Geric Planktonさんが投稿した鮨処 暁 -akatsuki-(北海道/さっぽろ)の口コミ詳細

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Seeking the Last Meal of My Life

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鮨処 暁 -akatsuki-さっぽろ(札幌市営)、バスセンター前、札幌(JR)/寿司、海鮮、天ぷら

1

  • 夜の点数:4.3

    • ¥20,000~¥29,999 / 1人
      • 料理・味 4.3
      • |サービス 4.3
      • |雰囲気 4.3
      • |CP 4.3
      • |酒・ドリンク 4.3
1回目

2025/07 訪問

  • 夜の点数:4.3

    • [ 料理・味4.3
    • | サービス4.3
    • | 雰囲気4.3
    • | CP4.3
    • | 酒・ドリンク4.3
    ¥20,000~¥29,999
    / 1人

【人生最期の食事を求めて】日本料理の知見と江戸前鮨の技術を堪能する夢幻。

地下街と地下歩行空間には、潮のように人波が押し寄せ、引き、また満ちていた。
だが、地上は妙に人影が希薄で、夏の黄昏の空気に、奇妙な空白が滲んでいた。
北海道の7月といえば、観光、出張、ゴルフといったあらゆる需要が重なり、宿はどこも飽和状態にある。
短い蝦夷梅雨がもたらす湿気は、本州のそれと比すれば微々たるもののはずなのに、今宵の重苦しい暑さには、流石の道民も眉をひそめているに違いない。
ハンディファンを片手にする女性や、日傘を無造作に差す男性の姿は、いつのまにか新たなる夏の風俗となった。
異常気象という語は、もはや過去の遺物にすぎぬ。
これこそ、新しい夏の常態なのだ。

夕刻の札幌駅は、群衆の往来に潜む不機嫌な倦怠を、むせかえる蒸気のような暑気に包み隠そうともせぬ有様であった。
その周辺の喧噪は、再開発の工事がもたらす金属的な騒音によって一層醜悪さを増していた。

札幌駅から東へ、創成川を渡った途端、空気は一転し、都心とは思えぬ静謐が私を包む。
曇天の夕闇に、ふと茜色の暖簾が私の歩を止めた。
この街に稀なる寿司屋である。
町寿司すら稀薄な界隈に、研ぎ澄まされた気配が漂う。
むしろ、オフィス街に佇んでこそ相応しい格調であろう。

戸を潜れば、冷房の清冽な気が火照った皮膚を一瞬にして鎮めた。
暑熱に耐え慣れた身であっても、この一陣の涼風には抗いがたい安堵を覚える。
開店間もないのだろう。
壁の一隅には、祝いの熨斗紙が端然と掛けられている。
和の情調に彩られた空間ながら、置かれたグラスや皿には、どこか洋の趣向が忍び込んでいた。

まずは生ビールを所望した。
白濁した器は、濁り酒と見まがうばかりである。
一口、喉を通した瞬間、涼やかな黄金の奔流が渇いた内奥を容赦なく潤し、気づけば半ばを一息に呑み干していた。
「稚内の水だこ煮」が、静謐な所作とともに供された。
蛸といえば関西を思い浮かべるが、柔らかに煮含められたそれは、舌に心地よい反撥を残しながら、滑らかに崩れ、ついには溶け消えた。
続いて運ばれた吸い物の器に、私は当然、造りを想定した。
ところが、蓋を開ければ、そこに在るは鮑と脂の膜に浮かぶ肝の塊だった。
「鮑と肝のお吸い物」である。
出汁の滋味と鮑の身と肝が織りなす未知の交歓に、私は一抹の驚愕と快哉を覚えずにはいられなかった。

穏やかな口調の大将に尋ねると、和食で研鑽した知見と技を、寿司へと応用したと語る。
食とは、理屈を超えて常に新たな深淵を私たちに開示するもの――その精髄を、私は今さらのように思い知らされた。

さらに「余市のあん肝と青茄子」という予期せぬ前菜を経て、いよいよ握りが始まる。
「積丹のヒラメ」、「銚子のキンメ」、「堺港のマグロ」、「礼文のホッケ昆布締め」、「室蘭の時知らず」。気づけば、生ビールは3杯を費やし、赤酢の立つ穏やかな握りが散りゆくシャリとともに、私を白ワインへと誘っていた。
中でも、「礼文のホッケ昆布締め」はさり気ないながらも圧巻である。
ホッケ特有の匂いを昆布締めが優雅に封じ込め、芳醇な旨味だけを残す。
白ワインの残滓もすぐさま喉奥に消えていった。

「沖縄のもずく酢」、「小柴の太刀魚の天ぷら」で小休止に入ったが、刻み生姜の香り高いもずく酢も、ほどけるような太刀魚の天ぷらも、記憶に確たる印象を刻んだ。

後半に挑むべく、高知の酒「酔鯨」に切り替えると、続いて「根室のズワイガニ」、「常呂の帆立」、「オホーツクの鰊」という道東の逸品が次々と現れる。
いずれも、土地固有の力を宿したネタを、寸毫の間も与えぬ江戸前寿司の伝統に則り、矢継ぎ早に差し出してゆく。
「網走のしじみ汁」の後、一匙の塩を添えた「中トロべったら漬け」、そして「稚内のムラサキウニ」が、夢のように寿司の宴を閉じた。

さらにまたしても高知の酒「船中八策」の凛とした切れ味に酔い、「小樽のブルーベリー寒天」で蒸し暑い夏の夜は、儚き幻のように終焉を告げた。

扉を開けば、外界の蒸し暑さがアルコールに火照った肉体に纏わりつき、たちまち夢を現実に引き戻した。
その不快さにさえ、私は一抹の名残惜しさを覚えるのだった。……

2025/07/20 更新

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