3回
2025/07 訪問
岐阜でネパールを味わい、岐阜でネパールと出会う
「みなさん、ネパールの方ですか?」
注文を取り終えたお兄さん店員さんに、私はそう尋ねてみた。これが始まりだった。
"ナマステネパール"は2025年7月中旬現在、私が最も気に入っているインド・ネパール料理店である。その理由を3つ述べよう。
まず、アクセスに優れている。JR岐阜駅から南へ徒歩5分。狩猟民族の視力だったら、駅を出た瞬間、赤いネパールの国旗が目に入るだろう。岐阜駅にて御座候を買ったついでや、三省堂で立ち読みに耽ったついでに、寄れてしまうのである。
2つ目にネパール料理が豊富で美味しい。「日本人のお客さんが、スクティやパニプリを食べますよ」と店員さんに言われた時は、さすがに私は驚いた。チャトパテやトゥンバ(ネパールのローカル酒)もあるらしい。私はダルバート(ランチ850円)、モモ、冷たいジョールモモ、ビリヤニ、ハニーチーズナン、ラッシー、チャイを食したが、どれも美味しいと思った。
最後に、ネパール人に出会える。”ネパール人との出会いに出会える”、と表現してみてもいいかもしれない(言うまでもないことだが、ここでいう”出会い”とは、マッチングアプリのような意味合いではない)。もちろん、優しいネパール人男性店員さんたちとお話ができる。そしてそれ以上に、お客さんにネパール人が多い。特に若い方々が毎日訪れてくる。
彼らの多くが留学生のようである。ここ5年10年で、国内の在留ネパール人口は鰻登りに増えた。今や在留外国人の国籍別ランキングで、ネパールはブラジルを追い越し、5位まで登りつめている(https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00052.html)留学生に至っては、中国に次ぐ2位である(https://www.moj.go.jp/isa/policies/statistics/toukei_ichiran_touroku.html)。その勢いは、岐阜にまで及んでいるのだろう。上記入管の統計によると、岐阜にはおよそ1000人の留学生が住んでいるようである。岐阜駅付近にも日本語学校が設置されている。多くの留学生たちが勉強→(ネパール料理屋)→バイト、という生活サイクルを送っている。
この(ネパール料理屋)の部分に、”ナマステネパール”はなぜ入りやすいのだろう?第一の理由で述べた通り、寄りやすい立地というのはあるだろう。それに加えて、ネパールの風景の写真が壁一面を覆うように貼られていたり、ネパール食品まで販売されていたりするのが、留学生にとって母国を感じさせるのかもしれない。とある留学生の女の子は、「サービスが丁寧で良い」と語った(ネパール人がサービス面を気にするんだ、と私は自身の偏見を反省した)。日本語能力試験が行われた夜には、3、40人ものネパール人が店内を埋め尽くしたらしい。ネパール人が絶え間なく来ているということは、味も保証されている。
かといって、日本人には入りにくい、という雰囲気は一切感じさせない。実際、ランチタイムは日本人が多数訪れている。ナン・カレーを食べる方もいるし、豪華なダルバートを食べている方もいる。”ナマステネパール”は、国籍問わず万人に開けたインネパなのである。
というわけで、6月下旬から7月中旬にかけて、私は7回もナマステネパールに来てしまった。
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以下4回目の訪問記録を、ケーススタディとして記す。
その日の午前中、私は依頼を受けた通り、店員さんの一人の通院に同行した。病院通訳というのもインネパコンサルティングプランナーの資格取得に必要なのだろうか、と考えながら、私は正午前に店に戻ってきた。
「ヒマラヤンセット食べる?」
「いや、ビリヤニで。チキンでお願いします」
チキンビリヤニ1000円。先日私はダルバートを食べながら、オーナーさんにビリヤニについても訊いていた。炒めるのではなく、鍋の中で層にして炊きこむという本流の作り方なのだと、確認済みだった。
私のテーブルの右側には、ネパール人男性が座っていた。オーナーさんの友人のようである。彼もまた、別のインドネパール料理店で働いているとのこと。私がネパールで10日間滞在した村の出身だった。彼はヒマラヤンセットという、おかずが豪華なダルバートを食べていた。
一つテーブルを挟んだ左側には、留学生っぽい女子学生が3人いた。店員さんと日本語で注文をやり取りしている。ということは、ネパール人ではない。スリランカとかバングラデシュとか、その辺りかなぁ。やはり留学生だと推測される。
ビリヤニは店員さんの笑顔と運ばれてきた。あらま。こりゃすごいわ。深い器から溢れそうになっている。洞窟の奥でついにありついた、宝の箱のようである。バスマティライスのオレンジ色は、宝石の輝きと遜色ない。上にはカシューナッツが、両端にはゆで卵が乗せられている。なるほど、横の小皿は器からビリヤニを移して食べやすくするためか。
ビリヤニはしっとり感とパラパラ感が、丁度良い具合に混ざっている。味はピリッとしているが、その中にカルダモンやクローブの爽快感がある。そして、器の底には大きなチキンが複数埋まっていた。
「おぉ、チキンが隠れています」
「チキンが”かくれています”って、お客さんに言えばいいの?」前に座っていたオーナーが私に問う。
「うーん、それはメタファー的な言い方ですね。”下にチキンがあります”でいいと思いますよ」
チキンまで加われば、ビリヤニのボリュームは想像以上である。サラダやライタを挟みつつ食べたが、完食時は胃が膨張していた。
ちなみに後日、このビリヤニをテイクアウトして、母と祖母に食べさせてみた。2人とも美味しいと言った。
食後も徒然なるままに座っていたら、ネパール人青年が一人入ってきた。彼は私と目が合うと、顔をほころばせた。「ナマスカール」私と彼は両手を合わせた。
この2日前、私は彼と知り合っていた。近くの日本語学校で学ぶ学生らしい。今日は同じクラスの女の子2人と一緒だった。3人は私の左側のテーブルに座った。
彼・彼女らはモモやカジャセットを食べながら、私と雑談した。3人とも実に綺麗な日本語を話す。少々珍しい私の名字に興味を持ってくれたり、「私たちの学園祭に来てください!」と笑顔で誘われたり、スピッツの『チェリー』を一緒に合唱したりした。人懐っこい。
「岐阜に来て、どう感じますか?」
「良いです。田舎のエリアもあるし、こういう街のエリアもあって、過ごしやすいです」
彼・彼女らに笑顔で手を振った後、独り残った私は泣きそうになった。日本に来るとネパール人の純粋さは損なわれてしまうと、私は思い込んでいた。私は間違っていたようである。
ネパールの方々との出会いの中で、このような頭を殴られたような衝撃をしばしば受ける。先日ブログに読者の方から、「実のところ、私がインネパ店に通う理由の半分は”ネパールの人に会いに行くため”かも知れません」とコメントが来ていた。その通りだ、と私は思う。
インネパのメインは、もちろん料理である。でもそれだけではないのが魅力である。インネパは人の総体なのである。偶然性に満ちたダイナミズムなのである。その空間では、異なる国籍を持った者同士が、当然のように混ざり合っているのである。最近は参議院選でも多文化共生が俎上に載せられたが、その一端を知る術は身近なインネパなのかもしれない。
インネパを隅から隅まで味わい尽くす。新しい出会いから学んでみる。料理の値段以上の満足感を得られるものである。ナマステネパールでネパールに出会う度に、私は一段階、地元の岐阜が好きになる。
ダンネバード。ごちそうさまでした。
2025/07/21 更新
2024/02 訪問
野菜カレー・豆カレー・マトンカレー、岐阜でさらっとダルバート
岐阜のインドネパール料理店"スワガタム"を先日訪れブログを見た際、"ナマステネパール"という新業態の新店舗も1月にオープンしたということを知った。スワガタムよりもネパール料理寄りとのこと。帰省時に早速訪れた。
JR岐阜駅から大通りを南へ徒歩3分の好立地だということ、団体で予約利用していたお客さんもいたということ、それらの要素も重なり、休日12時前の広々とした店内がお客さんで埋め尽くされていた。
ランチメニューにはダルバート(ネパール定食)があった。おかずが多数ついた豪華なほうもあったが、シンプルなほうを選んだ。
★ネパールランチ(マトンカレー)900円
ちなみにチキンカレーだと750円。良心的な値段である。「これはネパールのダル?」と訊いてみると、「ネパールのダル」という店員さんの返答だった。カレーが思いっきりどろっとしたインドカレーだといささかがっかりするので、念のため確認しておいた。
お客さんはお一人様も複数の学生もご家族もいらっしゃる。ネパールの方々5人体制で回しているが、かなり忙しそうである。吸い込まれるように新たなお客さんも入ってきている。店員のネパール人の女の子がナンとチキンカレーを私に持ってきたので、「あっ、違います」と私は言った。そうなるのも仕方ないと納得できるくらい、渦巻くように混雑している。
厨房に目を向け、「おっ、来る来る」と思った。ダルバートは長方形の銀色プレートでやってきた。上半分には均等のスペースで、左から野菜カレー・ダルカレー・マトンカレーが盛りつけられている。3種類のカレーの並びが、どこかの国旗のように見えてくる。下半分にはライスと生野菜が盛りつけられている。
どのカレーもスープ状のネパールスタイルだった。野菜カレーにはジャガイモやカリフラワー、インゲンというネパールの定番野菜が具材になっていた。大きめにカットされた野菜はおかずになる。ダルカレーは大きさや形状の異なる数種類の豆が使われている。マトンカレーはマトン肉が柔らかい。
日本米のライスにカレーをかけて混ぜながら食べていった。さらっとしたカレーは身体の組成と合致するかのようにあっさりと食べやすかった。スプーンの動きを加速させライスを消費していった。ライスがたっぷりあるので満腹になった。それでもカレーに油っこさがないので、胃もたれや気持ち悪さはなかった。仕事の日の昼食に適していそうだと思った。
完食して周りを見渡せばナンカレーのセットを注文している人が多かった。もちろんそれもインネパにおいては王道なのかもしれない。ただ"ナマステネパール"なので、せっかくならネパールスタイルの料理を食べてみるのがよいのではないだろうか。ディナーにはネパールのストリートフードやおつまみもあるようである。
ダンネバード。ごちそうさまでした。
2024/02/12 更新
「やっぱラッシーでいいかなぁ...」
「どっち?」
「いや、ネパールビール飲みます」
土曜の昼間からネパールアイス。4、500ミリリットルほどの一瓶とグラスが、テーブルの前にぽんっと置かれる。グラスに注いだネパールアイスは、青白いエベレストの山頂から流れてきたかのように、美しく透き通っている。
苦味が控えめで、さっぱりした味わいである。40度の外気で火照った身体を、冷たいビールが駆け巡る。パリッと香ばしいパパド(豆せんべい)がついてきた。
大学時代に、キーツだったっけな?"酒の力でどこまでも飛んでいくんだ!"という英詩を読んで、この人狂ってるなぁ、と私は教室の隅でぼそっと呟きそうになった。でも、同じように"ネパールアイスの力でエベレストを登るんだ!"という詩を見つけたら、むしろ共感してしまうのではないか(危険)。
ビールのおともはチリモモにした。ネパール蒸し餃子の"モモ"を、玉ねぎやパプリカと一緒に、チリソースで和えた料理である。味が濃厚についている。モモの表面はカリッと、少しクリスピーになっている。どこか中華料理っぽさがある。生野菜とサラダも添えてくれたのがありがたい。
敷居を挟んだ隣のテーブルに、外国人の女の子が4人座っていた。オーナーが彼女たちに、「この人、日本人だよ」と言った。「お国は?」と私は尋ねてみた。彼女たちはビリヤニを食べていた。
「スリランカです」
「へぇー。学生さんですか?」
「はい。専門学校に通っています」
ここのネパール料理屋に来る外国人は、ネパリだけではない。その他アジア圏の学生たちもやってくるのが面白い。それだけアジアからの留学生は、凄まじい勢いで増えている。私はなんとなく、スマホでスリランカへの航空券を調べ出していた。
軽食の追加にチャトパテを注文した。「少なめで構わない」と伝えたが、案の定ざっくざっくと山盛りだった。3、4人でシェアするのに適切な量だろう。一人前ではない。
ブジャ(米ハゼ)、チョウチョウ(インスタント麺)、ピーナッツ、ジャガイモ、トマト、ネギ、青唐辛子などが、いい意味でごちゃ混ぜになっている。こちらも刺激的な味つけになっている。酸いも辛いもボリボリも柔やわも一つになっており、まるで人生そのものをわずかな時間で体感しているかのようである(ネパール版『フォレスト・ガンプ』では、「Life is like a plate of "chatpate"」という台詞があるのかもしれない)。
チャトパテは、ネパールの屋台スナックである。現地で食べると、腹痛と隣り合わせである。日本であれば、少なくとも日本人にとっては、衛生面の心配がない。
チリモモもチャトパテも美味しかった。本格的なネパール料理を岐阜で味わいたいなら、オススメの店である、と頷きながら、私はネパールアイスを爽快に飲み干した。スリランカの女の子4人は、とっくに店を出ていたようだった。
ダンネバード。ごちそうさまでした。
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友人たちの勧めで、先日Youtbeチャンネルを開設致しました。ご興味ある方は、「ビカース ジャパニ / Vilaas Japani」で検索してみてください(それで出てくる保証はありませんが)。今回の訪問時の動画もアップしました。