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夜の点数:3.5
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幻の頂、三田製麺所
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2026/01/31 更新
僕は、三田製麺所の券売機の前で、いつも物理学の基本法則を疑うことになる。
時刻は午後11時を回っていた。
有楽町のガード下には、都市の吐息のような低い唸りが満ちている。
路地裏には、すでに5、6人の男たちが列を成していた。彼らは無言で、あるいは何かの啓示を待つように、ポケットに手を突っ込んで順番を待っている。僕もその最後尾に並ぶ。
列が進み、店外に設置された券売機と対峙する時が来た。
暗闇の中でぼんやりと赤く光るその機械は、僕にこう問いかけてくる。
『並・中・大 同一料金』
これは、資本主義のバグだ。
賢明な大人はここで、己の胃袋と相談し、明日のコンディションを考慮して「並」を選ぶべきだ。
しかし、僕の中の貧乏性という名のシステムが、自動的に演算を開始する。
『同じ値段なら、グラム単価が最も低いものを選択せよ。それ以外は損失(ロス)だ』
僕は1月の冷たい風に吹かれながら、ほとんど無意識に「大盛(580g)」のボタンを押し込んでいた。
それは決断というよりは、重力に従ってリンゴが落ちるような、極めて自然な行為だった。
カウンターに運ばれてきた麺の山は、キリマンジャロの雪景色のように美しく、そして圧倒的だった。
普通なら、この量を前にして「やってしまった」と後悔の念を抱くのが正常な反応だろう。
しかし、不思議なことに、僕の心は凪いだ海のように静かだ。
僕は箸を割る。
麺をひとつまみ、ドロリとした濃厚ダレに沈め、音を立てて啜り上げる。
ガツンとくる魚介の香り。小麦の暴力的な風味。
完璧だ。
そこから先、僕の身体には奇妙な現象が起きる。
580gの麺が、まるで最初から存在しなかったかのように、僕の胃袋という名のブラックホールへと吸い込まれていくのだ。
喉越しはシルクのように滑らかで、濃厚なつけ汁との相性は、古くからの友人のようにしっくりときている。
苦しい? まさか。
アルコールでブーストされた僕の消化器官において、この程度の炭水化物は、春の雪解け水のようにサラサラと流れていく。
啜るたびに、丼の中の山が消えていく。それはある種の魔法を見ているようだった。
「あれ、もうないのか?」
最後の一本を啜り終えた時、僕は狐につままれたような気分になる。
さっきまでの山は幻だったんじゃないか。
割りスープでタレを飲み干してもなお、僕の胃袋にはまだ余裕すらあるように感じられた。
580gを「ぺろり」と平らげたことへの罪悪感?
そんなものはない。あるのは、システム(同一料金)に勝利し、かつ物理法則を超越したという、静かな達成感だけだ。
店を出ると、有楽町の風はさっきよりも心地よく感じられた。
僕はコートの襟を立て、不思議な浮遊感とともに駅へと向かう。
「やれやれ、これなら『特大』でもいけたかもしれないな」
そんな不遜な独り言を、夜の闇に紛れ込ませながら。