ちゃいりーさんが投稿したすし処 優勝(東京/虎ノ門)の口コミ詳細

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ちゃいりーの短編飯

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すし処 優勝虎ノ門ヒルズ、虎ノ門、内幸町/寿司

1

  • 夜の点数:3.5

    • ¥20,000~¥29,999 / 1人
      • 料理・味 4.0
      • |サービス 4.0
      • |雰囲気 4.0
      • |CP 3.5
      • |酒・ドリンク 3.5
1回目

2025/12 訪問

  • 夜の点数:3.5

    • [ 料理・味4.0
    • | サービス4.0
    • | 雰囲気4.0
    • | CP3.5
    • | 酒・ドリンク3.5
    ¥20,000~¥29,999
    / 1人

虎ノ門の深海で迎える「優勝」、あるいは書き換わる海老の年代記(クロニクル)

虎ノ門ヒルズのエレベーターに乗り込むたび、僕は奇妙な喪失感を覚える。数字は上昇を示しているが、感覚としては深く冷たい水の底へ沈降しているようだ。耳の奥で気圧が微かに変化する。それは水圧が増している証拠だ。現代の都市は巨大な珊瑚礁であり、僕らは酸素ボンベを背負った孤独なダイバーに過ぎない。

無機質な回廊の奥深くに、「優勝」という名の店はあった。まるで1980年代の野球チームのスローガンのような、あるいは誰かが置き忘れた暗号のような名前だ。その唐突さは、ここが論理的な地上のルールが通用しない場所であることを示唆している。僕は息を止め、重たいハッチのような扉に手をかけた。

扉を開くと、そこには世界と世界を隔てる分厚いバルブを通過したような、劇的な転換があった。冷たい金属的な世界から、突如として温かみのある白木の空間が現れる。外の世界とは明らかに異なる質量の時間が流れている。僕はここでようやく現世の空気を吸い込んだ。そこは都心の海溝に隠された庭園だった。

最初に供された香箱蟹を見て、僕は沈没船から引き揚げられた財宝を連想した。一人前とは思えない量が積み上げられたその姿は、海底で静かに眠っていた金貨や宝石の山のように輝いていたからだ。丁寧にほぐされた身と、濃厚な内子、外子の山。それは単なる食事の始まりではなく、失われた王国の発見だった。

口に含むと、蟹味噌の風味が静かな爆発のように広がる。僕はすかさず石川の地酒を注文した。この深海の水圧に身体を馴染ませるには、ここにある液体(アルコール)を摂取する必要があったからだ。それはダイバーが行う耳抜きのような、この世界に留まるための不可欠な調整作業だった。

鰆の焼き物は、上品な脂を湛え、噛み締めるたびに口の中で旨味が層を成して広がっていく。それは長く愛聴してきたレコードのB面のように、派手さはないが滋味深い。石川の酒が、その脂を洗い流し、また次の味覚を受け入れるための空白を作ってくれる。完璧なサイクルがそこにはあった。

握りはアオリイカから始まった。包丁によって精密に刻まれた無数の切れ込みは、イカの身を甘い雪解け水へと変貌させていた。口に含むと、その甘みは優しくほどけ、意識の縁を撫でて消えていく。それは形を持たない音楽のように、僕の味覚中枢を静かに震わせた。

続いて甘海老が登場する。ねっとりとした食感と濃密な甘さは、僕がこれまで知っていた甘海老の概念を軽々と更新した。しかし、これはまだ序章に過ぎなかった。この後に続く海老たちのパレードが、僕の知る常識をさらに深く書き換えることになるなど、この時の僕はまだ知る由もなかった。

物語は一度、濃厚な深みへと潜行する。カワハギを肝で和えた巻物は、退廃的とも言えるほどに大人びた味わいだった。続く白子に焼き目をつけた軍艦。香ばしい焦げ目と、とろりとした白子の対比は、冷たい海の中で見つけた小さな熱源のようだ。日本酒が進むのは、もはや不可避な物理法則だった。

そして、真打ちが登場する。ぼたん海老だ。先ほどの甘海老以上にねっとりとして、甘みが極限まで高められている。舌に絡みつくその官能的な味は、深海に咲く名もなき花蜜のようだ。さらにモサエビ、白ガスエビと続き、僕の中にある「海老の年代記(クロニクル)」は完全に書き換えられた。白旗を上げたくなるほどの幸福な敗北だ。

大将はつかず離れずの距離感を保ちながら、石川の素材の出自について簡潔な言葉を添えてくれる。それは押し付けがましくなく、良質なガイドブックの脚注のように、体験の解像度を高めてくれた。彼の所作は、この繊細な海中庭園の手入れをする熟練の庭師のようだった。

最後の甘海老玉子焼きを食べながら、僕はここに帰ってくるだろうという静かな確信を持っていた。地上の生活で酸素が薄くなり、重力に押し潰されそうになったとき、この緊急用のハッチは僕のために用意されている。その事実は、ポケットの中に入れたスペアキーのように、僕の心を密かに心強くさせた。

店を出て、再び潜水艇のようなエレベーターに乗り込むとき、僕は地上の光に適応できるか不安になった。数万円の支払いは、この美しい深海への潜航費用としては適正だ。「優勝」とは誰かに勝つことではない。この静寂な海中庭園で、自分だけの呼吸を取り戻すことなのだ。

2025/12/17 更新

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