2回
2019/03 訪問
五感を総動員した和の気配
先月改装工事を終え、リニューアルした銀座のフレンチ、エスキス。
シェフ、ソムリエ、パティシエのエキスパートが集結する店として評価されてきましたが、成田シェフに変わって、後藤シェフが就任。
トロワグロで修業し、代々木公園にPATHを開業。
PATHは、ダッチパンケーキなどで有名なカフェで気になっていましたがまだ伺っていませんでした。
シェフはリオネル・ベガ氏。
メゾントロワグロなどで修業後来日し、キュイジーヌミッシェルトロワグロのシェフを務める。
その後エスキスのシェフへ。
4日ほど前に予約して平日のランチに。
店内は大きな窓から自然光が差し込む開放的で明るい空間。
以前はなかったカーテンを取り付け、グレーを基調としたシンプルでシックな空間で、過度な重厚感がなく、いこごちがいいです。
窓から望む銀座の街並み… はいい景色ではありませんが空間の作りはいいです。
ランチコースにはウェルカムドリンクと、ミネラルウォーターが付いています。
まずは、軽く口頭で全体の流れを説明。
【小前菜】
笑で軽く炙った甘鯛と焼きなす、ホースラディッシュを効かせた卵黄を合わせています。
箸でいただきます。
出だしから和テイストが効いて香りも豊かでアクセル全開。
引き締まってハリのある甘鯛のさっぱりとした甘みと濃厚な卵黄の旨味が絡み合って至福の一口。
【冷菜】
低温調理したシャキシャキ感残るホワイトアスパラと、程よい弾力のつぶ貝の食感のコントラスト。
山羊のミルクをチーズを作るときの酵素で固めたものを添えてあります。
カンテサンスのスペシャリテに似てますが、それよりも滑らかでムースに近い形状。
金柑の香りを効かせてさっぱりと。
ただつぶ貝とホワイトアスパラを合わせる必然性はあまり感じませんでした。
【パン】
日本橋高島屋にもできた「365日」で焼いてもらっているもの。
この日は、軽やかで小麦の旨味と甘み、塩気のバランスのとれたパンと、パンドカンパーニュ。
前者は、特別に作ってもらっているため数に限りがあります。
バターとフロマージュブランを合わせた酸味の効いたもの、塩でいただきます。
この酸味が甘みのあるパンと相性抜群です。
ここのパンは、数多くのベーカリーの中でも特に好みで、軽やかで口当たりの良いとても食べやすいものが多く、その柔らかな甘みで朝や午後のひとときに幸せを添えてくれます。
しかしながら食事に合わせるには甘みが少し強いかなぁという印象。
それでも塩気を強めに改良してあります。
【温菜】
香ばしく旨味のある仕上がりのヤリイカと、山菜を合わせた一品。
イカのジュとバターのエスプーマ、ブロッコリーのソース。
山菜を和えているのはタラコの粉末を効かせたソース。
イカのジュの風味が強く、旨味にフォーカスした仕上がり。
しかしそこはエスキス。
レモンのピュレを忍ばせてさっぱりと仕上げています。
【魚料理】
ミディアムレアに仕上げた鰆。
しっとりと柔らかく中に旨味が詰まってジューシーな火入れ。
皮までしっとりさせてしまう潔さで、その分身の食感がふっくら。
合わせるのは、蕗味噌、魚醤とブラックオリーブ、愛媛県の姫レモンによる苦味と酸味のジュレ。
苦味、旨味、酸味と、様々なテイストを味わえます。
ガルニは菜の花とカリフラワー。
【肉料理】
フランス産の鳩の胸肉を低温調理したデリケートな火入れ。
しっとり柔らかい極上のテクスチャで、時折ちらつかせる濃厚な甘みと、洗練された旨味。
内臓や血を漉した濃厚なソースと、白人参のピュレ、ペースト状のバナナでいただきます。
ここまでの料理は苦味や酸味を加えてさっぱりといただきましたが、こちらは一転して、果実や野菜の甘み、鳩の旨味を味わいます。
【アヴァンデセール】
様々な形状の苺にフォーカスした一品。
そのまま、乾燥させたもの、ムースにしたもの。
グリンピースのムースや、チーズ(なんのかは忘れました)のアイスクリームと。
この一癖あるチーズと、グリンピース、苺の甘みが絶妙なマリアージュ。
梅紫蘇のような風味がしたので、梅とか紫蘇とか入っていますか?ときくときっぱり入ってないですとの返答。
しかしながらしばらくして紫蘇入ってましたとのこと。
わからないことはしっかりわからないと言って欲しいです。
残念。
【グランデセール】
リオレと甘酒のアイスに、カシスシートをかぶせ、下には小豆とカシスを添えて、濁り酒で浸しています。
日本のお酒とカシスの酸味を味わう一品。
【ハーブティー】
レモングラス、ミントなど3種のブレンド。
お代わり可。
プティフールのタルト共に。
掴みの一品から箸でいただくという和スタイルで、甘鯛と卵黄が奏でる旨味と香りづかいの上手さに心踊らされました。
以降も独創的な組み合わせのものが多く、ビジュアルもアートのようで、料理は作品だということを刻まれるかのよう。
その流れをくむという意味では成田シェフのデセールの方がより調和していた点は否めません。
しかしながら今のデセールも食材の組み合わせは、斬新で決して流れを断ち切るようなものではありませんでした。
ラペなど和のエッセンスを取り入れるお店は少なくありませんが、特にこちらはそれが色濃く反映されてる印象。
メインの二皿は特に構成要素が多い印象。
火入れはとても良いのですが、ソースヤピュレなどがそれぞれ3種添えられていて、各々が独自の主張を持っていてそれらを合わせれば絶妙なマリアージュとなるわけではない。
つまりそれぞれ別々につけていただきます。
味変と捉えれば面白いかもしれませんが、主にどれと一緒にどう食べて欲しいのかが少しわかりにくく、せっかく火入れと素材がいいのだからもったいないように感じました。
アクセントとなる要素は重要ですが、主にどう味わって欲しいのかがはっきりしてこそのアクセントが生きるのだと思います。
ただアーティスティックな見た目と、五味をフルに活用した和テイストで、ハーブや柑橘類の色香漂う上品な作品に楽しませられました。
フランス産鳩
鰆
窓際
甘鯛 卵黄 焼きナス
ホワイトアスパラ つぶ貝 山羊のチーズ
ヤリイカ 山菜
365日のパン
鰆
カンパーニュ
鳩
いちご グリンピース
甘酒 ライスプディング 濁り酒 カシス 小豆
ハーブティー
プティフール
2019/03/16 更新
フランス料理の域に収まるお店の中では最も自由な発想によって形作られる料理が印象的。
その既存の枠に囚われないスタンスは素描を意味する店名にも表れている。
料理意外にもさまざまな分野から着想を経ていて、一皿ずつ描かれた絵画のようです。
窓が大きな面積を占め光の差し込む開放的な店内。
色味も明るく清らか。
2回目の訪問でいずれもランチですが、夜はまた違った趣がありそう。
コースはいずれもお任せで前菜の皿数だけが変わります。
1番リーズナブルな¥10000のものは数に限りがあるそうです。
今回は真ん中のコースで。
【火 稚鮎、マンゴー】
稚鮎のフリットの下に、細かく刻んだ蓼の葉、マンゴーを和えたものを合わせたアミューズ。
和食ではよく見られる組み合わせですが、それを西洋テイストにアレンジしています。
フリットはふっくらと仕上がっていて、タデの葉のピリッとした感じが後からしっかりと感じられ、マンゴーの甘味や鮎の苦味よりしっかりと主張してくる印象。
【長野の山の麓より、大地のニコラさんの恵みを受けたお豆】
フランスの種を使って栽培している長野県の農家さんのスナックエンドウや、輪状にスライスした玉ねぎなど。
こちらにみずみずしいブッラータチーズ、貝(ハマグリかツブ貝だったかな)を合わせて、ヴァンジョーヌのソースで仕上げています。
それ故、フレッシュな味わいの中にもアーモンドやヘーゼルナッツのような香ばしさ、オリエンタルな風味が加わってその厚みが増しています。
【約束 大豆 トリュフ】
豆乳のソースと、そのシートに覆われ、一見真っ白なルックス。
しかし、その中には、大豆、枝豆、バジル、黒トリュフのピューレなどが隠れていて奥行きのある味わい。
豆乳自体はさっぱりとした後味です。
【幾何学 烏賊、とうもろこし、ピンクペッパー】
軽くあぶった烏賊とまこもだけ。
その上にとうもろこしを合わせて線状に盛り付けています。
トウモロコシとイカの出汁が注がれます。
ピンクペッパーが散らしてあり、クミンなどのスパイスが効いているのでオリエンタルな香りに仕上がっています。
【儚さ きんき、花ズッキーニ】
これは今まで食べたポワソンの中でもアウトスタンディングな印象を残しました。
メインとなるお魚はきんき。
金目鯛と一緒かと思ったけど東北から北海道にかけて生息するきちじというお魚だそうで相場は金目鯛の三倍の高級魚。
ガスパチョにつけてから鱗焼きにしており、鱗のクリスピーな食感と、対照的な柔らかな身。
口に含むと溢れ出すジューシーさなど、さまざまな要素を含んでおり、夏を感じるマリネ液の香りが複雑味を増しています。
その力強いキンキにも負けない、イワシの骨と肝のソース。
きんき自体が、水分が多い仕上がりなので、ソースはもったりとした濃度。
付け合わせは、梅の香りをつけた加賀太胡瓜、西洋のウリ、ズッキーニ、花ズッキーニの素揚げとみずみずしいものが並び、それぞれ昆布しめしたり、香りをつけたりと、かなり手が混んでいます。
味のバランスも水分量も計算し尽くされた一皿でただただ感心しました。
【獣性 七谷鴨、緑】
京都の七谷鴨の胸肉。
しっとりと火入れされていて、適度な鉄を含んだねっとりとした口当たり。
鴨の出汁とラズベリービネガーのソースは、フォンドヴォーのように濃厚でまったりと甘いテイスト。
対照的に、軽く自然な後味のブロッコリーのピューレ。
青のりを使ったペーストのようなものがアクセントとして配置されていて、和の雰囲気を匂わせる。
全体として鴨の力強さと甘めのソースといった雰囲気が統一されまとまっていました。
【安穏 ルバーブ、ココナッツ】
ステンドグラスやタイルのようなルックス。
酸味を穏やかに抑えたヨーグルトのムースの中に色の違うルバーブをちりばめることでそのような見た目に。
さらに下にもう一層施されていて、半分がココナップのムースで結構マイルド。
そして、もう片方がルバーブのコンフィチュールのようなものと、下層も左右で違う作りになっています。
ヨーグルトやルバーブの爽やかさ、酸味と、ココナッツの甘味のバランスが良く、流れをリセットする意味の軽やかさを出しつつ、ボケすぎない絶妙なバランスです。
【愉しみ グラノーラ、蜂蜜】
ヘーゼルナッツを練り込んだ生地を丸くかたどって、三辺を重ねたゆべしのような形、
中央には、蜂蜜とシェリービネガーのソース。
蜂蜜のアイスクリームと合わせて、安定感のある組み合わせ。
割としっかりした甘味がありますが、ポーションがちょうどいいです。
独自性に満ちた盛り付け、プレゼンテーションで楽しませてくれました。
今回のポアソンのように、規則性がないように見える配置の中にも美しさを見出せるようなドレッサージュは他にはなかなかない特徴の一つだと感じます。
印象的だったのは、すべてを見せるのではなく、食べ進めるうえで新たな発見があるような料理。
きれいなものをあえて見せないという日本的な感性さえ取り入れているように思います。
蓼、豆乳、海苔など和の食材を、フレンチの技法を用いて効果的に取り入れていて、その使い方が最もナチュラルで卓越しているように感じます。
出汁を使った一皿にスパイスを効かせたり、ヴァンジョーヌのソースを用いたりと、香りの効かせ方も際立っていました。
クリスピーなきんきともったりとしたイワシの骨のソースをみずみずしいガルニが受け止める魚料理。
その整ったバランスと完成度の高さは筆舌に尽くしがたい。
ルバーブやヨーグルトを使った酸味と甘みがなじんだデセールが受け止める流れまで、理想的。
前回の訪問では、メイン料理での酸味や苦みの主張が強く、全体の統合性に欠けると感じた部分もありましたが、それを感じさせないぐらいどの皿も一定の一体感と深みを持ち合わせていて、ソースの量の塩梅も素晴らしかったです。
ソムリエさんの距離感もちょうどよく、楽しめました。