12回
2018/11 訪問
食べるバングラおさかな大図鑑8 ボアル(ヘリコプターナマズ)
ボアルというナマズの料理をたのんであった。
ヘリコプターナマズの異名をとり、シルバーの体色で、
胴体が大きく膨らみ尾が二股に別れたその恰好(写真)は、
確かにヘリに見えなくもない。ちなみにローターは無かった。
初めて食べるそれをモチベーションに、日頃の運動不足を少しでも補うため、
東京から埼玉へ、カラチの空の傍を抜け、徒歩で向かった。
4時間17kmの行程はやけに遠い。
いつもとは反対側からラベヤの灯りが見えた時には、巡礼地に到着した気分だった。
足が棒だ。
■予約の品
ボアル・ジョル(ヘリコプターナマズカレー) medium hot
繊維がゴツく、締まった身質のボアルは、川魚らしいベンガル風情があり、
トマトと唐辛子の辛酸っぱいスープによく合っていた。
ヨレヨレの身体に足りないものが急速にしみわたっていく。
ボアル・バジ(ヘリコプターナマズの唐揚げ) medium
胴体部分、布団バサミみたいでどえらいインパクトがあった。
ニンニクチップと揚げタマの甘酸っぱいマサラが味わい深い。
デローシュ・バジ(オクラ炒め) mild
クタクタになるまであおられたオクラは、オクラであってオクラでないようだった。
塩と生姜がビシッと利いている。
ダル(レンズ豆スープ) medium
今日のは、ニンニク風味が強い家庭的なダル。炒り赤唐辛子の苦みがあった。
何の飾りっ気もないガツンとくる武骨な味がしていた。俺、こういうの好きだ。
そして、栄養的にもバランスのいい食事だったと思ってる。
食べていると、「名前ワカルゥ?」、ファミリーの中学女子が帰ってきた。
「アー、オ腹スイター!」、厨房に駆け込み、食事を取り始めた。
ネイティブが何を食べているのか、俄然興味がある。
「何食べてんの?」、俺は厨房の小窓から首をつっこんで尋いた。
「ボアル」、女子は口一杯にボアルをほおばりながら答える。
「おいしい?」
「オイシイ!」
たのんだものが、まかないにもなっていた。
料理がネイティブにも保証されたようで、うれしい。
2018/11/20 更新
2018/09 訪問
食べるバングラおさかな大図鑑7 チトル(ナギナタナマズ)
この日はチトルという魚の料理をたのんであった。
その前に「バーフバリ」という2本立てのインド映画(休憩を挟んで5時間)を観、
気分を高揚(困憊)させてきた。
チトル(動画)はバングラデシュでは日常的な魚で、
英名:Clown knife fish、
ナギナタナマズという和名も付いている。
ナマズというより、ナギナタを思わせる平べったい銀色の体躯の古代魚は、
熱帯魚屋でよく見かけるアロワナに似ている。
■予約の品
チトル・ジョル(ナギナタナマズのカレー) hot
チトルは干物を思わせる締まった身質の白身で、
輪切り青唐辛子とニンニクと生姜でいつもの味付けだった。
はずだが、日式にタマネギベースでとろみが付けられていた。
目を疑った。
「なんで今更とろみを付けるんだ?」と言えるベンガル語力が無いのがもどかしい。
チトル・バジャ(ナギナタナマズの唐揚げ) mild
フライドタマネギが絡んだ馬蹄形の切り身は、
焼き過ぎた干物のようにカチカチだった。
ベグネル・ジョル(ナスカレー) hot
縦スライスのナスが、赤青唐辛子、カレーリーフで煮込まれ、
タマリンドのアクセントまで付いてなかなかおもしろい仕上がり。
のはずだが、こっちもとろみが付けられていた。
食材との違和感を感じざるを得ないし、全体として雑な感じもした。
急いだんじゃないかと思う。
グループ客が一組いて、注文が重なった。
20分以内に出さねばならぬというインドカレー屋の掟に従ったことと、
そのカレーのベースを作る流れでとろみが付けられたのじゃないかと推測する。
突然、別れを告げられたような哀愁がただよっている。
2018/09/18 更新
2018/07 訪問
食べるバングラおさかな大図鑑6 マグル(歩くナマズ)
バングラではマグルと呼ばれ、人気のある魚だ。
英名:wolking cat fish。
ヒレナマズ科、黒褐色の体に4対8本のヒゲをもち、顔がウナギイヌに似ている。
空気呼吸ができ、雨が降っていれば、地上を這っての移動が可能となるため、
「歩くナマズ」の名が付いた。
「世界の侵略的外来種ワースト100」に選定されており、
沖縄で定着が確認されている。
さぁて、どんな味がするんだろうか?
■予約の品 \5,000(2人分)
マグル・マセル・ジョル(歩くナマズカレー) hot
サンマ並みにオイリーな切り身と、青唐辛子と生姜のどシンプルなシャバソース。
ベンガル的に重く辛いいつものスタイルで、
そのまますすっても、ライスにかけても、ホッとする味だ。
マグル・マセル・バジ(歩くナマズの唐揚げ) medium
揚げタマ効果と青唐辛子で、甘酸っぱ辛さを演出してるんだが、
ナマズ自体がオイリーにしっとりしているためジョルとの印象が近い。
ロティ・バジ(タロイモの茎炒め) medium hot
ラベヤ食材の冷凍庫で見つけた期待の星。
芋の茎つながりでズイキを想像していたら、ぜんぜん違う。
太い肉厚の茎、ロティ(loti)は茄子に似た食感で酸味もあり、
タマネギベースがしがみついていた。
おもしろい野菜だ。
ダル medium hot
いつものダル。例によって後から出てきた。
魚をたのんだ時はいつも、脇目もふらないホームメイド仕様で料理が出ている。
当然、魚が変われば、味わいが全く違ってくる。
まだ食べたことのない魚が、山のように冷凍庫に入っている。
なにせ、売るほどあるんだし。
2018/07/30 更新
2018/06 訪問
食べるバングラおさかな大図鑑5 ショル(雷魚)
陽が傾きはじめた6時半、
いくつかの巨大なずん胴が、厨房から表のバンに運び込まれていく。
大口発注、200人分のビーフビリヤニだ。
壮快な光景である。
ラマン社長の満面のどや顔がキラキラキラキラ輝いていた。
そりゃあもう、そうだろう、笑いが止まらんだろう。ガッハッハァ。
レストランは売ってなんぼ、腹を満たしてなんぼだ。
閑古鳥の群れを見てきたものだから、俺も胸のすく思いだった。
で、料理の話。
食材屋のほうの冷凍庫で見かけたショル(雷魚)とポトル(カラスウリ)を
たのんである。
雷魚は親しみのある魚だ。
子どもの頃、毎日のように釣り上げていた。
でかいのになると、1mにもなり、怪魚といった風体で、
そこらへんの池に丸太棒のようにボーっと浮かんでいたりしたものだ。
食べるのは初めてである。
社長は配達に行き、まだ熱気の冷めやらん中、速攻の提供だった。
■予約の品
ポトル・ショル(雷魚とカラスウリのカレー) medium hot
バングラではどちらも日常的な食材で、この組み合わせにバングラ的風流を感じる。
弾力のあるキャベツの芯みたいなカラスウリと、
イメージとは裏腹に普通に上品な白身の雷魚が、
パクチーと一緒に半透明のソースに煮てあった。
何の飾り気も無く、ゴツゴツしたこの尖り具合と旨味の濃さが心地いい。
ショル・バジ(雷魚の唐揚げ) mild
直径10cmの雷魚の輪切りに粉を振り、こんがりめに焼いてあった。
大型魚なので、繊維の断面がザラザラとした食感に感じられる。
味は魚の唐揚げそのものだ。
ダル(豆スープ) mediumhot
ムング・ダル(緑豆)とモシュル・ダル(レンズ豆)の半殺しで皮もチラホラ。
今日のダルは辛さも塩も濃く、攻撃型でごはんによく合い、実にうまい。
5分とか10分くらいで調理できることも分かってきた。
だからか?、食べ始めてからおまけのように出てくることが多い。
あのビリヤニを見て、この店は大丈夫だと思った。
察するのと、実際に見せられるのとでは説得力が違った。
同胞側の需要はあるのだ。しかも太い。
どうりで、ここのファミリーは日本人をつかむ気があるんだろうかと思うくらいに、
のんびり構えていた。
合点がいったことだった。
2018/07/02 更新
2018/05 訪問
食べるバングラおさかな大図鑑4 チングリ・シュッキ(干しエビ)
今日は干しエビ(チングリ・シュッキ)の料理を2品、
トルカリとボッタをたのんである。
エビ(チングリ)はベンガルでは魚枠に入っており、シュッキは「干物」の意。
だから、干しエビ(チングリ・シュッキ)はオキアミと同じようなもので、
食材としては、ぜんぜん高価なものじゃない。
ラマン社長が鍋をかかえて入って来た。
ということは、夫人の手によるものということになる。
ディス・イズ・ア・ホームメイド。
そうしてくれと、たのんだわけじゃない。
電話を入れた時、彼はたまたまうちにいて(ガキ5人がどんちゃん騒ぎ)、
傍にいた嫁に「チングリシュッキノリョーリハ、ナニガアル?」と尋いていた。
「ジャア、ツクッテクレ。」みたいな流れだと思う。
■予約の品 合計\3,000(2人分)
チングリ・シュッキ・トルカリ(干しエビカレー) super hot
とろみがかったタマネギベースに千切りジャガイモ、ニンニクチップ、干しエビ。
青唐辛子のヒステリックな辛さとエビの甘みのギャップが気持ちいい。
極端に地味に見えるが、クセもコクも相当なもので、
辛さにいたっては、そうそうお目にかかれないレベル。
久しぶりにむせて、しばしラッシャー木村みたいな声になった。
チングリ・シュッキ・ボッタ(干しエビの和え物) super hot
すりこぎで潰してあるだけがボッタじゃないようで、
こっちは赤、青唐辛子のサラダ感覚の和え物。
元の材料はトルカリと同じだが、味も舌ざわりも違う料理になっていた。
カスキ・マセル・ボッタ(小魚カスキの和え物) mild
小魚をブレンダーでひき、塩で固めた茶色い塊。
その魚臭、塩加減は完全に振り切られていて、
クセという点では、トルカリやボッタの遥か上を行っていた
カチャ・モリッツ・ボッタ(青唐辛子ペースト) super hot
まだやるのかといった具合の青唐辛子純度100%の味変要員。
すでに青唐辛子はこんもり入っているのに、さらに味変する意味があるのだろうか?
両脇をガッシと捕まえられてバングラデシュへ連行されるような料理だった。
辛いというだけの意味じゃなく、緊張感のあるうまさだ。
このおかんはブレンダーを多用する。
そんなパッとしない見た目のトルカリやボッタ単品を口に入れれば、
なんじゃこりゃ、味が濃すぎてよくわからねーよ状態なのだが、
飯にこねてみれば、あら不思議、
グググイイと、どぎつい風味とエッジが屹立していった。
今までのベンガル料理の認識がひっくり返され、
はい、やり直しみたいな感覚に襲われた。
とまで言っても大袈裟すぎないぐらいに激しい。
バングラデシュの主婦おそるべし、である。
※モスクから流れてくる同胞向けのビリヤニが常備されている。
一人前ずつ冷凍保存した炊き込み式を手直しして提供。
チキン\1,200、マトンとビーフがそれぞれ\1,300。
2018/05/28 更新
2018/03 訪問
自分がうまいと思うものは人にも食わしてみたい だから蒲生でベンガルオフ会!
俺は考えていた。
ギンギンに田舎くさいベンガル飯でコースを組んだとして、
他の誰かにもウケるとは限らない。
むしろすべる確率のほうが高いやもしれん。
「…やっぱ、川魚はどうも…」
「…味が濃すぎて喉がかわいちゃった…」
「…なんか、おいしいんだか、おいしくないんだか、よくわかんないね…」
とは口には出さずとも、微妙な空気が流れはじめ、
例えば、下手くそなアマチュアバンドを聴かされて褒める言葉に困った時のように、
「スッ、ストレートでカッコいいね。はははははっ。」みたいなのは痛い。
そんな心配が頭をよぎるほど、ラベヤのベンガル料理は田舎くっさい。
とかなんとか言いながら、俺の腹は決まっていた。←じゃあ書くなよ!
中途半端に食べやすくしちまったら、会の意味が無くなる。
ここでしか食べれないものを食べてもらおう! あとはスベれ!
そう思っていた。
■まじりっけなしのベンガルスタイル、おかわり自由! \3,000
1.ライス(日本米)
バスマティじゃ、ここの料理には軽すぎるし、上品すぎるし、似合わない。
だから二者択一でいつものこれにした。
2.ショリシャ・ティラピア(ティラピアのマスタード煮) medium hot
平皿にお頭付きのティラピアが鎮座、社長が勝負に出ている!
脂ののった皮目はプルプル、「鯛と言われても…!」という声も。
辛子色のソースがまた荒々しく、ライスにぶっかけて昇天。
3.カスキ・マセル・チョッチョリ(メダカクラスの魚、カスキの含め煮) mild
ジャガイモとトマトとのバングラではポピュラーな家庭料理。果てしなく地味。
4.カズリ・マセル・チョッチョリ(キビナゴクラスの魚、カズリの含め煮) mild
カスキよりもトマト率が高く汁っぽい。川魚のバリエーションをたのしむ。
5.ロティヤ・シュッキ・ブナ(干し魚のマスタードオイルペースト) medium
魚とオイルの味が濃く、食卓にいてほしい一皿。さらに果てしなく地味。
6.ダル(イエロームング豆のスープ) mild
煮崩した豆が浮いたかけ汁。うまみは濃いが味は薄い。
祝い事仕様との説明があったが、実に素朴。
7.チキン・ビリヤニ mild
甘酸っぱいマサラ感が這い上がってくる。ブラウンカルダモンが見えた。
バングラのビリヤニはいつも地味に濃くマイルドだ。
ダック・ビリヤニも候補だったんだが、
それはベンガル飯じゃなく、皮も硬いとの社長の助言でパス。
8.セミヤ(極細パスタの生菓子)
ソーメンが固まったような見た目で、ツゥルンとしてうまい。シェフの力作。
9.バパ・ピタ(ココナッツ蒸しパン)
モソモソする果てしなく素朴な米粉の蒸しパン。
あまりに素朴すぎて、日本で提供されるのは初めて(かもしれない)!社長夫人作。
気が付くと、周りの方々はガツガツと食っていた。いつになく静かだ。
さすがはエスニック好きのサイタマーズ、たじろぐ人など一人もいなかった。
この人通りがほとんど無い蒲生で、こんな料理を、この人達と食っていることが、
ものすごく不思議に思うのだった。
ショリシャ・ティラピア(マスタード煮):本日のハイライト!
上ロティヤ・シュッキ・ブナ(干し魚のマスタードペースト)、下カスキ・マセル・チョッチョリ(小魚カスキの含め煮)
チキンビリヤニ:さすがはムスリム仕様
セミヤ:ソーメンを固めたようなデザート
バパ・ピタ:バングラの蒸しパン
2018/04/23 更新
2018/03 訪問
バングラデシュの社長は普段何を食っているんだろうか?(家庭料理な話)
モンキー顔の社長のラマンさんと電話で話していたら、
「晩飯は何食った?」という話になった。
「チイサナサカナヲ、▽▽シテ、××シテ、チョット、ドライナノ。」
それまで、ボーっとしていたフードコート浜の目が、鋭く光った。
「しゃ、社長、そ、そ、それ、俺も食ってみたい!」
俺は身を乗りだし、宮尾すすむみたいな上目づかいになっていた。
「ア、ソウデスカ?」
一呼吸間があって、彼はこう言った。
「ヘヘヘヘ、オクサンニ、キイテミナイト。」
もらった!と思った。
「メンドクサイチューモン、ウケテ、モゥ、アタシャ、シリマセンカラネ!」
なーんて言うムスリムの妻は、まず、いないからだ。
「あんたの今日の晩飯と同じものを」と所望したはずだが、
冷凍魚のブロックを3種類もほどいて、4品も皿が並んでいた。
ほんとに同じもの一品だけでは金が取りにくく、出せなかったのだ。
干し魚のセミドライカレーだけが夫人の手によるもので、
あとはコックのカンちゃんによるものだった。
文句は、無い。
■社長の晩飯(要予約)
魚料理4品、サラダ、ドリンク、ライスを2人分で\6,000
テラピア・マセル・ジョル(テラピアの煮つけ) medium hot
揚げて煮た2工程のぶ厚い身が尖ったスープにひたり、たまらん。
テラピアには今までいい印象がなかったが、良し悪しは状態によるのだと分かった。
それと、同じ「魚の煮つけ」でも、ケシの実をはじめ、
明らかに使っているスパイスの種類が増え、深みを増している。
テラピア・マス・バジャ(テラピアのフライ) medium
マスタードオイル・ディープ・ソテー。
料理によってマスタードオイルとサンフラワーオイルを使い分けている。
ケチっているわけではないと思うが、とにかく飯がすすむ。
カスキ・マセル・チョッチョリ(小魚と野菜の含め煮) mild
メダカみたいな小魚カスキとジャガイモとインゲンがひたすらしんなり炒めてある。
見た目も味もとことん地味なところが逆に派手だ。
ロティヤ・シュッキ・ブナ(干し魚のマスタードオイルペースト) medium
日常的に社長がよく食っているというくだんの家庭料理。
細かくほどけた干し魚とマスタードオイルとアメタマのほぼペースト。
ちょっと甘くちょっと辛く、どぎついクセもコクもある。
他の料理も家庭料理寄りなこともあるが、ぜんぜん浮いていないところが見事だ。
「オイノリニ、イッテキマス。ゴメンネ。」と言ってモンキー社長は席を立った。
どこを切ってもムスリムな男だ。
コンビニ弁当なんか絶対に食わないと断言してもいいだろう。
ひょいと、彼が放置していったメモ書きに目をやると、
英語に交じって「人」や「時」が漢字で記されていた。
2018/03/23 更新
2018/02 訪問
食べるバングラおさかな大図鑑3 イリッシュ(バングラデシュ国魚 ニシン科)
例えば、タイ、カレイ、メバル、カサゴ、ノドグロ、………。
魚の種類によって、煮つけの味がぜんぜん違うのは誰もが知っている。
そこは当然、バングラデシュの魚にも同じで、毎回違う魚をたのんでいる。
それはそれでいいんだが、
まだ、バングラデシュのここぞという時に出てくるマスタード煮を食っていない。
俺が雷魚のマスタード煮を注文したら、社長がこう言った。
「ソレハ オイシク デテコナイ。」
「じゃあ、何ならおいしく出てくるの?」と尋ねると、「イリッシュ!」だと言う。
ものを知らない素人をこうやって、道を外れないよう導いてくれるところは嬉しい。
食べたものだけでも、スタンダードをまず押さえたいのだ。
イリッシュ(Ilish)
バングラデシュ国魚。
ニシン科の海水魚で、体長60cmに成長する。
日本のニシンよりも大型であり、ベンガル湾から河川を遡上する習性を持つ。
漁民のほとんどは激貧で、エンジン付きの漁船や魚群探知機なんか望むべくもなく、
年中ホイホイ漁獲できるわけでもないので、絶対量が足りていない。
そうやって一桁違う値段が付けられることもあって、狂信的な人気がある。
誰が何と言おうと、バングラデシュの食べものの中で不動の四番なのである。
■イリッシュ料理3品、ドリンク、ライスを2人分で\5,000(要予約)
ショリシャ・イリッシュ(マスタード煮) medium hot
写真では黄色いスープみたいに見えるが、この中に直径10cmの筒切りだけが具として沈んでいる。きめの細かい白身だ。
マスタードオイル、シード、ペーストの有無を言わさぬ濃さがあって、
まるで、ビリビリ通電されているようだった。俺、こういうの好きだ。
イリッシュ・マス・バジャ(素揚げ) medium
いつもの思いっきり火を入れる西ベンガルスタイル。
辛くはないのに青唐辛子とニンニクが味をひき締める。
粉ものとじゃ絶対に食いたくない代物だ。
イリッシュ・ディメル・チョッチョリ(カズノコとジャガイモの含め煮) mild
後入れで結構な量目のギマ(gima)というゴーヤ系の乾燥葉の苦みと
赤唐辛子の香ばしさが表味となってじんわり苦こうばしい。
たまたま今、ギャグを思いついたからやります的なアドリブで、
バリエーションとしても、おもしろさも、突きぬけた地味さもツボ。
目が醒めるほどにうまかった。
今日は力の入れようが明らかに違う。
イリッシュだからだ。
ベンガル人は皆、この魚に特別な想い入れがある。
日本でいえばマグロ、いやいや、魚食の割合が多いことを考えればそれ以上だ。
だから、ここはこのスパイスでなきゃとか、慎重に火を入れようとか、
無意識のうちに扱いが違ってくるのだ。
欲しい材料があれば、何だってハラルフードのほうから持って来ることができる。
そんな強みを見せつけつつ、今夜も他の客は誰も来なかった。
それでも、通路を裸足のガキ(3才)が走りまわり、
社長は寸暇を惜しんでクリケット中継をスマホで観戦し、
今夜もラベヤレストランは、1mmの危機感さえ感じさせない。
ショリシャ・イリッシュ(マスタード煮):ビリビリビリビリ通電されているようだった
イリッシュ・マス・バジャ(素揚げ):いつもの思いっ切り火を入れるスタイル
イリッシュ・ディメル・チョッチョリ(カズノコとジャガイモの含め煮):ギマっていうゴーヤ系の乾燥葉っぱで田舎くささが脳天に突きささる
2018/03/14 更新
2018/02 訪問
食べるバングラおさかな大図鑑2 コイ(キノボリウオ)
今日はキノボリウオを食う。
ベンガル語でコイと呼ばれる中型の魚で、生態がまた独特だ。
エラブタの中に上鰓器官(ラビリンス器官)を持ち、
これで空気呼吸ができるため、浅瀬や田などを這いまわる姿が見られる。
熱帯魚屋でよく見かけるキッシンググラミーやベタも同族である。
実は俺はむかし、このキノボリウオを2尾飼っていた。
体調20cmほど、身体能力に優れ、喧嘩早く、頑丈で、ふてぶてしいツラをしていた。
他の魚の餌までもかっさらって肥え太り、
時にはその魚も跡形もなく喰っちまうハイエナみたいな極悪ヒールユニットだった。
バングラデシュでは日常的によく食べているという。
さーて、どんな味がするんだろうか?
■料理(要予約) コイ5尾、ライス2皿、ドリンク2杯で\5,000
身はひき締まって固く、筋骨隆々、日本のどの魚にも似ていない。
イワシのような苦みを持ち、川魚のなかの川魚的な凄みのあるクセがおもしろい。
ただし、冷めたらきびしい。
骨も剣山のように鋭く硬く、頭に思いっきりかじりついてみたが歯がたたなかった。俺の頭ん中には必然的にバングラデシュの川底の動画が映っていた。
コイ・マチェル・ジョル(キノボリウオの姿煮) medium
頭からまるごと煮込まれてコイの濃いダシがグワァーっとソースに出て、
ねぎと青唐辛子でやくみを利かしてある。
田舎くささ転じて、おだやかさが感じられる汁料理だ。
コイ・マス・ド・ピアジャ(タマネギあんかけ) medium hot
トマトの赤みを帯びてヌラヌラと鈍く光るタマネギソースで覆われている。
炒った赤唐辛子の芳ばしい辛さをフィーチャーして、甘辛酸っぱい。
高級レストラン仕様だ。
コイ・マス・バジャ(姿揚げ) mild
ターメリックと塩と大蒜をまぶして寝かしてまる挙げした魚フライ。
噛めば噛むほどコイの味がする。
味もワイルドだが構造もワイルドで、気を付けないと骨が唇にズブッと突き刺さる。
コックのラセット・カーンはことある度に俺の横に立って、
訊かれる前に、料理の能書きをたれるようになった。
距離が縮まっている証拠で、奴だって反応が気になるのだ。
料理の手加減も無くなったが、言葉の手加減も無くなって、
理解されようがされまいが、ベンガル語でまくしたててくるのだ。
語尾に必ず「アリガト」をおっつけるところなんか、めんこいやっちゃなぁと思う。
カーンはインド側、西ベンガルの出身である。
だから、種明かしをすると、
バングラデシュの食材を使って、西ベンガル仕様の料理を作っていることになる。
なんでこんな細けえどうでもいいようなことを言うかというと、
バングラデシュと西ベンガル、同じ名前の料理が存在していても、
趣が東京と大阪なんてもんじゃないくらいに大きく違っているからだ。
カーンはバングラデシュで料理を食べたことがなく、
社長は西ベンガルで料理を食べたことがない。
だから、お互いに違っていることを知らない。
それがどうということもなく、それはそうだというだけの話だ。
(じゃあ、書くなよ!)
今日はいつにも増して贅沢な晩飯だった気がする。
2018/02/28 更新
2018/01 訪問
食べるバングラおさかな大図鑑 パンガス(巨大ナマズ)
俺は、駅の反対側にあるラベヤ・ハラル・フードのほうにいた。
輸入魚の在庫をチェックするためだ。
在る物を頼まなきゃ出て来ねぇし、できることなら自分で選びたい。
冷凍庫の中には、17種の冷凍魚と4種の乾燥魚がある。
売るほどあるじゃないか!
このなかで、食べたことのある物はわずかに5つだけだ。
俺はパンガス(ナマズ)をチョイスした。
アジアカレーハウスで1度食べたが、もっとちゃんと味を憶えときたい。
パンガスにも種がいくつかあって、バングラデシュの魚市場で見たものは、
口が尖り日本のナマズとはずいぶん違う姿をしていた。
最大3mにもなるらしい。こっちが喰われちまう。
俺は、「パンガスで料理を2種類、2人分作ってください。」と頼んだ。
冷凍魚は1ロットがだいたい1kg前後、5~6皿分はできちまうだろう。
「イクツデモ、イイデスヨ。」と社長は言う。
余ったらまかないにするんだろうが、そうはいかねえ。
儲からない仕事をさせると、付き合いは長続きしねーし、それに、わりーじゃない。
■料理 (要予約 テイクアウト含む)
パンガス・マチェル・ジョル \800×4 hot
骨付き皮付きのナマズの煮つけ。
川魚とは思えない品のいい白身で、下手な鮮魚より旨い。
ゴツゴツ尖ったお湯みたいなソースは、
どこにでもあるスパイス5つだけでガーンと濃口に調理され、
やくみを兼ねた青唐辛子を散らして、なんかこう、水性な印象のする好きな味だ。
パンガス・マチェル・バジ \600×2 medium hot
味も見た目もほぼ日本の唐揚げに近い。
強く火を入れて、よくしまった身と食べられる骨は魚の味が濃縮されて、
ひじょうにこうばしい。
タマネギの千切りをバジったやつを載せて、
見た目と食感に一捻り手間をくわえるあたり、
蒲生のカンちゃんも間違いなく高級店育ちだということがわかった。
ダル・フライ \400×2 medium
豆カレー。
元はオイリーでサラサラな北インドのダルに生クリームを足した日本人向けのダル。
このダル自体をどうこう言うつもりはさらさらねえ。
ねえんだが、ここにいてほしくない。
食べ合わせとして、梅干しのショートケーキか、
或いは、エアロスミスに北島三郎が正式加入したような違和感を覚えた。
ベンガルの扉は確かに開いた。半開きだけれども…。
2018/02/14 更新
2018/01 訪問
新たなベンガル発信基地となれるはずなんだが…地獄の沙汰も客しだい!
バングラデシュに行け! その27
俺は赤ボールペンを耳にはさんで、
ベンガル料理が食えるかどうか、「ベンガル予想」を立てていた。
まず、蒲生にはモスク(イスラム礼拝所)がある。ここ重要。
近隣にはそこそこの数のムスリムも住んでいると聞く。
スカイツリーライン沿線にはベンガル系レストランは意外に多い。
それに何つったって、ラベヤ・ハラル・フードという食材屋の経営なのだ。
何も出てこないということはあり得ない。と踏んだ。
順序としてまず、俺はモスクを見にいった。バイトル・アマン・モスク。
普通に二階建ての一軒家だ。屋根と門には尖塔を模した装飾がある。
ここにかつて、西口にあったシャゴリカのコック、ソバンが
まかないを作りに訪れていたことを思い出した。
懐かしくなって、門扉のタマネギを撫でていると、
ベールを被ったムスリムおばちゃんが、
不審気な目で俺を見ながら通り過ぎて行った。
人通りのない蒲生の街をぬけ、旧4沿いのレストランの引き戸を引けば、
そこには、大人と子ども総勢10人のバングラデシュ人がくつろいでいた。
オーナーの弟夫妻とコックのカンさん(インド側ベンガル出身)の3人で、
切り盛りしているが、どの人もベンガル語でフレンドリーに話しかけてくるので、
どこまでが店の人間なのかがわかりにくい。
電話確認の時点で分かってはいたが、
メニューからオーダーを取る以上の日本語が通じないのだ。英語もしかり。
言葉の壁と料理の壁は反比例するので、これくらいが丁度いいといえば丁度いい。
ベンガル料理があると言われたが、用意されているわけではなかった。
メニューブックを渡され、不安がどんよりと胸をよぎっていった。
ベンガルらしさは微塵も散見されないのだ。
「どれがベンガル料理なんだ?」と、俺はカンさんの目を見ながら尋ねた。
「チキンカレー、マトンカレー、…」
「じゃあ、マトンカレーはカシル・ジョルってことなんだな!」
俺は彼の目をガン見したまま念を押した。
「はい。そのとおりです。」(ひえぇ、えらいこっちゃっ。)
多分、俺もちょっと困っていたが、奴も大分困っていたにちがいない。
■料理
マトン・カレー \900 medium
ラムチョップ用の肉を使った少々とろみのあるタイプのがきた。
無理くり骨付きにチューンして、
生クリームはほどほどにしかぶちこみませんでした的な、
奴の迷いと苦悩の跡がありありと見える品だ。
言葉としては通じたのだが、認識として通じていない。
フードコート浜討ち死に!
アル・バジ \500
ジャガイモ炒め。
マトン一つではさみしいので、即調理可能なこれをオーダーしてみた。
千切りのジャガイモを赤唐辛子とニンニクで炒め、仕上げにメティリーフをからめた重量感のあるアル・バジ。ひじょうに芳ばしい。
ガジャレル・ハルア(サービス)
人参をすりつぶしてミルクと砂糖で長時間炒めたデザート。ココナッツファイン入。
カルダモンの香が立ち、きちんと甘く、爽快な食感でかなりうまい。
俺がビンボーなベンガル語でネイティブファミリーを片っ端から攻撃していると、「おい。ヘンなジャパニが来てるぜ。ちょっと見に来いよ。」
社長に通報されてしまい、ご対面のはこびとなった。
M・A・ラマン社長は挨拶もそこそこに、営業トークをかましてきた。
ものすごく流暢に聞こえるその日本語は、
理解しているような顔はしていても、そうでないこともけっこう多い。
大手ハラル食材屋、パドマからの独立なんだそうだ。
で、何で屋号が「ラベヤ レストラン&スウィーツ」なのかといえば、
ベンガルスイーツ、ミスティを自社製造しての販売を企んでいるからだと言う。
もし、それが定着実現すれば、
製造販売提供を兼ね備えたベンガル発信基地となるはずなのだ。
道はまだまだ遠い気がする。
社長は言った。
「気に入らなければ、言ってくださいね。言わないと、変わらない!」
そのとおり! まさにそのことを今日大分言ったんだけれども。
さて、ベンガルの扉はひらいたのか?ひらいていないのか?
つづく
2018/01/31 更新
日曜の夜、この日も俺のほかに客はいない。
食っていると、厨房から遠慮がちに初見のコックが顔を出した。
ゲホッ!…こんな暇な店に2人もいらないはずなんだが、どういうことだ?
「Nice to meat you!」彼は英語を話した。
どうやら、コックのカンちゃんが3月から中期的に里帰りするのでその繋なのだと。
話してみると、なかなか気の回る人当たりのいい兄ちゃんで、
ナイムディンと名のった。
ナイムディンおまえもか!といった具合に、彼は西ベンガルはディガの出身だった。
(どういうわけか、日本で働くインド人コックはディガ出身者がやけに多い。)
来日して、まだ10か月だが、
その間、伊勢崎のマディナカレーレストランにいたと言う。
どんな料理を作るんだろうか?
俄然、興味が湧いてくるのだった。
ということはだ。
一人が調理してる間、一人がボーッとつっ立ってるはずはないので、
今食ってるこれは、合作ということになるんじゃないのか?
■チャイまで含んだ予約ディナー \4,500(2人分)
チングリ・マチェル・ジョル(川エビカレー) medium hot コックのカンちゃん作
地味なスープにしか見えんが、胴体の太い殻付きエビだけが何尾も沈んでいた。
エビのだしがギッシリ充満したソースにニンニクをテンパリングしたかんじで、
辛さではない棘が尖りまくっている。
ただ、川エビは殻が薄くむきにくい。
チングリ・マチェル・ブナ(川エビのセミドライカレー) mild ナイムディン作
濃褐色に光るソースの山にエビが埋もれていた。豪快だ。
これを掘りながら殻をむく。両手がソースまみれだ。
甘酸っぱいブナの中に、今まで高い料理を作ってきただろう品がある。
アル・パタコフィ・バジ(ジャガイモキャベツ炒め) mild ナイムディン作
お約束の炒り赤唐辛子、わざと地味に作った脇役的おかず。
ここまで地味というか、ひなびた感じのものはなかなかお目にかかれない。
ダル(ムング豆スープ) medium hot コックのカンちゃん作
今夜のダルはかけ汁タイプで辛く、いつものように濃い。
深く考えてはいないのかもしれないが、
どう食わしたいかがはっきりしていて好きだ。
タイプを異にするベンガリコックが2人、付きっきりで食事の世話をしてくれる。
なんと贅沢なことだろう。
今日の客は何人だったと尋ねたら、5、6人だと言う。
もったいないもったいないもったいないじゃないか。
スケベーな考えがひらめいた。
この2人に同じ食材で同じ料理、例えばマチェル・ジョル(魚カレー)をたのんで、
食べ比べてみるというのはどうだろうか?
たぶん、同じ鍋のカレーを2つによそわれて、
「やっぱ人によって味がちがうなぁ!」
とか何とか言って喜んでいるのがオチなんだろうけれども…