2回
2017/07 訪問
西日本屈指の鮨店
その後、お店を移転されたと聞き、楽しみに再訪しました。
お店は前よりも広くなり、キリッと爽やかな空気が漂い、心地良いです。
天井高もあるため、かつての「洞窟感」は無くなり、開放感がアップしました。
再訪した感想としては、改めて「西の雄」と言う印象を強めました。
シャリが美味しく、仕事と握りの精度も抜群に高い上、
ストーリー性(構成力)、温度帯のコントロールなども秀逸。
個人的に、赤酢を用いた握りだと西日本一だと感じます(全国でもトップクラス)。
赤酢主体でありながら酸味は比較的穏やかで、塩気やや高め、
硬め、少しだけ温かめなシャリは、一口一口に喜びがあります。
頂いた日本酒
而今・特別純米火入れ、東洋美人・ippo山田錦、綿屋・純吟阿波山田錦、
握りに合わせて田酒・特別純米、日高見・弥彦。
蛸の柔らか煮
五島産。包丁を入れられた瞬間を見て、柔らかさが伝わってきた。
実際に頂いてみるとトロトロな皮が兎に角旨い。
そして、香りも良い。
山葵は鼻に抜ける辛さで、爽やか。
御殿場産を使用しているとの事。
九絵とヨコワ
4キロ、西日本の夏を代表する白身魚・キジハタ(アコウ)に比べると、
力強い食感と力強い香りが魅力。
やや血を感じさせる雄々しさがあり、旨味は強く、余韻にも妙あり。
ヨコワ(クロマグロの子ども)は8キロのものを藁で炙って。
皮下脂肪が凄いため、藁の火入れが奏功している。
当初、燻蒸香が強めかと思ったが、噛み締めると魚味と協奏し良い塩梅。
尚、煎り酒は軽い甘みと梅のとろみが特徴的であった。
増毛のボタン海老、唐津の赤海胆
実に嬉しい共演、土佐酢のジュレで。
土佐酢に加えて、酢橘の皮が爽やかな香り。
ボタン海老のとろろんとした媚態的な甘みに、海胆の濃厚な甘みがかぶさる。
土佐酢は出汁が強めで、酸味は控え目。
強い甘みが抑制されており、気の利いた味付け。
噴火湾の毛蟹
提供温度が素晴らしい。
毛蟹の温度とシャリの温度がピタリと合っている。
よって、蟹の旨味と香りを感じられる上に、
シャリの酸味と甘み(米由来の)が混ざり、味覚のバランスが取れている。
尚、親方は「毛蟹と私の酢飯を混ぜた蟹鮨です」と料理の紹介をされたが、
「酢飯」ではなく「私の酢飯」と仰った点が琴線に触れた。
酢飯は鮨の魂なので。
鮟肝
余市産。鰹出汁で炊いており、きめ細かくねっちりした食感。
抜群に旨く、軽い血の香りもある点が面白い。
鰹出汁は強めで、甘みも利かせており、円みを帯びた炊き地である。
鮑
切り付けた瞬間に充満する、この香りもご馳走。
唐津産との事だが、香りに加えてゼラチン質が半端ない。
柔らか過ぎず、むっちりした食感も良い
食べている時もグイグイと香りが押し寄せ、この鮑にはビックリ。
前回伺った際、海の鰻に驚嘆を覚えたが、今回覚えた驚嘆に値する素材はこの鮑。
鮑の肝
炊き込んでいないので、ぷりぷりしておらずトロトロで塩辛的な肝。
ダイレクトに磯と鮑の香りを楽しめるが、臭みは無いのが良い。
鮎
郡上産。香り良く、焼きも鮨店としては中々。
季節を代表する鮎を出す心意気は素晴らしく、鮎好きとして大変嬉しかった。
ただ、振り塩はもう少し抑えても良いかと。
蓼ではなく木の芽と合わせるセンスは素晴らしい。
個人的には、ド定番の蓼酢は鮎の魚味を引き立てるとは思えないので。
この後、握りに移行します。
ガリ
カリッとした食感で、甘みと旨味が強い。
辛味は優しく、ふんわりと漂う。
アオリイカ
3日寝かせた呼子のアオリイカ。
厚めの切り付けで、細かい隠し包丁も入れない。
一口目からトロリとさせず、噛み締める程にトロトロ感が高まる。
めっさ甘い。
寝かせて引き立てた甘みを、包丁によって活かし切っている。
鮃
志賀島産。朝に〆たものだが、強いシャリに負けない旨味。
そして、僕好みのしっかりした食感、そして強い香り。
余韻も十分で、旬を外しているにも関わらず、玄界灘の凄さを証明する一貫。
金目鯛
銚子産。炙る事が主流だが、敢えての炙り無し。
ぷりぷりなのにとろけてゆき、香りが高まる。
旨味もどんどんどんどん高まり驚き。
塩で〆、皮は軽く湯霜にする仕事が金目鯛に新たなる魅力を与えている。
これも圧巻の仕事。
新子
「福岡で、しかも高い相場なのに出されるんですね!」とお伝えしたところ、
「弟子がいるので…」とはにかんで答えられる姿は、格好良い。
新子を美味しい魚として称賛する自称美食家の方が散見されるが、
新子は旨味ではなく香りを楽しむもの。
そして実際に楽しめた。
また、最大の面白みは、夏に鮨店を巡る事で小鰭の成長を追う事にある。
小鰭
キッチリ小鰭も出される点は尚更格好良い。
鮨好き冥利に尽きる流れ!
強めに締めて2日寝かせており、ひたすら旨味が凝縮されている。
媚びの無い〆加減で、シャリとの相性が良い。
鮪赤身
境港産。漬け。
巻き網船団が鮪を蹂躙している境港のものだが、
これは身焼けとは程遠く、鮪の旨味と酸味、
シャリの一体感が非常に高い。
シャリの味付けもあるが、それ以上に鮪の扱いが巧い。
鮪中トロ
こちらは大船渡産で、66キロの定置網。
トロの甘みとシャリの酸味が一致した満足度の高い一貫。
鯵
出水産。提供温度は低く、鮪の後なので敢えて冷たくしているそう。
成程…脂と風味が強い鮪の後に、爽やかさを感じさせる。
しかも、信じられないくらいの旨味で、冷えているのに舌を喜ばせる。
さらに、香りが残響のように残る。
徹底的に甘いが、鯵を食べた喜びを残す。
今までに頂いた出水の鯵の中でも、とりわけ印象深いモノであった。
そして、圧巻のストーリー性。
車海老
五島産。
身が厚く香り豊かで甘みが横溢する。
ひたすら旨い。
茹で上げで温度の馴染ませ方も良い。
鰯
対馬産。酢で軽く〆て、炙る仕事。
〆るだけでは味わえない、鰯特有の香りが引き立てられている。
即ち、干物的な香ばしさ。
更に軽い苦味と、それを凌駕する旨味が到達し、シャリの酸味が支える。
気付いたらとろけて消える。
水茄子の浅漬け
岸和田の水茄子。
蛤
九十九里産。
しっとりながらにシャクッとした食感も残す火入れと漬け込み。
そして、濃厚な煮ツメ。
東京でも少ないレヴェルの煮蛤の仕事。
キタムラサキウニ
はだての海胆。これも温度帯をコントロールされており、抜かり無し。
椀
ボタン海老の頭、九絵、金目鯛の頭を用いた椀。
味噌は控え目で潮汁の魅力を楽しませてくれる。
中でも九絵の香り強いと旨味が鮮烈。
穴子
とろとろフワフワな穴子。
そして、濃厚な煮ツメ。
確信したが、とろとろフワフワな仕上げの穴子が活きるのは、
あくまでもクラシカルな濃厚な煮ツメを用いるからではないか。
昨今とろとろフワフワな穴子に、サッパリな煮ツメを用いる事が一般化しているが、
旨味と風味よりも甘みが先行し、穴子の野趣を殺すとともに、味覚的なもたつきを覚える次第。
矢張り、煮ツメは濃厚でなければよろしくない。
べったら漬け
干瓢巻
硬く戻し、醤油の味わいは強めで、もちろん山葵を使用。
最後まで高い満足感を覚えた。
今回はやや多めにお酒を飲んで、トータル24,000円ほど。
同じ価格帯の鮨店、日本料理店、ひいてはフランス料理店などと比較しても、
決して高くは無い、非常に満足度の高いコースだと思います。
次回訪問するのが楽しみになる名店。
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2021/05/03 更新
今までは夏の訪問ばかりだったので、今回は自身初の冬訪問となります。
冬の魚の旨味がピークとなる時期に狙いを定めて訪問しました。
現在はお昼も営業されており、なんと1日3回転となっております。
しかも、お昼も夜と同じ内容との事で、濃密極まりないです(笑)
ただ、1日当たりの負荷を増やしつつ、お休みを連休にされるなど、
既存の飲食業界を考慮するとホワイトな試みをされている点に、
堺大悟親方の職人気質だけでなく優しいお人柄を感じます。
ワークライフバランスを確立するレストランが増えておりますが、
そうでなければならないと感じる次第です。
多くのお客はいつでも美味しいものを頂けるのが当たり前だと考えがちですが、
料理人の方が心身ともに充実してこその美食だと思いますので…
ちなみに、営業時間を延ばすと共におまかせの価格も変更されておりました。
以前はお酒を飲んで24,000円ほどだったところ、現在は33,000円ほど。
「値上がり」となりますが、酒肴のラインナップと仕入れが強化されておりました。
3万円オーバーのお店は人によって評価が大きく変わる可能性がありますが、
堺さんの握りはそれでも人を惹きつける圧倒的な力があると再認識しました。
頻繁にお伺い出来る価格帯ではなくなりましたが、
必ず再訪したいと感じさせる、説得力のある味わいです。
そして、改めて堺さんの赤酢のシャリは美味しく、
タネとの相性を考え尽くされた味付けだと感じました。
以前よりも酸味を少し利かせているように感じましたが、旨味が引き出されたタネと馴染み、
力強さを持ちながら、端正であり上品でもあるシャリだと感じた次第です。
温度管理や硬さは申し分ありません。
この度頂いた日本酒
白糸酒造・シライト35純米大吟醸、木屋正酒造・而今特別純米、
福禄寿酒造・一白水成純米吟醸、西田酒造店・田酒特別純米
鮨さかいさんの酒肴
ノレソレ(穴子の稚魚)
甘酢をダイレクトに用いるとノレソレの風味が死ぬため、
甘酢をジュレにして提供されている。
出汁と甘みの利かせ方が良い。
子ヤリイカ
糸島産。食感と歯切れが良く、柔らかくほどける。
九絵
対馬産の10キロ。1週間熟成。
堺さんの熟成仕事は香りを重視されている。
野趣ある香りが立ち込め、非常に強い旨味がほとばしる。
毛蟹
北海道・噴火湾産。間違いない美味しさ。
鱈の白子
根室産。現地で言うところの「タチポン」。
と思いきや、ポン酢ではなく出汁で和えておられる。
よって、白子の甘みをより強く感じる。
虎河豚
福岡産の虎河豚に島根産のカワハギの肝酢を乗せた酒肴。
実に素晴らしい味わい!
「オープン以来、一番人気のおつまみ」との事。
濃厚ながらスッキリしたニュアンスのある調理。
肝酢は乳化状態にあり、言わずもがなで濃密な旨味があるが、
2日寝かせたフグはそれにも負けない旨味と香り。
異なる魚の身と肝を合わせるのは日本料理的には少し飛び道具であるが、
バランスが取れているため非凡な完成度である。
黒鮑
唐津産で、師走に解禁されたそう。
まだまだ走りと言えども香りが官能的で、旨味もあるある。
思わず、翌日平戸漁港で入手して自分も調理した程(笑)
鮟肝
産地は定番とも言える余市であり、堺さんが「一番美味しい」と考える。
出汁が奏功しており、甘みは抑え目。
鮟肝自体、鮨店の酒肴の定番中の定番だが、モノの味をストレートに表現した鮟肝である。
虎河豚の白子焼き
鰹出汁の銀餡と共に。
濃密で香り良く、冬の喜びを体感。
ノドグロ(アカムツ)の味噌漬け
これも裏切らない味わい。
この後、握りに移行します。
鮨さかいさんの握り
アオリイカ
呼子産、2日寝かせ。
浅い包丁が活きており、アオリであるが甘みの前に食感を楽しませる仕事。
針魚
小柴産の閂(カンヌキ)サイズ。
食感を楽しませつつ、柔らかなのは包丁故。
メジマグロ
佐渡島産の15キロ、漬け。
味わいが大変面白いタネ。
酸味に加えて脂がふつふつと込み上げるような味わいは、
成体の本鮪にはない楽しみ。
部位は腹側。
小鰭
〆て2日寝かせ。
みっちりながら柔らかな印象を与える小鰭であり、シャリとの相性も良い。
鮪の産地は宮崎県・油津との事で珍しい。
魚体は144キロで、漁法は延縄。
10日ほど寝かせている。
鮪赤身
甘みが強い赤身。
温度の戻し方が絶妙。
鮪中トロ
噛みしめると脂がどんどん高まるが、下卑た感じた皆無。
鮪大トロ
これのみ漬けていない。
筋っぽい見た目とは裏腹に、とろっとろ!
ボタンエビ
増毛産。卵を噛ませて、表面のみ漬け(煮キリを塗り置く)。
表面は程良く凝縮しており、中はトロトロ。
卵の食感は全く気にならず、一体感が非常に高い。
べったら漬け
蛤
九十九里産。
噛みしめる喜びのある火入れ。
噛めば旨味と香りが高まり、シャリの酸味が活き、味を引き締める。
海胆
一大ブランド・はだてのキタムラサキ海胆。
一瞬、粒感を舌に感じさせつつ、とろける海胆。
海胆軍艦
走りの唐津産ムラサキウニ。
香りが鋭い点が印象的で、喉に香りと旨味が残る海胆。
旬モノに比べると弱いため、海苔を用いておられる。
椀
ボタンエビの頭の出汁の味噌汁。
磯の香りが横溢する。
味噌の使い方が上品。
穴子
本当にトロトロで、飲み物のような穴子。
甘み強いが、野趣ある香りも残る。
対馬産(恐らく)としては強い風味が好印象。
鉄火巻
玉子
またお伺いする日を楽しみにしております!
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