1回
2022/10 訪問
“天ぷら”という食文化は、かくも素晴らしいものであったかと、嘆息と感動にまみれる
2022/11/01 更新
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外国人観光客の戻り始めた今日この頃。
世界中に日本の食文化が、
理解されるといいなぁと思いながら、
ふと「では、自分はどれほど？」ということで、
こちらに、学びにお邪魔させていただきました。
店内は、個室が５,６部屋と
カウンター席10席ぐらい。
個室は扉が閉まるので、プライベート感十分。
が、私たちはライブ感あふれる
カウンター席をいただきました。
着席すると大将からご挨拶のお言葉。
これから始まる宴に期待感が高まります。
先付は、“金目鯛のスープ”。
厚い身も入って、一口で
金目鯛の姿が脳裏に浮かぶような、
直接的で濃厚な味わいです。
今日１日の疲れを
体の内側から解してくれるようです。
これで受け入れ態勢、整いました。
本日のお造りは下関の“クエ”。
透き通りそうにきれいな白身は、
鯛などに比べると、一段クッタリと柔らかく、
脂がのっている感じでしょうか。
やさしい甘さが舌の上に漂います。
そして本日、この後提供される
素材のご紹介が大将から。
健康的で新鮮そうな海の幸と山の幸が、
ざるに山盛りとなっています。
壮観さにまずは圧倒されます。
その中から、最初に登場した天ぷらは、
車海老の頭部。
メニュー名によると“くも足”と
いうのでしょうか。
細い脚の一本一本、
小さなハサミの先まで、
きれいにコロモが着いています。
その脚やハサミが、
宙を抱くかのように
美しく弧を描いて揚がっているさまは、
まさに芸術品の域。
はっと息をのむようなインパクトです。
惜しみながら口に運ぶと、
軽やかで上品な香ばしい風味。
美しさと美味しさが同居する、
手品のような一品ですね。
“くも足”に続いて車海老の本体。
噛み切った時にブリンと軽く弾かれるかのような
引き締まったボリュームのある身の甘さと、
コロモの香ばしさが最高のバランスです。
続いて“れんこん”。
とっても分厚くて
一般的なれんこんのイメージほど、
筋張っておらず、ホッコリとしています。
力強い滋味深さと
やさしい甘さが感じられます。
お次は“真鯛”。
分厚く大きな身が、
躍動感をもって美しく反り返っています。
華やかな見た目とふんわりと甘い身。
贅沢な気分ですね。
そして見事な太さの“アスパラガス”。
つやめく断面には鮮やかで美しい緑色の
グラデーションが見てとれるほどです。
噛めば青くて甘い独特の味わいが舌にこぼれます。
見た目通りジューシーですね。
そして“太刀魚”。
白身魚対決で、真鯛との食べ比べとなりましたが、
太刀魚の方が、あっさりとして、
身が詰まっているというか、
質実剛健という印象。
同じ白身魚でも、
肉質はやっぱり違うものですね。
この違いも、素材を活かしきる技があってこそ、
はっきりと伝わってくるのでしょうか。
お次が“生雲丹と磯辺揚げ”。
ウニは、根室のバフンウニだそう。
海苔が薄ーいコロモで揚げられていて、
これでウニを巻いていただきます。
タップリの濃厚な甘さのウニで
口中がいっぱいになる夢のような一品です。
ここで一息入ります。
目の前では職人さんが、
油を凝視しながら、真剣な表情で
こまめにガスのOn/Offを繰り返しています。
そうですよね・・・。
素人考えではありますが、
先ほどの山盛りの、海の幸・山の幸の中から、
裸状態の素材を取り上げて、
お客の目の前で粉やコロモをまぶし、
素材の味が最も引き出された、
その一瞬を逃さず油から上げる。
すべてがやり直しの効かない一発勝負。
緊張感漂う、職人さんの
技と勘が研ぎ澄まされる様を
目の当たりにできる
最高のエンターテインメントですよね。
あまりの贅沢さに、
気持ちが引き締まります。
勝手に興奮していると差し出されたのは、
「箱庭」のようなお料理。
正方形の浅い木箱の中に、
色も大きさも違う可愛らしい小皿に、
盛られた４種類のお料理たち。
それぞれの持つ色合いが鮮やかで、
絵画のように艶やかです。
内容は、“もずくと毛蟹酢”、
“赤貝ぬた和え”、“鮎の甘露煮”、
“茄子揚げびたしウニ添え”など。
先のライブショーで提供される天ぷらとは一味違った
じっくり仕込まれた品々。
ちょっと心落ち着いていただけます。
お次に出て来たのは、
創作性の高い“天巻き”。
大判の海苔の上に置かれた車海老に、
キャビアやいくらが乗っているのを、
手前からクルクルと巻いて、
手巻き寿司にしていただきます。
イクラのブチュっとした破裂感と、
キャビアのプチプチの食感。
それらの海の旨味ダレで、
車海老とシャリをいただく、
贅沢な手巻き寿司です。
初めていただく組み合わせですが、
いいですね、美味しいです。
そして、再度天ぷらへ。
再スタートは、これまた芸術作品の“甘鯛“から。
「松笠揚げ」は、その名の通り、
松かさのように軽やかにめくれ上がった鱗が、
今にもフワリと舞い上がりそうで美しい。
後から装飾を施したかと思うほど繊細な姿が、
油の中から生まれて来るとは感動的です。
パリパリと香ばしい海老のような風味の鱗と
ホックリ分厚い身が美味しいです。
お次は“椎茸”。
天ぷらは「天つゆにつけてでも、
冷まさず熱いままに食べて欲しい」と
おっしゃる大将から、この品だけは
「本当に熱いので気を付けてください」
とのこと。
心していただくと、なるほど、
身の間に含まれた椎茸の旨味汁がタップリで、
齧った瞬間から口の中が、
旨味汁で席巻されます。
小籠包をいただくイメージでしょうか。
鼻腔に充満する香りも堪りません。
お次は“オニオコゼ“。
あの外観からはギャップのあるきれいな白身。
分厚い身から伝わる
しっとり上品な甘味が美味でです。
そして“帆立”。
２つに割られた断面には、
縁側の乳白色から芯側に向かって、
オレンジっぽい半透明に変化するグラデーション。
美しいですね。
熱が入って弾力が増した縁側と、
まだクニュリと生感の残る芯部の
味わいと食感の二重奏です。
そろそろ終盤でクールダウンへ。
“ヤングコーン“と“オクラ”は、
どちらもサイズがあるので、
内側のジューシーさが保たれていて絶妙。
野菜の甘さが強調されます。
天ぷらの大取は“穴子1本“。
今までのものよりちょっと濃いめの
キツネ色が美しいコロモの香ばしさと、
内側のジューシーでホックリとした白身。
お馴染みの品ですが、
こちらでいただくとやっぱり違うなぁと、
最終確認ができました。
〆の食事は、
“天ばら（天茶漬け）“か、丼物が選べて、
私は“天ばら“をチョイスしました。
海老のかき揚げが乗った小丼に、
だし汁をかけていただきます。
だし汁の中でかき揚げの、
まだパリッとした部分と、
とろけ始めた部分の、
それぞれのコロモの旨味を堪能し、
爽やかなワサビの香りと刺激で口中を整え、
宴の終わりを迎え入れます。
最後の甘味は、
“自家製焼きプリン”と“お抹茶”でした。
“自家製焼きプリン”は玉子焼きを彷彿させる、
しっかりとした歯応えの和テイストですね。
振り返って、天ぷらというお料理は、
「トマトソースをかける」とか
「ニンニクを入れる」のような、
味を調えたり、変化させたりする
外的要因がほとんどないのに、
それでも職人の技で素材を活かしきって、
その味や食感のバリエーションで、
コースを成立させてしまうのが、
凄いところであり、
不思議で魅力的な食文化ですね。
美味しかったことは言うまでもないですが、
それ以上に日本が誇る食文化の実力を
目の当たりにすることができ、
大将の技に敬服の念が
限りなく湧いてまいります。
外国人観光客に限らず、一人でも多くの人が
この食文化に触れられたら素晴らしいのにと、
あらためて思わずにはいられない
機会を与えてくださった
こちらのお店さんに、感謝でございます。