Geric Planktonさんが投稿した灯(北海道/資生館小学校前)の口コミ詳細

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Seeking the Last Meal of My Life

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すすきの(市電)、すすきの(市営)、豊水すすきの/居酒屋、海鮮、日本料理

1

  • 夜の点数:4.2

    • ¥15,000~¥19,999 / 1人
      • 料理・味 4.2
      • |サービス 4.2
      • |雰囲気 4.2
      • |CP 4.2
      • |酒・ドリンク 4.2
1回目

2025/05 訪問

  • 夜の点数:4.2

    • [ 料理・味4.2
    • | サービス4.2
    • | 雰囲気4.2
    • | CP4.2
    • | 酒・ドリンク4.2
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

【人生最期の食事を求めて】すすきのに上質と洗練の灯を照らす、旬薫る静謐の座。

“人はパンのみにて生くるものにあらず”
この聖句は旧約聖書「申命記」においてモーゼの口を借りて現れ、新約聖書「マタイによる福音書」第4章において、荒野に在るイエスの厳粛たる試練の中で再び発せられる。
それは、物質による充足のみに依拠せず、精神の糧をもって完成に向かうべき存在である、という人間の本質をえぐる宗教的叡智の結晶である。

仏教においてもまた、欲望の充溢はむしろ煩悩の淵を深くし、人の魂を迷妄へと誘う。
かくして釈尊の教えは、解脱を目指し、無欲と静謐をその根幹に据えている。
先日、鎌倉建長寺にて拝した釈迦苦行像の姿は、壮絶なる肉体の枯渇を通じて、精神の超越を我々に啓示する。
私には、そうしたストイシズムへの畏敬とも、あるいは憧憬ともつかぬ念を心奥に宿していた。
物質の拘束を離れ、欲望の呪縛を断ち切る時、人は果たして真の自由と幸福に至るのではあるまいか?
だが、人間とは業の坩堝であり、理性に幾重にも纏わりつく欲求の蔦を断ち切るには、あまりにも軟弱な生き物である。
空腹を狙いすましたかのように、五感を惑わす情報の矢は、時に快楽の形をとり、時に美の装いを纏って、私の意志の砦を打ち崩さんとする。
“人は苦行のみにて生くるものにあらず”――この現代の誘惑の囁きは、古の聖句への逆説的応答にも思われる。

5月にしては蒸し暑さの残る夕暮れであった。
強風が街の匂いを撹拌し、若者たちは半袖に短パンという、虚飾の勇ましさを身に纏っていた。
夏の到来を待ちきれぬ性急さは、ある意味でこの都市の律動に合致していた。
そう、人は労働のみにて生きるにはあまりに脆く、刹那の慰安を欲してやまぬ。
私もまた、その一人である。

喧騒の中にひそかに灯る一角、すすきのの歓楽街において、ひとつの異質な静けさに満ちた店が私を迎え入れた。
「灯 -TOMOSHIBI-」――歓楽のざわめきとは明確に一線を画し、店内に立ちこめる空気はいかにも安寧で、しかも品格に裏打ちされていた。

初夏の熱気が1杯目のビールを喉奥へと瞬時に流し込ませた。
「先附 帆立のお吸い物」は、定式に抗する先陣ではあったが、あまりに滋味豊かで私の沈静していた食欲を、心の奥底からやさしく解き放った。
まるで次の布陣を見越していたかのように、「前菜 苺マスカルポーネ和え、松前漬け、道産鶏のハーブロール」が続く。
この彩りと香り、そして緻密な構成に、私は早くも2杯目を所望した。

食欲はもはや静かなる舞踊のように私の内面をゆらし、「向付 お刺身四種盛り合わせ」――中トロ、雲丹、縞鯵、活〆平目が、鮮度の気高さとともに目と舌を一度に満足させた。

ビールを空け、ハイボールに切り替えると、すぐに「揚物 季節のフリット」が供される。
楚蟹、牛蒡、筍、茄子――それぞれが一つの小宇宙を構成し、味覚の内部に強靭な余韻を残してゆく。
私はここに、人間が文化として築き上げてきた“食”という芸術の真価を思い知った。
だがそれは序章に過ぎなかった。

「強肴 鮑のステーキ」の到来はまさしく贅沢の極致であり、からすみを纏ったその姿は海の神秘を凝縮したかのようであった。
私は己の記憶を辿り、これほどの鮑を経験したことがあったかと思いを巡らすも、徒労に終わった。

「蒸物 茶碗蒸し」が一時、私の心を沈めたが、すぐに「焼物 道産牛ランプと蝦夷鹿モモ肉」が再び昂奮の波を呼び起こした。

そして極めつけは、「御飯 黒トリュフの土鍋ごはん」であった。
削られるトリュフの香り、湯気の向こうに立ち昇る米の気品――私はただ静かにその神々しさを受け容れるのみであった。
「甘味 バニラアイス」を口中に含みながら、私はあらためて自問した。
人は、なぜ苦行を求めるのか?
欲望を抑制することによってこそ、人は高次の精神的地平に到達しうる。
それがストイシズムの目的であり、宗教の根幹であるはずだ。
けれど、この夜ばかりは私の中に巣食っていた苦行への希求も、抑圧の美徳も、深く、深く眠りに落ちていくのであった。……

2025/05/18 更新

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