江東区古石場文化センターで開催された
「第8回江東シネマフェスティバル」(2015.1/10~12)に、小津安二郎監督作品
「東京物語」を鑑賞に行ってきた。
小津安二郎監督は1903年(明治36年)12月12日、東京市深川区万年町(現在の東京都江東区深川)に、父寅之助と母あさゑの次男として生まれた。
昨年、生誕110周年(没後50回忌)を迎えたが、その1年前の2012年、世界で最も信頼ある映画雑誌アンケートで「東京物語」が、世界の監督たちが選ぶ映画ベスト1に輝いた。何故、60年も前に日本で発表された映画が、世界から賞賛され語り継がれるのか?その謎を紐解くため、30数年前に観た映画を、晩年の監督と同じ年代になった今、再度検証してみる。
■小津安二郎監督作品「東京物語」あらすじ Your Tube 予告編はこちら⇒
東京物語予告編 広島県尾道に住む老夫婦、東山周吉(笠智衆)とみ(東山千栄子)が東京に住む子供たちを訪ねるために上京するシーンから物語がはじまる。
2人は、最初医者で長男(山村聡)の家に行くが急患が入り相手ができない。そこで次男の未亡人 紀子(原節子)に頼み東京を案内してもらう。
その後、長女 志げ(杉村春子)の家に世話になるが、こちらも美容室の経営が忙しく理由を付けて熱海の温泉に行かせてしまう。
しかし、のんびり出来るはずの温泉で、隣の部屋が夜中まで騒がしく眠れなかった2人は1日で東京へ戻って来てしまう。
すると、志げは出掛ける用事があるのに困るじゃないかと迷惑がる。しかたなく、とみは紀子の家に、周吉は旧友の服部(十朱久雄)沼田(東野英二郎)を訪ね再会を喜び飲み明し、子供たちのことを愚痴りながら泥酔してしまう。結果、長女の家に戻った周吉を志げは激しく罵倒する。
こうして2人の東京でのひと時は終り、尾道へと帰って行く。
途中、とみの体調が急に悪くなり家に着くと倒れてしまう。今度は子供たちが尾道に集まるが、彼らの看病もむなしく、とみは息をひきとってしまう。
とみの葬儀が終わった後、志げは次女の京子(香川京子)に形見の品をよこすよう催促する。そして、紀子以外の子供たちはそそくさと東京に帰って行く。
京子は憤慨するが、紀子は義兄姉をかばい若い義妹を静かに諭す。
紀子が東京に帰る前、周吉は上京した際の紀子の優しさに感謝し、妻の形見だといって懐中時計を渡す。紀子はそれをそっと受け取り号泣し義父を気遣う。
がらんとした部屋で周吉はひとり、静かに尾道の海を眺めている。
■何故、世界の監督たちがベスト1に選んだのか? 2020年に向けて、ここ数年、訪日外国人の急激な増加や世界的な「日本ブーム」を迎えつつある。日本の文化や風習を「クール・ジャパン」などと紹介し、ナショナリズムを外国人に伝えるのは決して難しいことではなくなった。
しかし、この作品は「日本映画」だからという理由で評価された訳ではない。
「クール・ジャパン」「エキゾチック」という言葉だけで、これ程までの評価(投票する監督78カ国358人、1992年から10年毎に開催され、今まで観た映画の中でそれぞれが10作品を選び投票する。ちなみに2位以下は「2001年宇宙の旅」「市民ケーン」「ゴットファーザー」「地獄の黙示録」などの名作が並ぶ)を得ることは出来なかっただろう。ならば何故「東京物語」が、しかも60年前の作品がここまで評価されたのか?
そこには時代も国籍も超え、何処にでもある公共的な普遍性を帯びているからではないかと感じる。
「東京物語」を初めて見たのは今から30数年前。池袋にあった小さな映画館(文芸座)だったと記憶している。
当時、学生だった私は授業をさぼり映画館に通い詰めた。しかし「東京物語」を観て感動を憶えた記憶はない。おぼろげに憶えているのは、「水戸黄門」のご老公役だった東野英治郎や、「男はつらいよ」の御前様役の笠智衆が若い!と感じた程度だった。(もっとも、笠智衆はこの「東京物語」を演じた時には実年齢は30代後半で、夫婦役の東山千栄子(とみ)は15歳年上。娘役の杉村春子(志げ)とは1歳しか違わなかった事を知り、彼の演技力と配役を決めた監督の鋭い感性に驚きを隠せない。)
それが今回の鑑賞で、時代を超えたタイムレスな時代超越性=「普遍性」に大きく心を揺さぶられ、目頭が熱くなった。普遍性とは、万人の心を揺さぶる感情の共有性であり、この映画にはそれが随所に盛り込まれている。
この映画が何故に、ここまで外国人に支持されるかの本質は解らないが、忘れられた時代の産物(偶然の産物ではなく、小津監督による計算され尽くされた産物)はどの国でもどこにでも人の心に灯火を与えているのではないだろうか?
彼と同じ年代になり、そんな感想を私は抱いた。(愚感想)
機会あれば是非「東京物語」を観てもらいたい。特に若い方々に…■配役*平山周吉:笠智衆 尾道に妻と次女と共に暮らしている。
*とみ:東山千栄子(俳優座)周吉の妻。
*紀子:原節子 戦死した次男の妻。アパートで暮らしている。
*金子志げ:杉村春子(文学座)周吉の長女。美容院を営む。
*平山幸一:山村聰 周吉の長男。内科の医院を営む。
*文子:三宅邦子 幸一の妻。
*京子:香川京子 周吉の次女。
*沼田三平:東野英治郎(俳優座)周吉の旧友。
*金子庫造:中村伸郎(文学座)志げの夫。
*平山敬三:大坂志郎 周吉の三男。国鉄に勤務している。
*服部修:十朱久雄 周吉の旧友。
*よね:長岡輝子(文学座)服部の妻。
*おでん屋の女:桜むつ子
*隣家の細君:高橋豊子 周吉の家の隣人。
*鉄道職員:安部徹 敬三の同僚。
*アパートの女:三谷幸子 紀子の隣室に住んでいる。
*平山實:村瀬襌(劇団ちどり)幸一の長男。
*勇:毛利充宏(劇団若草)幸一の次男。
*患家の男:遠山文雄
*巡査:諸角啓二郎
*艶歌師:三木隆
*尾道の医者:長尾敏之助
■デジタルリマスター版について 「東京物語」のネガフィルムは、1960年の現像所火災により消失し現存しない。
製作会社の松竹は、2003年と2011年の2回にわたってデジタル・リマスターによる修復・リプリントを行った。
2003年版は、小津安二郎生誕100年記念事業の一環として、劇場公開やDVD化のためにデジタル修復が施され、2011年版は、NHK BSプレミアムで2011年から2012年にかけて企画された『山田洋次監督が選んだ日本の名作100本』での放送のために、NHKが松竹に全面協力し、実際の修復作業はIMAGICAにより行われた。
撮影助手を務めた川又昻氏が、製作時のプリント状態を知る数少ない当事者として助言し、通常のデジタル修復に加えて画質の明暗の再調整。手作業によるプリントやサウンドトラックのノイズ修正など、きめ細かな修復が行われた。
今回のデジタルリマスター版により、ネガフィルムでは判らなかったことが、数多く判明したという。例えば…部屋の襖と、とみの着物の柄が似通った柄になっているなどの彼の遊び心や、風景の随所に彼のこだわりが垣間見えたのだという。
今回の鑑賞では、そこまでの細かな事は確認は出来なかったが、次回はじっくりと検証してみたいと感じた。
■参考資料:Wikipedia