝統的な料理で、米粉をベースに具材やスパイスがトッピングされたいわゆるネワリピザらしい。
一口齧ると、生地がパリッという快音を立てる。彩り鮮やかな人参やコーン等のミックスベジタブル、豆、トマト、ピーマンパプリカ、玉子、そしてジューシーなひき肉。
予想以上の美味しさ。本格的かつレストラン感のあるネワリピザに感じた。名古屋ではここくらいでしか食べられない料理ではないだろうか。
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レジにて"ミトバヨ.ダンネバード."(美味しかったです。ありがとうございました。)と伝えると、ネパール人女性店員さんが"デレイデレイダンネバード. フェリべトンラ."(とてもとてもありがとうございました。また会いましょう。)と返してくださった。
そうして私も"フェリベトンラ"(また会いましょう。)と手を振り、4、5人のネパール人店員さんたちの温かみのある笑顔を背に、爽快感と満足感を全身で浴びながら店の階段を降りていった。
Nepal STATIONに来ればいつでもネパールに戻ることができる、そう思った。
ダンネバード。ごちそうさまでした。
2023/11/26 更新
2023/02 訪問
名古屋ネパールの中心ここにあり
名古屋はネパール料理店が興隆している。その中で百名店認定の"Nepal STATION"は言うまでもなく、ネパール人にもネパール料理好き日本人にも認知度が抜群である。実際、他の店でNepal STATIONという単語をネパール人同士の会話でしばしば耳にする。
といっても、私はこれまで一度訪問しただけ。平日ランチにタカリセットを食べたが、絶品さでスプーンの勢いが止まらず、混雑もしており一瞬の滞在となった。
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今回は土曜日の11時頃。名古屋丸の内のビジネス街はひっそりしていた。"Nepal STATION"の看板をくぐり、階段を2階へと上がる。入店とともに「いらっしゃいませー!」という明るい声。
木の落ち着きのある店内は奥行きがあり、ネパール的な照明の灯りに優しく照らされている。素敵な雰囲気だと改めて感じる。
今回も速攻サラダシステム。やってきたネパール人女性店員さんに私は挨拶した。
「ナマステ~」(こんにちは~)
「ナマステ~、サンチャイ フヌフンチャ?」(こんにちは~元気ですか?)
「サンチャイチャ」(元気です。)
初対面にもかかわらず、慣習的挨拶に対して私は反射的にそう応えてしまった。すると、そのお姉さんは普通にナチュラルスピードでネパール語で話し始めた。私も持ち合わせのたどたどしいネパール語で、必死に歓談についていこうとした。片膝をついて笑顔で聴いてくださるお姉さんの姿は、薄暗い店内でまばゆいくらい美しく映った。
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「ヨ レストランマ サバイ チャニ」(このレストラン、なんでもありますね。)
お姉さんにメニューのことを尋ねながら、アルコール1品、グランドメニューから1品注文。
★ラキシー 450円
ネパールのヒエ焼酎。寒いのでお湯割りでお願いした。度数は強いが飲みやすい。顔が熱くなるのを感じる。
★ネワリサマエバジセット 1380円
「ネパールのネワール族が祭りなどで食する料理」。辛口でお願いした。
お姉さんが料理を持ってきて、このお皿は森林の葉っぱからできており、ネパールから取り寄せたものだと説明してくださった。ホントや。軽い。すごい。
料理に関しても、一般的なカジャセットにはないものがあり、見栄えが良い。味つけもお酒に合う濃さとスパイス感がある。
・中央にこんもり盛られているのはチウラ(干し飯)。バリバリという音と食感。
・マトンチョエラ。マトン肉のスパイス和え。唐辛子でスパイシーに仕上がっている。弾力と噛み応えがある食感で、味わい深い。
・豆の和え物。よくある硬い大豆とは異なり、煮た豆なのか柔らかい。
・じゃがいものタルカリ(炒め物)。ホクホクで、やっぱりジャガイモのスパイス料理はうまいなぁといつものように思う。
・アチャール(漬物)。大根ときゅうり、豆。酸味がある。ポリポリ食べる。
・サーグ(青菜炒め)。そっと緑色で添えられている。ほうれん草かな。
・バーラ。ネワール族の伝統料理。豆をペースト状にして焼いたものだと思われる。パリッとしているが、中は少し粘り気がある。ほんのり苦味のあるビスケットみたい。
・細切りの生姜、ゆで卵、揚げ小魚も。このセットだからこそである。
・カレースープをつけてくださった。おそらくダルバートのマトンカレーを肉なしにしたものだろう。これがめちゃめちゃ美味い。スパイスの入ったビーフシチューのようないい味を出している。おかわりしたいくらい。チウラにかけて食べた。
品数の多いスペシャルなセットを酒と味わい、平凡な毎日を祝福した。マスクの中に充満するニンニクや香辛料の匂い、奥歯の間に挟まったマトン肉も、食後の満足感の証である。
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時間帯が早かったのもあるだろうが、休日のせいか他にお客さんは2組だけだった。ネパールの食文化や人との交流、雰囲気を心ゆくまで満喫できた。非常に楽しかった。
名古屋の地下鉄路線図の如くネパール料理店が張り巡らされているとしたら、Nepal STATIONはその主要駅だといえる。名古屋ネパールの中心ここにあり。
お会計時、私はお姉さんに伝えた。
"サティ リエラ アウネチュ"(友達を連れてまた来ます。)絶対に。
ダンネバード。ごちそうさまでした。
2023/02/23 更新
2022/09 訪問
なるほど、これが百名店か。完成された料理と接客。
やっと来れた。愛知に住み始めて以来、Nepal STATIONは訪れなければと思っていたが、百名店と言われるとこちらも畏怖の念を抱いてしまい、期待以下のクオリティだったらどうしようとか、私のような世間知らずの若者が入っていい場所なのかとか、憂慮に堪えなかった。
そんな思いを持ちながらも、わずかな勇気を振り絞り、建物の階段を2階へと上がり、時間に追われるランチタイムに初訪問。
洋楽流れる店内。客の入りは7、8割か。幻想的なエスニック感ある照明。
着席直後、現地の店員さんがサラダをテーブルに置く。この速攻サラダシステムは初めてで少し驚いた。
私のネパール人の友人の情報では、Nepal STATIONにはナンがないと聞いていたが、ランチメニューをざっと見たところ、ナンとインドカレーらしきセットもある。私は入店前からダルバートを食べることに決めていたので、
★タカリセット 1280円
を注文。(ちなみに「タカリ」とは、多民族国家ネパールの中の「タカリ族」のこと。)
セット内容は
・ライス(日本米とバスマティライスのミックス)
・ダル(豆のスープ)
・チキンorマトンカレー(チキン辛口を選択)
・タルカリ(野菜のスパイス炒め)
・サーグ(青菜炒め)
・アチャール(野菜の漬物)
・チャトニ(オレンジ色のスパイスソース)
・生野菜
・パパド(豆せんべい)
豪華。丁寧。欲しいものはすべて揃っている印象。
期待通り。うまいがゆえ、自分の味覚に神経を集中するのを忘れる。ただひたすらスプーンを動かす。
・ダルをライスにかけて混ぜて食べる。スパイスが効いているさらっとしたダル。水筒に入れて持ち歩きたくなる。ライスも硬すぎず柔らかすぎずで、いくらでも食べられそう。
・チキンカレーも混ぜて食べる。上に緑のパクチーがパラリ。辛口というほど辛くはない。油っこさはない。どこかビーフシチュー(チキンシチュー?)っぽさがあった。
・サーグやタルカリも混ぜて食べる。ダルバートにつくジャガイモ料理好き。
・アチャールやパパドたちも混ぜて食べる。右下の茶色いのはグンドゥルックのアチャール。大根・人参・きゅうりのアチャールや生野菜は、ポリポリという食感。パパドはパリパリ。
すべて混ぜて食べる。渾然一体となった見た目から、様々な味や食感を生み出す。
ライスの量は一般的なダルバートより最初少なめ。ライスをおかわり。ダルもおかわり。スパイスガンガンでライスをガツガツ。胃袋が限界だと感じても、なんだかまだまだ食べたくなる。スプーンが止まらない。うまかった。
店員さんは店内の様子に常に目を配っている。膝をつき、お客さんと同じ高さの目線で質問に答える。(すごくかっこよかった。)おかわりはどうですか、と聞いてくれる。料理の提供からテーブルの片付けまで、目にも止まらぬ俊敏さで動く。(実際、注文後5分待たずして料理が到着した。)居酒屋のように元気よく「ありがとうございましたー!」と言う。お客さんに不満を抱かせる隙を与えない。
料理も接客も完成されすぎている印象を受けたから、インドネパール料理屋特有の大ざっぱさが好きな人には、いささか窮屈に感じるかもしれない。とはいえ、絶大な安心感は得られるし、雰囲気は素敵だし、会社の同僚でも友人でも恋人でも、誰でも誘えるお店である。
(急いで無心で食べてしまったので、単品メニューチェックできなかった。。。)
ダンネバード。ごちそうさまでした。
2023/11/26 更新
「ダルバットセット、880円.....お替り自由.....」
土曜日に名古屋丸の内に用事があれば、ネパールステーションに寄らない理由はない。外のボードにランチメニューが書かれていた。私はそれをまじまじと凝視した。そして何度も目をこすった。
変わっていない!昨年10月のままの値段設定だ!お替り可もそのままだ!
店へと続く階段を跳ねるように上る。来客を知らせるチャイムが鳴る。ガラスの向こうを覗きこむ。窓際のテーブルに何人かネパリ客がいるみたいだ。スライドドアを開ける。
客を丁寧に迎えるため、お兄さん店員さんが笑顔で立っていた。私は彼に両手を合わせた。私のことを忘れてはいないようで、ひとまず安心した。
5月の終わりにネパール滞在から戻ってきた私は、既存顧客(すなわち、店員さんと繋がりがあるネパール料理店)の訪問を優先することにした。ネパステは当然外すことができない。なのに、顔を出すのが遅くなってしまった。オーナーさんが「久しぶり」と言った。
「そういえば、○○さんはいらっしゃらないんですか?」以前この店では○○さんという方が主にホールを担当されていたが、異動になったらしい。あぁ、それはいささか残念である。今どこで働いているのだろう?
注文したダルバートは、5分くらいでやってきた。写真撮影が不得手な私でも、綺麗なダルバートの写真が撮れたと自画自賛した。
味も内容も変わりなかった。ネパステの料理は、上品である。ダルはクリーミーだが香辛料の刺激があり、唯一無二の奥深さがある。チキンカレー(マトンカレーも選べる)はピリッと辛みが効いており、鶏肉は食べやすいサイズで柔らかい。アチャールは人参や胡瓜、豆のコリっとした食感と酸味を感じられる。
これらをライスに混ぜながら食べる。日本米とバスマティライスのミックスである。パラパラしており、ダルとチキンカレーに最高にマッチしている。真鍮色のプレートからライスは瞬く間に消えた。私はライスを追加してもらった。ダルとチキンカレーのスープも、おかわり自由である。
880円で、高級感があって、無限おかわり可。どこに不満を抱くことができるだろうか?
食後は+100円で、ホットチャイを飲んだ。オーナーの息子くんがヨタヨタ歩いていた。まだ2歳前らしい。私を含む何人かのお客さんに、無邪気な笑顔を振りまいていた。「ほら、アンカル(uncle)って、呼ばなきゃ」とオーナーさんが息子くんに言った。そうか、息子くんから見たら、私は"おじさん"なのか。私は彼に苦笑いを返した。
土日にできるだけ丸の内方面で用事を作ろう。
夏の日差しの中でも、一度ネパステの幸せに包まれてしまえば、帰りの足取りはどこまでも軽い。
ダンネバード。ごちそうさまでした。