5回
2025/07 訪問
麻布割烹 十。季節感あふれる美と技の饗宴
麻布十番の一角に佇む「麻布割烹 十(とお)」は、比較的新しい割烹ながら、瞬く間に食通たちの注目を集めた実力店である。
店主は名だたる名店で修業を積んだ後、独立。割烹の伝統と現代的な美意識を巧みに融合させた料理で、多くのファンを魅了している。
店内はカウンター席のみ。凛とした空気が張りつめる中にも温かみがあり、職人の所作を間近で楽しめるのが魅力だ。
この日のコースは、まさに“和の芸術”と呼ぶにふさわしい内容。
冒頭を飾るのは、蓮の葉に盛られた和牛のタルタルとキャビア。濃厚な旨味の中に紫蘇の花が香り、視覚と嗅覚を一気に刺激する華やかな一皿である。
続いて供されたのは、鮑とアスパラに旨出汁のジュレをかけた涼味ある一品。赤い小粒のトマトが彩りを添え、夏らしさが感じられる構成となっている。
椀物は鱧の葛打ち。柚子と木の芽が上品に香り、ふわりとした食感とともに心を和ませる。
中盤には、和牛と雲丹をのせた酢飯、ごま出汁の素麺に和牛をあわせた素麺など、趣向を凝らした肉料理が続く。
特に、衣を纏ったチョウザメの天ぷらにずんだ餡をかけた一皿は、斬新ながらも和の基本に忠実で、技術と感性の高さを如実に感じさせる。
メインは和牛の炭火焼き。火入れは絶妙で、噛むほどに肉の甘みがにじみ出る。付け合わせの野菜にも一切の妥協はなく、最後の一口まで美味を堪能できる一品。
締めは、とうもろこしと牛肉の炊き込みご飯と赤出汁。季節の滋味が凝縮された炊き込みご飯に、身も心も満たされる。
甘味はシャインマスカットの大福。瑞々しい果実ともちもちの求肥が口内で溶け合い、爽やかな余韻を残す。
全体を通じて、素材の持ち味を丁寧に引き出しつつ、現代的な感性を巧みに取り入れた構成は見事。料理だけでなく器使いや盛り付けにも高い美意識が感じられ、まさに五感で味わう割烹である。
麻布十番という地にあって、既に名店の風格を漂わせる「麻布割烹 十」。季節ごとに足を運びたくなる、真に上質な一軒である。
2025/07/25 更新
2025/05 訪問
麻布割烹 十|神戸牛と旬の恵みを堪能する『十』おまかせコース
麻布十番中心部の一角、古ビルの2階に隠れ家的に佇む「麻布割烹 十」。前回訪れてまだ日が浅いが、コース料理が2つになったということでやはり神戸牛が気になって訪店。
・「十」おまかせコース11品30,800円(税込)
・「とお」おまかせコース9品19,800円(税込)
今回は「十」おまかせコースをセレクト。店内は、変わらず洗練と静寂が共存するミニマルな設計。扉を潜ってすぐの正面の生け花が、この店全体の空間に潤いと活力を与えている。
座席はゆとりをもって配置されていて、椅子は柔らかく包み込むような曲線が美しい。カウンターと椅子の高さが絶妙で、一定の緊張感をもって料理に向き合うことができる。
木製の格子、漆黒の天井、特徴的な壁面タイルのコントラストが斬新で、和とモダンの境界線を曖昧にする洗練された世界観が貫かれている。空間自体が料理の一部であり、無駄を削ぎ落とし、研ぎ澄まされた美意識の中で、五感を通して「食」を体験する場所である。
満を持して料理がスタート。
【先附】鮑/生若布/鮑の出汁
殻付きで供された煮鮑に、ジュレ状に仕立てた鮑の出汁が重ねられ、花穂紫蘇が散らされる。驚くほどに柔らかく煮上げた鮑の旨味と出汁の奥行きが織りなす、序章にふさわしい一皿。初夏の気配を感じさせる演出も秀逸。
【生肉】神戸牛/法皇キャビア/黄身醤油
ほどよく刻まれた神戸牛の赤身に黄身醤油を合わせ、法皇キャビアをたっぷりと乗せた一品。神戸牛特有の脂の甘みとキャビアの塩味、黄身醤油のコクが混然一体となり、濃厚ながら切れのある味わいを形成する絶品。
【御椀】九十九里浜の蛤/淡路島玉葱/青柚子
食前に見せられた大粒な蛤がお碗で登場。蛤の濃密な旨味が溶け込んだ吸い地に、淡路島産玉葱の自然な甘みが加わる。青柚子の香りが全体をすっきりとまとめ、極めて完成度の高い椀物。
【刺身】和歌山のカツオ/アオリイカ/針胡瓜
熟成されたカツオはしっとりと滑らかで弾力があり旨味が濃縮されている。対するアオリイカは透明感があり、ねっとりとした甘みが際立つ。針胡瓜と白髪葱の清涼感が、全体を軽やかに仕立てていて、口の中が磯の風味と爽やかさで満たされる。
【御凌】神戸牛サーロイン/とろたく巻き
神戸牛サーロインの生肉と刻んだ沢庵を、酢飯とともに手巻きにした一品。パリパリの海苔、神戸牛の甘みを含んだ脂、沢庵の歯応え、酢飯の酸味のバランスが絶妙で食欲を加速させる、一度食べたら忘れられない一品。
【揚物】愛媛キャビアフィッシュ/醤油麹
先ほどの法皇キャビアの親となるチョウザメを使用、白身魚らしいふっくらとした身質を、薄衣で包んでサクッと揚げた粋なフライ。醤油麹のソースが旨味を底上げし、青豆と豆苗の装飾が初夏らしい彩りを添える。
【温物】和牛出汁/神戸牛サーロイン/稲庭うどん
牛出汁をベースにしたつゆは、深みがありながらも過剰な主張はなく、稲庭うどんと絶妙に絡む贅沢な一品。上には薄くスライスした神戸牛のサーロインがのり、白胡麻、ミツバとともに静かな贅沢感を漂わせる渾身の作品。
【焼物】神戸牛の炭焼き/旬野菜
表面は香ばしく、中心はロゼ色に仕上げた神戸牛。噛むごとに炭香と肉汁があふれ、添えられた季節野菜とともにいただくことで、滋味深い余韻を残す。
【煮物】神戸牛ほほ肉/キトラ農園山椒
とろけるように煮込まれた神戸牛のほほ肉に、爽やかで清涼感のある山椒を合わせた煮物。出汁の効いたつゆに炙った筍とそら豆を添えた、優しいながらも力強い構成。これだけでも十に食べにくる理由になる絶品である。
【食事】和牛とアスパラのご飯/赤出汁/香物
牛の出汁で香ばしく炊き上げられたご飯に、細かく刻まれた和牛と旬のアスパラ。肉の脂が米一粒一粒に染み込みながら、アスパラの青さが後味を軽やかにしている。噛むほどに米と肉の旨味が一体となり、コースの締めくくりにふさわしい安堵感を与える一椀。添えられた赤出汁も抜かりなく、優しい塩梅が胃を穏やかに落ち着かせてくれる。
【甘味】どらやき
目の前で手作りで焼いてくれる小ぶりなどら焼きは、皮にふわっとした香ばしさがあり、粒を残した餡の炊き加減も絶妙。甘さは控えめで、最後のデザートとして相応しい上品な一品。添えられた苺の酸味が口直しとして秀逸な役割を果たす。
【茶】CRAFT BREW TEA「東山」
どら焼きに合わせて供されるのは、CRAFT BREW TEA「東山」。日本茶をワイングラスに注いで提供され、香りの立ち方がまるで熟成白ワインのよう。火入れの香ばしさと穏やかな甘みが口内を整え、食後の余韻を美しく締めくくる。甘味との相性も計算され尽くしている。
やはりこの店は、全体を通しての空間・料理・酒・器・お茶まで一貫した世界観が構築されている。静かで深く、密度の高い時間が流れる稀有な空間。季節が進むたびに再訪したくなる理由がある名店である。
2025/06/24 更新
2025/05 訪問
最高に美味い神戸牛
どうしても神戸牛の生肉を食べたくなってまたやってきた麻布割烹「十」。
前回と入り口付近の生け花が変わりお店が少しスタイリッシュな雰囲気に。著名な華道家さんが毎週お花を生け替えに来てくれているのだそう。
通された席に着くなりそわそわ、早くも口が神戸牛を求めてそれ誤魔化すためにシャンパンで雑念を流し込む。
一品目から出し惜しみせずに生肉とホタテの昆布巻き。最初の一口の歯応えと生肉を飲み込んだ後の口に残る肉の甘みが何とも言えない。これだけでもきた甲斐がある秀逸な一品。
この後もテンポよく次々と出てくる神戸牛のオンパレード。とろたく巻き、生肉の刺身、サーロインのだし汁で作った稲庭うどん、炭火焼きなどなど。ここまでふんだんに神戸牛を堪能できる贅沢な時間に感謝。
神戸牛以外のメニューも絶品。中でも法皇キャビアとキャビアフィッシュ(チョウザメのことをキャビアフィッシュというらしい)の刺身は、軽く昆布でしめられていてまろやかさと歯応えが抜群な珍しくも斬新な一品。他では絶対に味わえない一品に至福なひと時を感じる。
そして今回何と言っても抜群に美味しかったのが、しっかり味付けされたシメの炊き込みご飯。お米(つや姫だったか)と神戸牛の巧みなコラボレーションが最後の最後に繰り出されてテンションは最高潮に。お腹の満足感は高いのに箸が止まらない超絶の一品であった。
近いうちに是非またきたい麻布割烹十はやっぱり名店。
2025/07/13 更新
2025/04 訪問
麻布十番にオープンした隠れ家割烹の名店「十」
取引先との会食で訪問。
麻布十番で行列ができる人気店「たき下」の2階にある隠れ家的な佇まい。店内の雰囲気はとてもよく、落ち着いたアッシュとキャメル色の組み合わせが斬新な内装デザイン、生け花、お盆、食器など随所に拘りが感じられた。
コース料理は、量やスピードがテンポよく、特に気に入ったのは、こだわりの神戸ビーフの生肉のとろたく巻きとこちらも神戸ビーフを4時間以上煮込んだという山椒添えの煮込み。いずれも今まで食べたことのない美味しさで絶品。
愛媛の奥地まで出向いて生産者から直接仕入れているというキャビアと普通なら流通していないというキャビアフィッシュ(チョウザメ)の親子料理も、初めて食べたがとてもマイルドでこれも絶品。
生の神戸ビーフを食べられる店が決して多くないので正にお肉好きにはおすすめ。ふんだんにそして贅沢な神戸ビーフが心地よいが、それでいて最後までもたれなどのしつこさがないのがここの料理人の繊細さが感じられる。
定期的に訪れたくなる名店を発見。
2025/05/30 更新
もはや定番となった「麻布割烹 十(とお)」への往訪。落ち着いた雰囲気の中で、神戸牛を中心に旬の食材をふんだんに用いた割烹料理を楽しめる名店である。和食の伝統を重んじつつも、自由な発想を取り入れた一皿一皿は、訪れるたびに新鮮な驚きを与えてくれる。
この日の献立は、肉と魚、野菜が巧みに組み合わされたコース。
冒頭に供されたのは、和牛の赤身肉にキャビアを添えた逸品である。肉の旨味とキャビアの塩味が絶妙に調和し、花弁の彩りも相まって目にも鮮やかであった。
続いては新鮮な雲丹と鱧。豊かな香りと滋味が口いっぱいに広がる。椀物は松茸を用いた澄まし仕立てで、すだちの爽やかな酸味が秋の到来を感じさせてくれた。
和牛と果実を合わせた料理、食材の持ち味を最大限に引き出した巧みな調理に感銘を受ける。特に印象的であったのは、黒トリュフを贅沢にあしらった和牛料理。香り高いトリュフと肉汁が渾然一体となり、贅沢さの極みを味わえた。
低温調理された牛肉のステーキは柔らかく、塩や山葵とともにシンプルに楽しむことで素材の力を実感できた。
締めは土鍋で炊き上げた鱧と茸の御飯が供される。ふくよかな香りと出汁の旨味が米に染み込み、思わずおかわりを欲するほどである。最後の一口まで満足感に満たされる、完成度の高いコースである。
麻布割烹十は、伝統を重んじながらも革新を感じさせる料理を提供する実力店であり、記念日や特別な会食にふさわしい一軒。四季折々の素材と真摯な仕事ぶりを堪能できる割烹の名店である。